1. グロリアスドライヴ

  2. 広場

  3. 【ゆうしゃのがっこ~!】コラボシナリオ

【ゆうしゃのがっこ~!】コラボシナリオ

Story 06(3/24公開)

●そして時は動き出す

<メメ・メメル>

<ナイトメア・イブ>
「決着だ」
 戦いの顛末を見届けたメメ・メメルが呟いた。
 ナイトメア・イブは元々かなり無理をしていた。
 穿たれた亀裂は徐々に広がり、ついにはイブの全身をくまなく浸食した。
 パキパキと硝子が砕けるような音と共に、膝をついたイブの顔が崩れていく。
「……そう、何もかもが上手くいくハズもない」
 “友達になってほしい”――。
 そんなくだらない言葉がイブにとっては猛毒だった。
 受け入れられたからこそ致命傷。ならば否定も肯定も、どちらでも結末は決まっている。
 イブと言葉を交わしたライセンサーたちの間に動揺が走る。
 つい先ほど、今目の前で、ようやく戦いが終わったというのに……。
「そんな顔をするのは止せ。くくく……リア充どもめ。まさか我の言葉を真に受けたわけではあるまいな? ナイトメアと人間が……友達になど、なれるはずもなかろうに」
 低く笑い声を上げ、イブは空を見上げる。
 異空間が崩れていく。イブにはもうこの小さな世界を維持する力がない。
「無念だ、メメ・メメル。“檻”が崩れ去れば、貴様らの魂は自由だ」
「あ、やっぱり? この異世界転移って、完全なものじゃなかったんだね~☆」
 弱ったイブの力ではメメルたち全員を転移させることはできなかった。
 故に、魂のみ――意識のみ吸い出して、この小さな檻に押し留めた。
「……そうか。メメル校長たちが異世界の異能を扱えたのは、この世界に完全に転移したわけではなかったからか」
 水月ハルカ(lz0004)の推測通りである。
 通常の放浪者であれば、この世界の法則に縛られる。
 どちらでもない者だからこそ力を持ち、この檻に縛られ……そして檻が砕ければあるべき場所に還るのだ。
「まぁ~つまり~? これでお別れってカンジぃ~?」
「マジかよ!? 唐突すぎんだろ!?」
「いずれ別れが訪れることも覚悟はしていたのが……」
 ユーゴ・ノイエンドルフ(lz0027)に続き、集まってきたムーン・フィッシャー(lz0066)が呟く。
 空間の崩壊を見れば誰もが理解する。これがこの戦いの決着なのだと。
「イブ、一つだけ聞かせて! このお祭り騒ぎ……楽しんでくれた?」
 エミリー・ルイーズムが問いかける。
 少女の姿をした怪物はまるで感情を持つかのように、眉を顰め、目を逸らし、小さく溜息を零した。
「楽しいわけがあるか、ばか」
「……そっか♪」
「おーい! この空間崩壊って巻き込まれたらまずいんじゃないのー!?」

ムーン・フィッシャー

<エミリー・ルイーズム>
「話の流れから推察するに、私たちは元の世界に戻れるようですが……ライセンサーの方々にとっては危険なのでは?」
 コルネ・ワルフルドとテス・ルベラミエが同時に問うと、イブは小虫でも追い払うように「しっし」と手を振る。
「その通りだ。完全に崩壊すればどのような害があるかわからんぞ。尻尾を巻いてとっとと逃げるんだな。キャリアーとかいう空飛ぶ船ならば、問題なく逃げ切れるだろう」
「おっけー☆ よーしみんな、お祭り騒ぎは“来た時よりも美しく”、だ! 短い間だったけど、ライセンサーの皆々様はこの学園の生徒見習い! 迷子がいないように最後まで安全にお送りするのだ☆」
「「「おぉ~~~っ!!」」」
 メメルの号令に従い、ライセンサーらは撤収を開始する。
 そんな中、メメルは一人でイブへと歩み寄った。
 すでに立っていることも出来ないのか、地に這いつくばったその頭にメメルは自分の三角帽子を乗せる。
「チミのおかげで大変な目に遭ったよ。何か弁明はあるかね~?」
「特にないな。十分に足掻いた」

<コルネ・ワルフルド>

<テス・ルベラミエ>
「そかそか。ところでチミは――実際のところ、“ナイトメア”なのかな?」
 イブは答えなかった。答える術を知らなかったから。
 自我らしきものを得たのもついこの間だ。自分が本当のところは何者かなど、わかるはずもない。
「オレサマは想像(イメージ)したのだ。実はチミもこの世界に来た生徒の一人で、魂だけの存在で……この悪夢から解放されたチミは、本物のフトゥールム・スクエアで目を覚ます。とっても愉快でイケイケな仲間たちがチミ
の冒険を待っているのであった☆」 「――ハ。くだらない冗談だ」
「悪いジョークはお好きだろ~? この空間の崩壊に巻き込まれる人なんていやしないぜ。なかったものがただなくなるだけなんだからね。……“自分が砕け散るところを見られたくないだけ”にしては、大げさな冗談だ♪」
「ぐっ……。貴様だけは本当に最初から最後まで嫌いだ……!」
「そう? でも、オレサマは嫌いじゃないのだぜ☆ 一時の夢であったとしても、チミはこの学園の生徒だからね♪」
 帽子の上から怪物の頭を撫でる。
 ガラスの結晶が雫のように、きらきらと地に伝った。
 ぱっと花火が散るように、人型の結晶が崩れた。
 残された帽子を拾い上げ、メメルは笑顔で空を見上げる。
「学園長おぉおおお~~~!!」
「おお~、ユーゴたん&フレンズの皆々! 無事に全員逃げられた~?」
「全軍撤退完了だ。……イブの方は……そうか」
 残骸と化したイブを見下ろし、ハルカはすべてを理解する。
 きっとこの瞬間を見られたくなかったのだろう。
 友達になってもいいと言ってくれた彼らに、“友達になってくれたが故に砕けてしまう”、自分の姿を。

<メッチェ・スピッティ>

<キキ・モンロ>
「管理人が消滅し、もともと不安定だったこの空間もいよいよ限界を迎えたようだメェ~」
「お、おぉ……あんた布団に入ったまま登場して布団に入ったまま退場するのか……」
 メッチェ・スピッティはすでに簀巻き布団で寝入っている。
 それを運んできたキキ・モンロは、両腕を広げて笑った。
「雪なの! 雪が降ってきたの~~~♪」
 それは正しくは砕けて消えていく空間の残滓。
 小さな小さな結晶は、確かにこうして見上げれば雪のようだ。
 誰もが自然と視線を持ち上げると、その中心に待ち構えていたかのように異世界への門が開いた。
「あの穴……そうだ、こっちの世界に来る前にも見たよね」
「はい。つまり、あそこから元の世界に戻れるものと推測されます」
 コルネとテスが呟くと、ハルカは戦闘で汚れた手を拭う。
「事件解決へのご協力、心より感謝する。後のことは我々に任せてほしい」
「お礼を言うのはこちらですわ。水月様も、どうかお元気で」
 ハルカとテスが握手を交わしたのと皮切りに、なんとなく場はお別れムードとなった。
「ユーゴ、カップ麺ありがと~なの……っ!」
「お前はほかに言うことないのか!? ……まあ、キキらしくていいか」
「クリスマスパーティーの準備も手伝ってくれてありがとう! ユーゴもムーンも、離れていても友達だよっ♪」
「む……我は任務に従ったまでのこと……。だが……エミリーの見せてくれた踊りは、きっと忘れぬであろう」
 生徒らが別れを惜しむ姿をコルネは少し遠巻きに眺め、優しく笑みを浮かべた。
「さて、おうちに帰るまでが遠足だよっ! キミたちも急いで撤収!」
「世話んなった! ありがとな!」
 ユーゴが拳を掲げ、迎えにやってきた最後のキャリアーへ仲間と共に駆けていく。
「バイバイ、なの~~~~!!」
 遠ざかっていく異世界の島の上、一時の友情を結んだ仲間たちは、いつまでも光の中で手を振っていた。


