? 【堕天】|WTRPG11 グロリアスドライヴ
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【堕天】ストーリーノベル

【堕天】あらすじ ?教えて! ニキ教官?(10/16更新)

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今ンとこの【堕天】あらすじを三行程度でまとめるぜ!

「10/16時点!」
「ロシアインソムニア『エンピレオ』を撃破したぜ!
 これでロシアでの戦いはジ・エンド。俺達の勝利だ!」

ニキ・グレイツ(lz0062

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4/1時点!
ロシアインソムニア『ネザー』からアサルトコアに似た兵器『ナイトギア』が現れた!
乗ってたのは、ネザーに極秘潜入していたSALFライセンサー『ソラリス』だ。
ネザーの連中に捕まってたが、ナイトギアを強奪して脱出したんだ。

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4/18時点!
ナイトギアには生体エンジンとして人間が大量に使われてたぜ。
このことから、多くの失踪事件が起きてるだろうってことでSALFは調査した。
結果はビンゴ。
SALFは失踪事件の犯人であるレヴェルや『使徒』の対策に乗り出すぜ。

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5/17時点!
同時並行して、ノヴァ社がナイトギアを解析して、新規アサルトコア『ダンテ』を作成。
まだ試作品段階だから、現在は起動実験で調整段階だぜ。

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5/21時点!
……ってところに、『ネザー』から司令官エルゴマンサー『エヌイー』が、
ロシア各地の支部やライセンサーに強襲をしかけてきた!
奴らの狙いはライセンサーの拉致らしい。迎撃作戦始まるぜ!

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6/18時点!
ライセンサー拉致襲撃事件は、被害をなるたけ抑えることに成功したぜ!
引き続きネザー対策や敵勢力対応は続いて行くぜ!

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7/12時点!
【OL】作戦お疲れ様! 次はロシアインソムニア『ネザー』攻略だぜ!
作戦の第一段階として、ネザー周辺の制圧に行くぜ!
アサルトコア:ダンテのロールアウトも目途が立ったってさ!

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8/1時点!
ロシアインソムニア『ネザー』をガチ攻略すっぞ!」
地上からチマチマやっても削り切れねえ! 一か八か、空からの強襲だ!」
その名も流星(ミチオール)作戦だ! エヌイーを討つぞ!

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8/16時点!
ロシアインソムニア『ネザー』ガチ攻略、作戦名は『流星』!
無事に成功してエヌイーや多くのエルゴマンサーを撃破したぞ!
やったぜ!

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8/30時点!
ロシアインソムニア『ネザー』攻略完了!
ボスのエヌイーや多くのエルゴマンサーを撃破したぞ!
……と思ったら、奴らが復活して『エンピレオ』と名乗りやがった!?

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9/13時点!
ロシアインソムニア『エンピレオ』起動!
超弩級飛行戦艦型のソレを迎撃すっぞ、大規模作戦だ!
奴らの狙いはサンクトペテルブルグ、ノヴァ社があれこれ対策中だってよ!

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10/3時点!
ロシアインソムニア『エンピレオ』がサンクトペテルブルクに砲撃!
SALFはエンピレオをブン殴りつつ、サンクトペテルブルクを防衛するぜ!

エピローグ:煉獄山の天辺にて(10/16公開)

●おつかれさま

 満身創痍だ、誰も彼も。
 思考が止まるほどに空が青く、綺麗だ。

 インソムニア=エルゴマンサー『エンピレオ』。
 ロシアにもう一つあったインソムニア『ネザー』の支配者であり、単身で二つのインソムニアを統括するほどの怪物であり、このロシアを長く長く苦しめてきた悪夢と絶望の化身だった。

 それが今、沈み、崩れ、溶け、壊れ、消えていく。

「おじちゃん……」
 傷だらけのそよぎ(la0080)は虚ろな意識の中、収納されたキャリアーの窓よりエンピレオの最期の姿を眺めていた。
 第一次作戦、第二次作戦。数多の攻撃が、数多の想いが、エンピレオへと突き立てられた。その一つ一つに意味のないものなど一つもなく。これは、永く長く続いた戦いの、ようやっとの帰結なのだ。
 なれど――いざ過去になってみれば、まるで刹那だったような心地すらある。桐生 柊也(la0503)がエヌイーと対峙したのは4月のこと、実に半年近くも前なのだ。
「これで、終わり……」
 柊也はFS-10――酷く損傷してしまっているが――の操縦席にて、4月の激戦を思い出す。
 あの時の犠牲者は、少しは浮かばれただろうか?

 詠代 静流(la2992)はXN-01『星龍』の操縦席に深く背を預け、長く息を吐く。装甲が砕けあちこちから火花が上がる機体を、コックピット内で撫でた。
「ボロボロだなぁ、俺達。……でも、」
 これで何かを、誰かを護れたんだろうか。
「って、そういえばサンクトペテルブルクはッ!?」
 達成感の余韻に浸っている場合じゃない、と静流は跳ね起きる。

 一同の通信機に北方部隊長ハシモフ・ロンヌスから連絡が入ったのは、その時である。

「諸君、たった今サンクトペテルブルクの方からも連絡が入った。……防衛作戦は成功。彼らはやってのけたのだ」

 イマジナリーシールドMOD『ナディエージダ』は、エンピレオからの砲撃を防ぎ切った。
 その代価に、作戦に参加したライセンサーは精神力を著しく消耗してしまって――誰も彼も倒れてしまっているらしい。だが、死者はいない。今はノヴァ社の面々が彼らを医療施設へと搬送している。

「万事解決、ってやつだな! ……は?、終わった終わった?」
 ルージュ・遠山・リオン(la0037)は空中でぐっと伸びをした。みんな等しくズタボロで、いっそ笑いが込み上げてくる。
 退却命令が下されて、飛行兵やアサルトコアらは迎えに来たキャリアー達に収容されていく。
 最中にフェーヤ・ニクス(la3240)は空を見渡した。そうすると、一機のヴァルキュリアが手を振って飛んで来る。
「フェーヤさん! ご無事でしたか」
 ソラリス(lz0077)だ――フェーヤは友人の無事に、ほっと安堵の息を吐いた。フェーヤはかすかに、けれど確かに笑みを浮かべて、ソラリスへと手を差し出した。
『……一緒に、帰ろうか』
「はい!」
 手と手を繋ぐ。
 銃を握る掌なれど。
 この手は絆を繋ぎ、想いを分かち合い、明日を紡ぐことができる。

 だからこそ。
 人類という『小さき数多』は、エンピレオという『強大な個』を打ち倒せたのだろう――。



●おつかれさま……?

