1. グロリアスドライヴ

  2. 広場

  3. 【金乱】

【金乱】

【金乱】あらすじ ~教えて! ニキ教官~

アイコン

8/4 時点!
インソムニア『酒池肉林』を堕としたぜ!
管理エルゴマンサー『バルペオル』にも勝ったぜ!
【金乱】事件は俺達の勝利で閉幕だ!

ニキ・グレイツ(lz0062

アイコン

4/1時点!
レヴェル共が『黄金の霧の地に行けば救われる』だのほざいてるぜ!
そいつらを取り締まるぜ!
『黄金の霧の地』は南陽インソムニア『酒池肉林』じゃね? ってハナシだ!

ニキ・グレイツ(lz0062
アイコン

4/28時点!
レヴェル共の取り締まりをしつつ、インソムニア『酒池肉林』の調査任務だ!
敵と戦ったり、地形調査したり、そういう情報収集ターンだな!
ゴー! ファイト!

ニキ・グレイツ(lz0062
アイコン

5/15時点!
酒池肉林のナイトメアって、囚われてる人間を糧にして強ぇんじゃね!?
ってことで、でっかく救助作戦する予定だぜ!
今はそれに備える期間だぜ!

ニキ・グレイツ(lz0062
アイコン

6/16時点!
紫電重工の新型アサルトコアが来たぜ!
飛娘(フェイニャン)っていう二刀流特化と飛行適性機体と、
飛娘々(フェイニャンニャン)っていう飛行特化型特別機体だ!

ニキ・グレイツ(lz0062
アイコン

6/26 時点!
遂にアリアドネ作戦開始だぜ!
酒池肉林攻略に向けて、内部の人々を救助するぜ!
サブフェーズと本部シナリオで展開していくぜ!

ニキ・グレイツ(lz0062
アイコン

7/3 時点!
アリアドネ作戦によって、一部の人々をなんとか救出したぜ!
次は大規模作戦だぜ!
いよいよインソムニア酒池肉林の『攻略』が始まるぜ!

ニキ・グレイツ(lz0062
アイコン

7/8 時点!
大規模作戦が始まるぜ!
まずは第一次攻勢、ガンガン攻めて連中をもっと消耗させるぜ!

ニキ・グレイツ(lz0062
アイコン

7/22 時点!
大規模作戦だぜ!
遂にバルペオルとの決戦、クライマックスだ!

ニキ・グレイツ(lz0062

嵐を越えて(8/4公開)

●夢幻の終わり

 ――信じられるか?
 ああ、信じられねぇよなぁ。
 この地が――人類の手に戻ってくるなんて。


紫電 帝
 紫電重工代表、紫電 帝はだだっ広い荒れ地を眺め、長い溜息を吐いた。
 灰色の、不毛の土地。少し前までここは黄金の霧に閉ざされ、怪物共が跋扈し、多くの人々が残酷なほど都合のいい夢に囚われていた――インソムニア『酒池肉林』が君臨していた場所だった。
 あの黄金絢爛の風景は、全て管理エルゴマンサー・バルペオルによる夢幻。……散在していたナイトメアらについても、ほどなく掃討戦が終わるだろう。

 社長、と帝は社員である整備士に呼ばれる。「ああ」と男は踵を返した。
 彼ら紫電重工の整備士達が向かう先には――それはそれはもうボロボロになるまで戦い抜いてくれた、アサルトコアとキャリアー達が待っていた。

 バルペオルの攻撃を何度も受けたFS-10『SS1-天羽々斬』。紫電重工の者らがわあわあとその応急処置に当たるのを、クレア・ウェン(la0111)は疲労に座り込んで眺めていた。小隊長として【対空部隊スカイセイバーズ】の面々を労い終え、ようやっとのコーヒーブレイクである。
 本当ならば何の憂いもなく勝利の美酒に酔いしれたいところではあるが、懸念の一つは救助された人々についてだ。

 ――現実に絶望しきり、自らインソムニアで眠ることを選んだ者らは、「救われたくなかった」「酒池肉林に帰してくれ」と口を揃える。
 ナイトメアならば退治すれば終わりだが、人間はそうはいかない。人間が人間として人間の理の中で人間らしく生きる為には、そういった存在を切り捨てるわけにはいかないのだ。……弱いから切り捨てるのは、それこそナイトメアのような優劣思考と同じモノに成り果ててしまう。

 懸念する者らの一方――救助者らに対応する面々の区画は、剣呑な雰囲気ではなかった。
 音楽や歌。振る舞われる食事のかおり。そんな中で、ライセンサー達は今も救助した者らに言葉を尽くしている。

「俺達は貴方達に生きていてほしい。この世界にまだ居てほしい」
 陽乃杜 来火(la2917)は真っ直ぐに告げる。幸せな夢の中に居た者らにとって、この世界は辛すぎるのかもしれないけれど。たとえ心無い言葉が来ても、受け止める覚悟があった。

「停滞していても望む明日は来ないわ。だから見て欲しいの。明日を掴む為に戦った人間の姿をね」
 梨ヶ瀬 紅季(la3898)はスクリーンを設置し、酒池肉林内で繰り広げられた激戦の映像を人々に見せる。これが現実だ。おぞましいナイトメアが跋扈し、人間を襲い――そして、彼らを命懸けで退けたのが、ライセンサーなのである。
「その目で、最後まで見届けて」

 ――彼らの戦いは、まだ終わっていない。

「救助された人達は……これからどうなるんだ?」
 応急修理中のFS-Xの傍ら、赤羽 恭弥(la0774)はニキ・グレイツ(lz0062)に尋ねる。彼はインスタントのコーヒーを恭弥に渡しつつ、こう言った。
「基本的に彼らの所属地域の行政に委ねられるが――紫電重工とノヴァ社の方で、最大限のサポートはしていくってよ。財産的にも社会的にも、また弾かれないように……お前達が命懸けで助けた命が、きちんと生きていけるように」

