●女神とミーベルの神話
それは、エオニア王国に伝わる古い神話。
ある男が、女神に感謝を伝える為に山ほどの果物を用意しました。
それを天に届けようと、何度も何度も空に向かって放り投げます。
しかし、何度やっても果実は男の頭上に落ちてきました。
それどころか、周りの人々の所にも飛んでいったので、たちまち喧嘩が始まりました。
町中で果物を投げ合う中、突然、男は女神に感謝が届いたと、喜びだしました。
見れば、広場にあった女神像の頭冠に果実が乗っていたのです。
この神話に由来する伝統のお祭り、それがミーベルステファノスだった。
エオニア王国固有の果物ミーベル。種のない桃に似た果物を、人々が投げ合うお祭り。
しかしナイトメアの襲撃を受け、国が壊滅したことで、一度このお祭りは途絶えた。
幼き王女パルテニアは、復興途中の国民に明るい話題を提供したいと、この古いお祭りの再興を願った。
復興途中の貧しい国では、食べ物を粗末にできない。SALFのライセンサーの協力を受けて、新しい祭りを作りだしたい。
そう王女が願って、昨年は生まれ変わったミーベルステファノスが行われた。
エオニア王国の民も、王女も、SALFのライセンサーも、大いに祭りを楽しみ、祭りは大成功で終わった。
●王女の贈り物
エジプト奪還作戦の報告のために、エオニアの城を訪れていたアイザック・ケイン(
lz0007)は、パルテニア・ティス・エオニス(
lz0111)から、ミーベルステファノスについて相談を受けた。
「もちろん、今年もミーベルステファノスを行いたい。だが更に、もう一つ行いたいことがあるのだ」
パルテニアは、年頃の少女らしい、愛らしい笑顔を浮かべて語る。
この春から夏にかけて、ライセンサー達は大活躍した。
東地中海沿岸を襲った襲撃事件から繋がるアフリカ侵攻作戦は、見事エジプトを奪還した。
イベリア半島を中心に、インベーダーという新たな敵の襲撃を退けた。
エオニアから遠い異国の中国でも、大きな戦争を行っているという。
「だが、ライセンサーは、働きすぎではないかえ?」
これだけ戦い続けたのに、まだ北米・南米が燻っていて、西アフリカへの調査も行われている。
流石にライセンサーといえども、疲労は濃い。
──エオニア王国の仇であるパラノマイを、見事打ち倒した英雄へ、感謝と戦勝の祝いを伝えたい。
ライセンサー達の活躍により、エオニア王国はより平和で安全な国になった。国を代表してライセンサーを労いたい。その気持ちを込めて、パルテニアは提案した。
エオニアだけでなく、もっと大きなお祭りをできないかと。
小さな島国であるエオニアのミーベルステファノスだけでは、全てのライセンサーを労うには難しい。
ライセンサーの中にはグロリアスベースに、自分達の拠点を持つ物もいる。
だから、エオニアとグロリアスベースで、同時にお祭りを行って、世界中のライセンサーを労いたい。
「……だいぶ、大がかりなイベントになるであろうが……SALFの迷惑であろうか?」
王女が不安げに首を傾げると、アイザックは微笑んで首を振った。
「いいえ。とても素晴らしいお話です。是非、SALFとしてもその企画に参加させて頂きたいです。持ち帰って相談させていただきます」
パルテニアは、ぱーっと笑顔を浮かべて、普段取り繕っている『王女』という身分も忘れて、目をキラキラと輝かせた。
「昨年のミーベルステファノスで、ライセンサーは凄かったのだ。戦うだけがライセンサーではない。歌ったり、踊ったり、絵を描いたり、料理を作ったり、多芸のスーパーヒーローなのであろう?」
確かに、ライセンサーの中には、色んな特技を持つ者もいる。
しかし、みんながみんな、そうではないのだが、アイザックは王女の夢を壊さないように微笑んで頷いた。
「我も、弟も、ライセンサーのファンだ。話を聞くだけではなく、できればライセンサーの絵姿も見てみたい。どうか? 我が国で写真展を開かぬか? ライセンサーの写真展というだけで、民は大喜びで見に行くのではないかえ? 我が国の民にとっても、ライセンサーは英雄であるからな」
「写真……なるほど。ライセンサーの想い出を形に残して、この国の方に見て頂くのですね。それは良いな」
アイザックも、思わず無邪気な笑顔を浮かべた。
普段からワーカーホリックで、なかなか仲間との時間を作れないアイザックは、自分の知らない仲間達の顔を見てみたいと思った。
写真展に行けば、皆の生き生きとした想い出を見られるのだろう。
●熱いグロリアスベース!!