 二つのインソムニア陥落、エルゴマンサーの撃破。
 それは人類史に残る偉業であり、SALFひいては人類の大快挙であり――

「約束されし激務の幕開けである」

 ハシモフは執務室の机に突っ伏してボヤいた。長らくの怨敵をブチのめした爽快感も達成感もしんみりしたい気持ちも、事後処理のなんやかんやに忙殺されてクソのへったくれもない。撃った散弾の数より処理する書類の方が多いなんてどういうこったい。
 南米でもヨーロッパでも新たな作戦が始まり、SALFもあっちこっちテンヤワンヤだ。一方でエヌイーが散々ロシア各地を蹂躙してくれたおかげで、復興やら残存ナイトメア対応やらが山積み過ぎる。
 ノヴァ社社長アルビナ・ルーシーはというと……適合者である彼女もまたナディエージダ展開に協力し、漏れなく倒れた。しかも日々の過労も相まってか、未だに目覚めていないという。命に別状がないことだけが幸いだ。
(……ノヴァ社の激務も、まだまだ続きそうだな……)
 眉間を揉みながら顔を上げたハシモフは思った。だがこのゴタゴタを超えれば、かの社員達もようやっと休めるのではなかろうか。休めたらいいのにな。
(俺も、一段落したら墓参りにでも行くか……)
 写真立てを見る。戦友達と共に写る若い頃の写真だ。ずっと「散っていった奴等の為に」と前を見据え続けてきた。進み続けてきた。必ずロシアからインソムニアを滅ぼすと、途方もない夢に手を伸ばし続けてきた。それにようやっと……ようやっと、区切りが付く。

 ハシモフだけではない。多くの者にとって、ロシアでの勝利は一つの区切りとなった。
 復讐は何も生まない。そうだろうか? 終わった後に虚しいだけ。本当だろうか?
 復讐が果たされて、ようやっと終わって、やっと前に進むことができる者だっているのだ。

 これからロシアは、少しずつ前に進んでいく。
 負った傷を癒し、傷付いた者同士で支え合い、手と手をしっかり取り合って。
 とまあ、当分は歓喜の宴に復興にと大忙しの極みだろうが。

 ――暗闇の中でこそ、星は煌めく。
 なれど青空の向こうでも、星々はかすかな光を投げかけ続けている。



●最期の進化

 頼る、ということが最期まで理解できなかった。

 誰かに何かを任せるよりも、自分で全て解決してしまった方が早いし楽ではないか。
 手が足りないなら、増やせばいい。目が足りないなら、増やせばいい。処理する脳容量が足りないなら、増やせばいい。それが合理的だと思っていた。
 究極の個。自己完結の帰結。――それが、エンピレオという怪物だった。

 嗚呼。
 消えていく。溶けていく。崩れていく。
 自己改造の果ての体躯。エンピレオという個の、進化に対する一つの答えが。

 ――キミ達は分かれ、僕達は束ねた。

 エンピレオはイリヤ・R・ルネフ(la0162)の言葉を思い出す。
 そうして、千々の塵と消え果てていくその只中に、一つの結論に至ったのだ。

 ――ならば自分も、真似てみるか。

 消滅の間際、残った一握もない力。
 エンピレオとはインソムニア。悪夢達の門である。
 怪物は消える寸前の自分の一欠片を『送り出す』。


<ザルバ>
 ――銀の雫が落ちる。
 それは人間側の識別名『ザルバ』という怪物の掌の上。

 最早、エンピレオと謳われた怪物は喋ることもできず。放っておけば1分と経たずに消え果てる、虫けらよりも弱い存在となっていた。
 だが、それは叡智の果実である。人類との実戦という経験値、ナイトギア製造に関する知恵を宿した存在である。

 エンピレオは『頼る』ことにした。
 自分の経験、自分の知恵、それら全てをザルバに譲渡することにした。
 どうやって? ――ナイトメアの原始的手段、捕食によって。

「……随分と縮んだものだな、エンピレオ」

 ザルバは冷たい眼差しでただ見下ろすと、手首へと伝っていくエンピレオを、その舌で『捕食』した。



 ――私達はまだ、敗北していない。



『了』


(執筆:ガンマ
(文責:フロンティアワークス)

●剣と銃のない戦場
 住民避難の済んだサンクトペテルブルクは無人であった。
 否、無人と言えば少々矛盾がある。
 かつ、そこにはナイトメアもレヴェルもいないが、戦場と形容すべき様相だった。

 ――イマジナリーシールドMOD『ナディエージダ』。

 それはノヴァ社社長アルビナ・ルーシーの亡き父が、技術者として残した一縷の希望。
 30年も前、ロシアにネザーという大穴を開けた破壊の光……それが一度きりのはずがないと、アルビナの父はそれに対する防御策の開発に乗り出した。だが彼はナイトメアによって死亡、その理論は娘のアルビナが引き継いだ。
 それからアルビナは父の悲願を完成させるべく努力をし続けた――だが、都市一つ分の対ナイトメア防衛装置など、技術者ですらない人間でも「そんなもの可能なのか?」と眉根を寄せるだろう、いっそ馬鹿馬鹿しいほどの理想物だ。
 完成させられるかも分からない壮大なアイテムにかまけるより、アサルトコアやEXISの開発にリソースを注力させる方が現実的ではあった。ナイトメア襲来からの約30年、失墜と激動にまみれたロシアにおいて、ゆっくり腰を据えて開発に勤しむなんて贅沢はできるはずもなかった。ダンテはナイトギアという雛形があったがゆえ話は違ったが――今をどうにかせねば未来のことすら考えられないほど逼迫しっ放しの状況下、そのうえ社長とまでなってしまえば尚更、会社全体の利益を考えねばならなかった。
 しかし、アルビナはそれでもナディエージダの研究と開発を続けてきた。いつかこの研究は必ず役に立つ、いつかこの理想論の権化のような希望は現実になる、そう信じ続けて。
 かくして技術が進むにつれて、その装置も少しずつ、だが着実に、完成への道を進み続けていた。

 だが――完成を前に、その日は来てしまった。

 そして今、ナディエージダは1%でも完成度を高めるために、このサンクトペテルブルクの宮殿広場において、アルビナ率いるノヴァ社の精鋭技術者部隊によって調整が行われていた。昼夜を問わず、一睡すら惜しみながら。

 ――ひとつのキャリアーが上空に現れたのは、そんな時だった。

 FS-10、フィッシャー社のキャリアーだ。SALFライセンサーのものでないと分かったのは、艦体にフィッシャー社のロゴが大きくペイントされていたからだ。

『あーあーマイクテス、こちらレイ・フィッシャー。アポなしで失礼、タイムリミットがあまりにも目前でね、強引なアプローチを取らざるを得なかった』


<レイ・フィッシャー>

<アルビナ・ルーシー>
 高度を落としつつある艦より聞こえたアナウンスは、フィッシャー社社長レイ・フィッシャー(lz0091)その人であった。
「……レイ社長!?」
 流石のアルビナも手が止まり、目を見開く。その間にもFS-10は迅速に着陸し、中から大勢の人間が現れる――先頭を率いるのは、ホログラム投射装置によるデジタル製のレイ社長だった。
『というわけで援軍だ、アルビナ社長。フィッシャー社をはじめ、各メガコーポの信頼できる“精鋭部隊”だよ。チーム名は……そうだな、“白馬の王子様”なんてどうだろうか?』
「……レイ社長、いったい何の冗談です?」
『冗談も何も。彼らは会社や国籍のボーダー以前に、地球の地形がこれ以上変わることを良しとしない、ただのお人よしな技術屋達だ。同時に利益も安全もかなぐり捨てて、それでも君達を手伝いたいと志願したデンジャラス達でもある』
 そういった善意の者らを、フィッシャー社が統括してここに送り届けたのだとレイは言う。
『……状況は皆、理解している。誰がどれだけ命懸けで頑張っているのかも。だからこそ、協力したいのさ』
「……、」
 ここに来ることがどれだけ危険か――そう咎めようとした言葉をレイに先んじて制され、アルビナは口を閉じた。視線を逸らした彼女に、レイは続ける。
『アルビナ社長。君やノヴァ社社員の気持ちも分かるが……いささか背負い込み過ぎじゃないかね。君達の執念を否定する訳ではないが、たまには立ち止まってくれたら、こっちも手を差し伸べやすいよ。あと純粋に過労は健康に悪いからね。今度うちのサプリメントとマッサージ器を試してみるといい。利くぞ』
「どうも。ですがうちのはもっと利きますので」
 アルビナのその言葉に、レイはからからと笑った。同時にアルビナは、背負っていた重いものが気付けば少し軽くなったような心地がして――いろいろな感情を込めて、小さく息を吐いた。
『ロシアはうちの娘も頑張ってるしね。その応援もしてあげたいというわけで……さて、アルビナ社長。そういうことで、いいかな? 我々がお手伝いをしても』
「ええ。……大歓迎です。『ノヴァ社流デスマーチ』に音を上げないといいのですが?」
『何卒お手柔らかに。それじゃあよろしく、アルビナ社長。ま、こういう時は持ちつ持たれつということで……いつかうちがピンチになったらよろしく』
「言うまでもなく」



