●ハルカ彼方の銀河系で
(※読み飛ばして大丈夫なところです)
時は西暦2058年ナイトメアとの開戦より35年が経過した世界――から更に2年経過して西暦2060年。
人類は2年くらい前から存亡の岐路に立たされようとしていた……。
異世界からの侵略者「ナイトメア」に対抗すべく想像力(イマジナリードライブ)を武器とした人類は、国連軍からなんやかんやあって新国連軍的な組織「SALF」を設立。
若者の方がイマジナリードライブに適合できるし、軍属以外の人間にも戦ってほしいから「軍」じゃなくて「ライセンス」式にしたほうがいいんじゃね? というナイスアイディアにより生み出された「ライセンサー」と呼ばれる超戦士たちは、老若男女問わず世界の存亡を賭した命がけの戦い……あるいは同人誌を作ったり猫みたいな軍曹と触れ合ったり、ニュージランドを開墾したりしていた。
他にも自称インソムニアの液体とロシアで追いかけっこしたりグロリアスベースで階段を登るのか下るのかでモメたりしていたが、割愛。
そんな感じでなんかいい具合に日常を過ごすライセンサーたち。
世界の平和を守ったり金色の社長を集めたりする彼らを、人々は「グロリアスドライヴ」と呼んだ――。
(※呼びません)
●未知との遭遇まであと三千里
ライセンサーが拠点とする人工島、通称「グロリアスベース」(※これは本当)。
SALF長官であるエディウス・ベルナーとEXISの第一人者であるシヴァレース・ヘッジは、昨年発生した高位ナイトメアによるグロリアスベース襲撃の事後処理に追われていた。
グロリアスベースの防備とセキュリティの強化は急務であり、これを終えないことには次の作戦に入れないからだ。
そうやって比較的穏やかな――ちょっと衝撃的な告知もあった気がする――1月を経た頃。新たな事件は起きた。
「まあ簡単に言っちまうと、異世界から“島”が転移してきたらしい」
シヴァレースの説明には不可解なところがあった。
この地球において、異世界からの来訪者は今や――少なくともライセンサーの間では――珍しくない。
グロリアスベースには異世界からやってきた人類、「放浪者」がフツーに闊歩している。
彼らと肩を並べて戦うという経験も、今となっては新鮮味に欠ける。だが……。
「島ごとの転移……何らかの施設や土地を伴った転移が存在するのでしょうか?」
水月ハルカ(
lz0004)の質問にシヴァレースは腕を組む。
「前例がないだけで、絶対にないとは言い切れんな。とはいえ、過去のケースと照らし合わせても相当に特殊なのは確かだろう」
この地球に放浪者が転移してしまう原因はまだわかっていないが、何にせ放浪者の転移には法則性がある。
彼らは基本、肉体そのものと転移した際に身に着けていた衣服だけ……つまり着の身着のままでこの地球にやってくる。
理由は彼らにもわからないので調べようがなかったが、何にせよ聞き取りの結果「転移のルール」は明確になっていた。
「まあ、順当に怪しむなら“放浪者”ではなく“ナイトメア”の仕業とするべきだろう」
異世界からの来訪者という意味において、放浪者とナイトメアは同じ来歴を持つ。
しかし、何らかの偶発的な原因でこの地球に現れてしまった放浪者とは異なり、ナイトメアは明確に独自の異世界転移技術を有している。
ゲートと呼ばれるその技術により、ナイトメアは施設や友軍を自在にこの地球へ呼び寄せることが可能だ。
「仮にこの島がナイトメアによるものであるとするならば、既に何か動きがあってもおかしくありません」
「その通りだ。しかし、この島からナイトメアが周辺地域に攻撃を仕掛ける様子は見られない」
「木々が生い茂ってるもんで、衛星写真だと何がどうなっているのかもよくわからんが、とりあえず巨大な建造物があるのはハッキリしているな」
シヴァレースの補足を待ち、エディウス・ベルナーは封書を取り出した。
手渡された資料をハルカが手元で改めると、数名のライセンサーのプロフィールが目に留まる。
中には知人であるユーゴ・ノイエンドルフ(
lz0027)の姿もあった。
「実は“島”を発見してすぐに調査隊を派遣したのだ。だが、その調査隊との連絡が途絶してしまった」
「あのユーゴがいるのにですか」
ユーゴはお気楽でお調子者でおっちょこちょいですぐ感情で突っ走るし命令違反ばかりだしなんだかよく突っかかってくるしこっちの話を聞かずに強引に振り回してくる厄介な男だが、腕前だけは評価できる。
そのユーゴからの連絡が途絶えたとなると、何らか強力な「敵」の存在を認めざるを得ない。