●エピローグ
「ん~~~~~~む…………」
 世界のすべてを理解できるだなんて傲慢な考えは持ち合わせていないが、それにしたってこんなにわからないものだろうか。
 今生における天才の代名詞といっても過言ではないシヴァレース・ヘッジも、今回の事件にはお手上げだった。
 現地に向かったライセンサーからの証言はどうにも支離滅裂で一貫性がない。
 何かこう、色々とぶっ飛んだことをしていたような記憶があるようだが、なんにせよ確実性のある証言とは言えないだろう。
 そもそも今回の作戦がなぜ発令されたのか、エディウス・ベルナーもシヴァレース・ヘッジもろくに覚えていない。
 命令した側が記憶できていないのだから、命令を受けた側が覚えていないのも無理はないだろう。
「で、だ。その上で一部のライセンサーが記録してくれた画像・映像・音声やらを分析してみたんだが……」
「何かわかったのかね?」
「いや、なんも。めちゃくちゃノイズ入ってるからな。だが、“確かに存在はした”という裏付けにはなるんじゃないかね。誰だって何もない場所でカメラなんざ回さないからな」
「だが――例の“Xポイント”には何もなかったのだろう?」
 そこにかつてひとつの島があったことも。
 その島に巨大な魔法学園があったことも。
 異世界から来た少し変わった友人たちがいたことも……。
「ああ。特に何も。だだっ広い海のド真ん中だ」

「記憶を削除するナイトメアなんて反則もいいところだよな」
 グロリアスベースは既にドックを出て新たな戦いの航海に出た。
 自然と流れ込む潮風に身を任せ、ユーゴは広場のベンチにどっかりと腰掛ける。
「最前線に立っていた記憶はないが……たった一つだけ確かなことがある。ユーゴ……君が敵に拿捕されたという事実だ」
 座標や出来事はあいまいになったが、“ユーゴの救出”という小目標までは消えなかった。
 よって、ハルカの記憶の中には“なんだかよくわからないがユーゴに迷惑をかけられた実感”だけが残されている。
「自分が覚えてないことで謝るのも変な感じだけどな……悪かったよ」
「それに関しては同感だ。どうも謝られてもしっくりこない。よってこの件は水に流そう」
「ありがてぇ」
 二人はそれなりに長い付き合いだが、今回の事件ではムーン・フィッシャーも同行していたという。
 なんとなく以前より親しみは感じるのだが、彼女はグロリアスベースに打ち上げられたという父親を案じて病院に向かい、それからまだ一度も顔を合わせていない。
 次に会った時……彼女にどんな感情を抱くのだろうか。
「認識を操るナイトメアが存在するのであれば、相当の脅威だ。私たちは警戒と対策を密にしなければならない。だが……不思議ともうこんなことは起こらないような、そんな確信めいた予感があるのだ」
「そうだな。ヤバイ能力なんだが、不思議と危機感はないんだよな」
「それも敵の能力……なのかもしれないな」
 風と共に沈黙が二人の間を通り過ぎていく。
 ふと、ユーゴのスマートフォンがアラームを鳴らした。
「またカップ麺か。もう少し食生活に気を遣ったらどうだ」
「いやー、無性にこいつが食いたくなったんだよ。お前も一口どうだ?」
「見くびるな。君の食事にたかるほど落ちぶれては……」
 ぐぅ~~。
 そういえば今日はまだ何も食べていなかったり。
「無理せず食えよ、ホラ。お前には今回も助けられたんだからよ」
「……いや、私は……」
「安心しろ。フォークは二つある」
 ひとつのカップ麺を分け合っていると、ふとユーゴが思い出したように言った。
「なんかこうやってカップ麺を分け合ってるとよ……青春っぽくね?」
「そうなのか?」
「俺もあんまり詳しくないんだけどよ。こういうの、“リア充”って言うらしいぜ!」
 グロリアスベースに当たり前の日々が戻ってきた。
 謎の島と秘密の学園を舞台にした冒険は、こうして幕を下ろしたのであった。


●プロローグ

<公認申請ちゃん>
「聞こえますか……異世界からの旅人よ……」
 自分が何者なのかもわからないまま、そのナイトメアは世界と世界の狭間を彷徨っていた。
 いや、吹っ飛んでいたとか転がっていたとか、そんな表現の方が正しいのかもしれない。
 メメ・メメルの魔法で既にやられていたので、その人物がどんな様子だったかはよく覚えていない。ただ――。
「私の名前は公認申請ちゃん。この世界のすべてを公認する者……」
 はい?
「何者にもなれぬ可哀そうingなあなたを、この私が認めましょう。レッツ公認!」
 その人物は摩訶不思議なポーズと共に光を放ったのだ。
 公認の光を浴びたナイトメアは彼女から姿形を預かって……あとはなにか色々なサムシングで誕生した。
「あなたを公認です。しかし、ただ公認を受けただけではこの世界に存在するとは言えません。誰かと認め合い、お互いに触れ合うことで存在を確かめる。これはそういう物語です」
 背中を押して、その人は笑った。
「楽しみなさい。すべての存在は例外なく、願われてここにいるのですから」

 あの時のよくわからんヤツが何を言いたかったのか、結局イブにはわからなかった。
「どうせ消えるとわかっている夢に、意味はあるのか? どうせ叶わないとわかっている夢に、価値はあるのか?」
 問いかけにあるライセンサーが答えた。
 だったら答えはそれでいい。どうせなら気に入った未来を選択しよう。
 自分は迷い、問うて、いずれは消える悪夢。
「私はリア充にはならない。私は陰キャで“十分”だ」
 “誰の思い出にも残らないこと”を最後の意趣返しとしよう。
「楽しかったか?」
 目を閉じて想像する。
 もしも“次”があるのなら、本物のフトゥールム・スクエアに行ってみたい。
 そしたら今度は自分から言ってみよう。

 私と友達になってください――と。

過去のストーリー

●ハルカ彼方の銀河系で

(※読み飛ばして大丈夫なところです)

 時は西暦2058年ナイトメアとの開戦より35年が経過した世界――から更に2年経過して西暦2060年。
 人類は2年くらい前から存亡の岐路に立たされようとしていた……。

 異世界からの侵略者「ナイトメア」に対抗すべく想像力(イマジナリードライブ)を武器とした人類は、国連軍からなんやかんやあって新国連軍的な組織「SALF」を設立。
 若者の方がイマジナリードライブに適合できるし、軍属以外の人間にも戦ってほしいから「軍」じゃなくて「ライセンス」式にしたほうがいいんじゃね? というナイスアイディアにより生み出された「ライセンサー」と呼ばれる超戦士たちは、老若男女問わず世界の存亡を賭した命がけの戦い……あるいは同人誌を作ったり猫みたいな軍曹と触れ合ったり、ニュージランドを開墾したりしていた。
 他にも自称インソムニアの液体とロシアで追いかけっこしたりグロリアスベースで階段を登るのか下るのかでモメたりしていたが、割愛。

 そんな感じでなんかいい具合に日常を過ごすライセンサーたち。
 世界の平和を守ったり金色の社長を集めたりする彼らを、人々は「グロリアスドライヴ」と呼んだ――。

(※呼びません)