●希望を盾に

 東の空で光が瞬いた。

 それはインソムニア『エンピレオ』が、サンクトペテルブルクへ砲撃を行った証。
 空へ放たれた光は曲線を描き、都市の直上から星のように落ちて来るだろう。

 ――『君達』はサンクトペテルブルク宮殿広場にて、その時を待つ。

 今この時も都市級防衛装置『ナディエージダ』は、会社も国境も越えた技術者達が「ナイトメアにこれ以上は奪わせない」という共通の目的を以て調整を続けている。それは支え合い、信じ合い、協力し合うという、ナイトメアにはない戦い方の姿である。

 まもなくこの都市を覆うほどのイマジナリーシールドが展開される。それは君達の意志を束ねて展開される人類の盾、希望の足掻きだ。
 エンピレオの砲撃に耐え切れなければこの都市は地図から消え、灰となり、君達も遺伝子の欠片すら残らないだろう。砲撃によって作られた大きな穴は新たなインソムニアとなり、悲劇を生む破壊の場へと変貌する。最悪のバッドエンドが待ち構える。

「――信じています」

 手を休めず、アルビナは背中越しに君達へ告げた。

「ナディエージダの意味は希望。……皆様は、我々の希望。護り抜きましょう。もう何も、失わない為に」



●意志を剣に
 あるいは『君達』は、エンピレオへと再度の攻撃をしかけるべく空を進んでいた。
 砲撃の余波によって雲は吹き飛ばされ、空はどこまでも青く澄み渡っている。
 エンピレオは規格外の砲撃による膨大なエネルギー消費によって、消耗状態にあった――その時間は長くはないが、活路を開くならばそこを突くしかない。今しかない。ここで決めなければ、もう手をつけられない。それほどにエンピレオとは怪物だった。

 ――勝てるのだろうか。

 作戦第一段階において、エンピレオはその圧倒的な力を人類に見せ付けた。どこまでも怪物、あまりにも化物。災厄と呼ぶ他にないそれに、果たして人類は対抗し得るのか。
 それでも。

「きっと皆で、帰りましょう」

 通信機を介し、ソラリス(lz0077)が君達に呼びかける。
「私は助けて貰ったから……見捨てられなかったから、今ここにいます。皆さんが受け入れてくれたから、護ってくれたから――……だから今度は、私が皆さんを護ります!」
 ソラリスは一つの小隊を率いていた。作戦第一段階では救助活動を行っていた彼女らは、今このときは火器を手に、君達の生還の為に献身的に支援をしてくれることだろう。

 かくして作戦領域は間もなく。

 エンピレオと戦う君達の部隊を率いているのは、北方部隊長ハシモフ・ロンヌスだった。指揮官とは後ろで指示を飛ばす者ではある――だがこのロシアで戦い続けた者として、彼はどうしても決着をつけたかった。エンピレオという悪夢に、そして傷だらけの己の過去に。
 ハシモフは眼帯越しの片目に触れた。そして、君達へと言い放つ。簡潔に、たった一言に全てをこめて。

「総員、命令する。エンピレオとのケリをつけろ」



●渇望する悪夢
 至高天はそこに在る。
 いくらか砲撃を遅延させられたことには驚いた。
 そして、砲撃直後の消耗状態を見逃す人類ではあるまい。自らの中のエネルギーの貯蔵――捕らえた膨大な人間の命――は全て使い尽くした。皮肉なことに、エンピレオは強大に進化すればするほど、おそろしく稼動に力を要するようになっていた。この戦いが終われば、またしばらくの休眠と充填が必要だろう。ザルバにまた何か言われるだろうが、仕方がない。

 弱点を作らぬ主義のエンピレオが抱える、この唯一無二の『弱点』――しかしそれを乗りこえられた種族は、未だかつて存在しない。

 エンピレオを倒したとしても、サンクトペテルブルクに星が落ちれば人類の負け。
 サンクトペテルブルクを護ったとしても、エンピレオを倒せなければ人類の負け。
 剣も、盾も、万全以上でなければエンピレオに勝つことはできない。
 エヌイーは――エンピレオは待つ。涼やかに笑みながら。

「続けましょうか。さあ、今度は何を見せてくれますか?」



『了』



(執筆:ガンマ
(文責:フロンティアワークス)

●明けの明星、破壊の星 01

 夜明けよりも眩しい光が、東より昇った。


<エヌイー>

<ザルバ>
 その光がロシアに現れるのは、実に30年以来か。
 その名を『エンピレオ』。インソムニアにしてエルゴマンサーである、超規格外の生命体。
 たった一匹のナイトメアが進化と学習と自己改造を続けた果ての、一つの結論にして過程。
 侵略の為の兵器であり、破壊の為の装置であり――『エヌイー』が本気で攻勢をする時の姿である。

「では、よろしいですねザルバ君」
「……何と返答したところで、お前は自らの欲を優先するのだろう?」
「渇望こそが我々ですから。そうでしょう?」
 それに対し、返答はなかった。エンピレオは総司令官の沈黙を肯定と捉え、含み笑った。
「では、行って来ます。どうか勝利を祈って下さいね」


●終焉は近く
 エヌイー――ネザー=エンピレオによる宣戦布告。
 それはロシアのサンクトペテルブルクを焼却せんと目論む内容だった。

 都市一つ分の巨大穴を開ける破壊兵器――凡そ対抗し得るものではない。そんなものを担いで迫る相手にどうすればよいのか。SALF内部では対策に追われていたが、その結論はいずれも苦い絶望が滲んでばかりだった。
 撃たれる前にエンピレオを落とせばいいという作戦は、あまりにも理想的な極論である。また市民を避難させたところで、サンクトペテルブルクが制圧され第二のネザーができてしまっては意味がない。
 そう、何かしら、絶対に、人類は防御の対策が必要だった。


