●酒池肉林にて
「一人でも多くの人たちを救いましょう――皆さん、よろしくお願いします!」
水無瀬 奏(
la0244)は小隊【
幻夢守護協会Danann】の仲間達へ凛と声を張った。
超風火二輪、システム起動。MS-02S『クラウ・ソラス』はふわりと重力から解き放たれる。黄金の霧は鋼の天女の瞳によって看破された。
「見つけた……!」
視覚情報共有、先行するチームのデータを基に、【幻夢守護協会Danann】は魔境を駆ける。
ナイトメアのいない場所を掻い潜り、どうしても避けられぬ状態になっても足止めに留める。彼らの目的は命を救うことだ。
飛娘、及び飛娘娘による霧の看破能力は絶大な効果を発揮していた。
鋼の天女が先行し、敵の目を掻い潜り、救助対象を見つけ、救う――その作戦はこれほどなくアリアドネ作戦に適していた。同じような方針を取った小隊――【
桜華光舞隊】や【
クラーク駆逐隊】なども、大きな成果を上げていた。
特に大きな成果を上げたのは【幻夢守護協会Danann】だ。
先行班は索敵とルート選定に尽力。戦闘は極力避けることで救助時間を確保する。救助対象を発見した際はサーチによって、使徒:シンシャの確実な選別を行い、発見した際は戦わずにアサルトコアが掴んで遠くへ投げるという的確な対応を。
救助班のアサルトコアは、支給要請したコンテナへ人々を保護し、一気に効率よく多人数をキャリアーへと運んでいく。
無駄のない役割分担だ。そして、賞賛すべきは各自がそれぞれその責務を見事に果たしていたことである。
彼らの動きは合理的であった。この作戦において、最も貢献した部隊であろう。
一方、小隊【
フォーサイシア】は戦場中の飛娘達が集めたデータを共有してもらうと、できうる限りのライセンサーへと共有していく。
歩兵部隊であるララ・フォン・ランケ(
la3057)はそういったデータをありがたく用いて、リヤカーを引いて酒池肉林を駆けていた。
「回収回収ー!」
眠れる者を見つけたら呼気を確認、無事なら手早くリヤカーへ搭載。呼気がない存在がいたら――
「出たね……!」
大太刀獅子王を抜刀する。ぬらりと起き上がった異形を眠れる者から引き離しにかかる。じれったいが防御に徹し、頃合いを見て全力移動で離脱――そのままの速度で再び、リヤカーを引くのだ。
「ひとりよりふたり、いっぱいのほうがたくさんたすけれう!」
エルレーン・バルハザード(
la4271)は小隊に属さず活動している者らに声をかけ、協力して救助活動にあたっていた。抱えられるだけ、眠れる者を「うんしょっ」と抱える。霧の外を目指して走る。
最中――聞こえてくるのはナイトメア共の不気味な息遣いや羽ばたきの音、地響きの音。
激しい戦闘音が向こうから聞こえてくるのは、友軍の尽力だろう。足止めを名乗り出た者はとても多く、おかげで救助班がナイトメアに襲われることは最低限で済んでいた。
「あーもうここきもちわういからいやだお……」
とはいえここは敵陣の渦中。甘ったるいにおいと目に悪い金きら。停滞と諦念を謳う地獄。エルレーンは独り言ちると、助けた命を背負いなおし、一心に走った。
――かくして酒池肉林各地で起きる騒動。
かの魔境を治めるエルゴマンサー・バルペオルは、長煙管から黄金の煙を燻らせて見ていた。『見る』、という表現はいささか人間的すぎて厳密にいうと適していない表現ではあるが。
一方で知覚能力は優れども、彼はエンピレオのように超越的な情報処理能力は有していない。
なによりも――そんなことよりも。
「『それでも』。それは歯を食いしばり立ち上がり歩く為の呪文なの。私には」
「恐怖も痛みもある。でも、私はもう挫けない」
「自分の道は自分で切り開くから、怠惰な救いはいらない」
「どんなに地を這おうとも……、酒池肉林は、潰す。それ以外は、ない」
「誠心誠意全力全霊、嵐の王に挑ませて頂きます!」
アルバ・フィオーレ(
la0549)が。
陽波 飛鳥(
la2616)が。
カトリン・ゾルゲ(
la0153)が。
常陸 祭莉(
la0023)が。
桜壱(
la0205)が。
この5人だけではない――他にも多くのライセンサーが。
バルペオルの前に立ちふさがり、十人十色の――銘々に貴賤なく鮮やかな色を心に。
薄ら嗤う魔境の怪物へ、挑む。
●リザルト
結果的に救助できた数は、まちまちといったところだった。
援護を名乗り出た者があまりに多く――この作戦の肝心の目標である救助を行う者がいささか少なかったのだ。
また援護についても、この魔境の脅威として事前説明されていたように、ナイトメアの超常回復性能から「火力で突破する」ことが意味を成さない。戦うにしても、「どう殴るか」ではなく「どう振り切るか」「どう惹きつけるか」が必要だった。
だが援護がとにかく分厚かったことで、ナイトメア達の悪辣な性能に対しほぼ完璧に対策を取れていたことは事実。
加えて、本格的に戦闘で陽動を行う部隊の懸命にして決死の尽力も合わさっていたことで、ナイトメアの意識はそちらへ向いていたこともあった。
そういったことから救助班はほぼ憂いなく救助を行うことができたのだ。
――この尽力でどれだけ敵の回復性能を削ぐことができただろうか。いくらかは確実に削げたはず。
だが、覚悟はせねばならないだろう。おそらくバルペオルは弱体化と呼べるほど弱体化していない。どうにかこうにか人間が倒せるところまで指先が掠めるようになった……かもしれない、と認識すべきだろう。
魔境の果てはまだ遠く。
深淵は未だ、どこまでも深い。
『了』
(執筆:
ガンマ)
(文責:WTRPG・OMC運営チーム)