●未知との遭遇まであと三千里

 ライセンサーが拠点とする人工島、通称「グロリアスベース」(※これは本当)。
 SALF長官であるエディウス・ベルナーとEXISの第一人者であるシヴァレース・ヘッジは、昨年発生した高位ナイトメアによるグロリアスベース襲撃の事後処理に追われていた。
 グロリアスベースの防備とセキュリティの強化は急務であり、これを終えないことには次の作戦に入れないからだ。
 そうやって比較的穏やかな――ちょっと衝撃的な告知もあった気がする――1月を経た頃。新たな事件は起きた。
「まあ簡単に言っちまうと、異世界から“島”が転移してきたらしい」
 シヴァレースの説明には不可解なところがあった。
 この地球において、異世界からの来訪者は今や――少なくともライセンサーの間では――珍しくない。
 グロリアスベースには異世界からやってきた人類、「放浪者」がフツーに闊歩している。
 彼らと肩を並べて戦うという経験も、今となっては新鮮味に欠ける。だが……。
「島ごとの転移……何らかの施設や土地を伴った転移が存在するのでしょうか?」
 水月ハルカ(lz0004)の質問にシヴァレースは腕を組む。
「前例がないだけで、絶対にないとは言い切れんな。とはいえ、過去のケースと照らし合わせても相当に特殊なのは確かだろう」
 この地球に放浪者が転移してしまう原因はまだわかっていないが、何にせ放浪者の転移には法則性がある。
 彼らは基本、肉体そのものと転移した際に身に着けていた衣服だけ……つまり着の身着のままでこの地球にやってくる。
 理由は彼らにもわからないので調べようがなかったが、何にせよ聞き取りの結果「転移のルール」は明確になっていた。
「まあ、順当に怪しむなら“放浪者”ではなく“ナイトメア”の仕業とするべきだろう」
 異世界からの来訪者という意味において、放浪者とナイトメアは同じ来歴を持つ。
 しかし、何らかの偶発的な原因でこの地球に現れてしまった放浪者とは異なり、ナイトメアは明確に独自の異世界転移技術を有している。
 ゲートと呼ばれるその技術により、ナイトメアは施設や友軍を自在にこの地球へ呼び寄せることが可能だ。
「仮にこの島がナイトメアによるものであるとするならば、既に何か動きがあってもおかしくありません」
「その通りだ。しかし、この島からナイトメアが周辺地域に攻撃を仕掛ける様子は見られない」
「木々が生い茂ってるもんで、衛星写真だと何がどうなっているのかもよくわからんが、とりあえず巨大な建造物があるのはハッキリしているな」
 シヴァレースの補足を待ち、エディウス・ベルナーは封書を取り出した。
 手渡された資料をハルカが手元で改めると、数名のライセンサーのプロフィールが目に留まる。
 中には知人であるユーゴ・ノイエンドルフ(lz0027)の姿もあった。
「実は“島”を発見してすぐに調査隊を派遣したのだ。だが、その調査隊との連絡が途絶してしまった」
「あのユーゴがいるのにですか」
 ユーゴはお気楽でお調子者でおっちょこちょいですぐ感情で突っ走るし命令違反ばかりだしなんだかよく突っかかってくるしこっちの話を聞かずに強引に振り回してくる厄介な男だが、腕前だけは評価できる。
 そのユーゴからの連絡が途絶えたとなると、何らか強力な「敵」の存在を認めざるを得ない。
「“アンノウン・アイランド”に目立った動きはないが、放置することはできない。我々は調査隊の救出も兼ねた第二陣を送り込む決定を下した。水月くんにはリーダーとして指揮をお願いしたい」
「了解。水月ハルカ、確かに拝命致します」
「異端調査には月の支配者らも同行する……我も共に降り立とう」
 と、ここでようやく(最初からずっと同席していた)ムーン・フィッシャー(lz0066)が例のポーズと共に発言した。
「ああ。こちらこそよろしく頼むよ」
 ハルカは特に何も言わずに微笑みを返した。
 ムーンが同行するのはこの島の調査の一環だろう。すなわち、メガコーポからも技術者の派遣が決まっているということだ。
 フィッシャー社の代表、あのレイ・フィッシャーの娘ということで、彼女も大変なのだろう。
 そのへん、説明が無くてもハルカは理解できるのだ。やさしい。
(もしかしたら、その島にパパがいるかもしれないし……)
  実は彼女の父親であるレイ・フィッシャーは数日前から失踪していた。
 彼は色々あってその姿をくらましたのだが、この物語と直接的な関係はない。
 つまりムーンは事件に巻き込まれ損となるのだが、それを彼女が理解するのはだいぶ先のことであった。



●ゆうしゃは民家のタンスくらいは普通に漁る程度の外道

「いぃぃぃーーーーーーーーやぁぁぁああああーーーーーー!?」
 突如として地球に現れた謎の島。
 とっぷりと日も暮れた闇の中、ユーゴ・ノイエンドルフの絹を裂くような悲鳴が響き渡っていた。
 調査隊として現着してから既に30時間近くが経過。
 未だ援軍は現れず、ユーゴは孤独な抵抗を強いられていた。
「く~っくっくっく……。ほーれほれ、早く白状しないと……☆」
「はう~! もう待ちきれないの~っ!!」
「おーっと。まだお湯を入れたばっかりだからね。出来上がるまで我慢だよー」
「オレサマけっこう1分半くらいでもイケちゃうタイプなのだぜ?」
「キキはお湯入れなくてもいけちゃうの~~~♪」
 太い木の幹に縛り付けられたユーゴの目の前で、3つの人影が揺らめいている。
 焚き火で沸かしたお湯をトクトクとプラスチックの容器の注いで、3分待ったら出来上がり!
「やめろ~~~~!! 俺の……俺の非常食だぞ~~~~!!」
「こいつを返してほしかったら素直に吐いちゃいなよチミィ~。ここがどこで、チミたちは何者なのかな?」

<???>

<???>
「だーかーらー! 俺はSALFに所属しているライセンサーのユーゴだ! この島を調査しに来たの!」
「なにいってるのかぜんぜんわかんないの~。カタカナばっかりむずかしーの……」
「特に意味もなくカッコイイ語感だけでつけたかのようなワードを連発する中二病のチミにはこうだ! ずずずずずず~~~っ!!」
「やめろォーーーーーー! よりによってカレー味かよ!!」
 スパイスの香りに身悶えるユーゴだが、謎の女は容赦なくカレーヌードルを啜っていく。
「最近のナイトメアは人間以外も食うのか?」
「またその単語だね。えーと、ナイトメア……だっけ? アタシたちはそのナイトメアってやつじゃないんだけど」
「ウソつけ! EXISなしでライセンサーを返り討ちにできる人間がいるか!」
「うん。チミが何を言ってるのか全然わかんないけど、メメたんは許そう。……だがこのカレー麺が許すかな!?」
「お前がただ食いたいだけじゃねーか……やめろ、全部行くな! せめてスープは残して!」
「おなかすいてるなら干しぶどうがあるよ。1kgほど」
「逆になんでそんなに持ってんだよ!? こえーよ!」
 水月ハルカ率いるライセンサー部隊が増援に駆けつけるまで、ユーゴは酷い拷問を受け続けるのだった。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:クラウドゲート)

●囚われのユーゴ

 謎の島への上陸にはキャリアーが用いられた。
 島は見渡しの良すぎる海のど真ん中にあり、その気になればどのような手段でも接近を察知するのは難しくない。
 それならば敵――と仮定する存在に察知されたとしても、それが意味をなさないほど迅速に上陸し部隊を展開するだけである。
「これが島の中心地……? 教会……いや、城なのか?」
「そのようにも見えるな」
 キャリアーの作戦室には眼下の様子が映し出されている。  敵の迎撃も想定してあえて中枢と思しき施設の上空を飛んでみたが、反応らしい反応もない。
 島の中心には巨大な城――のような建造物がそびえ立っている。
 いわゆる中世ヨーロッパ風だが、不思議な装飾や結晶体も見える。
「“古めかしい”というよりは、まるで“ファンタジー”のようだ」
「そうか。ムーン君は詳しいのだな」
「そ、そんなことはない。月の支配者にとっては常識の範疇だ」
 水月ハルカ(lz0004)は素直に関心した様子だった。
 こういう設定のキャラクターであるムーン・フィッシャー(lz0066)としては、マジレスされるとちょっとこそばゆい。
「それにしても静かすぎるな……」
「……む? ハルカ殿、あの門の近くに縛られている者……もしやユーゴ殿では?」
 モニターに身を乗り出してみると、確かに木に縛られているユーゴ・ノイエンドルフ(lz0027)が。
 そして、その側に待機してこちらを見上げている人影がいくつか見える。
「ユーゴ……世話のかかる男だ。敵が手を出してこないのであれば、こちらから行くぞ」
「え? こちらからって?」
「ムーン君、キャリアーからの降下経験は?」