<アルビナ・ルーシー>

<ハシモフ・ロンヌス>
 ――ノヴァ社社長アルビナ・ルーシーがSALFへ一つの資料を提出したのは、そんな時である。

「この装置の名は、『希望(ナディエージダ)』。イマジナリーシールドMOD、とでも分類しましょうか」

 そう言って差し出された資料を手に、北方部隊長ハシモフ・ロンヌスは隻眼を見開いた。
「アルビナ、これは――」
「私の父の遺作。父は……私達は、ノヴァ社は、ずっとずっと対策し続けてきました。30年も前に落ちたあの光――アレが一度きりの訳がない、と。町一つ守れるほどの防衛装置が必要であると」
 アルビナが資料の上に指先を置く。
「構造としては都市一つ分を覆うほどの半円状イマジナリーシールド。膨大な数の適合者を集め、そのIMDを束ね、一つのイマジナリーシールドを展開する……というものです」
「途方もないな……可能なのか?」
「結論から言うと、貴方の言う通り、あまりに大規模なそれを造り出すことは正に雲を掴むようなモノでしたわ。30年……多くの技術者が挑み続けて尚、現時点でも『未完成』。同時にプロトタイプダンテが可愛く思えるほどの不安定にしてハイリスク。シールド展開を実施した適合者は昏倒し、しばらくの間はシールド展開能力も失うほどに消耗する……」
 そしてそこまでやって尚、『防ぎきれない』可能性だってあるのだ。それでもアルビナはこれを持って来た。希望の名を持つ、人類の盾を。
「ノヴァ社の威信に懸けて、エンピレオの砲撃が着弾するその瞬間まで、ナディエージダの調整は行います。可能性を1パーセントでも引き上げる為に。ノヴァ社とSALFが手を組めば、どんな悪夢だって乗り越えられることを証明してみせますわ」
「ぶっつけ本番ってやつか。全く……無理難題続きだな、この戦いは」
 ハシモフは眉間を揉み、それからアルビナを見やった――強面をニッと笑ませて。
「だが俺は逆境で足掻くのが大好きでね。……お前の意見は分かった。上にかけ合おう。我々SALFは出来得る限りエンピレオにダメージを与え、その砲撃の遅延を狙う。一秒でも長く、稼いでやるともさ。……あわよくばそのままエンピレオをブッ倒せれば理想的なんだが」
「ありがとうございます、ハシモフ隊長。……貴方達が稼いだ時間は、きっと多くの命の未来に繋がる」

 もう今更なのだ。できるのか、できないのか、大丈夫なのか、そんな可能性の水掛け論は。
 やらねばならない。やるだけやって、やり尽くさねばならない。最早やるしかない。足掻いて藻掻いて手を伸ばし尽くさねば、勝利の光も見えてこない。ずっと、ここで繰り広げられていたのはそんな戦いだった。

「ところでアルビナ、お前そろそろ社員から訴えられるんじゃないか?」
「まあ大変、辞職に追い込まれてしまったら、ライセンサーにでもなろうかしら」
「そういうところだぞ」
 ハシモフにそう言われてくすりと笑って、アルビナは寸の間だけ目を閉じる。

(父さん……貴方が遺した技術で、きっと皆を護ってみせる。……今度こそ)


●明けの明星、破壊の星 02
 それは常軌を逸した光景であった。
 巨大な光が空を飛ぶ。燦然たる白銀は、天より星が堕ちて来たかのようだった。
 エンピレオは『自分』の目を通して全てを見通す。それは使徒であり、ナイトメアであり、エルゴマンサーであり。
 その数多の中の一つ、エヌイーという分体はナイトギアの肩の上から、雲上の光景を見渡していた。背に受けるは黎明の輝き。それを塗り潰すほど煌く、エンピレオの巨躯。
 30年前と変わらない風景だ。正しくは30年と少しではあるが。全て見ていた。そして人間の成長というものに感心を覚える。火に燃える町で次々と家族を殺され泣き叫びながら逃げていた少女は、今やメガコーポの社長に。片目を部下を失い、血だらけになりながら立ち向かってきた若い兵士は、SALFという大組織の司令官クラスに。殺そうと思えばいつでも殺せた――だが、そうしなくて本当に良かったと思うのだ。その結果がどうなろうと。

「ヘヴン、バルアス、いってらっしゃい。他の皆も、やりたいことをやり尽くしなさい。私達は今、生きているのですから。謳歌せねば――後悔のないように」

 エンピレオは見ている。あちこちで人間が動いている。
 市民が避難したサンクトペテルブルクでは、ノヴァ社の者らが興味深い装置を展開し、今なお何かいじっている。
 エンピレオ周辺、ナイトメアに覆われる町々で、SALFのライセンサーが人を救う為に立ち向かってくる。
 そして今。空の向こうから、大船団が来る。想いの力で武装した人間達が、挑んでくる。
 あんなに小さな肉体で。100年も生きられない種族が。ちょっと撫でれば千切れてしまう脆さなのに。結束して、団結して、武装して……。

 エンピレオは随喜する。
 あれからどれだけ、人間は成長した? 進歩した? 進化した?
 種の存亡を懸けた生存競争、その答えは如何に? 何を想い、何を創った?

 ――嗚呼、イイ。凄く……イイ。素晴らしい。

 戦争は良い。本当に。死に物狂いの進化と技術がそこに濃縮されているから。
 次は何を見せてくれる? これから何を教えてくれる?
 知りたい。見たい。触れたい。聞きたい。嗅ぎたい。感じたい。食べたい。とても。何もかもを。

 抱くその情動の名は憧憬、そして――渇望である。



『了』



(執筆:ガンマ
(文責:フロンティアワークス)

怪物に他ならず/悪夢再び、アフター

<花咲 ポチ>

<モーリー>

<ミラ・R・Ev=ベルシュタイン>

<ハシモフ・ロンヌス>

<アルビナ・ルーシー>

<エイラ・リトヴァク>

<ツギハギ>

<ケヴィン>

<いせ ひゅうが>

<エドウィナ>

<アンヌ・鐚・ルビス>

<ヨハネス・リントヴルム>
 ロシア、サンクトペテルブルク某所、とあるハイエンドホテルのパーティ会場。
 照明は壊され、ガラスは割れ、冷たい夜風が吹き込んでいる。
「……周辺から妙な音は聞こえませんわ」
 花咲 ポチ(la2813)はその聴覚を活かして耳を澄ませたが、胡乱な物音はしなかった。
「うん、エヌイーはもう、どこかに行ったんだろうね」
 モーリー(la0149)は落ちないように気を付けながら、割れた窓から外を見渡していた。ノコノコ族の視力を以てしても、エヌイーおよび敵性存在は認められない。美しい夜景が広がるのみだ。
 そのまま見下ろせば、ホテルの入り口周囲は大騒ぎになっていた。エヌイーの登場は中継された上、現場に居合わせた者らに大混乱を与えたのだから。
「……」
 ミラ・R・Ev=ベルシュタイン(la0041)は沈黙したまま、静かにガラスの向こう側を見澄ましている。

 と、その時だ。
 扉が開き、SALF北方部隊長ハシモフ・ロンヌスと、ノヴァ社社長アルビナ・ルーシーが現れる。

「社長……!」
 エイラ・リトヴァク(la3147)がすぐにアルビナへ駆け寄る。アルビナは片手を挙げて彼女に応える。
「怪我はしていない?」
「Дa(はい)、わたし含め負傷者はいません」
「そう……良かった。こちらもVIP達の避難は完了しましたわ。SALFへの報告もハシモフ隊長が実施済みです」
 アルビナはハシモフを目線で示して言った。彼の傍にはツギハギ(la0529)がいて、エヌイーの所為で削れた彼のシールドをヒールによって修復していた。
「かすり傷だ、心配せんでいいと言うに」
「かすり傷でも傷は傷です、ハシモフ隊長」
「ぬう……」
 ヴァルキュリアにたしなめられ、ハシモフは彫りの深い顔に更にシワを寄せた。
「それで、状況は」
 ハシモフがそう言えば、ケヴィン(la0192)が頷き報告をする。
「結果的に言うとエヌイーには無事にお帰り頂きました、ってことで。負傷者なし、会場の物理的被害少々、残飯少々、といったところだな。……あ、念の為の確認なんだが、この件で俺らが何か責任に問われることってありま……す?」
「あるものか、むしろ称賛されるべきだ。……大きな被害が起きてもおかしくはなかったのだ。お前達はうまくやった」
 ハシモフは小さく肩を竦めた。そんな彼へ、少なくとも1メートルは身長差があるだろういせ ひゅうが(la3229)が手を挙げる。
「隊長、ひじょーに残念なお知らせなのですが、それで話は終わりではないのです」
 苦い顔をして、ひゅうがはエヌイーの言葉を伝える。

 ――『私』はこのサンクトペテルブルクにもう一つの奈落を作りましょう。
 ――覚えておられますか、私が初めて地球に来た時、何をしたか。何があったか。
 ――貴方達人類は、何を目撃しました?