 今回撮影された映像は、既に救助された者らへも公開されるのだという。
 少々荒療治ではある。だがライセンサー達が戦う姿は、彼らの心に何かしらの波紋を残すはずだ。

 きっとすぐには難しい話で。じっくり時間をかけていかねばならないことで。
 成果を実感できるのは、近い将来……とはいかないかもしれないけれど。
 ままならないことの方が多い現実で。苦しいことが容赦のないこの世界で。
 それでも。

 ――それでも。

 一歩。たった一歩。されど一歩。
 君達の尽力は無駄じゃなかった。
 回り道でも、遠回りでも――君達が成して、刻んだことは、きっと。


●それから
 救助された者らは一歩ずつ、前に歩き始めていた。
 もちろん程度の差はある。未だに踏み出せないでいる者もいる。
 それでも、かつてのように躍起になったり、恐慌したり、そういった激しい拒絶はほとんど見られなくなっていた。


ソラリス
 ――それはある暑い夏の日のこと。
 SALF本部にて事務作業を手伝うソラリス(lz0077)は、届いたメールを確認していた。
 ……感謝の言葉が届いている。一通や二通ではない。それは酒池肉林から助け出された者の言葉、あるいは彼らの関係者からの言葉。

 ああ――鋼鉄の乙女はそっと目を閉じ、微笑んだ。
 感謝をしろ、と見返りを求めて助けたわけではないけれど。
 それでも――やっぱり、自分達が成したことが無為ではなかったと知れたことは、嬉しくて。
 こうしてお便りを送れるほど彼らが回復したのだと思うと、安心して。

「よかった……」

 窓の外を見上げる。大きく伸びあがった入道雲。ああ、今年も夏が来た。


●けれど
 ライセンサーの勝利だ。これは素直に喜ぶべきことである。
 しかし、だ。桐生 柊也(la0503)は大規模作戦の報告書を見返しながら、眉根を寄せる。

 ――「どうした、どうした、どうした人間! 肉を切らせて骨を断つ覚悟がねぇならよ、ザルバにも『ゴグマ』にも勝てねぇぞ!」

 それはバルペオルが口にした言葉。
 ザルバ、は分かる。ほとんどのライセンサーが知っている。地球におけるナイトメアの総司令官、倒すべき敵将だ。
(だけど……『ゴグマ』ってなんだろう……?)
 資料を漁った。『それ』が現れる報告書は見つからなかった。
 だが過去の事件資料を読み返せば――それと思しき存在が、朧ながらも浮かび上がってくる。

 2028年から2030年にかけての、 ナイトメアによるアフリカ侵攻。
 その戦いにおいて、特に南アフリカは『焦土』と化したという。とてもとても大きな火焔が、全てを蹂躙したのだという。
 その火焔こそが『ゴグマ』ではないか。資料はそう示唆している。

 ――かくして、焼き払われた南アフリカの地はどうなったか。
 今、そこにはインソムニアが君臨している。未だに壮絶な高温に包まれ、大地が燃え、焼け果て、あらゆる生き物の侵入を阻む死地となっているという。

 その魔境の名は――『完全焦土』。

「無間のような繰り返しに。終わりのない戦いに。果てのない道に」
「進めなくなって、諦めて、立ち止まって、死にやがったら、地獄でお前らを喰ってやる」
「嫌なら精々――血を吐いて――苦しんで苦しんで苦しんで――終わりなく足掻けや!」

 奇しくも、バルペオルが吐いた呪詛のように。
 戦いはまだ終わらない。敵はまだ尽きていない。

 ――凪の先、待つは再びの嵐か。


『了』

(執筆:ガンマ
(文責:WTRPG・OMC運営チーム)

過去のストーリー

●Belphegor
「……なあエンピレオ、俺たちはいつまで続くんだ?」
「いつまで? 妙なことを言いますね。進化に終点などありませんよ」
「お前は……終わりがなくていいの? 永遠に辿り着かないゴールへ、走るのって、さぁ~……いや、お前はそれでいいタチだったな……」
「果てがないからこそ挑むのですよ。停滞は怠惰です」
「……大したもんで。じゃあ俺は怠惰でいいや~……」
「バルペオル」
「ンだよ」
「またザルパ君に叱られますよ」
「……ブーメラン投げてんじゃないよキテレツが。ノルマは達成したからいいだろ。俺は寝る」
「そうですか。ではまた、バルペオル」
「ああ、『酒池肉林』は自由に使っていいから。おやすみエンピレオ。……起きた時に死んでたらさよーなら」

 エンピレオという『門(インソムニア)』でこの世界に来て、ザルパに命令されたことの最低限をこなして、終わったから寝て――  今、起きた。

「……あれ。まだ人類、生き残ってたの? ったく皆もっと働けよ俺の分まで……はぁ」

 その溜息は金色の煙となり、黄金絢爛たる不眠城を満たしていく……。



●黄金の済度

 ――黄金の霧の地に行けば救われる。

 中国を中心に、都市伝説めいてまことしやかに囁かれる、そんな噂。
 最初は些細なものだった。小さな小さな与太話だった。

 だが――【堕天】事件の収束後から、その噂は大きくなり始めていた。

 同時に発生する、中国を中心とした行方不明事件。
 遂にはナイトメア事件としてSALFの目に留まることとなる。

 SALFによる調査の結果、件の噂を吹聴しているのは、人類救済政府をはじめとするレヴェル達であると判明。
 同時に、『黄金の霧の地』とは南陽インソムニア『酒池肉林』ではないか、とするのがSALFの見解である。

「南陽インソムニア、『酒池肉林』か……」
 北方部隊長ハシモフ・ロンヌスは情報部からの報告書に眉根を寄せた。
 ハシモフは北方部の者ではあるが、南陽インソムニアを中心としたナイトメア支配地域は、ロシアのナイトメア支配地域と隣接している。本件において北方部は積極的だ。
「武漢防衛戦……泉州防衛戦……、どうも嫌なことを思い出すな」
 ハシモフに答えたのは、MS-01J『飛燕』を代表機体とする紫電重工が代表、紫電 帝。彼の表情もまた重い。

