1. グロリアスドライヴ

  2. 広場

  3. 【FI】

【FI】

Story 01(4/9公開)

●bewilderment

<ペギー>
「……随分と技術が進んでいるのだな」
 グロリアスベースへ向かうキャリアーの中で、放浪者・ペギーはそう感嘆の息を漏らした。

 ニュージーランドに次々と不時着した、放浪者たちを乗せた船。
 地球のものとは異なるテクノロジーで動いていた為、駆けつけたライセンサーやSALFの職員の技術力では直すことは困難そうだった。
 一方で肝心の放浪者には、直すための資材がない。
 元々放浪者の保護は国連からSALFに対して依頼された案件だ。一応両方とも揃っていると言える、シヴァレース・ヘッジ博士の待つグロリアスベースへと運搬するのが適切だろうという判断に至った。
 船も、大きなものになるとキャリアーくらいはある。
 ワイヤーやベルトで固定して運搬するのも一苦労だけれど、それでも、放浪者たちの警戒を解くには『船ごと』救ける必要があるのだ。

 警戒を緩める為の一策として、「職員の仕事の邪魔をしない」という条件付きで放浪者たちはキャリアー内の散策を認められている。
 ペギーが腰を落ち着けるのに選んだ場所は、キャリアーの動力部にあたるエリアだった。
 キャリアー本体のサイズの割に、動力部は意外と狭い。
 高速移動を可能にしているIMDのことは掻い摘んで聞いていたとはいえ、その狭さを意外に思っていたペギーの言葉を聞き、部屋に待機していたエンジニアが苦笑いを浮かべる。
「ベクトルの違いだと思いますよ。『進んでいる』のであれば、資材を船が墜落した場所へ運べば直せる話です」
「言われてみれば確かにそうだ」
「こちらからすると、『世界を渡ってくる』ことを技術を駆使して実現した方が驚きです。今までにこの世界に来た放浪者は、偶発的にやってきた方ばかりですから」
 その褒め言葉にペギーは一瞬得意げに胸を張ろうとして、やめた。あまり誇れるような状況でもない。
 放浪者。
 自分たちと同じように、世界を渡ってきたもの。そしてやはり自分たちと同じく、元の世界で駆使していた能力は失われているらしい。
 そんな者たちが集う世界に自分たちがやってきたのは、果たして奇跡か偶然なのか。それとも……?
 などと考えていると、エンジニアの胸元で音が鳴った。ポケットから取り出したのはおそらく通信端末の類だろうとペギーが推測していると、「は?」エンジニアは目を丸くした。
 それからいくらかのやり取りを経て通信を切ったエンジニアは、何やら困惑していた。
「どうした?」
「貴方たちの仲間と思われる船が新たに捕捉されたので、貴方たちを送り届けた後にそちらに向かうのですが……いや、メンテナンスの時間がないな、と思いまして」
「そうか、忙しいな……ワタシも技術者の端くれとして何かそれくらいは手伝えれば良かったんだが、『ベクトルの違う技術』では下手に手を出しても足を引っ張るだけだろう」
「それに、貴方がた技術者には船を直すにあたって詳しく色々と伺う必要もありますし」
 それもご尤も。
 納得しているペギーは、エンジニアの微妙な内心の正体に気づかなかった。

 放浪者たちの船が現れたのは、事実。
 ただしそれはニュージーランドでではなく、欧州、イベリア半島。ナイトメアと人類の戦力が衝突する戦闘地域で、である。
 流石に『終わった』戦場であるニュージーランドのように穏やかにはいかないだろう。

●Appearance

ザルバ
「どうも最近『食糧』が勝手に現れるな。私が不在の間に何かあったか」
 北欧、オリジナル・インソムニア。
 ”ホーム”から帰還したナイトメア総司令官・ザルバは、目の前に跪く二人の側近に尋ねた。
「いえ、特には何もなかったはず」
「『ルルイエ』が陥落したようですが、それとはおそらく無関係でしょう」
 放浪者の出現は、実際のところ今度はイベリア半島だけでなくナイトメアの支配地域にも及んでいた。船なんて目立つ形で現れれば、いやでもナイトメアの目にはつく。
 ただ、流石に同じようなケースが複数発生した要因となると、フォン・ヘスにもクラインにも思い当たるところがなかった。

