●新たな戦力!
「――これが紫電重工最新型アサルトコア、MS-02『飛娘(フェイニャン)』だ」
紫電重工代表、紫電 帝はそう言って、モニターに一つのアサルトコアを映し出した。
MS-02――兄機にあたるMS-01『飛燕』と比べれば一回り小柄な機体だ。どことなく女性型を思わせるフォルムをしている。
他のアサルトコアと比較すると、ブースターや無骨な装甲など『いかにも科学的な』要素があまり見られない点が目を引く。無骨よりも流麗、といった表現が似合う。
だがなによりもその機体を印象付けるのは――『腕が四本ある』ことだ。しかもその腕は肩に接合しておらず、『浮いている』。
「美しいだろう。――だが、美しいだけではないのだ」
飛娘は人体の関節構造を無視し、舞うように武具を取り回すことができる、二刀流特化機体。白兵戦闘の攻撃性を追求した、苛烈な機体。
更に飛娘は飛行適性を有する。独自の飛行プログラムは、従来のような飛行でのパフォーマンス低下が一切ない。
「これらはIMDによる反重力制御による挙動だ。……制御にかなりコツがいるピーキーめな機体なんで、ライセンサーの中でも実力者向けの機体であると想定している。
とはいえ、まだロールアウトにはもう少しの調整が必要だ。特に飛行面においてまだ課題が多く――」
帝が説明をしている只中だった。会議室にSALF職員が駆け込んできて、真っ青な顔でこう言ったのだ。
「たっ大変です! 空に穴が!!」
●掴めるものなら藁でも掴め
中国辺境に『大規模な時空の歪み』が観測された。
よもや【FI】のような放浪者集団の出現、はたまたナイトメアの侵略か――と思いきや、現れたのは大量の『ガラクタ』であった。瓦礫のような見た目の、本当に、ガラクタでゴミ。ある世界の放浪者には『クズ鉄』とでも呼べばピンとくるだろうか。
さながら……『宇宙ゴミ(スペースデブリ)』ならぬ『異界ゴミ(ディメンションデブリ)』とでも呼ぶべき代物だろうか。
これも、この世界が『特異点』だからだろうか?
――さてどうする、このディメンションデブリ。
声を上げたのは紫電重工だった。確かにアレはただのガラクタにすぎないが、中には新しい技術に役立つものや貴重な素材が含まれている可能性がある。もちろん何の役にも立たなさそうなスクラップも多いのだが……それを放置するのもよろしくない。
かくして、紫電重工が中心的依頼者として、このディメンションデブリを収集する任務が発動した。
かのメガコーポは新作アサルトコア『飛娘』開発に向けて、このディメンションデブリが役立てないか画策しているのだ。もちろん、得た技術は独占するのではなく、他のメガコーポにも共有する予定だ。
……そんな中。
ある日、帝の元に届いたディメンションデブリの解析結果が、彼のアイデアと職人魂に火を点けた。
「――これが紫電重工最新型アサルトコア特別機体、MS-02S『飛娘々(フェイニャンニャン)』だ」
帝はそう言って、モニターに一つのアサルトコアを映し出した。
それは先日の飛娘とほぼ同じ機体だが、腕は一対であり――羽衣のような光の帯を纏う、なんとも幻想的な機体であった。
「む。待て紫電、つい先日に飛娘とやらを発表したところではないか。それに前回のものとほとんど見た目が同じではないか」
モニターから帝へ視線を移し、北方部隊長ハシモフ・ロンヌスは片眉を上げる。帝は愚問と言わんばかりに小さく鼻で笑った。
「言ったじゃねえか、これは特別機体。ディメンションデブリから解析したデータで、反重力制御機能を更に強化――飛娘の飛行適正を拡張し、空戦特化型としたタイプである。……代わりに二刀流機能はなくなったが」
飛娘々については量産が難しい機体であり、限定生産品となることを帝は付け加えた。実戦特化というよりも、どちらかというと浪漫型と言わざるを得ない部分もある、と。
しかし。帝は真っ直ぐにこう告げるのである。
「空を飛ぶこと。……誰だって、一度ぐらいは憧れたことはあるだろう?」
空を自由自在に翔けること。それは全ての人類の憧れだろう。誰だって一度は夢見たことがあるはずだ――雲に乗ってみたいとか。傘を広げて階段から飛び降りてみたりとか。こんなご時世だ。そんな夢がちょっとだけ叶うぐらいの心の自由が許されたっていいじゃないか。
「……反重力制御飛行……酔いそうだな」
ハシモフは手元の資料を見ながら呟いた。「おう」と帝はしれっと言う。
「酔うぞ。俺は壮絶に吐いた。人生であんなに吐いたのは昔カキにあたった時以来だな」
「お、おう」
「ライセンサーはガッツのある連中だ、どうにかなるだろ」
「そういう問題じゃ……」
「安心しろ。テストパイロットへは我が社のエチケット袋を無料で提供する。何も問題はない」
「いや……、」
それでいいのかと少し心配になったが、さておき飛娘と飛娘々のスペックは本物だ。
問題は――それをライセンサー達がどう使いこなすか、であるが。
『了』
(執筆:
ガンマ)
(文責:WTRPG・OMC運営チーム)