 2024年。
 ロシアのカティリクに『巨大な光』が落ち、インソムニア『ネザー』となる。

 2032年。
 バイカル湖周辺に『巨大な光』が出現。
 光は周囲一帯を光線で薙ぎ払い、灰燼に変えた後、バイカル湖の湖底に沈んだ。
 この光こそ、エンピレオ。

「光が来る。このサンクトペテルブルクを目指し、至高天(エンピレオ)という弩級の災厄が来る」
 エドウィナ(la0837)がそう告げ、ハシモフもアルビナも眉根を寄せて沈黙した。
「護らないといけないわね」
 アンヌ・鐚・ルビス(la0030)は表情を引き締め、窓から見える町を見渡す。
「だってッ! このサンクトペテルブルクにッ! どれだけの歴史的美術的文化的価値がッッッ」
 ブレないアンヌだが、皆を護りたいという気持ちは本物だ。
「……分かった。即座に対応と対策を実施しよう」
 一同からの報告を受け、ハシモフは強く頷いた。一方のアルビナは即座に踵を返すではないか。
「社長、どちらへ」
 エイラが問えば、アルビナは強く前を睨みながら背後のエイラへこう答えた。
「あの『光』。……やはり、いつかは来ると思っていました。間に合わせなければ。この都市を、我々の国土を、隣人を、護り抜く為に……!」


 それからほどなく、ロシア各地を襲ったのはエルゴマンサーやナイトメアによる多発的大侵攻だった。
 多くのライセンサーが出撃する。ヨハネス・リントヴルム(la3074)――『ローゼンロート』と名付けたXN-01ダンテを駆る彼も、その中の一人。

「悪夢共に地獄を見せてやる――進めッ、『ローゼンロート』ッ!」

 火の手が上がる街、繰り返される蹂躙劇。
 XN-01の赤き単眼は、迫る彼方の怪物を見澄ましている。



『了』



(執筆:ガンマ
(文責:フロンティアワークス)

 ロシア、サンクトペテルブルク某所、とあるハイエンドホテルのパーティ会場。
 そこには著名人、権力者、名立たるVIPがシャンパングラスを手に華やかな時を過ごしていた。その中にはSALF北方部隊長ハシモフ・ロンヌス、ノヴァ社社長アルビナ・ルーシーらの正装した姿もある。また、幾人かのSALFライセンサーもまた同席していた。
 そんな彼らへ、許可証を付けた記者がカメラを向けている。中継される映像が、世界中のテレビや端末で流されていることだろう。

 ――ロシアインソムニアが一つ『ネザー』が陥落し、悪名高きエルゴマンサー『エヌイー』は討たれた。
 今夜は賞賛すべき活躍をした者らへの感謝、激励の為のパーティ……のようなものだ。
 ロシアの大きな悪夢を一つ取り除いたのだ。人類は浮かれていた。


●E 02
 一人のウェイターがトイレにいた。用を済ませ、手を洗っていた。
 次の休暇のことを考えながら、彼の視線は自分の両手に落とされている。
 その時だった。蛇口からどろりと流れてきたのは、銀色の物体。
 掌を染めるおぞましい物体は、目を見開いたウェイターの悲鳴より早く、彼に襲いかかる。
 ウェイターの目の前が真っ暗になった。揺れる視界の中、鏡でどうにか見えたのは、自分の口や鼻の中に泥のような銀が流れ込む、悪夢のような光景で。
 そうして気付けばへたりこんでいた。体が重い。頭が痛い。気持ち悪い。助けを呼ぼうとした。だが、口が内側から閉ざされて声を発することもできない。
「少し、体を借りますよ」
 頭の中から声が聞こえた。ウェイターが恐怖とパニックのまま瞳孔を震わせていると、その体は彼の意に反して勝手に立ち上がる――否、勝手に動かされている。頭にチクチクとした痛みが走る。自分は何をされているんだろう、とウェイターは恐怖に心臓を震わせることしかできない。

 ウェイターは使徒の話を思い出していた。
 連中は人間に寄生すると、細い触腕を肉体中に伸ばし、操り人形さながらにしてしまうという。
 これも、そうなのだろうか。さっきから頭に感じる痛みは、何かが自分の脳に触って、肉体を勝手に動かしているからか。自分はこのまま食い殺されて、使徒になってしまうのだろうか?

 怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
 助けて。死にたくない。こんなところで死にたくない。怖い。痛い。
 脚が勝手に動く。賑やかで華やかなパーティ会場。制服の下に冷や汗が流れる。

 逃げて――自分から離れてくれ――

 そう叫びたい気持ちとは裏腹に、彼の体は勝手に、SALFの北方部隊長とノヴァ社の女社長へと、アルコールの乗ったトレイを差し出してしまったのだ。
 二人がウェイターの方へ振り返る。
 そして、隊長と社長がその違和感に気付いたのは直後だった。


●E 03
 ウェイターの口が大きく開かれ、その口から、鼻から、どろどろずるずると――銀色の物体が溢れ出る。
 ハシモフの行動は速かった。片手でアルビナを引っ張り下げて庇いながら、もう片手は服の内に仕込んでいた拳銃を引き抜く。そしてたちまち人間ほどの大きさになっていく銀の物体へ、ありったけ引き金を引いた。

 グラスの割れる音。そして銃声に、誰もが振り返る。あるいは悲鳴を上げる。
 視線の集まる先には銀色の物体。それは緩やかに人間の形になると、涼しい笑顔の男となった。

 ――ネザー司令官、エヌイーである。


<エヌイー>
「彼なら無事ですよ。体の中に隠れさせて貰っただけですから、殺してはいません」
 それはペッと口から金属の球体を吐き出した。ハシモフが撃ち込んだ弾丸を体内で圧縮したものが、気絶しているウェイターの傍に転がった。
 悲鳴が会場を包む。エヌイーの青い目がドアへ殺到する人間らを見渡す。しかしドアは開かなかった。エヌイーの銀色に伸びる片腕が床を這い、ドアに張り付き、開けることを許さないのだ。

「Добрый вечер(こんばんは)」

 エヌイーは目の前のハシモフへ、ニコリと笑む。ハシモフは動けなかった。溶ける怪物の体の一部が、彼の手首に指に絡みついていた。イマジナリーシールドによって肌に直接傷がつくことはないが、文字通り左手を指先一つ動かすことができないでいる。

