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【エオニア王国】

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人類救済政府の件は落ち着いたが、まだ油断ならない。
それに小さな王女様の願いも叶えてあげないとね。

エオニア支部所属ライセンサー:アイザック・ケイン(lz0007

プロローグ(3/6公開)

●エオニア王国の夢見る王女
 ──城が燃えていた。

 人々の悲鳴が、獰猛なナイトメアの叫び声が、遠くから聞こえてくる。
 そしてパルテニアの目の前には、自分を庇って怪我をした父が、倒れていた。
「だれか、だれかおらぬか! ちちうえが、しんでしまう! ……だれか、たすけて!」
 必死に叫んだけれど、その声は届かない。父は既に息絶えていた。

「……誰か、助けて!」

 それでも諦めきれずに叫んだ所で、王女パルテニア──パティはふと夢から目覚めた。

「パルテニア様。大丈夫ですか? うなされていたようですが」
 王女の秘書兼家庭教師のエレクトラが、心配そうにパティの顔を覗き込む。
「大事はない。少し、悪い夢をみた」
 ……あれがただの夢だったら、どんなによかったか。憂いを帯びた眼差しで、パティは小さく溜息を零した。


 地中海の中心、シチリアとクレタの間に浮かぶ島国・エオニア王国。
 豊かな自然と海の幸、温暖な気候に恵まれ、ミーベルという特別な果実がたわわに実る、穏やかな国だった。
 しかし五年前、アフリカからやってきたナイトメアの大群が、エオニアを襲った。
 結果、首都エオスが壊滅。国王や有力議員といった首脳陣も全滅した。エオニアは幼い王女パルテニアを国主にすえ、SALFとEUの力を借りて、何とか国としての体裁を保っている。
 少しづつ国は復興に向かっているが、まだ西部の方は戦火の爪痕が色濃く残っていて、国の財政も貧しい。
 そんな厳しい国を代表する王女パルテニアは、わずか10歳だった。


 政務を終えた後、パティは真っ先に母の元に通った。王妃は5年前の襲撃後、パティの弟を産んでから、ずっと体調を崩したまま、寝たきりだった。
「母上。お加減はいかがですか?」
「最近寒かったから、熱がでていたけれど、もう大丈夫よ」
 大丈夫と言っているが、その顔色は紙のように青白い。
「ごめんなさい。パティ。貴方に無理をさせてしまって」
「いえ。大丈夫です」
「あねうえ。えほんが、よみたいの」
 スカートの裾をつかまれ、パティが振り向くと、4歳の弟アガピオスが本を抱えて見上げていた。
「ピオス。パティは公務で疲れているのです。無理を言ってはいけません。パティ。もう休みなさい」
 母の言葉に甘えて、パティは自室に戻った。
 身支度を整えて、ベッドに倒れ込むと、ぎゅっと枕を抱える。
 ピオスが可哀想だ。あの子は豊かだったエオニアの風景も、父の顔さえ知らない。でもそれは、エオニア王国の国民も同じなのだ。あの戦いで家族を、職を、住処を失った者が大勢いる。
 また豊かだったエオニアを取り戻したい。民の笑顔を見たい。そう思ってパティなりに出来ることは頑張っている。
 しかし、あまりに幼く、できる事は限られていた。

「……誰か、助けて」

 思わず本音が零れて、慌てて唇をぎゅっと噛みしめる。代わりに枕元に置かれたアルバムを手に取ってめくった。

 アルバムの写真は、昨年夏に行われたミーベルステファノスという祭りの風景だった。
 暗い話ばかりのこの国で、民に明るい話題を提供するために、SALFのライセンサー達の手を借りて、途絶えていた伝統のお祭りを復活させた。
 元々は女神へ捧げるために、ミーベルという果実をぶつけ合う祭りだったが、今の貧しいエオニアに、食べ物を粗末にする余裕はない。ライセンサー達の手によって、新しい祭りへと生まれ変わった。
 瞼を閉じると思い出す。賑やかなパレードとライブ、夜空に浮かんだランタン、鮮やかに描かれたアートペイント、美味しいミーベル料理、それらを楽しむ国民達。
 みんなが笑顔で幸せそうで、パティもとても楽しかった。