●敵か味方か、コラボキャラか

「うおっ、びっくりした……ハルカ、来てくれたのか!」
「何をやっているんだ、ユーゴ」
 謎の建造物の前に降り立ってみると、どうも「門」らしきことがわかった。
 ユーゴはその門のそばにある木にくくりつけられており、身動きが取れない様子だ。
 EXISがなければ適合者と言えども超人的な力は発揮できない。
 それを理解した上で武装解除されたのかは不明だが、何にせよ自力での脱出は不可能に見えた。
「なんだかんだ真っ先に助けにきてくれるとは……へ、やっぱり仲間っていいよな」
「美談のように言うんじゃない。そもそも君が捕まらなければ……」
「そうだ! ユーゴ殿が捕まったりしなければ……我も……我もぉぉ……っ!!」
 ライセンサーは身体能力が高いので、低空から落ちる分にはちょっとしたダメージで済む。
 パラシュートもなしにキャリアーから飛び降りるという経験は、ムーンの膝を笑わせるのに十分であった。
「はーいそこまで! キミたち、この子のお友達かな?」
 ユーゴの側に立つ、不思議な風貌の女性が告げる。
「なんだかすごいので飛んできたねー! この世界にはあんなのがたくさんあるのかな?」
 ハルカはEXISの刀に手をかけた。
「その口ぶり。やはり異世界から来た者か」
「あー、やっぱりここって違う世界なのかー。まいったなぁ……」
「気をつけろハルカ! こいつら全員エルゴマンサーかもしれねぇ!」
 人型だからといって、必ずしもエルゴマンサーとは限らない。
 だが、EXISなしで元の世界の能力を使用できる放浪者がいないのも事実だ。
 異世界から現れ、ライセンサーを捕縛するほどの戦闘力となれば……。
「える……ゴマ? うーん、また全然聞き覚えのない言葉だねー」
「なにか誤解があるようですね。ここは穏便に話し合いで済まないでしょうか?」
 もうひとり。やはり変わった風貌の女が語る。
 片や狼のような耳と尻尾。片や龍を思わせる翼と尻尾。頭には角らしきものも見える。
 異世界に由来するのなら珍しくもない特徴だが。
(問題はナイトメアか、放浪者か……)
 現時点ではナイトメアの可能性が高い。
 ハルカは刀を抜き放った。
「穏便に済ませたいのは山々だが、既に先遣隊が見ての通り捕らえられているのでな」
「彼を拘束したのはこちらとしても本意ではありません。立ち去っていただけるのなら、無条件で引き渡しますわ」
「ただ引き下がるだけでは任務に差し障る。無礼は承知の上、手合わせ願いたい」
「そうですか。……お気持ちはお察し致しますわ。私も生徒会の一員として、引き下がれない立場です」
 龍を思わせる女が前に出る。
 その掌に錯覚ではない自然現象としての炎が宿ったことが、ハルカの背中を強く押した。
(この世界にEXISなしで特殊能力を使用できる者は――ナイトメアしかいない!)
 ハルカが素早く踏み込むと、これを阻むように炎が壁を作った。
 イメージの力を纏ったハルカの刃は炎を切り裂き、接近を許した女は呼応するように剣を抜く。
「生徒に害を成すならば、お体の方に直接お願いさせていただく他ありません!」
「あのドラゴンっぽい女、ハルカと互角か。すげーな」
 しかし戦っているのは二人だけで、それ以外の皆様はユーゴの側で観戦している。
「適合者であったとしても、力の発揮にはEXISの携行が必須のはずだ……。まさか本当にエルゴマンサーなのか!」
「ちょっといいかな? ユーゴくんはSALFってところから来たって聞いたけど、キミたちもSALFの仲間なの?」
 ふわふわの尻尾を揺らし、明るい雰囲気の女が声をかける。
 見たところ敵意の欠片も感じられないが、素性の知れない人物には違いない。
「……むむ……機密事項を易々と話して良いものか……」
 思い悩むムーンであったが。
「おー、いいんじゃないか? ブドウくれるから多分いい人だ」
「それは良い人だな!! ――では、説明しよう」
 ハルカを抜いた今、ほのぼのしてしまうのは必然であった。

 閑話休題。

「そっかー、ここはアタシたちにとって異世界なんだね。たぶんそれが原因だと思うんだけど、ちょっと記憶に曖昧なところがあるんだ」
 女は腕を組み、しばし思考を巡らせる。

<コルネ・ワルドルフ>
「そういえば自己紹介がまだだったね。アタシはコルネ・ワルドルフ。とりあえずよろしくね♪」
「あ、こちらこそよろしくおねがいします……である」
 屈託なく差し出された手をムーンは思わず握り返した。
「ユーゴ殿、本当にコルネ殿はナイトメアなのだろうか?」
 放浪者は突然の転移で記憶を失ったりするケースもあるという。
 だが、ナイトメアが記憶を失ったという話は聞いたことがない。
「あ、そうか……やべぇ、放浪者なのかナイトメアなのかわかんなくなってきたぜ」
「そのナイトメアってあれのこと?」
「「うわあっ!?」」
 背後からぬっと現れた人影にユーゴとムーンが同時に悲鳴を上げた。  紺碧の装束を纏った謎の女――のすぐ後ろ。森の中には撃破されたナイトメアの残骸があった。
「あれは……マンティス?」
「あんたが倒したのか?」
「いかにも! なんかこう~、杖を振ったらビーム的なものが出て、一発ノックアウトだぞっ☆」
 ユーゴとムーンは顔を見合わせた。
「よくわかんないけど、ここについてすぐ襲われたんだよ。このへんにいた連中は、アタシたちがやっつけたけどね」
「EXISなしでリジェクションフィールドを突破した……だと……」
 そう。ナイトメアには通常攻撃を遮断するバリア、リジェクションフィールドがある。
 EXISが対ナイトメア兵器として唯一無二の手段とされているのは、このフィールド突破能力に由来する。
「うん? パンチしたら倒せたよ!」
「つよい」
「いや強すぎるだろ!?」
 困惑するライセンサー2名を他所に、女は声をかける。
「おーい、テスたん! この人たちはあの虫みたいのとは違うっぽいから、懲らしめなくてヨシ!」
 その一声でテスと呼ばれた女は背後へ跳び、ハルカと距離を置いた。
「……承知しました。確かにこの方は私が致命傷を負わないよう、加減をされていました。悪い方ではないと思いますわ」
「先に手心を加えたのはそちらだろう……だが、同意見だ。ナイトメアはこんな回りくどい方法は取らない」
 どちらの刃にも殺意はなかった。
 義務から生じる懸念だけで切り伏せられるような相手ではなかったのも事実だが――?
「そんなことはありません! ナイトメアにも対話を試みる者はいます!」
「「「テルミナス!?」」」
 ライセンサーが同時に声をあげる。
 エルゴマンサー「テルミナス」――。
 昨年末にはグロリアスベースの襲撃まで行った、人類救済政府のトップである。
 多数のマンティスを引き連れ、今しがた島に到着したらしい。
「ここが突如として現れたという謎の島……。同胞が現れた反応があったはずですが、どうやら勘違いだったようですね」
 視線を巡らせるテルミナスが、森の中に倒れたマンティスの姿を捉える。
(……マンティスが倒されている? 私が引き連れてきた個体ではなさそうですが……)
 なんにせよ、目の前の異世界人はナイトメアではないらし……。
「イヤーッ!! なんかすごいビーム!!!!」
 叫びと共にテルミナスを閃光が襲う!
「わああっ!? 急に攻撃してくるとは何事ですか!?」

<メメ・メメル>
「オレサマの名はメメ・メメル! 人呼んでメメたんだ! はい、自己紹介終わり」
「きゃああーーーっ!?」
 メメは魔法の杖らしきものから次々に攻撃を繰り出す。
 テルミナスは巧みに回避するが、爆発でお供のマンティスが爆散した。
「メメたん、理解するのだんだんメンドくなってきちゃった~☆ たぶんおそらくメイビー、あっちが悪! オレサマの目は誤魔化せないぞ!」
「アハハ……決めつけはよくないけど、見た目がね~?」
「どう見ても悪――ですから」
 ビシリと指差すメメの発言に、コルネとテスがうんうんと頷く。
「あとあいつ微妙に名前がテスたんと被ってるのだ。ただでさえ登場人物が多いのにややこしくしちゃってさぁ! ゆるさんぞチミ!」
「理解は及びませんが侮辱された気がします! 悪口を言う人とは対話できないということをわからせてあげましょう! マンティスの皆さん、やっておしまいなさい!」

<テス・ルベラミエ>

 ぞろぞろとマンティスの大群がライセンサーたちを包囲する。
 自然とハルカは先程まで刃を交えていたテスと背中を合わせた。
「水月ハルカだ。先程はすまなかった」
「いいえ、お互い様ですもの。テス・ルベラミエと申しますわ。どうぞ良しなに」
 なんとなく共闘ムードでちょっと熱い展開っぽくみえないこともない。
 だが、木に縛られたままのユーゴには参戦する権利がなかった。
「お~い! 敵じゃなかったんならこの縄解いてくれぇ~~!」

▼【ゆうドラ】第1サブフェーズ結果▼

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●たぶんこれが一番早いと思います
「くっ……何がなんだかよくわかりませんでしたが、どうやらここまでのようですね」
 テルミナスは色々な意味でダメージを受け、更には配下のマンティスも色々な意味で壊滅状態。
 これ以上戦闘を継続できないのは明らかだった。
「こんなお調子者の集団に遅れを取るなんて……っ」
「いやいや、お前もかなりのお調子者だろ! 俺はちゃんと見てたからな!」
「そうだそうだー! このお調子者ーっ☆」
 解放されたユーゴ・ノイエンドルフ(lz0027)に続き、メメ・メメルがヤジを飛ばす。
(お調子者のビッグウェーブに……我も乗るべき、なのか……?)
 ムーン・フィッシャー(lz0066)の目には五十歩百歩に見えたが、逆にこれだけお調子者だらけであることを思えば、自分も流れに身を任せるべき……なのかもしれない。
「くぅぅ……っ! あなた達の顔は覚えましたよ。クライン様に言いつけてやるので覚悟の準備をしておいてください! いいですね!」
 テルミナスは配下のマンティスを引き連れ、ぴゅーっと逃げていった。

<メメ・メメル>

ムーン・フィッシャー
 その後姿を見送り、コルネ・ワルフルドは苦笑する。
「んー、なんか微妙に悪い子じゃなさそうだったね」
「オモシロ系の美少女だったな☆ オレサマは嫌いじゃないのだぜ☆」
 あれでもグロリアスベースを恐怖のどん底に陥れたおっちょこちょいなので、水月ハルカ(lz0004)はそれを指摘するかどうか悩んだが、結局何も言わず場を収めた。