「私は『ネザー=エンピレオ』。長いので引き続きエヌイーと呼んで下さい。先日はお見事でした」

 それは、あの奈落にて倒されたはずの存在だった。
 なのに、目の前にこうして存在している。

「エンピレオ、だと……!」
 ハシモフはシールドから伝わる圧迫感に歯列を剥きつつ、眼前の怪物を睨んだ。
「我々はエンピレオ。偽物でもコピーでもありません。私はエンピレオの分体。奈落で討たれた私もそう。我々は大きな一つ。インソムニアであり、エルゴマンサーであり、プラントにしてゲートであり、ブレインにしてラボであり、兵士であり兵器である。まあ、あまり想像が付かないと思いますが」
「……こんなところまでわざわざ、何の用だ」
「今夜はネザーを踏破した皆様に、宣戦布告に参りました。今度はこちらから攻め込みます、どうぞよろしく。備えて下さいね」

 ――周囲は恐慌に満ちている。
 エヌイーの体の一部が、割れてしまったグラスを拾い上げる。切っ先から滴るアルコールを、怪物はしげしげと眺めていた。

「さて――直々に、大々的に宣戦布告をすることだけが目的でしたから。これからどうしましょうかね。少し話でもしますか?」

 おぞましき悪夢の怪物は、人間を見つめながら、見た目だけは友好的に微笑んだ。



『了』



(執筆:ガンマ
(文責:フロンティアワークス)

●エンドオブヘル
 流星作戦は成功。
 エヌイーを始め、アズライル、バルアスと、複数のエルゴマンサーの撃破に成功した。
 ロシアインソムニア『ネザー』は陥落。
 ネザー周辺には未だ多くのナイトメアが存在している為、これらの掃討作戦は順次発動される予定。

「はあ゛」

 ヴァルヴォサ(la2322)は控室のソファーにぐったりと座り込んでいた。
 ネザー攻略の功績者、最後まで立っていた英雄、エヌイーを撃破した女傑――SALFとノヴァ社の共同会見に立つことになったヴァルヴォサは、インタビューの嵐に流石に疲労していた。
「全く、あたし一人だけの功績じゃないってのにねぇ」
「まあ広報作戦としては分からなくもありませんが、お疲れ様ですわ」
 SALF側のメンバーとして共に立った花咲 ポチ(la2813)は、ドレッサーの前で化粧を直しながらクスリと笑った。

 華々しきネザー陥落成功の宣言。SALFの株もノヴァ社の株もウナギのぼり。
 未だもう一つのインソムニアが残るものの、脅威をまき散らしていた奈落が制圧されたことにロシアは湧いていた。
 しばらくは、北方部隊長ハシモフ・ロンヌスとアルビナ・ルーシーノヴァ社社長が握手する映像が、全世界のニュースを飾ることだろう。
 特に、過去に繰り返してきた『失態』からここまで持ち直したノヴァ社については、その功績と貢献が人類史に残るドラマとして賞賛されていた。
 ノヴァ社はかねてよりの悲願であった、名誉を取り戻したのだ。

「おかげで景気がいいものですわ」
 ノヴァ社、社長室。
 アルビナは連日の激務に目の下にクマを作りながらも、誇らしげな表情であった。
「良いことです。……しかし社長、もう耳にタコかもしれませんが、キチンと休息も取ってくださいね?」
 彼女の前に控えているのはイリヤ・R・ルネフ(la0162)だ。彼の言葉に、アルビナはくつくつと肩を揺らした。
「ふふ。戦勝記念コスメとして、どんなクマも隠せるコンシーラーでも作りましょうか」
「社長ぉ?……」
「冗談よ?」
 アルビナは手をヒラリとすると、「さて」と小さく息を吐いた。
「書類については目を通しました。イリヤ、まずはご苦労様。貴方の献身に、ノヴァ社を代表して感謝をお伝えしますわ。ありがとう」
「恐縮です。まだ地獄の住人になるには早過ぎたようで」
 イリヤは片眉を上げてそう言った。それから「しかし……」と表情をわずかにひそめる。
「既にSALFには報告済みなのですが、一つ気懸りなことが」

 それは、エヌイーがネザーで撤退を選択しなかったことだ。
 ニュージーランドのヘクターとラディスラヴァは、生存を優先した。ナイトメア側にとってもインソムニア司令官クラスに易々と死なれるのは悪手のはず。それにエヌイーは『技術者』なわけで、ただの兵士よりも責務のある個体だ。

「自暴自棄にも、武勇気質にも、傲慢尊大にも思えないんですよ。何かありそうな、と思っていたら撃破されてしまったもので……本当にこれで終幕なのでしょうか?」
「……。ロシアにはまだ、もう一つのインソムニアがありますわ。まだ――『我々』の戦いは続きそうね? イリヤ、引き続きよろしく頼みます」
「Дa(了解)、アルビナ社長」

 ――謎は残っている。

「あー、駄目、なんにも発見できないわ……」
 ライト付きヘルメットを付け、さながら探検家風のいでたちになっているアンヌ・鐚・ルビス(la0030)はガックリと肩を落とした。
 ネザーを陥落させたら人々を解放する、とエヌイーは言っていた。ゆえにネザーへは調査隊が派遣されたのだが、遂に収容されている人間を発見することはできなかった。エヌイーの言葉は嘘だったのか? それとも別の場所に捕虜がいるとでもいうのか?
 それどころかアンヌの言う通り、何も発見できなかったのだ。資料室のような情報の保管庫も、機材置き場も、何も。
「うぅ?ん、どこまでもワンマンオペレーション施設ってことなのかしら。情報を誰かに共有させる気が皆無よね」
「……ん、こっちに、情報、渡さない為に……エヌイーが、ブッ壊していった……?」
 随伴している七瀬 葵(la0069)は大鎌「八咫烏」を手に、周囲にナイトメアがいないか警戒しつつ、そう呟いた。
「そうなのよ! そうなんだけども!」
 アンヌが手を広げる。
「ネザーの底に溜まってるあのスクラップは、そういう機材とか――ナイトギアの材料とか、そういうアレをエヌイーがぶっ壊してバラバラにすり潰したんでしょうね。私達に情報を渡さない為に、そりゃもー解析もできないぐらいグッシャグシャのダストデータに」
 ちなみにエヌイーの死骸は消えてなくなった為、解剖等の調査はできなかった。ナイトギアについても粉砕されたので以下同文。エヌイーめどこまでも徹底している。「……でも、」と呟いたアンヌの言葉を、葵が引き継いだ。
「……ん、資料とか、置いてた場所の、形跡すら、ない……」
「そゆことそゆこと。『情報は私が全て記憶しているので資料など不要なのですよフフフ』ってことなのかしら。……そういえばネザーにはエルゴマンサーがそこそこいたのに、助手みたいな奴はいなかったわね……」
「……ん、人望、なかったのかな、エヌイー」
「そうかも。カワイソウ……って、いやいやいや。ここでそんなシリアルオチはないでしょ」
 アンヌがそう言って葵を見た瞬間、眼鏡越しの視界にはアンヌへと鎌を振り上げている葵の姿が――
「どわ゛ー!」
 ざしゅ。振り下ろされた鎌は、アンヌではなく彼女の後方に迫っていた使徒に突き刺さった。
「……ん、そろそろ、引き上げ時。……ナイトメアの数、増えてきた」

 釈然としないが、答えは見えない――。

 グロリアスベース某所。エドウィナ(la0837)は窓辺より、雲一つない夜空を見上げていた。
 終わってみれば呆気ないものだ、という感覚がある。
 いや、実際はエヌイーを撃破できるかどうかは紙一重だった。あのまま撃破に至れず敗退していてもおかしくはなく、挑んだライセンサーほぼ全員が倒されたのだから、呆気なくはないハズ、なのだけれど。

(本当に、これで終わり……なんだろうか)

 ロシアにはもう一つのインソムニアがある。その名はエンピレオ。
 エドウィナは思い出す。エヌイーの口から、終ぞエンピレオや、そこのエルゴマンサーに関する言葉が発せられなかったことを。
 だからこそ、引っかかる。ナイトメア総司令官ザルバすら「ザルバ君」と無礼なほど気さくに呼び、頼まれてもいないのにヘクターやラディスラヴァの領域に顔を出すような――そう、エヌイーは、ナイトメアにしては馴れ馴れしい部類であるというのに。
 もうひとつ、ネザーとエンピレオの資料を見るに、ネザーがインソムニアだと発覚したのと同時にエンピレオが出現している。同じロシアを支配するインソムニアということも含めて、ネザーと一切無関係とは言い難い。
 なのにSALFのネザー攻略の際、なぜエンピレオは沈黙していたのだろう? エンピレオの支配者は、存在すら仄めかされなかったのだろう?