 大丈夫。この国はライセンサーが守ってくれる。彼らはこの国の英雄なのだから。そう信じながら眠りについた。
 笑顔あふれる平和なエオニア王国、そんな幸せな夢の世界に浸って。



●ヨーロッパ戦線の片隅で
 エオニア支部司令・ヨルゴス・アンドレースは用意された書類に目を通しながら、アイザック・ケイン(lz0007)の報告を聞いていた。
「欧州全体において、人類救済政府の活動はひとまず落ち着いたようです。まだ、影に潜伏している者は大勢いるでしょうが」
「世界中に広がる組織だ。そう簡単に無くなりはしない。他の戦域の様子はどうだ?」
「イベリア半島からイタリアにかけては、概ね問題なし。ギリシャ・トルコ方面も善戦しています。問題は……」
「……クレタか」
 ヨルゴスはそう呟いて、大きく溜息をついた。
 昨年秋、クレタ島支部をナイトメア達が襲撃した。ギリシャ支部の英雄と言われていたディミトリア・サマラキスは、実はエルゴマンサーに食われて擬態されていて、内部からナイトメアを手引きしていたのだ。
 ライセンサー達の活躍により、なんとか支部は守り切ったものの、ディミトリアを優遇していた支部長は解任。副支部長が繰り上がりで支部長についたが、能力はともかく、性格にやや問題があった。
 おかげでクレタ支部は未だにバタバタと落ち着きが無く、故に近隣の支部であるエオニア支部の負担は増大していた。
「いくら末端のライセンサーをかき集めても、上が問題あってはどうにもならん。もう少しマシな人材が来ないものか……」
「昔、クレタ島支部長をしていた人材を、呼び寄せると聞いています」
 そう言うアイザックの表情は硬かった。

 アフリカとヨーロッパの間に横たわる、地中海の国々は、ヨーロッパ戦線と呼ばれている。
 30年前、カイロ防衛戦にて国連軍の致命的な敗北により、アフリカ全土はナイトメアの支配下に置かれた。
 以後、アフリカから北上する敵を叩き続け、ヨーロッパの平和を守り続けた地域で、エオニア以外にも、犠牲になった国は少なくない。

 ちらりと窓の外を眺めるアイザックの視線の先にカイロがあった。
 アイザックの祖父はカイロ防衛戦で戦死した。あの戦いに敗れていなければ、アフリカの統治権を放棄していなければ、もっとヨーロッパの平和は安定していたかも知れない。
 その責任をとる。それがケイン家の悲願となった。父も兄も戦場に散り、残されたのはアイザック一人だけだ。
 アフリカに住んでいた人々は、難民となってヨーロッパに流れ着き、30年たった今もまだ、苦しい生活を余儀なくされていた。
 先日クレタであった人々もそうだ。アフリカに帰る日を夢見て、苦しい日々をなんとか耐え凌いでいる。
 だから、いつかアフリカの地を、人類の手に取り戻さないといけない。そう誓っている。

 気持ちを切り替えて、アイザックは報告を続けた。
「王女からも連絡が。ライセンサーに対して国として最大限に便宜を図る故、よろしく頼むと」
「そうか……。国の復興で大変な時期に、我々のことも気にかけてくれるとはな」
 そう言いつつヨルゴスは眉間に皺を寄せ、また溜息をついた。
 10歳の王女が可哀想だと思わずにはいられない。
 ヨルゴスもこの国の生まれだったが、作戦任務の為に他国に行っている間に、エオニアが大襲撃にあって、祖国を守れなかった。その苦い記憶に今も悩ませられている。
 1年前にエオニアに戻ってきたが、未だ昔のエオニアに比べると、国全体の空気は暗い。
「エオニアの国民だけでは、復興は進まない。エオニア王国の復興のための任務を、積極的に出すように」
「わかりました」

 少しづつ、エオニア王国は前に進もうとしている。しかし、ナイトメアの脅威が、いつこの国を襲うかわからない。
 エオニア支部はエオニアを守るためだけではなく、アフリカ大陸に対するSALFの前線基地でもある。
 王女が夢見る、民が平和に笑顔で暮らせる国になるために、SALFの協力が必要不可欠だった。


(執筆:雪芽泉琉
(文責:フロンティアワークス)
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