 ――2041年、モンゴルがナイトメアに占領される。SALFが参戦するも戦果をあげられず、難民の保護に終始する形となる。 一部難民はSALFを通じて各国に保護される。
 ――2042年、武漢防衛戦。抵抗空しく2ヶ月で陥落。日本への撤退作戦が行われる。
 ――2050年、泉州防衛戦。中国南部がナイトメア支配地域となる。

 この泉州防衛戦の結果に伴い、「日本に戦域が拡大する危険性がある」と日本政府の国策により、紫電グループのアサルトコア開発部門「紫電重工」に技術者が集められたのだ。

「ロシアのに比べりゃインソムニアの規模こそ小さいが。……まあロシアにゃ二つもあったんで比較対象としては不適切とはいえ」
 ハシモフは『酒池肉林』に関する書類をめくる。かの地は確かに、外見は『黄金の霧』に閉ざされている奇異なインソムニアである。酒池肉林という悪趣味な名称は誰が呼び始めたのかは不明だが――
「ロクでもない予感がするのは確かだな」
 あのエンピレオの『隣人』を務めており、【堕天】事件時に一切干渉してこなかった、というのもハシモフの不快感を引き立てるファクターだ。人間の感性ではおよそ理解できないモノがある。

 ――兎角。

「酒池肉林の情報収集は順次。まずはアホな噂を垂れ流す『馬鹿(レヴェル)共』の取り締まりだ」
 全く敵対者に対して口が悪い。ハシモフの言葉に帝は少しだけ肩を竦め、口を開いた。
「こちらも酒池肉林攻略に向けて、開発中のアサルトコアの開発を急がせよう」
「ほう、新作か」
「詳細は企業秘密だがな」
「そういえばノヴァ社も――」
 あ。ハシモフはムッと唇を閉ざした。アルビナに「まだナイショにしておいてね」と言われたことを思い出していた。帝は「聞かなかったことにする」という眼差しで、ハシモフを一瞥した。



『了』

(執筆:ガンマ
(文責:WTRPG・OMC運営チーム)

●帰還者の報告

 ――先行調査部隊が無事に帰還した。

 その知らせを受け、実際に帰還したライセンサーの顔を見て、SALF北方部隊長ハシモフ・ロンヌスは心から安堵した。だがそれは厳格な表情の下に隠し、一同を見渡す。
「危険な任務だったが、まぁお前達なら生還も当然か」
「いえいえ、ぶっちゃけ死ぬかと思いましたヨ?」
 イリヤ・R・ルネフ(la0162)は苦笑する。
 南陽インソムニア『酒池肉林』。まだ情報がほとんどない中での偵察はまさに地獄だった。
 管理エルゴマンサーのバルペオル、そして酒池肉林内部のナイトメア。それらの戦力はライセンサーの想像を超えていたのだ。
「……攻撃、した、けど……命中したし、ダメージも与えたはず、なんだけど、……すぐに治癒した、感じが」
「そうなんですよハシモフ隊長っ! バルペオルだけじゃなくて他のナイトメアもそうで! あんなのとどうやって戦えばいいんですか!?」
 常陸 祭莉(la0023)と野武士(la0115)が、バルペオルやナイトメアを攻撃した際の実感を述べる。傍らのモニターには、バルペオルやナイトメアとの交戦時の映像が映されていた。
「その上、霧が濃すぎて大人数での行動が困難そうね……連携に支障が出るし、最悪の場合は落伍者や小隊孤立の危険性もあるわ」
 ツギハギ(la0529)が言葉を重ね、額を抑える。『酒池肉林』ではこれまでのように、大規模作戦による大戦力で物を言わせることも難しいだろう。
「あの『超回復』をどうにかしない限り……正直、僕らに勝ち目はないかと」
 佐和 千昂(la3236)が溜息のように言った。現状、『酒池肉林』はあまりにも難攻不落である。

 けれど――ああも『無欠』すぎると、何かしらからくりがあるはずなのだ。

「現地調査を続けて、もうちょっとデータを集めないことには、なんとも言えないのだわ……」
 アルバ・フィオーレ(la0549)はまとめられた資料を見渡しつつ、眉尻を下げる。その傍ら、アンヌ・鐚・ルビス(la0030)は明らかにしょげた顔をしていた。
「それにしたってお宝が『ない』って。『ない』ってどういうことよ……」
 ぶつぶつ。どうやら彼女にとってかなりショッキングな出来事だったようだ。
 さて一方で、レイヴ リンクス(la2313)は「ふむ」とあごをさする。
「【堕天】の時のように、外部へ積極的な攻勢をかけてくる存在ではないようですが……代わりに外部から自発的に向かう市民がいるのが厄介ですね」
 レイヴはこれまでの【金乱】関係任務の報告書を思い返す。そして自らが参加した任務も。「レヴェル対応の任務は引き続き続行する。連中を根絶やしにするまでな」とハシモフが答えた。
「……『酒池肉林』は確実に危ないんですが、でもババーンとアクティブに危なくはないというか、でもやっぱり危ない場所で、その、うーん、なんというか、なんというか……」
 桜壱(la0205)は左目のアイカメラにぐるぐる模様を表示する。
「――毒のようです」
 ポツリ、言葉を継いだのはマクガフィン(la0428)だった。

 酒池肉林――それは美しい見目で人を呼び、その心に付け込み、染み渡り、蝕んでいく毒。

「ああ。どんな理由や事情があろうと、かのインソムニアを放置するわけにはいかない。レヴェル共が躍起になって活動している現状、後回しにすればますます連中をのさばらせる危険性もある」
 ハシモフは重く頷いた。