 ――答えは、まさにその直後にオリジナル・インソムニア近辺の上空に現れた『要塞』が教えてくれることになるのだけれども。

「なるほど、『別の勢力』が追い立て回していたということか」
 その姿を目の当たりにしたザルバは目を細める。
 しかも要塞にはナイトメアとして見覚えがある。その勢力を統べる、司令官のことも知っていた。

●???
 ザルバが要塞の姿を見つけた頃、イベリア半島ではさらなる異変が起ころうとしていた。

 放浪者の集団の話については、現地のSALFスタッフも把握している。
 だから突然現れた船についてはそこまで動揺はしなかったけれど……追うように上空に出現した『そいつ』には驚愕せざるを得なかった。

 例えるならば機械めいた赤い鳥。
 ただ、それが決して穏やかなる存在ではないことはすぐに分かった。
 何故なら――そいつは瞬く間に『変形』を遂げ、ヒトのような二足の姿になったかと思うと――手にした砲を、地上へと向けたのだから。

「ナイトメアの、機械兵器……?」
「いや、でもあいつ、あの放浪者を追ってきたんじゃ……?」
 などとどよめく支部スタッフを、現地の司令官が一喝する。
「どちらでもいい、早くライセンサーにアサルトコアでの出撃を要請しろ!」
 あの高さと、アサルトコアに匹敵するサイズでは生身では手も足も出ないだろう。スタッフは急ぎ、ライセンサーおよびアサルトコアの出撃を本部へと要請した。

(執筆:津山佑弥
(文責:WTRPG・OMC運営チーム)

●Restart
 その日、SALF長官エディウス・ベルナーはニューヨークを訪れていた。
 グロリアスベースの強化拡張の為の改修に使われたのはフィッシャー社のドッグ。
 それだけでも有り難いのに、年の暮れにはそこをナイトメアに狙われてドッグに被害を出してしまった。
 その御礼とお詫びの為に、エディウスは自らフィッシャー社の本社に出向いたのだ。

「改修の為に設備を提供して頂けたこと、大変感謝しています。その設備に被害を出した件については……」
 本社のCEO室。
 珍しく『客人』となったエディウスは頭を下げかけたけれども、それを対面のソファーに座ったレイ・フィッシャーが手で制する。
「ノープロブレム。被害と言っても一発防壁に風穴を開けられた程度で、既にメンテナンスが始まっている。何より、あの改修は世界にとって必要なものだ。それに比べたらあの程度は安いものだ」
 そう言ってからからと笑った後、レイは確認するように尋ねた。
「して、こうして赴かれたということは」
「お陰様で完了の目処が立ちまして、私が戻り次第ドッグを離れて再び洋上移動を始めます」

 改修によって大きく変わったことが二つある。
 一つは、先んじて建造が完了していた巨大戦艦『レヴィアタン』を格納・整備する為のドッグができたこと。これでいざとなればレヴィアタンを空中の『ベース』として動かすことも容易となる。
 もう一つは、グロリアスベース自体の防衛機能の強化だ。
 昨年のロシア戦線の際にノヴァ社が実戦投入したイマジナリーシールドMOD『ナディエージダ』。ライセンサーの手を借りてサンクトペテルブルクという都市一つを守りきったかの障壁は、規模を変えてグロリアスベースにも投入された。それ以外にも、やはり専用のEXISを用いるキャノン砲も数基設置された。
「しかし今更といってはなんだが、ナディエージダといえばサンクトペテルブルクで使用した際にはライセンサーが軒並みダウンしていたはずだ。その辺りの負担についてはどうお考えを?」
 レイの疑問に対し、エディウスは「ご心配なく」と返す。
「それについては、アルビナ社長らノヴァ社の精鋭部隊のおかげである程度改善しています」
 グロリアスベースがサンクトペテルブルクよりも小さいことを踏まえて、出力の調整を行ったのだ。やはりライセンサーに負荷はかかるものの、ぎりぎり気絶まではいかずに済む程度にはなった。
 バリアとしての威力こそロシアのものに劣るけれど、デメリットも減った。安定性を増した改良型ということもあり、ベースのそれには『ナディエージダ・ドゥヴァ』という名がつけられた。ドゥヴァとは、ロシア語で『2』を表す単語である。