●選ばれしゆうしゃたち
 共闘を経て誤解を問いたライセンサーと“アンノウン・アイランド”の放浪者たちは、ここにきてようやく腰を据えて会話に挑んだ。
 といっても、既に彼女らの境遇は概ね明らかになっており、その予想の裏付けとなる情報が提供される。
「やはり、あなた達は異世界から転移してきたのか」
「キミ達は“放浪者”って呼んでるんだっけ。確かに、さっきの戦いに駆けつけてくれた人の中にも変わった子がいたよね」
「いや、あれは……放浪者というか……うん」

<コルネ・ワルドルフ>

水月ハルカ
 ともあれ、放浪者の保護はSALFに与えられる任務として珍しいものではない。
「我々SALFがあなた達を保護すると約束しよう。衣食住の提供を始め、不足があればなんでも相談してほしい」
「それはとっても助かるよ! 寝床も食料もあるにはあるけど、やっぱり状況がさっぱりだからねー」
 この“フトゥールム・スクエア”と呼ばれる魔法学園が、転移する前から彼女らの居場所だったという。
 転移にまつわる記憶は曖昧で、なぜ自分たちがここにいるのか、なぜ学園も一緒に転移しているのかなど、謎は枚挙にいとまがない。
 ただひとつはっきりしているのは、彼女らは敵ではなく共にこの問題を解決する仲間であるということだけだ。
「しっかしでかい学校だよな~。こっちに来る前は生徒もたくさんいたんだろ?」
 ユーゴの声がエントランスに響く。
 ライセンサーはそれなりの人数がすでに調査のために島に上陸しているがエントランスだけでそれらを収めてもなお余りある。
「そうだよ。でも、こっちに来たのは生徒・先生含めて数えるほどしかいないんだ」
 コルネはやや神妙な面持ちでそうつぶやいた後、パンパンと2回手を叩く。
「というわけで、この世界にきてしまった残りの人たちを全員集めてみたよっ♪」
 コルネに呼ばれてやってきたのは、なぜか布団に包まれている女性とその前後を持って布団ごと運んでくる二人の少女だ。

<エミリー・ルイーズム>

<キキ・モンロ>
「よいしょ、よいしょ……!」
「よいしょ、よいしょなの~♪」
 そーっと布団を着地させてからの~。
「私はエミリー・ルイーズム! 最高のアイドルを目指して絶賛修行中だよ☆」
「キキは、キキなの! どこにでもいる普通の奴隷なの!」
 ハルカは眉間にシワを寄せ、無言で停止した。
(パパ……ムーンのツッコミ技量不足をお許しください……)
 特に誰も何もツッコめないまま、当然のように会話は進む。
「二人が運んできてくれたのは、メッチェ・スピッティだよ。見ての通り、いつも寝てるんだ」
「でも、こっちの世界に来てから“これは夢に違いないメェ~”って布団に入ったままだよ? いくらなんでも寝すぎじゃないかなぁ?」
 エミリーは先の騒動の間、寝っぱなしのメッチェの側についていたらしい。
 そしてユーゴにとっては既に顔なじみのキキ・モンロがにっこりと笑顔をつくる。
「なんかこの学校かわいい女の子ばっかりだな。俺もぜひ入学してみたいぜ」
「ユーゴ……。いや、君のことはいい。それよりも“奴隷”とはな。人権をないがしろにするような方々には見えないが」
 ハルカの非難めいた眼差しを受けても、キキはニッコリニコニコである。
「ん~? 奴隷は奴隷なの~。奴隷は~みんなからおなかいっぱいご飯をもらえる、とっても幸せなお仕事なの~♪」
「よーしよし、キキたんはかわいいねぇ。オレサマいっぱいご飯あげちゃう☆」
「はう~~♪ う~れしいの~っ!!」
 餌付け――という言葉がまっさきに脳裏を過ぎったが、なんにせよメメルにお菓子をもらっているキキの様子は幸せそのものだ。
 とても強引に使役されているとか、そんな風には見えない。
「………………」
「奴隷の概念が違うんだって。異世界人には慣れてるだろ?」
「頭では理解しているつもりだ……」
 ユーゴに肩を叩かれ、ハルカは眉間を揉む。
「それはさておき……他に生徒はひとりも転移してきていないのか? これだけ大きな建物なら、誰か隠れていてもおかしくないと思うが」
 ムーンの質問にコルネが首を捻る。
「そうだね。だから、キミたちが来る前に一通り見回ったんだ。他にも取り残されて寂しい思いをしてる生徒がいたら大変だからね。でも、結局誰も見つからなかったよ」
 異常事態に遭遇したのなら、まずは現状把握が先決だ。
 地球の概念とは異なる部分もあるだろうが、教職についている彼女らが他の生徒を保護しないはずはない。
 だがその一方で、これだけの広さの建造物を少人数で完全に調べきることも難しいだろう。
 助けを求める生徒はともかくとして――“隠れようとしている者”は発見できそうもない。
「状況は了解した。何にせよ、あなた達の身の安全は我々が保証しよう。代わりと言ってはなんだが……」
「フトゥールム・スクエアを調査したいんだね? いいよ、アタシが案内してあげる」
「話が早くて助かる」
「気にしないで。それで元の世界に戻る方法が見つかるかもしれないからね!」
 コルネと握手を交わし、ハルカは初期対応としていくつかのルールを決めた。
 フトゥールム・スクエア探索の拠点として、ひとまずこのエントランスを使用させてもらうこと。
 そこにSALFとメガコーポの調査機材を運び込ませてもらうこと。
 学園内の調査を許可してもらうこと。可能であれば案内をしてもらうこと。
 可能な限り学園の環境は保全し、建造物の破壊などは行わないように留意すること。
 仮に他にも放浪者が発見された場合、攻撃せずにまずは保護を試みること……。
(しかし……それで彼女らを元の世界に戻せるのだろうか)
 少なくとも過去の事例として、放浪者を元の世界に戻せたことはない。
 理由は明らかになっていないが、この地球には異世界の存在を囚えてしまうロジックがあるのだ。
 転移したが最後、放浪者は元の世界に戻れない……今のところは。
 楽しそうに地球人と交流する彼女らにその事実をどう伝えればいいのか……ハルカは思い悩んでいた。


●6人目の放浪者
 フトゥールム・スクエアは広大だ。
 人海戦術や調査の魔法でも使用されれば別だが、そう簡単に発見されない自信はある。
 この学園に外部の者――地球人がぞろぞろと侵入したことは既に把握していた。
 だが、打てる手がない。今はまだ、隠れていることしかできない。
「おのれメメ・メメル……」
 傷は深かったが、時を“重ねれば”回復は可能だ。
 そう、全ては時間の問題だ。今はまだこの島程度に留まっているが、いずれは海を渡り星を包む。これはそういう類の呪いだから。
 故に、今は待つ。謎は謎のままにしておく。それが対策になる。
「とはいえ……無傷ではやり過ごせないだろうな」
 SALFは最初からこの島の異常性に気づいている。まず間違いなく調査を進めるだろう。
 この学園の住人たちは調査に関係なく違和感を覚えてしまう可能性もある。
 敵に考える余裕を与えてはいけない。
 謎の島の各所にこの世界でナイトメアと呼ばれる者たちが“沸き出す”。
 テルミナスが引き連れてこなくても――この島には最初からナイトメアがいたのだ。
「行け、我が眷属よ」
 適度に調査を邪魔する。それ以上の成果は必要ない。
 6つ目の人影はほくそ笑み、ゆっくりと闇に溶けていった。

●エンドレス・クリスマス
「それにしても……何もわからんな」
 ユーゴ・ノイエンドルフ(lz0027)はムーン・フィッシャー(lz0066)、そしてエミリー・ルイーズムと共に何度目かの探索を終えた。
 活動拠点となっているエントランスに戻ってきたものの、成果はなにもなく手ぶらの状態である。
「たまにナイトメアがどこからか沸いて出てるくらいで、他には何も問題ないんだよな」
 撃退したテルミナスが戻ってくる様子もなし。
 外部から侵攻した形跡がないのにどこからか島にナイトメアが沸いているのは異常事態に違いない。だが、別段手に余るような強力な個体が現れるでもなく、今のランセンサーなら対応できるレベルだ。
 ナイトメアは放置できないのでその対応はしているが、調査の進展は見られなかった。
「フトゥールム・スクエアはすごく広くてきれいなところであるな! 本来は大勢の生徒がいたのであろう?」
「そうだよ♪ 大変なことも色々あるけど、みんな楽しく暮らしてたんだ。今頃どうしてるかなぁ……」