 ――酒池肉林にて眠る人間は、何かしらの理由で『行き詰ってしまった』者ばかりだけれど。
 無理矢理にでも救助することは、彼らにとって残酷なことかもしれないけれど。
 それでも彼らがナイトメアの糧となり、あるいは人々の不安を煽り、悪意を蔓延させ、そのことで新たな悲劇が生まれるのならば看過はできないのだ。

「そもそもあそこは人類の領土だった。不法侵入不法滞在しておいて、バルペオルめ笑わせる」
 ハシモフは不快気に鼻を鳴らした。そして改めて、危険な任務に名乗り出てくれた優秀なる一同へと向き直る。
「兎角――此度はご苦労であった。本件に手得た情報は直ちに全ライセンサーへ共有、迅速に本格的な調査任務を開始する。お前達の活躍にも期待しているぞ」

 とはいえ――難攻不落の不眠城。倒せる目処のない怪物の巣窟。救いを拒否する救助対象達。士気の上がらない条件ばかりが揃っている。
 なればこそとハシモフは告げるのだ。

「……案ずるな。我々は必ず勝利する。いいか、人生ってのは多少『傲慢』な方が生きやすいんだよ。お前達も幾らかは傲慢でいい。傲慢に戦い、傲慢に護り、傲慢に救え。以上だ」



『了』










(執筆:ガンマ
(文責:WTRPG・OMC運営チーム)


●報告と対策と
 報告書『【金乱】眠る前にお遊びを』――
 報告書『【金乱】轟嵐磊落、樹海の糸』――

 ナイトメアは、酒池肉林内に囚われている人間を食らう。
 捕食とは、補給でもある。

 ナイトメアは、とんでもない再生力を誇る。
 デタラメな能力だからこそ、永久機関的に気軽に得られるものではあるまい。

「バルペオルの能力からして、囚われてる人達からエネルギーを摂取してるように感じるんだよ」
 ヴァルヴォサ(la2322)はそう語った。実際、バルペオルもそのことを仄めかすようなことを口にしていた、と。
「……囚われている人々こそが、ナイトメア達の再生力の『糧』、ということですか……?」
 報告書を生真面目に熟読しながら、ヨランダ=エデン(la3784)がおずおずと言う。
 だったら、とclover(la0874)が身を乗り出した。
「じゃあ、酒池肉林の人達をバーッとガーッと救助すれば……!」
「せやかてどないすんねん? 人を助ける為には、あのえげつないナイトメアとどう足掻いてもバッティングやで」

clover

てくたん
 てくたん(la1065)が、ウサギ耳のような部位で器用にタブレット端末を操作しながら言う。「うごごご」とクローバーは頭を抱えた。
「ブン殴ってやればよいのです、えらいひとが『汝右の頬を打たれたら、そこですかさずクロスカウンター』と言っていたのです」
 アンリエッタ・賽松(la3087)は堂々と言ってのける。「ストロングスタイルすぎまんがな」とてくたんが肩(?)を竦めた。

 さて――銘々に報告を終えたライセンサー達の視線は、SALF北方部隊長ハシモフ・ロンヌスへと向けられた。

「大規模な攻略作戦をするにしても、そこかしこに配置されている救助対象を戦闘に巻き込む危険性がある。元より――彼らは『救助対象』だ」
 見殺しにするなどSALFとしてはできない、と念押しした上でハシモフは続ける。
「ナイトメアの超再生力が人々を糧としている上で成り立っているのであれば、集中的かつ大きな規模の救助作戦が必要だな。
 そこで問題となるのが――懸念の通り『倒せないナイトメア』だ。救助作戦の傍ら、救助が円滑に進むように、この倒せない存在を引きつける・足止めをする陽動部隊が必要となるだろう」
「陽動……でもそれって、壮絶に危険なミッションじゃないっすか……!?」
 白玉 纏(la0406)が苦い顔を浮かべる。なんせ相手は『倒せない』。無尽めいた泥沼の耐久戦を強いられることとなるだろう。
「そうだな。陽動部隊にはかなりのリスクを背負ってもらうことになる……だが」
「四の五の言ってられる戦況でもない、と」
 狭間 久志(la0848)が静かに言う。元より侵略者との戦いは、そんな戦況続きであることを久志は理解していた。「うむ」とハシモフが頷く。
「【堕天】という奈落を超え、至高天を踏破し――だけでなく、各地のインソムニアを討つことができたお前達なら、『できる』。できると踏んで、俺は今の作戦を口にしたのだ」
 ゆえにこれは無茶でも無謀でもない――ハシモフはこれまでのライセンサー達の尽力を知っている。
「救助作戦に当たって戦力を揃える必要がある。だが……現状は逼迫する状況多発している。戦力編成が整うまでは、お前達にはできることをできるだけやって貰うぞ」
 それには新たに酒池肉林へ向かう者の阻止、引き続きの調査などが含まれる。
「【堕天】の流星作戦の時みたいに、作戦名はあるのか?」
 強張る空気をほぐすように、詠代 静流(la2992)が軽く問うた。ふむ、とハシモフはしばし考え――

「――『CODE:Ariadne』。アリアドネ作戦、だ」

 それは魔境の怪物を討ち、迷宮から生かして帰す為の作戦。


●Baal peor

「……へえ。諦めないのか……」

 黄金魔境の深淵、バルペオルは静かに座している。

 色々な世界に君臨してきた。
 倒せない――そんな絶望から攻略を諦められた世界もあった。
 酒池肉林を救いと定義し、屈服してきた世界もあった。

詠代 静流

<バルペオル>
 直接的な脅威度が低いからと放置されたので、その間にたっぷり糧を揃えて『手が付けられない状況』に追い込んでやったこともあった。
 いつか勝てると希望を抱いた連中が、純粋に力圧しで攻めてきたので、ことごとく皆殺しにしてやったこともあった。

 たくさんの宣戦布告。たくさんの希望。たくさんの勇気。
 どれもこれも、いずれ絶望へ至り、諦念に満ち、怠惰へ堕ちた。空虚となった。

 飽きるほど繰り返してきた、似たような侵略の日々。
 無間を繰り返しても、結果はいつも同じだったが。

 ――今度こそ違うのか?