 ――エヌイーは本当に、死んだのだろうか?

 いや、死んだじゃないか。目の前で、人類に討たれたじゃないか。
 戦って、ぶつかって、その果てに、あの怪物は崩れて消えて、いなくなったじゃないか。
 人類は勝った、のだ。大局的に見れば、ナイトメアとの戦争における、通過点に過ぎないのだろうけれど。
 しかし……そう、『しかし』、なのだ。なんとも言い難い感情がある。エドウィナは幾度目かの溜息を吐き、彼方の一等星に目を細めた。

「……至高天(エンピレオ)……か」



●E






   貴方達を見ていますよ。






『了』



(執筆:ガンマ
(文責:フロンティアワークス)

●地獄篇
「出撃ですよ! ダントウオウ! 私達の力を見せてやりましょう! 主に首刈りで!」
 戦闘支援機関「オーケアノス」が一員、紅迅 斬華(la2548)の駆るFF01改『ダントウオウ』がアサルトコア用ソードを振り抜く。破壊的な一撃に、塔の形をしたナイトメア『バーシニャ』が派手に壊された。

 アサルトコア部隊が突き進む。
 その最前線を突き進むのは白き鉄翼の巨人達、ノヴァ社最新作アサルトコア『ダンテ』の一軍だ。

「クラーク駆逐隊、突撃! 突破口を開きますよ! ――コード666、起動!」
 クラーク・アシュレイ(la0685)のコマンドにダンテの瞳が赤く輝く。小隊【Заря】と連携し、彼らが他の敵を引き付けてくれている間に、クラーク駆逐隊が破壊的な攻撃力で戦線をこじ開けるのだ。
 戦場におけるダンテの突破力は凄まじかった。ライセンサー達の手腕、作戦によって、スペック通り――否、それ以上のパフォーマンスを供することができたと言っていいだろう。

 アサルトコアが激戦を繰り広げる最中、土煙の舞う地上を駆けるのは歩兵部隊だ。

「ユリアお姉様のお通りよ、どきなさい――ブラックバカラ!」
 美しく、残酷に散れ。小隊【F.A.Lucifer】を先頭にて率いるユリア・スメラギ(la0717)は、大剣に想像の刃を纏わせて一閃。土煙ごと、周囲から飛びかかるナイトメア『チリアット』共を両断せしめる。

 一次進攻の結果は上々であった、と言えるだろう。
 数多くのナイトメアを撃滅せしめ、インソムニア『ネザー』周辺のナイトメアの勢力圏は狭まったことは事実。

 だが。

「なんという数だ……!」

 北方部隊長ハシモフ・ロンヌスは強面をしかめた。
 ネザーのナイトメアはまるで無尽蔵、想定以上の物量であった。ライセンサーの働きが悪かったのでは決してない――数が多すぎる。それにナイトメアの方も積極攻勢ではなく防戦を主眼に行動している。堅実だ。手堅い。端からこのネザーでSALFの戦力を疲弊させることが目論見なのか。
 この調子で戦い続けていては、ネザーに到着するまでにどれほどの時間がかかるのだろう。あまりにも泥沼の消耗戦が待っていることが目に見えていた。
 なによりも。疲弊しきったところに、別のインソムニア――例えばエンピレオからの強襲があれば? 生き延びたラディスラヴァやヘクターが再び動き出せば? ただでさえ【OL】作戦直後の状況なのだ。これ以上、損耗するわけにはいかない。

「地上からは難しい……ならば空から? 駄目だ、テンペストの機動力にバーシニャの超射程射撃……エヌイーめ対空措置も敷きおって」

 ハシモフは戦略図を前に頭を掻く。考え込む。あー下っ端だった昔は良かった、泥臭く戦地を這い回る方が俺の性に合っているのだ――そんな愚痴を脳内でこぼす。戦い続けて気付けば北方部隊長、昔はあんなに小憎たらしかったのがおえらいさんだ、思えば出世しちまったモンだ。
 ぐっとコーヒーを飲み干す。カップを散らかった卓上にカッと置いて、考え続ける。

(俺が最前線の兵士だったならば、どう考えるか――エヌイーだったならば、どんなことを考えているか――)

 そうして閃いたのは――あまりに突拍子もない作戦に思えた。最新技術に疎いからこそ思い付けた荒唐無稽であるかもしれなかった。
 こんな作戦、実施可能なのか? 危険ではないのか? あまりにギャンブル的ではないか? もしエヌイーがこれすらも対策していたのなら?

「……ええい、責任は全て俺が取る! おい、アルビナ社長へ連絡を! 今すぐにだ!」



●燃えよ綺羅星


<アルビナ・ルーシー>
「ええ、一日で造ってみせますわ」

 ノヴァ社が社長、アルビナ・ルーシーはハシモフからの言葉に対し、間髪入れずにそう言った。
 かくして宣言通りに造り出されたその兵器の名は、超大規模閃光弾『ツァーリ・スヴェート』。

 作戦はこうだ。
 別動隊がネザー周辺で陽動作戦を行っている間に、ナイトメア『テンペスト』の行動範囲よりも更に更に更に上空、ほぼ宇宙めいた位置へキャリアーで移動。
 ネザーの直上へツァーリ・スヴェートを発射。超規格外の領域を光で塗り潰す。
 その間にアサルトコア部隊、アサルトコアの上に乗った歩兵部隊が降下開始。
 光に紛れ、ネザーへ――エヌイーへ直接攻撃をしかける。
 作戦時間が終了すればピックアップ部隊を送る予定ではあるが、まさに「奈落送りは死刑宣告」のような超危険ミッションとなる。ヘタをすればピックアップ部隊が全滅し、二度と助けが来ない可能性もあるのだから。

「対空措置を取っているエヌイーと言えど、空の更に上、宇宙からの強襲までは考えておるまい。とはいえ……あまりにも、あまりにもリスキーな作戦ではある。
 ゆえに! ……俺はお前達に『行ってこい』と言う。事前に同意を得て責任転嫁など卑怯なことなどしない。全て俺が背負おう! そして戦場へ赴く者と共に、この命を最前線に並べよう!」

 ハシモフが口にしたその作戦は、荒唐無稽、前代未聞であった。
 だが、堅実な手とありふれた戦略など、かのエルゴマンサーは悉く対策していることだろう。エヌイーの弱点を作らない主義に最もその性質が現れている。