<エミリー・ルイーズム>

 ムーンの問いかけにエミリーは少し寂しげな笑顔を返した。
「今の学園は……やっぱり寂しいね。向こうにいた頃は、どこにでも生徒の姿があって、笑顔があったから」
「だよな。ガラッガラで空間余りまくってるもんな」
 今の学園からは、部外者であるユーゴから見てもどこか寂しい。
 それは人が少ないとかそんな理由ではなく、もっと何か直感的……本能的な感じ方だ。
「せっかくクリスマスパーティーの最中だったのに、こんな目に遭って災難だよな~」
 そう。このエントランスの中心には、ドーンとクリスマスツリーがそびえ立っている。
 各所にはクリスマスカラーの飾り付けが施されているのだから、“クリスマスパーティーの途中だった”という他ない様子だ。
 異世界の建造物なので“そういうもの”かと思っていたら、どうもこの飾りはクリスマスに由来するものらしいと後からわかった。
「うん……? あれっ? 変だなぁ……私、つい最近クリスマスパーティーをやった気がする」
 ふと、エミリーが首を傾げた。
 一瞬目眩にも似たふらつきが襲ったが、ほんの一瞬。
「こちらの世界では、クリスマスは既に終わっている。時間の流れが同じなら、そちらの世界のクリスマスも終わっているのではないか?」
「そうだよね。やっぱり記憶が曖昧なんだけど……クリスマスは終わってる。そんな気がするの」
 言葉にしてみるとしっくりきた。
 クリスマスは終わっている。そう認識した瞬間、頭がスッキリした。
「でも、終わったかどうかは関係なくね。準備途中のまま放置されてるステージを見ると、ちゃんと最後までやってあげたくなっちゃうな……」
「確かに、えらく中途半端な状態だよな」
 準備が終わっているわけでもなく、かといって未着手でもない。
 これからまさに始めますといった様相に、ユーゴは拳を掲げる。
「じゃあどうせじっとしてても暇なんだし、クリスマスパーティーでもやるか?」
「えっ? いいのっ!?」
「去年、こっちの世界はクリスマスの時もグロリアスベースが襲撃されたりして忙しかったからな~。ちょっと不完全燃焼だったところだ。俺でよければ手伝うぜ」
「わぁーっ、ありがとうユーゴ! それじゃあ早速だけど買い出しをお願いしよっかな♪」
 エミリーに手を握られデレデレするユーゴにムーンは溜息をひとつ。
「ユーゴ殿……安請け合いはハルカ殿に怒られると思うぞ」
「まーまー硬いこというなって! かわいい女の子の頼みは断れないだろ?」

 一方その頃。

水月ハルカ

<メメ・メメル>
 水月ハルカ(lz0004)は別室にてメメ・メメル、コルネ・ワルフルド、テス・ルベラミエとテーブルを囲んでいた。
 あえて拠点としているエントランスから離れたのにはわけがある。
「え? 時間が止まってる?」
「最初は機器の故障を疑ったのだが……これを見てほしい」
 ハルカが取り出したのはたくさんの時計だ。
 IMDを搭載しているわけでもない、ごく一般的に流通しているもので、メーカーやタイプもすべて異なる。
 デジタルな時計は西暦から表示しており、そこにはすべて12月24日と表示されていた。
「注目してほしいのは長針、短針もそうだが、この年月日のところだ」
「こちらの世界はクリスマスイブなのですか?」
「いや――違う」
 クリスマスはとうに終わった。むしろバレンタインデーの方が近い。
 新年を迎え、更にちょっと色々な告知を超え……まあ何にせよ12月でないことだけは確かである。
「これらの時計はすべてフトゥールム・スクエアの外で別々の時間に調整している。だが、ここに入るとどの時計も必ず12月24日に変わってしまうのだ」

<コルネ・ワルフルド>

<テス・ルベラミエ>
 時分秒も揃ってしまうのだが、それよりも日付が変わってしまうのはより大きな異常だ。
「毎日がクリスマスイブ、ですか……」
「なかなかハッピーな感じでメメたん嫌いじゃないぞ☆」
「こういうイベントはたまにあるからいいんです。生徒も羽目が外しっぱなしになってしまいますわ」
「毎日ごちそうっていうのもありがたみがね~……でも毎日干しブドウなら……」
 三者三様の反応にハルカは咳払いを一つ。
「……話を戻そう。この世界にあなた達が転移してきた理由は未だ不明だが、目の前の問題を解決することで進展が見られるかもしれない」
「つまり?」
「クリスマスを終わらせてみよう」
 常ならぬ対応法だが、SALFやメガコーポがどれだけ調べても何もわからない以上当たり前のやり方ではこれ以上成果は得られそうにない。
 ならばまったく異なる線から攻めて見るのも悪くはないだろう。
「無論、あなた達さえよければ……だが」
「本当にそれで問題が解決するのかはなんとも言えませんが……」
「メメたんわぁ、オッケーだぞ~☆ ジっとしててもヒマなだけだしー」
 頷きを返し、ハルカは通信機を手にする。
「すまないムーンくん、ユーゴは一緒か? ……え? クリスマスパーティーの準備をしている?」
 自分はまだ何も指示していない。
 まさか、ユーゴは独自の方法で同じ結論にたどり着いたのだろうか。
「いや、止めなくて構わない。むしろ手伝ってやってほしい。詳しくはそっちで説明する……ああ、では」


●クライン様に言いつけてやった
「やはりそうでしたか」
 テルミナスの報告があまりにも支離滅裂だったのが逆にクラインにとっては印象的だった。
 人類という種の理解は未だ完全ではないと自負しているが、叫びまわったりマンティスと仲良くなったりカップ麺を食べたり、ライセンサーは戦場で奇行を繰り返すような連中ではないと知っている。
 であるならば、あの島そのものに何か理由があると考えるのが妥当だ。
「あの島について何かわかったんですか?」
「ええ。テルミナス、最初にあなたを派遣した理由を覚えていますか?」
「勿論です。確か、異世界から同胞――つまりナイトメア、それも強力な個体が転移した反応があったから、ですよね」
 ナイトメアは異世界からの侵略者だ。異世界からナイトメアが出現するのは何も不自然ではない。
 だが、ナイトメアは通常ワープポータルとしての役割を持つインソムニアを経由する。
 当然その中で現地――地球で活動しているナイトメアと行動を共にするのが習わしだが、少なくともクラインは何も聞いていない。
「ザルバ様が仰っていた通り別派閥ではないかとも疑いましたが……何にせよ異世界からナイトメアがあの地に訪れたのは確かなようです」
「しかし、あそこにいたのはナイトメアではありませんでした。よくわかりませんでしたが、他の世界から来た何かです」
「いいえ、それも違うのです。あそこにはそもそも“誰もいません”」
「はい?」
 コンソールから目を離し、クラインはテルミナスを見つめる。
「あなたからの報告は口頭説明を含め一つも正常ではありませんでした。データ的な記録も全て悪質なノイズに汚染されており、確認できない」
「そ、それは……申し訳ございません……。偵察任務もこなせず、おめおめと逃げ帰るとは……」
「無論、あなたはきちんと自分の仕事を果たそうとしたはずです。だからこそ逆に、エルゴマンサーにすら介入する何らかのロジックが働いていると考えるべきでしょう」
「確かに……あそこにいた間の記憶はかなり曖昧です。私も何かされたのでしょうか?」
「何か……」
 帰ってくるなり支離滅裂な供述を大真面目に必死こいて繰り返すテルミナスの姿が脳裏をよぎる。
 クラインは笑わなかった。ただちょっと肩が震え、口元が引きつっただけだ。
「この現象はおそらくそう長くは続かないでしょう。これ以上の手出しは無用です。そうですね……夢か何かだと思って忘れてしまいなさい」
「は、はい……」
 極めて強力かつ特殊な能力だ。クラインですら、こんなナイトメアは知らない。
 だが、あまりにも不安定すぎる。まるで既に致命傷を受けているかのようだ。
 ならばこの“世界”は誕生を望まれまい。
 この呪いは、時が進むだけで自壊する運命にある。
 クラインは手を引くと決めた。
 狂った同胞が計画を乱すのなら、手を下す必要もあっただろうが――。
「彼らであれば、問題なく対処するでしょう」

▼【ゆうドラ】第2サブフェーズ結果▼

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※今回、負傷者は居なかったため負傷者ページは存在しません。

●ENもたけなわ
 戦争は終わった(ハッピー・クリスマス)。
 銃弾やスキルまで飛び交う格好となったパーティー故に後片付けも終わらぬままに、いよいよ日付の変更を迎えようとしていた。
 水月ハルカ(lz0004)はいくつか並べた時計をじっと観察し――そしてその瞬間。
「……止まった?」
 正しい意味で時間が停止した。
 これまでは“同じ一日の繰り返し”だった。日付が変更しようとすると、同じ一日が“始まる”のだ。
 しかし今は少し違う。ピッタリと時計の針が停止している。
 進むでも戻るでもない。やはり異常には違いなかったが、初めての変化であった。
 顔を上げ周囲を見渡してみる。
 宴もたけなわだが、すべてのライセンサーがこの時間異常に執着しているわけでもなく、まだお気楽な騒ぎは続いている。
 ……そう、続いている。時が止まったわけではない。彼らの時間はまだ動いている。
「ならば……今はどういう状態なんだ?」
 どこからか飛んでくるカレーやぼたもちをかわしながらハルカは考える。
 この変化の原因はパーティーなのだろうか?
 自分から提案したことではあるが、どうもまだ“終わった”という感じではない。
 ではなにが終わったのだろう。何がこの現象に作用したのだろう。
 “どこにも進みたくない”“終わらせたくない”という想いの元凶はどこにある?