「克ってみな、人間」

 悪魔は嗤う。



『了』



(執筆:ガンマ
(文責:WTRPG・OMC運営チーム)


●新たな戦力!

「――これが紫電重工最新型アサルトコア、MS-02『飛娘(フェイニャン)』だ」


紫電 帝
 紫電重工代表、紫電 帝はそう言って、モニターに一つのアサルトコアを映し出した。
 MS-02――兄機にあたるMS-01『飛燕』と比べれば一回り小柄な機体だ。どことなく女性型を思わせるフォルムをしている。
 他のアサルトコアと比較すると、ブースターや無骨な装甲など『いかにも科学的な』要素があまり見られない点が目を引く。無骨よりも流麗、といった表現が似合う。
 だがなによりもその機体を印象付けるのは――『腕が四本ある』ことだ。しかもその腕は肩に接合しておらず、『浮いている』。

「美しいだろう。――だが、美しいだけではないのだ」

 飛娘は人体の関節構造を無視し、舞うように武具を取り回すことができる、二刀流特化機体。白兵戦闘の攻撃性を追求した、苛烈な機体。
 更に飛娘は飛行適性を有する。独自の飛行プログラムは、従来のような飛行でのパフォーマンス低下が一切ない。

「これらはIMDによる反重力制御による挙動だ。……制御にかなりコツがいるピーキーめな機体なんで、ライセンサーの中でも実力者向けの機体であると想定している。
 とはいえ、まだロールアウトにはもう少しの調整が必要だ。特に飛行面においてまだ課題が多く――」
 帝が説明をしている只中だった。会議室にSALF職員が駆け込んできて、真っ青な顔でこう言ったのだ。

「たっ大変です! 空に穴が!!」



●掴めるものなら藁でも掴め
 中国辺境に『大規模な時空の歪み』が観測された。
 よもや【FI】のような放浪者集団の出現、はたまたナイトメアの侵略か――と思いきや、現れたのは大量の『ガラクタ』であった。瓦礫のような見た目の、本当に、ガラクタでゴミ。ある世界の放浪者には『クズ鉄』とでも呼べばピンとくるだろうか。
 さながら……『宇宙ゴミ(スペースデブリ)』ならぬ『異界ゴミ(ディメンションデブリ)』とでも呼ぶべき代物だろうか。
 これも、この世界が『特異点』だからだろうか?

 ――さてどうする、このディメンションデブリ。

 声を上げたのは紫電重工だった。確かにアレはただのガラクタにすぎないが、中には新しい技術に役立つものや貴重な素材が含まれている可能性がある。もちろん何の役にも立たなさそうなスクラップも多いのだが……それを放置するのもよろしくない。

 かくして、紫電重工が中心的依頼者として、このディメンションデブリを収集する任務が発動した。
 かのメガコーポは新作アサルトコア『飛娘』開発に向けて、このディメンションデブリが役立てないか画策しているのだ。もちろん、得た技術は独占するのではなく、他のメガコーポにも共有する予定だ。

 ……そんな中。
 ある日、帝の元に届いたディメンションデブリの解析結果が、彼のアイデアと職人魂に火を点けた。

「――これが紫電重工最新型アサルトコア特別機体、MS-02S『飛娘々(フェイニャンニャン)』だ」

 帝はそう言って、モニターに一つのアサルトコアを映し出した。
 それは先日の飛娘とほぼ同じ機体だが、腕は一対であり――羽衣のような光の帯を纏う、なんとも幻想的な機体であった。

「む。待て紫電、つい先日に飛娘とやらを発表したところではないか。それに前回のものとほとんど見た目が同じではないか」
 モニターから帝へ視線を移し、北方部隊長ハシモフ・ロンヌスは片眉を上げる。帝は愚問と言わんばかりに小さく鼻で笑った。
「言ったじゃねえか、これは特別機体。ディメンションデブリから解析したデータで、反重力制御機能を更に強化――飛娘の飛行適正を拡張し、空戦特化型としたタイプである。……代わりに二刀流機能はなくなったが」
 飛娘々については量産が難しい機体であり、限定生産品となることを帝は付け加えた。実戦特化というよりも、どちらかというと浪漫型と言わざるを得ない部分もある、と。
 しかし。帝は真っ直ぐにこう告げるのである。

「空を飛ぶこと。……誰だって、一度ぐらいは憧れたことはあるだろう?」

 空を自由自在に翔けること。それは全ての人類の憧れだろう。誰だって一度は夢見たことがあるはずだ――雲に乗ってみたいとか。傘を広げて階段から飛び降りてみたりとか。こんなご時世だ。そんな夢がちょっとだけ叶うぐらいの心の自由が許されたっていいじゃないか。

「……反重力制御飛行……酔いそうだな」
 ハシモフは手元の資料を見ながら呟いた。「おう」と帝はしれっと言う。
「酔うぞ。俺は壮絶に吐いた。人生であんなに吐いたのは昔カキにあたった時以来だな」
「お、おう」
「ライセンサーはガッツのある連中だ、どうにかなるだろ」
「そういう問題じゃ……」
「安心しろ。テストパイロットへは我が社のエチケット袋を無料で提供する。何も問題はない」
「いや……、」
 それでいいのかと少し心配になったが、さておき飛娘と飛娘々のスペックは本物だ。
 問題は――それをライセンサー達がどう使いこなすか、であるが。



『了』

(執筆:ガンマ
(文責:WTRPG・OMC運営チーム)

●生還の為に
 南陽インソムニア『酒池肉林』――かの地を攻略するには、どうしても大規模な攻略作戦が必要だ。
 しかし、何も考えずに大戦力を投入すれば、酒池肉林内部そこかしこに配置されている救助対象市民を戦闘に巻き込む危険性がある。

