1. グロリアスドライヴ

  2. 広場

  3. 【PW】

【PW】

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やあやあ、ようやくおじちゃんのロマンが完成するねぇ。
 ん? どうしたんだいマリア

ジョゼ社社長:ペドロ・オリエヴェイラ

Story 01(6/22公開)

●北は夢に侵されて

「いーけいけ、おーいらのなーかまたち~」
 全長2mほどの、一見するとファンシーそうなウサギの着ぐるみっぽい存在――ワンダーガーデナーは大鋏をチョキチョキさせながら、野営地の真ん中で歌い、踊っていた。
 様々な兵器がそこらじゅうにあり、昨日までは軍人とライセンサーが普通に歩いていたはずだ。
 しかし今、人の気配は全く感じられない。
 代わりいるのは50cmにも満たない、小さなぬいぐるみ姿の者達。二列に並んで行進している姿は、ファンシーを通り越して恐怖でしかない。
 野営地を漁っていたであろう1匹が、ずるずると1組の男女を引きずってワンダーガーデナーの前にまで持ってくる。
 眠るように死んでいるその男女は服装からするとライセンサーで、指輪もしている事から夫婦なのだろう。
 どちらもずいぶん整った顔をしており、その顔を見たワンダーガーデナーは大鋏をたいそう嬉しそうに、チョキチョキチョキチョキ。
「キレイな顔! キレイな顔! おいら大好き!」
 興奮する大ウサギは大鋏の先端を下に向ける。
「ど」
 ザスッ。
「ち」
 ザスッ。
「ら」
 ザスッ。
「に」
 ザスッ。
「し・よ・う・か・な~?」
 ザスザスザスザスザス。
「き~めた、まずはこっちから~♪」
 ジョキジョキジョキジョキジョキジョキジョキ、バツン。
「はぁ~たぁのしぃ~!
 よ~し。おいら、も~っと活躍して、レディに褒められるんだ~」
 血濡れの鋏を顔の前でチョキチョキ。
「ああ……はやくレディの顔、刻みたいなぁ~」
 チョキン。


●ファンクと紳士の密会

 南米アマゾンのジャングル。そこのどこかにある、木が密集していて人が踏み入れられない所。
 そこに居るのはつぼみのような頭部に歯が並び、草の身体と手足を持つ大きな人型の植物と、切り株に座って優雅にカップを傾ける小太りの紳士っぽい何か。
「くそくそくそ、おもしろくねぇ! 俺様を呼んどいて、『役に立たないわね』だと!?
 誰のおかげでインソムニアを留守にして、風船みてぇにあっちこっちフワフワしてられっと思ってやがんだ、畜生めが。
 ちょっとつえぇからって調子に乗りやがってよ……ホントにあのアマは気にいらねぇぜ」
「まあ落ち着きたまえよ、我が友ジグテオトル殿。我は君が無事であることを喜ばしく思っているよ」
「しょせん壊されたのは外ッツラだからな。もっと時間さえありゃもっとでっかくなって、あいつらくらい踏みつぶしてやるてぇのに」
 地団太を踏むが虫は踏まず、名も無き希少な花を踏みにじるジグテオトル。
 カップの『樹液』を口に含み、味わいを確かめるように口の中で転がしていた紳士のような何かは樹液を嚥下すると、口を開いた。
「では、それを証明して見せてはどうだろう?
 我の情報によるとだ。この南米でいま最重要拠点とされている『ブラジリア』に、ルルイエ侵略に貢献した巨大な艦がある」
「ああ? なに言ってんだ、ブラジリアってのは知ってるぜ。内陸ででっけー川もねぇ。
 そんなとこになんで、艦があるってんだぁ?」
「何をしているかまでは理解できんが、間違いなくある。我が眷属の情報網を甘く見てくれるな、友よ。
 ブラジリアを潰すだけでも大きな手柄となるだろうが、さらには人類の重要兵器を潰したとなれば、ジグテオトル殿の株も鰻登りというものだろう。
 もしかすれば、放蕩癖のあるミザリィ殿に取って代わる事だってあるやもしれんぞ」
 小太りの紳士っぽい何かはニヤリと笑う。
 するとジグテオトルは大きな口を開け、口角を吊り上げた。ずいぶん不細工で邪悪な笑みである。
「ハハハ! そいつぁいいな、ブラザー!
 そうなりゃ善は急げだ、さっそく俺様はでかい身体を造ってくるぜ。大きいって事は強いって事だって教えてやるぜ!」
 上機嫌なジグテオトルに満足し、腰を上げる小太り紳士っぽい何か。
「さて……そろそろ我も前線に戻るとしようか。
 では友よ。次はブラジリアにて」
「おう。楽しもうぜブラザー!」


●ロマンとマリアと

 ブラジルの首都、ブラジリア。
 そこのとあるジョゼ社の工場敷地内に、とてつもなく大きな物が1ヶ月かけて運び込まれていた。
 突撃強襲艦マリア。
 全長400m、全幅150mにも及ぶ、超巨大キャリアーである。
 空を飛ぶ事を諦めた、海専用のキャリアーであった――いままでは。
 運び込まれてから1ヶ月強、多くの技術者を集め改修が行われてきたマリアはようやく完成の目処が立った。
 そんなマリアを見上げるペドロ・オリヴェイラ。
「いやぁ、ようやくおじちゃんのロマンが叶うねぇ」
 その笑みは歳のわりに無邪気なもので、少年のようである。
 そんなペドロの横に、ウェーブのかかった栗毛色の髪を腰まで垂らした女性が突如として映し出された。
 背が低いと言うより全体が縮小されていて、半透明な彼女はひと目でホログラムだとわかる。
『社長。ご報告があります』
「おいおいマリア、僕のことはアナタと呼んでくれって伝えただろう?」
『統計的にその場限りのご冗談と判断していましたが、正式な登録要請でしょうか』
 ライセンサーとの交流で少しは人間味が見え隠れしてきたマリアのサポートAI『マリア』だが、まだ事務的な口調は変わらない事にペドロは少し寂しそうに笑い、「いや、冗談でいいよ」と答える。
『了承いたしました。ご報告ですが、ここより100km西部の新規ジャングル地帯より異常なエネルギーを感知いたしました。一つの大きな塊から薄く広く、拡大しています』
「そいつはもしかしてやっぱり、アレかい?」
 わかってはいるが、確認のために聞き返すペドロ。
 マリアが頷き、続けた。
『ナイトメアです』