<エミリー・ルイーズム>

<キキ・モンロ>
「えーっ、なんでどうしてーっ!? せっかく最高のステージだったのにー!」
 学園は何も変わらない。元の世界にも戻れない。
 エミリー・ルイーズムは困った様子で(カレーを飛び越えながら)ハルカに駆け寄る。
「何も変わってないよーっ!? もしかして騒ぎすぎちゃったのがよくないのかなぁ?」
「もう一回クリスマスがくるなら、またごちそうが食べられるからキキは歓迎なの♪」
「いや、準備めっちゃ大変だったろ。それにこの騒ぎ……毎日こんなことしてたら身がもたねぇって」
 キキ・モンロとユーゴ・ノイエンドルフ(lz0027)が同じく集まってくる。
 反応は三者三様。キキは前向きな気持ちでクリスマスの再会を歓迎している。
 だが、ユーゴは……。
「そんなに食い意地はらなくても、待ってりゃもまたクリスマスは来るだろ?」
 そうだ。クリスマスは毎年やってくる。――普通なら。
 クリスマスがやってこない人? あるいは、やってきてもらっては困る人……?
「エミリーくん。今回のステージはどうだった?」
「え? もちろん、最高だったよ♪ みんなのおかげで大満足!」
 眩しいウィンクで返すエミリーの気持ちは本物だ。
 良き思い出ならば満足する。ならばやはり原因は――良くない思い出?
 まとまらない考えを巡らせていると、突如として学園全体を大きな揺れが襲った。
 それが単なる地殻変動によるものではなく、この小さな「世界」そのものに由来していることを、誰もが直感的に理解していた。


●†闇†の中で
「どんなに魔法が使えるようになっても、どんなに治す事ができるようになっても……傷ついたり、壊れてしまった過去を、失ってしまった事実を消すことはできないメェ」
 ただ単純に、それを美しいと感じた。
「過去があったから成長できたことも、とっても楽しかった思い出があるから今を頑張れる……そういうこともあると思うメェ?」
 だからこそ理解できない己が歯がゆく、羨む想いは妬みと変わった。
 ヒトは積み重ねる生物だという。ナイトメアにそういう性質はない。
 ナイトメアは乗り換える仕組みだ。過去を捨て、新しいカタチに成り代わる。
 成り代わった時、過去の自分はどうなる? 重ねられなかった想いは、捨てられた時間はどこに消える?

 私は――何のために存在している?

 食指が動いたのだ。“あれが欲しい”と。
 精霊が羨ましかった。あの力が欲しかった。
 ヒトが羨ましかった。あのカタチが欲しかった。
 欲しいものは奪うしかない――そういう関わり方しかできない。
 あの輪の中に入りたかった。
 自分も誰かと繋がりたかった。
 それができなかった時。ただ見ていることしかできなかった時。
 その想いは…………どうなる?
 満たされないまま終わるしかないのか?
 “終わりを否定する方法”はないのか?
 観客であることを否定し、世界の扉を叩いた。
『し…………しろ…………ば……つ……ろ……!』
 きっと今しかチャンスはない。
 掴み取るために、手を伸ばせ――!!
『い…………だ…………く……す……す……お……な……!』
 私だって――光が欲しいんだ!


●世界のすみっこで「I」を叫ぶ

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
 どんちゃん騒ぎが終わり、がら空きになったステージの上。
 そこに黒く渦巻く闇があった。
 少なくともさっきまではなかったので、先の地震と連動したものだろう。
「よくも……よくも我の目の前で……やってくれたなァ……!!」
 増悪に満ちた獣が如き唸り。
 ピリピリと肌で感じる危険に、飲んだくれていたライセンサーたちもスイッチが入る(と思いたい)。
「ハルカ殿!」
「ムーンくん、緊急事態だ! 直ちに戦闘の準備と本部に連絡を……」
「リア充……」
「「「え?」」」
「リア充は爆発しろおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
 情けない叫びにライセンサーらの動きが止まる。
 EXISを構えたままちょっと間の抜けた様子で固まるライセンサーらを見下ろすように、それはステージの上に姿を現した。
「我はクリスマスの終わり否定するもの。クリスマスを満喫する者は許さん!」

<コルネ・ワルフルド>

<メメ・メメル>
「えーと、もしかしてキミがこの騒動の発端かな?」
 コルネ・ワルフルドがおずおずと質問する。
 というのも、現れた黒幕はどう見ても少女だったのだ。
 それに何よりフトゥールム・スクエアの制服を着用している。
 少なくともコルネにとっては見覚えのない顔だが……。
「あっ、待って待って! メメたんなんか思い出しそう! もうここまで……喉まで出かかってる……!」
「貴様あああああ~~~!? 我にあんなことをしておいて忘れただとぉ!?」
 メメ・メメルに全員の視線が集中する。
「おっとっとぉ~? メメたんわぁ~何も悪いことしてないの~☆ ねっ、コルネたん♪」
「あはは……そう信じたいけど、記憶がないからねー」
 すすーっと視線を逸らすコルネ。
「制服着てるよな? もし学園の生徒だったら、こっちから手を出すのはまずいぜ」
 ユーゴの言う通りだ。
 異様な雰囲気を纏っているのはわかるが、相手の素性が確定するまでライセンサーは手を出せない――が。
「安心しろ。我は生徒ではないし、ライセンサーでもない。なぜならば我は貴様らがナイトメアと呼ぶ存在だからな」
「そいつはありがたいが、だったらなんで自分からバラすんだ? つーかなんで姿を見せた?」
 ナイトメアはすっと目を細めた。言葉による返答はない。
「現れざるを得なかった……と解釈するぜ? つまりパーティーかそれに付随する何かがお前にとって邪魔だったわけだ」
 ユーゴの指摘は大正解だった。
 しかし、ナイトメアは答えない。正しくは“答えられない”。
 彼女自身にもなぜ自分が姿を現したのか、実のところよくわかっていなかった。
「ユーゴ……あの子、本当にナイトメアなのかな?」
 ちょいちょいと袖をつまみ、エミリーが眉尻を下げる。
「うまく言えないけど……なんだか寂しい感じが強くなってない?」
「……そうだな」
 学園全体を包んでいた不思議な寂しさ。
 あのナイトメアが姿を見せてから、その感覚が強まった気がした。
「……残された時間も僅かだ。御託は抜き、“巻き”で行かせてもらう!」
 ナイトメアはふわりを浮き上がり、腕を振り下ろす。
 パーティー会場に次々と空間の歪みが生まれ、そこからマンティスが姿を見せた。
「どうやらこの島に発生していたナイトメアもあれが元凶だったらしいな」
 ならば、あれをどうにかすればこの問題も解決すると見ていいだろう。
 ハルカは刃を構え直す。
 会場のあちこちで、マンティスとの戦闘が始まろうとしていた。