 ナイトメアの超再生力が人々を糧としている上で成り立っているのであれば、人々の救助は必要不可欠である。それも集中的かつ一挙に大人数を救助するような。
 そこで問題となるのが、膨大な再生力を誇り事実上『倒すことができないナイトメア』の存在である。連中はライセンサーたちの妨害・排除に動くことだろう。
 なので救助作戦の傍ら、救助が円滑に進むように、この倒せない存在を引きつける・足止めをする陽動部隊が必要となる。

 救助部隊は、できるだけ戦闘を避け、戦いをしかけられても逃げながら、人々の救助に専念を。
 陽動部隊は、倒せぬナイトメアを一秒でも長く引き付け・足止めする為の泥沼の耐久戦を。

 今はまだ、『倒す為の戦い』は不要だ。
 今求められるのは、『次に勝つ為』の戦略である。

 CODE:Ariadne――アリアドネ作戦。

 それは魔境の怪物を討ち、迷宮から生かして帰す為の作戦。


●天女の権能

「待たせたな」

 アリアドネ作戦を前に、北方部隊長ハシモフ・ロンヌスのところへ紫電重工代表、紫電 帝が現れた。
「ようやっと最終調整が終わった。――完成したぞ、飛娘シリーズの特殊MODが」
「ご苦労だったな。で、どうなったんだ」
「これを見ろ」
 帝は資料を手渡した。

 MS-02『飛娘(フェイニャン)』、及びMS-02S『飛娘々(フェイニャンニャン)』専用MOD。
 ディメンションデブリから解析した技術を、イマジナリーシールドに付与することで、酒池肉林内部の黄金の霧への抵抗力を得る。
 効能:酒池肉林内部での抵抗力低下を無効化。
     シールド修復作用を向上。
     視界阻害を完全無効化。

 なおディメンションデブリによる異世界の技術であるため、現時点において類似出自を持つ飛娘シリーズにのみ効能は限定されている。

「酒池肉林へ出撃する全ての飛娘シリーズパイロットへ無償提供する。うちの『お得意様』なら活用できるはずだ」
「なるほど……視野阻害無効化はデカいな、今回の救助作戦でかなり有用そうだ」 
 救助対象の発見、斥候、奇襲防止、使い方は様々だ。後は現地におけるパイロットがどう扱うか、である。
 さて――人類側の準備は整った。帝はモニターに表示されている酒池肉林を見やる。
「怠惰、停滞――……俺の最も嫌うもんだ。まあこれは俺が技術屋だからってのもあるだろうが」
「無限の安寧……何もしなくていい無責任と停滞、ただ雛鳥のように口を開けて受動を飲み続けることは、魅力的に見えるが、な」
 ハシモフは同意の意味合いを込めて呟いた。

 何もせず、何もなく、ただただ微睡むことはきっと楽だ。
 だが、そこには何もない。何も生まれず、何も起きない。それは悲しみや痛みが生まれない側面もあるけれど――……息を吸って吐くことだけが、生きることではないのだろう。人間という生き物に、生まれてしまったからには。

 しかし一度浸ってしまった者にとっては強烈な麻薬のような快楽で。
 アリアドネ作戦において救助された者らに関しては、SALFや各行政機関において責任を持って管理する予定である。たとえ「助けられたくなかった」と向こうがどれだけ叫ぼうとも――インソムニアを切り崩す為に必要なことなのだ。これ以上ナイトメアに跳梁跋扈させない為にも、「助けた後にどうするか」にまごついて手出しを躊躇っている猶予は、ないのである。

 ――かくして、ヒトが挑むは堕落の魔境。
 黄金絢爛に彩られ、停止を謳う悪魔の庭。



<バルペオル>
●堕落の深淵
「まだ諦めてないのか……」
 救ったところで貶されて、倒せぬ相手に辟易して。喜びも達成感もない作業だろうに。
 それでも諦念せずに挑んでくるのか?
 健気なものだ。
 いいだろう。

「その勤勉に、心から敵意をくれてやろう」


『了』

(執筆:ガンマ
(文責:WTRPG・OMC運営チーム)

●酒池肉林にて

「一人でも多くの人たちを救いましょう――皆さん、よろしくお願いします!」

 水無瀬 奏(la0244)は小隊【幻夢守護協会Danann】の仲間達へ凛と声を張った。
 超風火二輪、システム起動。MS-02S『クラウ・ソラス』はふわりと重力から解き放たれる。黄金の霧は鋼の天女の瞳によって看破された。
「見つけた……!」
 視覚情報共有、先行するチームのデータを基に、【幻夢守護協会Danann】は魔境を駆ける。
 ナイトメアのいない場所を掻い潜り、どうしても避けられぬ状態になっても足止めに留める。彼らの目的は命を救うことだ。

 飛娘、及び飛娘娘による霧の看破能力は絶大な効果を発揮していた。
 鋼の天女が先行し、敵の目を掻い潜り、救助対象を見つけ、救う――その作戦はこれほどなくアリアドネ作戦に適していた。同じような方針を取った小隊――【桜華光舞隊】や【クラーク駆逐隊】なども、大きな成果を上げていた。

 特に大きな成果を上げたのは【幻夢守護協会Danann】だ。
 先行班は索敵とルート選定に尽力。戦闘は極力避けることで救助時間を確保する。救助対象を発見した際はサーチによって、使徒:シンシャの確実な選別を行い、発見した際は戦わずにアサルトコアが掴んで遠くへ投げるという的確な対応を。
 救助班のアサルトコアは、支給要請したコンテナへ人々を保護し、一気に効率よく多人数をキャリアーへと運んでいく。
 無駄のない役割分担だ。そして、賞賛すべきは各自がそれぞれその責務を見事に果たしていたことである。
 彼らの動きは合理的であった。この作戦において、最も貢献した部隊であろう。

