各メガコーポの協力により秘密裏に製造が進められていた強化設備がついに完成した。
ジョゼ社代表のペドロ・オリヴェイラはライセンサーの設備利用を促すべく、とある一大イベントを企画した。
その名もライセンサーバトルカーニバル――通称【LBC】!
昨日の友は今日の敵。大会独自ルールで行われるライセンサー同士の仁義なきバトルロワイヤル。
予選・本戦・そして決勝戦を勝ち抜き、栄光を掴み取るのは……!?
●
「やっと出来たか」
EXIS研究の第一人者、シヴァレース・ヘッジ博士は完成したての施設の外観を見上げる。
グロリアスベース内にある研究エリア。その一角に新たに設けられたのは、研究に関係のない者でもライセンサーであれば許可がなくとも立入りが許される施設だった。
例によって彼の後ろには助手であるリシナ・斉藤が控えているが、今はその隣にもうひとり、中年の男性が立っている。
「こんな大事な施設の建設を任せてもらうなんて、おじちゃんは代表として鼻が高いってもんだよ」
ジョゼ社の代表、ペドロ・オリヴェイラその人である。
メガコーポレーションの一つ、ジョゼ社。
他メガコーポの技術を流用しつつ、安価でアサルトコア等を提供する企業である。
ペドロは過去の経歴からSALFによって半ば強制的に社の設立を命じられた為、経営に関しては大体部下任せにしているが、それでも彼が決定する大方針が現在のメガコーポとしての立場を確立していることに間違いはなかった。
「いざという時は協力すると言っても、基本的にメガコーポにとって他のメガコーポは競争相手ですからね……。
他社からの技術提供を受けた、というジョゼ社なくして、EXISの強化施設は成り立たなかったかもしれません」
リシナが安堵したような表情を浮かべながら感謝を述べる。
そう、三人が目の前にしているのは、今ライセンサーたちが使用しているEXISの強化、または基礎能力そのものを向上させる増幅を行う為の施設だった。
「俺らは交渉の場に立ち会っちゃいないが、今回もまた頭を下げたんだろ?」
「そりゃあね。最後まで渋い顔してたのは紫電重工とノヴァ社だったけど、どっちも人類の為だっつって拝み倒したなあ」
ヘッジの問いに、ペドロはそう答える。
交渉とはもちろん、あらゆるメガコーポで生み出された製品を一つの施設で強化することの許諾と技術提供を受ける為のものだ。ちなみにこの交渉が行われたのは大分前のことであるが、先日の名古屋における戦いを経た今、少なくとも紫電重工の考えは変わっているだろう。
「ところで話は変わるんだけど、実際強化したEXISを試したいっていうライセンサーも一定数いるんじゃないかい?」
ふと、ペドロがそんなことを口にした。
「そりゃ試したいだろうが、そんな都合よくナイトメアに現れられてもな」
ヘッジは困った顔になって言う。そもそも現れないに越したことはないのだ。
うんうんと肯いてから、ペドロは別の質問をした。
「あと、これから施設を開放すればもちろんある程度顧客はついてくれるだろうけど、今後利用しやすくしてもらう施策を打つ必要はあるよね?」
「そうですね……?」
何が言いたいんだろう。肯き返すリシナとヘッジが顔を見合わせていると、
「ちょっとしたイベントを考えたんだよ」
ペドロはニヤリと笑った。
●
「シミュレーターを使った模擬戦か」
SALF本部。
水月ハルカ(
lz0004)は壁にデカデカと張られた広告を見て感嘆する。
『ライセンサー同士の武闘大会! 自身の能力と強化したEXISを見せつける絶好の機会!』
『優勝者には豪華報酬!? 参加賞もアリ!』
など、要項が広告には記載されていたが、注目すべきはただの模擬戦ではないということを示す、イベントのそもそもの開催目的と報酬の存在だろう。
まず目的は、この度開放された強化施設の恩恵を得たEXISの試し振り。
ナイトメアに都合よく出てこられてもアレだし、だからといって実際の訓練戦闘で勢い余って怪我するのもよくない。だからシミュレーターなのだ。
そして報酬は、その強化施設をより利用しやすくする為の補助も含まれている。しかも、上位になるにつれ豪華になっていくという。
「参加すること自体にも意義はあるが、より強くなりたければ本気を出せ、ということか」
誰の考えかハルカは知る由もなかったが、生真面目な彼女はなるほど、と力強く一人で納得するのだった。
(執筆:
津山佑弥)
(文責:フロンティアワークス)