「これからはどう動かれるつもりかな?」
「つい先日ですが、東欧でナイトメアの大規模襲撃があったようです。状況次第では向かうことになりますが……これも戦場によっては、レヴィアタンの出番かもしれません」
「存分に使ってほしい。その方が開発に携わった甲斐があるというものだ」
 などと話していると、CEO室の入口扉付近で待機していた秘書がエディウスの腰掛けるソファーの後方までやってきた。
「長官、本部から至急戻って欲しいとご連絡が」
 腰を低くしてそう報告する秘書に、エディウスは怪訝な顔をする。
「至急? なにかあったのか?」
「国連の方から、放浪者について相談があったようです。取り急ぎの対処をSALFにお願いしたいと」
「……対処?」
 新たにやってきた放浪者が何か問題でも起こしたのだろうか、と思ったけれども、一人や二人のレベルの話であればエディウスのところまで話が来るまでもなく現場で処理されるはずだ。
 秘書も若干困惑している様子を隠さずに、エディウスに報告を続けた。
「これまでにない規模の放浪者の集団が、宇宙船と思しき船に乗ってニュージーランドに降り立ったようなのです」

●troubleshoot
「何よアレ……!?」
 セレスト・アッカーは前方の光景に唖然とする。

 ニュージーランドはレイクサムナーにあったインソムニアがなくなって以降、完全とは程遠いとはいえ、ナイトメアの脅威は確実に取り除かれつつあった。セレストも自身がライセンサーとなってから、事あるごとに故郷であるニュージーランドには足を運んでいる。
 『それ』を見てしまったのはたまたまニュージーランドを訪れていたからというただの偶然だけれども、それにしても気味が悪い。
 何やら巨大な物体が、小高い丘の頂上付近に刺さっている。
 いや、刺さっている、という表現は適切ではない。何せその物体は、虚空から急に姿を見せたかと思うと、そのまま後方から火の噴出を伴いながらも地上へと落下していったからだ。地面に角度をつけて激突したまま動かないのは、めりこんだ、というべきだろう。
「船……ってことは、ナイトメアか放浪者……?」
 細かい形状までは流石に分からないけれども、落ち方からしてそんなところだろう、と考えてからハッとする。
 距離があっても目につくほどの体積だ。当然、激突時は地震かと思うほど近隣の大地が揺れた。
 そうなると船の搭乗者がどちらであろうと問題が発生してくる。
 ナイトメアなら新手だ。戦力としてどれくらいか分からないけれども、アレだけ派手なやり方でやってくるのだ。エルゴマンサーの一人や二人いてもおかしくはない。折角いなくなったのに。
 放浪者だとすると、単純に被害がよろしくない。
 前の世界で何か特殊な能力を持っていようと、地球にやってきたての放浪者はその能力を失っていることに気づいていないか、気づいていても戸惑っているはずだ。また、流石に指揮官を失っていても「ここに獲物がいます」アピールをされてはナイトメアも黙ってはいないだろう。
 そして……前者の可能性もなくはないけれど、あの不時着っぷりからすると後者の可能性が極めて高い。
 とりあえずSALFへ連絡を送ろう。
 セレストは通信を取るべく駆け出した。

●unknown
 実に嘆かわしいことになった。
 というか、正直なところ色々とピンチだ。
 元はと言えば、あのナイトメアとかいう奴等の侵略だ。ワタシたちの能力では抗うにも防戦もジリ貧、最終的には故郷の星を追われることになってしまった。実に悔しい。
 で、だ。問題は続く。
 星中の技術の粋を集めた船はぎりぎり完成した為星から逃れることは出来たけれど、流石に航行テストも何もしていないわけだ。予想もしていないトラブルの一つや二つ起きる。
 案の定、ちょっと次元を跨いでみたら出力系統がマズイことになった。いや、直前までナイトメアに追われていたから、技術トラブルでない可能性もある。
 不幸中の幸いなのはどうやらナイトメアをまくことは出来たらしいことだが、何にせよまともな着陸は出来ず、新たな大地には思い切り激突する羽目になった。けが人もちょっと出た。
 そして目下一番の問題は……この星にもナイトメアらしき存在がいることなんだが……。
 更に困ったことに、かろうじて自分の身を守るくらいの役割を果たせていたワタシたちの能力が、何故か使えない。


<ペンギン?>
「いやこれどうしろって言うんだペン!!!?」

 取り囲む異形の存在を前に、能力が使えないことに気づいてしまったワタシは思わず叫んでいた。
 その直後、異形の存在が奴等の後方からふっ飛ばされ――開けた視界の先にいる『ナニカ』が

「でかい、ペンギン?」

 何やら戸惑った視線をこちらに向けていた。

(執筆:津山佑弥
(文責:WTRPG・OMC運営チーム)
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