「“アンノウン・アイランド”に目立った動きはないが、放置することはできない。我々は調査隊の救出も兼ねた第二陣を送り込む決定を下した。水月くんにはリーダーとして指揮をお願いしたい」
「了解。水月ハルカ、確かに拝命致します」
「異端調査には月の支配者らも同行する……我も共に降り立とう」
と、ここでようやく(最初からずっと同席していた)ムーン・フィッシャー(
lz0066)が例のポーズと共に発言した。
「ああ。こちらこそよろしく頼むよ」
ハルカは特に何も言わずに微笑みを返した。
ムーンが同行するのはこの島の調査の一環だろう。すなわち、メガコーポからも技術者の派遣が決まっているということだ。
フィッシャー社の代表、あのレイ・フィッシャーの娘ということで、彼女も大変なのだろう。
そのへん、説明が無くてもハルカは理解できるのだ。やさしい。
(もしかしたら、その島にパパがいるかもしれないし……)
実は彼女の父親であるレイ・フィッシャーは数日前から失踪していた。
彼は色々あってその姿をくらましたのだが、この物語と直接的な関係はない。
つまりムーンは事件に巻き込まれ損となるのだが、それを彼女が理解するのはだいぶ先のことであった。
●ゆうしゃは民家のタンスくらいは普通に漁る程度の外道
「いぃぃぃーーーーーーーーやぁぁぁああああーーーーーー!?」
突如として地球に現れた謎の島。
とっぷりと日も暮れた闇の中、ユーゴ・ノイエンドルフの絹を裂くような悲鳴が響き渡っていた。
調査隊として現着してから既に30時間近くが経過。
未だ援軍は現れず、ユーゴは孤独な抵抗を強いられていた。
「く~っくっくっく……。ほーれほれ、早く白状しないと……☆」
「はう~! もう待ちきれないの~っ!!」
「おーっと。まだお湯を入れたばっかりだからね。出来上がるまで我慢だよー」
太い木の幹に縛り付けられたユーゴの目の前で、3つの人影が揺らめいている。
焚き火で沸かしたお湯をトクトクとプラスチックの容器の注いで、3分待ったら出来上がり!
「やめろ~~~~!! 俺の……俺の非常食だぞ~~~~!!」
「えー? 作り方説明してくれたのもチミじゃん」
「ユーゴはとってもいい人なの~~!」
「へっ……まあな」
ユーゴがなにも説明しなければカップ麺を奪われることもなかったはず。
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しかし、彼は丁寧に作り方を説明し、感動する三人にお礼を言われ、その後もう一回縛られたという流れである。
「困ってる女の子を助けないと男がすたるってもんだが、恩を仇で返されるのは予想外」
「オレサマけっこう1分半くらいでもイケちゃうタイプなのだぜ?」
「キキはお湯入れなくてもバリバリいけちゃうの~~~♪」
「人の話を聞けーーーーい!!」
すっかりこのカップ麺なるものに興味津々のようで、新たに封を切ってはお湯を注いでいる。
「こいつを返してほしかったら素直に吐いちゃいなよチミィ~。ここがどこで、チミたちは何者なのかな?」
「だーかーらー! 俺はSALFに所属しているライセンサーのユーゴだ! この島を調査しに来たの!」
「なにいってるのかぜんぜんわかんないの~。カタカナばっかりむずかしーの……」
「特に意味もなくカッコイイ語感だけでつけたかのようなワードを連発する中二病のチミにはこうだ! ずずずずずず~~~っ!!」
「やめろォーーーーーー! よりによってカレー味かよ!!」
スパイスの香りに身悶えるユーゴだが、謎の女は容赦なくカレーヌードルを啜っていく。
「最近のナイトメアは人間以外も食うのか?」
「またその単語だね。えーと、ナイトメア……だっけ? アタシたちはそのナイトメアってやつじゃないんだけど」
「ウソつけ! EXISなしでライセンサーを返り討ちにできる人間がいるか!」
「うん。チミが何を言ってるのか全然わかんないけど、メメたんは許そう。……だがこのカレー麺が許すかな!?」
「お前がただ食いたいだけじゃねーか……やめろ、全部行くな! せめてスープは残して!」
「おなかすいてるなら干しぶどうがあるよ。1kgほど」
「逆になんでそんなに持ってんだよ!? こえーよ!」
水月ハルカ率いるライセンサー部隊が増援に駆けつけるまで、ユーゴは酷い拷問を受け続けるのだった。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)