(執筆:楠原日野
(文責:WTRPG・OMC運営チーム)

過去のストーリー

●ガンマナイフ作戦と狐の包囲網

 複数のインソムニアを陥落させた人類はその勢いのまま、ナイトメア達に対して強気の攻勢へと転じる流れができあがっていた。
 特にアメリカではそれが顕著で、北米南米インソムニア同時進攻作戦が展開された。
 少数のライセンサーと多くの軍人をひと部隊として、多数の部隊が広範囲でナイトメアを駆逐すると共に、インソムニアへと集結していくという作戦――それが北米のガンマナイフ作戦である。
 南米ではジョナ・ハラデイ率いる『暁の狐』によってジャングルからナイトメアを駆逐し、南米インソムニアを包囲する『狐の包囲網(当初はこちらもガンマナイフ作戦と呼称予定だったが彼女らによってそう呼ばれている)』が展開されていた。
 少し前であれば無謀だったかもしれないが、いまや一騎当千の活躍をするライセンサーが多くいるからこその作戦であった。
 作戦は今のところ、成功と呼んでも差し支えない。
 その影――いや、ほぼ隠れていない影には、ジョゼ社社長、ペドロ・オリヴェイラその人の援助が大きいだろう。
 そのおかげか市民の間ではもう間もなくナイトメア達は駆逐されると信じられ、ナイトメアの脅威を忘れ始めていた。

 ――それが、ナイトメアの逆鱗に触れた。



●魔女の集会

 どこかの小さな町が燃え盛るが、逃げまどう人の姿はすでにない。かわりに人々は地面へ物言わぬ者となり果て、転がっている。
 それも、おびただしい数が。
 もはや生きている者などいないと思った矢先、幼い少年の泣き声。
 砲弾でも受けたかのように穴だらけな住宅の前で、火の明かりに照らされながら少年が泣き叫んでいた。
 その少年の前に、地面へ届かんばかりの漆黒の様な黒髪を揺らした、長身の美女が立つ。
 黒を基調としたドレスに、ローブと呼んでも差し支えないものを肩にかけている。
 目尻の下がった艶のある目で、少年を見下ろす美女。柔和ながらもどこか薄ら寒さを感じさせる薄い笑みを浮かべ、前髪をいじっていた右手を高々と振り上げた。
「こんなものを私に見せて、何がしたいのかしら」
 空間を断裂せんばかりに、手刀を振り下ろす。
 すると泣いてばかりの少年が邪悪な笑みを浮かべ、後ろに飛びすさる。
「おいらのワンダーガーデンは、どうかなー?」
 頭を揺らす少年が大きく膨らみ、ピンク色のパステルカラーで着ぐるみのような、ウサギっぽい人型へと変貌する。
「おやおや。お気に召さなかったかい、ミザリィ」
 少年の立っていた空間が裂け、虹色のような不思議な断面から声がしたかと思うと、緩いウェーブのかかった鏡のような銀髪をした美女が姿を現す。
 絢爛豪華な白いドレスだが開いた胸元が下品さを醸し出していて、その吊り上がった紫色の唇から傲慢さが滲み出ていた。
「バレットから聞いたお前さんの趣味の一部始終、うまく再現させられただろう?」
「こんな世界に呼びつけておいて、ずいぶんなおもてなしね。取り巻きの力を見せたかったのかしら、ミラー」
 細くしなやかな指でゴキゴキと骨を鳴らしながら、拳を握る。
「そうツンケンするでないよ、要件はちゃぁんとあるさね。
 お前さんでも、ルルイエがどうなったか耳にはしてるだろう?」
「知らないわねぇ。興味ないもの」
 その言葉に偽りがないと言わんばかりなミザリィの態度に、ミラーの眉間には皺が深く刻まれた。
「そうかいそうかい。
 でもね、ハオヘアのやつが人間どもに負けたと聞けば、少しはお前さんも興味もつんじゃないかい」
 ミザリィの遠くを見つめるような視線が自分に向いたと感じ取ったミラーは、眉間の皺を緩めてミザリィにゆっくりと近づく。
「最近はねぇ、うちの領土を人間どもがずいぶん深いところまでくるようになってね。
 お前さんは知らないだろうけど、聞けばお前さんのとこもずいぶん人間どもに好き勝手されてきているそうじゃないか」
「そのようね。人の間のニュースではよく聞くわ。
 アメリカ全土の奪還も間近――そんな風潮が強いかしら」
「……お前さん、それをどう思うんだい?」
「おもしろくはないわね」
 ミザリィの回答に我が意を得たりと言わんばかりに、ミラーの眉間の皺は完全に消え、口角をさらに吊りあげる。
「そうさ、おもしろくはないねぇ。
 だからここいらで、人間どもに思い出させてやらないとねぇ――私達の恐怖を」

(執筆:楠原日野
(文責:WTRPG・OMC運営チーム)
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