「嗚呼……夏祭り!! グロリアスベースも、盛り上がっていきましょ!」
中山 寧々美(
lz0024)は、グロリアスベースで夏祭りが開催されるという噂をいち早く聞きつけ、ブン屋の血が騒いだ。
さっそく企画概要をSALFから聞き出し、自前のネットチャンネルで宣伝まで初めてしまった。
「みんなの、出店を紹介しちゃうよ! どんどん応募してね!!」
グロリアスベースの祭りは、ライセンサーによる、ライセンサーの為の祭りだ。
自分達で企画して、出店をだし、ライセンサー同士の交流に繋げる。しかし出店をだしても、誰も来ないというのは寂しい。
だから寧々美は自前のチャンネルで宣伝して、積極的に出店巡りをしてもらおうと考えたのだ。
「おや、夏祭りかい。それは良いね」
東雲 忍(
lz0010)はいつもの如く、カフェ『sino』で珈琲を入れていた。常連客が語る夏祭りの話題に目を細め、懐かしい記憶を思い出す。
一昨年の5月。新人ライセンサーの受け入れのために、大きなイベントを行った。
あの時、カフェ『sino』も出店したのだが、多くの客やバイトが集まり、とても賑やかで楽しい時間だった。
あれから2年程度で、新人だったライセンサーは、今や忍も驚く程に成長した。
「せやねん。それでな。もふら界一のイケメンのワイのグッズが、どーーーしても、どーーーしても欲しいって言われてな。そこまで言われたら、しゃーないっ。かーーーっ、ほんま、人気者は辛いわ」
ウザいほどのどや顔を決め込む、もふら(
lz0025)は、自分のグッズが作られると自慢したくてしかたないとばかりに、忍に語る。
実際にはもふらがごり押ししてグッズを作らせたのだが、押しが強すぎるウザキャラなのは、もはやSALF本部でも知れ渡っている。
需要があるかないかよくわからないが、お祭り記念グッズくらい作っても良いかという話になったらしい。
忙しい戦争の合間に、グロリアスベースの各地で、賑やかなお祭り騒ぎが始まろうとしていた。
●ミーベルステファノス開幕
日本の夏より、からっとした。しかし強い日差しがさんさんと降り注ぐエオニア王国。
宮殿から出て、広場に作られた特設ステージの上に立ち、王女パルテニアが堂々と宣言する。
「これより、ミーベルステファノスを始める。民よ。祭りを大いに楽しむが良い。そして我が国を守ってくれるSALFへの感謝と戦勝を祝おうぞ」
エジプトでの勝利は、エオニア王国の民を勇気づけ、アフリカ奪還への希望を見せた。
ヨーロッパ大陸に墜ちる所だった、敵の空中要塞を、見事ビスケー湾へ引き寄せ、人々の安全を守り通した。
中国では、酒池肉林に囚われた人々を、救い出したという。
ライセンサーの活躍は、世界の人々の希望でもある。
「エオニアの民だけではなく、世界中の民の英雄こそ、ライセンサーであると我は考える。英雄の偉業を称え、疲れを癒やし、バカンスを楽しんでいただこうぞ」
王女の開幕宣言はネット中継され、エオニア国内だけでなく、全世界に届き、グロリアスベースの皆も見ていた。
暑い夏が始まる。熱い祭りが始まる。
多くの戦争に勝利した英雄へ捧げる、束の間のバカンス。
(執筆:
雪芽泉琉)
(文責:WTRPG・OMC運営チーム)