 一方、小隊【フォーサイシア】は戦場中の飛娘達が集めたデータを共有してもらうと、できうる限りのライセンサーへと共有していく。
 歩兵部隊であるララ・フォン・ランケ(la3057)はそういったデータをありがたく用いて、リヤカーを引いて酒池肉林を駆けていた。
「回収回収ー!」
 眠れる者を見つけたら呼気を確認、無事なら手早くリヤカーへ搭載。呼気がない存在がいたら――
「出たね……!」
 大太刀獅子王を抜刀する。ぬらりと起き上がった異形を眠れる者から引き離しにかかる。じれったいが防御に徹し、頃合いを見て全力移動で離脱――そのままの速度で再び、リヤカーを引くのだ。

「ひとりよりふたり、いっぱいのほうがたくさんたすけれう!」
 エルレーン・バルハザード(la4271)は小隊に属さず活動している者らに声をかけ、協力して救助活動にあたっていた。抱えられるだけ、眠れる者を「うんしょっ」と抱える。霧の外を目指して走る。

 最中――聞こえてくるのはナイトメア共の不気味な息遣いや羽ばたきの音、地響きの音。
 激しい戦闘音が向こうから聞こえてくるのは、友軍の尽力だろう。足止めを名乗り出た者はとても多く、おかげで救助班がナイトメアに襲われることは最低限で済んでいた。

「あーもうここきもちわういからいやだお……」
 とはいえここは敵陣の渦中。甘ったるいにおいと目に悪い金きら。停滞と諦念を謳う地獄。エルレーンは独り言ちると、助けた命を背負いなおし、一心に走った。


<バルペオル>

アルバ・フィオーレ
 ――かくして酒池肉林各地で起きる騒動。
 かの魔境を治めるエルゴマンサー・バルペオルは、長煙管から黄金の煙を燻らせて見ていた。『見る』、という表現はいささか人間的すぎて厳密にいうと適していない表現ではあるが。
 一方で知覚能力は優れども、彼はエンピレオのように超越的な情報処理能力は有していない。
 なによりも――そんなことよりも。

「『それでも』。それは歯を食いしばり立ち上がり歩く為の呪文なの。私には」
「恐怖も痛みもある。でも、私はもう挫けない」
「自分の道は自分で切り開くから、怠惰な救いはいらない」
「どんなに地を這おうとも……、酒池肉林は、潰す。それ以外は、ない」
「誠心誠意全力全霊、嵐の王に挑ませて頂きます!」

 アルバ・フィオーレ(la0549)が。
 陽波 飛鳥(la2616)が。
 カトリン・ゾルゲ(la0153)が。
 常陸 祭莉(la0023)が。
 桜壱(la0205)が。
 この5人だけではない――他にも多くのライセンサーが。
 バルペオルの前に立ちふさがり、十人十色の――銘々に貴賤なく鮮やかな色を心に。
 薄ら嗤う魔境の怪物へ、挑む。


●リザルト
 結果的に救助できた数は、まちまちといったところだった。
 援護を名乗り出た者があまりに多く――この作戦の肝心の目標である救助を行う者がいささか少なかったのだ。
 また援護についても、この魔境の脅威として事前説明されていたように、ナイトメアの超常回復性能から「火力で突破する」ことが意味を成さない。戦うにしても、「どう殴るか」ではなく「どう振り切るか」「どう惹きつけるか」が必要だった。


常陸 祭莉

桜壱
 だが援護がとにかく分厚かったことで、ナイトメア達の悪辣な性能に対しほぼ完璧に対策を取れていたことは事実。
 加えて、本格的に戦闘で陽動を行う部隊の懸命にして決死の尽力も合わさっていたことで、ナイトメアの意識はそちらへ向いていたこともあった。
 そういったことから救助班はほぼ憂いなく救助を行うことができたのだ。

 ――この尽力でどれだけ敵の回復性能を削ぐことができただろうか。いくらかは確実に削げたはず。
 だが、覚悟はせねばならないだろう。おそらくバルペオルは弱体化と呼べるほど弱体化していない。どうにかこうにか人間が倒せるところまで指先が掠めるようになった……かもしれない、と認識すべきだろう。

 魔境の果てはまだ遠く。
 深淵は未だ、どこまでも深い。



『了』

(執筆:ガンマ
(文責:WTRPG・OMC運営チーム)

●青

「どうして私を助けたんですか? あの黄金の霧の中にこそ救いはあったのに!」
「助けてほしくなんかなかった! この偽善者!」
「あの場所に帰して! 放っておいて! 幸せの中で眠るように終わりたいの!」

 罵詈雑言。言葉の暴力。物理的な暴力。
 救った者に、守るべき者に、自分達の成したことを徹底的に否定され。

「攻撃しても攻撃しても意味がない……あんなナイトメア、倒せるのか?」
「挑んだところでどうにもならないんじゃ、どうしようもない……」
「くそっ、悪夢共にみっともなく追い回されるしかないなんて!」

 倒せない敵。積み上げた努力と研鑽が全て無駄だったのかと辟易する心地。
 無力さ。惨めさ。命を懸けて、傷を負って、何を得た?