水月ハルカ

<テス・ルベラミエ>
●ラブ・ストーリーは突然に
「はあああっ!!」
 フトゥールム・スクエアに現れたマンティスの戦闘力は決して高くない。
 だが、いかんせん数が多い。水月ハルカ(lz0004)がまた一体を斬り伏せたが、どこからともなく†闇†が集い、新たな個体が出現する。
「水月様!」
 テス・ルベラミエの炎がハルカに迫るマンティスを焼き払う。
 二人は背中合わせに構え、周囲の喧騒を睨んだ。
「混戦にはなっていますが、むしろ押し返しているとは……ライセンサーの皆様は流石ですわ」
「酩酊していても一端の兵、彼らも成長したものだ。ひとまずこの場は任せて――」
「ええ。私たちは、彼女を」
 今回の騒動の元凶となるナイトメアは、相変わらず壇上から騒動を見下ろしていた。
 そこへハルカとテスだけではなく、ユーゴ・ノイエンドルフ(lz0027)やムーン・フィッシャー(lz0066)らも集まってくる。
「で、結局あいつはなんなんだ? 何をどうすりゃいい?」
「ぼっちを倒せば終わり……と考えてよいのか?」
「説明しよう……なのだメェ~!」
 振り返ると、エミリー・ルイーズムとキキ・モンロが布団――で簀巻きにされた何かを運んでくる。
「よいしょ、よいしょ……!」
「よいしょ、よいしょなの~♪」
 二人が床に転がした簀巻きはメッチェ・スピッティ。
 一応2回前のストーリーノベルにチラッと出ていた人である。
「おはようなの~♪」
「おはようだメェ~。よく寝た……と言いたいところだけど、まだまだ寝たりないメェ~……」
「布団から出したほうがいいんじゃねぇか?」
 メッチェは心なしかちょっぴり目つきを鋭くして語った。
「おまえさまたち、ここに来る前のことをどこまで覚えてるメェ~?」
「私、クリスマスのステージで踊ったような気がする!」
「いかにもだメェ~。詳しい説明はさておき、あっちらのクリスマスは無事に終わっているメェ。【デェル】【アヴェク】【オーウェ】……3体の精霊も無事に助け、世界の“時”は守られたメェ~」

<エミリー・ルイーズム>

<キキ・モンロ>
 彼女らの世界でクリスマスに起きたちょっとした事件。
 時を司る精霊と、時に向き合う人々の想い……。
 エミリーはそんなクリスマスを盛り上げる為に尽力した一人だった。
「クリスマスも終わり、これで存分に寝正月を満喫できると思いきや……フトゥールム・スクエアに妙な存在が現れたメェ~」
「それがあのナイトメアだというのか?」
「あ~! なんか、だんだん思い出してきたかも……!?」
 コルネ・ワルフルドに続き、メル・メメルがポンと手を叩く。
「おぉ~、そうだそうだ! 確かぁ~イケメンだけど残念なオーラの漂うダンディなおぢさまが現れてぇ~」
「空に大きな亀裂が現れたんだよ! アタシたちはその調査に向かって……」
 くるっとコルネが振り返る。
 みんなの視線が集まるのはメメ・メメルだ。
「ようやく思い出したか! 元を正せばこうなったのは貴様のせいだ、メメ・メメル! フトゥールム・スクエア……というよりあの世界から我を追い出そうとしただろう!」
「そりゃあ、外敵が侵入したら追い返すでしょ~?」
「いやいやー、怪しいからとりあえずぶっ飛ばしとくか~くらいのノリだったよね?」

<メッチェ・スピッティ>
 まあ、こうなった経緯については今はあまり問題ではない。
 重要なのは、結局あのナイトメアが何者なのか――である。
「寝ながら色々仮説を建ててみたメェ~」
 何を隠そう、メッチェはこう見えて睡眠と魔法に詳しい学園の先生なのである!
「ここはナイトメアにより作られた空想(イマジナリー)の世界なのだメェ~。つまり、このフトゥールム・スクエアは偽物だメェ~」
「「「な、なんだってーーーー!?」」」
「んう~? つまり、どういうことなの~?」
「夢オチってことだメェ~」
 顔を見合わせる一同。

<コルネ・ワルフルド>

<メメ・メメル>
 メメルは壇上のナイトメアをビシリと指差す。
「クライマックスで出てきて夢オチ紹介とか恥ずかしくないの?」
「夢も信じ通せば現実よ。我は想念を喰らい形を成すナイトメア。このまま貴様らをこの小さな世界に閉じ込めてやろう」
「んう~? つまり、どういうことなの~?」
「道連れってことだメェ~」
 ずっと続いていた地震にも似た衝撃は、この空間全域に及んでいた。
 より一層激しく強く揺れたかと思えば、フトゥールム・スクエアは徐々に瓦解していく。
 今にして見れば何故それを本物と勘違いしていたのか。
 煉瓦が砕けるのではなく、空間に塗り込められた絵の具が溶けていくかのように、すべてが不確かになってゆく。
「よ~し! とりあえずオレサマがナイトメアをぶっとば~~~~す!」
 肩をぐるりと回し、杖を構えるメメル。
 確かに彼女は一度ナイトメアの撃退に成功している。だが……。
「今の我はあの時とは違うぞ。クリスマスの終わりを望まない者の数だけ我は強くなる……貴様らも本当はちょっと毎日クリスマスだったらいいなと思っているだろう!?」
「「「ぎくっ!?」」」
「ぎくぎくなの~♪」
「毎日寝正月のほうがいいメェ~」
「お前らってやつは……でも気持ちはわかるぜ!」
 コラボキャラ勢が苦悩する中、ユーゴは一歩前に出る。
「相手がナイトメアだってんなら、俺達のEXISも通用するはずだ。あいつらが戦えないんなら、俺たちで……」
「できるかな……? 我はクリスマスの終わりを否定するすべての願いを力に変えるもの! クリスマスイブを孤独に過ごす人間の数だけ、我は強くなるのだ!!」
「そんな……こいつ……無敵か……?」
「ユーゴ殿、もしや友達がいな……いや、聞くまい」
 膝を折るユーゴにムーンは生暖かい眼差しを送る。
 一方、エミリーはユーゴの手を取り立ち上がらせると、悲しげにつぶやいた。
「ナイトメアっていうのは、この世界の悪者なんだよね。でも……あの子は本当に悪者なのかな?」
 この世界のことも、ナイトメアのことも、エミリーにはわからない。
 でも……2つの世界を結んで行われたこの島での出来事は、“彼女”がいなければ実現しなかった幻だ。
「キミのおかげで、私は楽しかったよ。キミは……楽しくなかったの?」
 怪物は眉を潜めた。
 マンティスを出現させたことで、会場はめちゃくちゃになった。
 せっかく作った料理はぶちまけられ、飾り付けは崩れ、舞台にも小道具が散乱している。
「我は――楽しくなどなかった」
 だからぶち壊しにした。それが全てのはずだ。
 学園という舞台を用意してみても、人までは再現できなかった。
 クリスマスの準備をしてみても、どうすれば成功なのかわからなかった。
 当たり前だ。人の心を知らない者に、人を楽しませる真似事など出来はしないと――。
「諦めちゃダメだよっ!」
 エミリーの言葉に顔を上げる。
「クリスマスにぼっちなのは寂しいよね……でも、私はキミを仲間外れになんかしないよ! だって同じ時に巡り合った、キラキラを分かち合う仲間だもん!」
「ぐわああああああああああああ~~~~!?」
 突如として両手で顔を押さえ、ナイトメアはもんどり打つ。
「ほぎゃあああああああああっ!! 目がぁ……目がぁああああ~~~っ!?」
「これは……エミリーのまっすぐな気持ちが……愛の光が、ナイトメアの力を削いでいる……!?」
「陽キャの光に陰キャが焼かれているのだな……」
 ユーゴとムーンが対照的な反応を見せる。
 床を転がっていたナイトメアはふわりを浮かび上がり、崩れ去った天井を抜けて空へと舞い上がる。
「出来ることなら最初からそうしとるわっ!! 出来ないから、わからないから、手に入らないから苦しいんじゃろがいぃぃぃっ!!」
 アンノウン・アイランド全域が今や暗い光の壁に覆われようとしていた。
 それらは徐々に内側に向かって収縮し、最後にはこの島に囚われた者すべてを異空間に消し飛ばすだろう。
「おっと、本格的に道連れモードと見た! メメたんの表情筋も若干引き締まらざるを得ないのであった☆」
「でもどうするの? あの子がこの空間の支配者である以上、まともにやりあっても勝てないよね?」
 コルネの直感と同じものをメメルも感じていた。
 今再びメメルが攻撃したところであれは倒せない。つまり、単純なパワーでは押しきれない予感がある。
 そうでなければもう魔法ぶっ放して倒しているのだが……。
「この空間はもともと不安定だメェ~。恐らく、この空間自体あのナイトメアにとっては偶発的に生み出されてしまったものだからだメェ~」
 簀巻きのメッチェが転がりながら説明する。
「既にあの時、学園長の一撃であのナイトメアは致命傷を受けているのだメェ~。苦し紛れにこの空間を作ってみたものの、そもそも長持ちはしないのだメェ~」
「時間稼ぎしとけば勝手に自滅するっていうサムシング?」
「まあ、それより先に空間崩壊を起こされたら皆まとめてお陀仏だメェ~」
「運ゲーすぎない?」
 頭上を見上げ、ユーゴは笑みを浮かべる。
「それなら仕方ねぇ。さっきのエミリーみたいに、あいつにわからせてやろうぜ。自ら踊り始めなきゃ、パーティーは始まらないってことをよ!」
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