「俺達は更に侵略なんかしないよ。放っておいてくれたらずっとこのままでいるよ」

 魔境の主が囁いた。
 諦めれば、つらい努力をしなければ、楽でいられる。
 何もしなければ、苦しい思いをせずに済む。
 立ち止まってしまえば――それで嫌なことは終わり。

 ――それでも。

 君達は『ここ』にいる。
 君達は幾度でも、酒池肉林――停滞と堕落の地獄へと、挑む。

「私達が頑張る意味って、何なのでしょうね?」

 ソラリス(lz0077)はキャリアーの窓から見える、遥かな黄金の地を見下ろしていた。
 彼女は【堕天】事件で奇跡的に生き残り、そして多くの絆に支えられ、今ここにいる。
 頑張る、という概念は曖昧ではある。けれど思えば、「いろいろ頑張ってきたなぁ」という心地がした。ではなぜ……頑張るのだろう? その意味とはなんだろう?
「さぁなー」
 ニキ・グレイツ(lz0062)は肩を竦めた。
 それから一つ笑って、こう言うのだ。

「『それでも』って何かを見出したいから、頑張るんじゃないかな」

 頑張ること。その過程にはつらいこと、苦しいこと、痛みがあり――挫折や悲しやままならなさがあり――
 だけど、『それでも』と今も生きている。

 その連続こそが、『進む』ことなのかもしれない。



●赤

 進化とは何か。
 進み続けることだろう。
 足掻き続けることなのだろう。

 ――そこに終わりも果てもなく。

 だからこそ挑むのだ、とエンピレオは言っていた。
 それが種族としての絶対命題なのだ、とザルバは言っていた。

 ――終わらないことを、いつまでも続ける意味とは?


<バルペオル>
 バルペオルは考える。
 終わりのない無限よりも、納得のいく区切りで終わること。
 満足をして、ここで終わりと閉ざすこと。
 その方が美しくはないか? 安らかではないか? 納得できやしないか?

 立ち止まることの罪とは?
 怠惰に身を窶すことの罪とは?

 ――あるいはこのように思うことは、進化の果ての一つなのか?

 甘く先を閉ざす霧の中、バルペオルは曖昧に微睡んでいる。
 停滞と怠惰の桃源郷。進まず歩まず変わることなく、凪の安寧を甘んじる不眠城にて。




『了』

(執筆:ガンマ
(文責:WTRPG・OMC運営チーム)

▼【金乱】第1メインフェーズ

MVP 功績点 負傷者 作戦内容

●それでも
 インソムニア『酒池肉林』の攻略は最終局面を迎えていた。
 だがSALFには一つの気がかりがあった――救助された人々のことだ。
 ナイトメアに関しては、極論的には『倒してしまえばそれで終わり』である。しかし――酒池肉林にて眠る人々は、世界に絶望し自ら眠りに就いた者ばかりだ。
 幸福で都合の良い夢に耽っている彼らは、目を覚まし『苦しい現実』に引き戻されたと知れば、そのほとんどがパニック状態へと陥ってしまう。酒池肉林へ戻りたがり、精神的にも非常に危うい。
 こういった人々は、何もケアせずに放置すれば、レヴェルとなって新たな悲劇の種となりかねない。
 ならばどうすればいいか――事実をそのまま、理解してもらう他にない。

 なぜ、彼らは助けられなければならなかったのか。
 ナイトメアの脅威。危険性。
 それと戦う者達のこと。
 彼らがどんな想いを胸に、傷だらけになりながらも人々を助けたのか。

 停滞の魔境から、進んでもらわなくてはならない。
 それは苦しくて厳しくて痛みを伴うことかもしれない。それでも――

 ――そう。『それでも』と言わねばならない理由を、君達は持っているはずだ。


ソラリス
「そのような事情から、ノヴァ社と紫電重工が協力してくれることとなりました」
 通信機を介して、ソラリス(lz0077)が君達全員へ告げる。
 君達の手元には小型カメラがある。これを取り付けて決戦に臨んで欲しい、と。
「気負う必要はありません。飾る必要もありません。ただ、我々は真実と事実を、人々へ伝えるのみです」
 撮影された映像は、救助された人々へと提示される。
 酒池肉林がどのような場所で、何が起きて、なぜ救助して、なぜ戦うのか。ライセンサーの尽力を、想いを、足掻きを、何よりも雄弁な真実として突き付けるのだ。
 映像の統括や配信は後方配備部隊の方で行われる。君達はただ、真実を伝える者として行動して欲しい。
 ソラリスは――後方配備の一員である――それらのことを伝え終わると、一間の後にこう告げた。

「停滞の悪夢はここで終わり。我々は進みましょう、未来へと」


●魔境の怪物
 黄金の霧は深奥へと淀み、流れ、嵐のように唸っている。
 その中で、スティーヴ(lz0110)はライセンサーを待ち構えている。期待と昂揚をその胸に抱いて。
「これがバルペオル殿の本気の力なのか? すごいなー。ほんと面白いな、この場所は」
 そう呟いた、直後。「聞こえていた」のだろう、霧の中で風が吹くような声がする。
「なんだ……お前、まだいたのか」
「そりゃあね。居候の身だっていうのに、養分の持ち去りを許しちまった。借りは返す主義だよ、俺は」
 口角をつるスティーヴに、霧の怪物も含み笑う。
「まあいいさ……じゃあ最期まで楽しんでいけよ。最期までな」

(ここに居れば強い奴らが勝手に向かってくる。めっちゃ楽しい)
 借りも返して一石二鳥。新しい技も編み出した。
 今のスティーヴに撤退の選択肢はない、楽しみ尽くすつもりだ。
「俺は勝つよ。だから残った。バルペオル殿も、手放さないでよ?」
 夢のような場所を。

 ――ここは停滞と怠惰の桃源郷。金色濁乱停滞楽土
 進まず歩まず変わることなく、凪の安寧を甘んじる不眠城。

 バルペオルは霧より作り出した黄金の煙管を咥え、同じ色の煙を吐く。
 随分と荒らされたものだ。領域は狭まり、そして薄まりつつある。
 諦めずに積み重ねてきた人の成果。彼らが立ち止まらなかったからこその、光景。

 このまま――ここで――変わることなく惰性的に存続していくのか。
 それとも――なにか――変わるのだろうか、どちらかの終焉を以て。

 燦々煌めく黄金の中、怪物は待ちわびている。



『了』

(執筆:ガンマ
(文責:WTRPG・OMC運営チーム)

▼【金乱】第2メインフェーズ

MVP 功績点 負傷者 作戦内容
推奨ブラウザ:GoogleChrome最新バージョン