 だからこそ、勝負は一か八かしかないのだ。どうにか今を切り開く為には。

「作戦名は『流星(ミチオール)』! 奈落の底を、星で撃ち抜け!」



●奈落の底
 そこには既に何もない。
 スクラップがうず高く積もっている。
 それはまるで玉座のよう。
 そこに座すのは奈落の主。
 予感していた。何かが起きるだろう、と。
 何が起きるのかは予想ができない。だが、このまま何もしない連中ではないだろうと確信していた。
 だからこそ、ここを伽藍と化したのだ。
 それはかの悪夢なりの覚悟であり、本気である。
 深淵を覗けば、深淵もまた覗き返す。
 エヌイーは空を見上げた。奈落の底より見えるのは、数多に煌く星である。
 そしてまだ、エヌイーは知らない。
 その星の中に、『君達』がいることを。



『了』



(執筆:ガンマ
(文責:フロンティアワークス)

●踏破の時
 ニュージーランドのレイクサムナーインソムニアのコアは破壊され、『最初の解放』たる【OL】作戦は人類の勝利となった。
 その日、人類は知った。インソムニアは、陥落できるものなのだと。

「矢継ぎ早ではある。だが、これ以上ネザーの連中の跋扈を許すわけにはいかん」

 北方部隊長ハシモフ・ロンヌスは厳然と言う。
 勝利の美酒に酔い痴れたい、戦い抜いたライセンサー達に休養を取らせたい気持ちは山々だ。だがかのインソムニアにこれ以上の跋扈を許すのは、はあまりにも危険だ。
 先日はネザー勢力がロシア各地のSALF支部を襲撃し、多くのライセンサーを拉致している。それ以前にも奴らはロシア中で市民を殺し、攫い、恐怖に陥れている。今すぐにでも動き出さねば、また新しい被害が出る。確実に出てしまう。

「確かにネザーは数十年来、エンピレオと共に不落の悪夢として君臨し続けていた。だが――今はもう、過去とは違うのだ。新しい技術が。新しい組織体制が。そして個々人の経験の蓄積がある。我々は過去の我々とは違う、我々は強くなった! 進化した! 進歩した! そうだろう! ――遂に我々は、ネザーという醒めぬ悪夢を克服する時を迎えたのだ!」

 かつて、「奈落送りは死刑宣告」であると揶揄されていた。
 ネザー及びその周辺へ赴いて、無事に帰ることなど不可能とされていた。
 だが、その恐怖も今日で終わりだ。

 SALFはネザーの本格的な攻略作戦を始動する。
 第一段階として、ネザー突入に向けての周辺制圧が行われる。ネザーの周辺はナイトメアの勢力下にあり、多数のナイトメアが闊歩している。それらを掃討し、ネザー突入に向けて戦線を押し上げることが第一段階の目標だ。
 広範囲で激しい戦いとなるだろう。ネザーとの対決は、SALFの多くの戦力を投下する大規模な戦闘となる。


<アルビナ・ルーシー>
「本作戦において、ノヴァ社はSALFに全面的に協力致しますわ」

 ハシモフに並ぶのはノヴァ社が社長、アルビナ・ルーシーだ。

「悪夢が始まり、凡そ三〇年――我々ノヴァ社は、二つのロシアインソムニアに徹底的に奪われて壊されてきましたわ。今度は、私達があの奈落を踏み躙る番」

 言いながらアルビナは、この場を借りて全てのライセンサーへと公表するのだ――展開されるのはホログラム。そこには一つのアサルトコアが映る。
 機体の色は、灰色交じりの白亜である。頭部は単眼タイプのアイカメラである点はHN-01と似ているか。それは輝かんばかりの赤色で、白亜の中で鮮烈に映えていた。
 特徴的なのは四枚の翼状ユニットを持っている点だ。それは指向性ブースターであり、機体の各所にもジェットノズルが取り付けられている。
 一見して、白亜にして単眼の天使。なれど美しさや神々しさよりも、物々しさや剣呑な雰囲気を感じさせる。

「ノヴァ社新作アサルトコア――超攻撃型決戦用機体、ダンテ。遂にロールアウトの目途が立ちましたわ」

 かねてより試作状態であったアサルトコア、ダンテ。
 それはネザーで製造されていた巨大兵器ナイトギアをベースに作成されており、パイロットに負荷をかけて強力なIMD出力を得るという代物だ。

「課題であった安定面において我々ノヴァ社は特に注力し、遂にこれを克服。……その分、試作機段階にあったようなピーキーさは幾分かマイルドになりましたが、安全性と量産性、継続戦闘力の向上に繋がりましたわ。テストパイロットにご協力頂いたライセンサーに多大なる感謝を。貴方達の貴重な言葉を、できるだけ反映させたつもりですわ。
 更に我々ノヴァ社はダンテの戦闘プログラムを他機体に応用可能なものとしました。ダンテという特殊な機体を用いない分、どうしてもいくらか性能は落ちてしまいますが、戦略の幅は広がるかと。
 ダンテは既に各ライセンサーに配備できるよう量産体制に入っておりますわ。本作戦では先行配備ということで、皆様ライセンサーに是非とも搭乗して頂きたく」

 半年経たずでアサルトコアをロールアウトまで漕ぎつけるなど正気の沙汰ではない。
 そう。文字通り、ノヴァ社は復讐という一念に狂気的なまでに力を注いだのだ。
 アルビナを始め、ノヴァ社の技術者はライセンサーではない者ばかりだ。ナイトメアと戦えない者ばかりだ。イマジナリードライブを扱えない者ができる、ナイトメアを殺す手段――ネザーへ復讐する方法こそが、ダンテという決戦兵器の開発だった。

(……父さん、母さん、ジーナ……どうかダンテと、皆を見守っていて)

 アルビナも復讐者の一人である。
 二〇年前、両親も妹も友人も故郷もネザーのナイトメアに殺し尽くされた、復讐者である。

(必ず――私達は勝ってみせる)

 アルビナは胸を抑えた。服の下には家族写真が収められたロケットペンダントがある。
 そして深呼吸の後、彼女は凛然と告げるのだ。

「プライドで命を守れるか? ――Нет(いいえ)と告げられる者にこそ、この機体は相応しい。
 汚泥にて這い足掻き、薄汚れても勝利を渇望する。そのような者にこそ、このダンテは相応しい。
 幾つも喪い、傷を負い、それでもまだ護りたいと叫ぶ者にこそ、ダンテのパイロットに相応しい!」

 かの機体の名はダンテ。
 奈落と至高天を踏破する者の名を刻まれた、白亜の巨人。
 報復と復讐の化身。犠牲を背負い明日を拓く、煉獄の意地。
 ケダモノの衝動とニンゲンの冷酷を併せ持つ、決別を告げる者。



●厄と災 02
「――ええ、有意義でしたよ。それに約束は守りましたとも。ああ、レイクサムナーのインソムニアが陥落したことは残念でした。しかしラディスラヴァもヘクターも頑張ったと思いますよ。あまり責めないであげて下さいね。もし配属を決めあぐねているのでしたらうちにして頂いても良いですよ。二人共優秀ですから。
 ……分かっていますよ。これは戦争です。SALFの皆さんは次はこちらに来られるでしょうから、私達も準備を進めていますよ。
 そうそう。本題ですがナイトギアが完成しましたので、データを送っておきますね。実戦データについては中継するとしましょう。これからの戦争の役に立てば幸いです。……それともう一つの課題、イマジナリーシールドの中和ですが、こちらはなかなか難しいですねぇ。ある程度は成功しているのですが、汎用技術となるとどうにも。私だけのユニークスキルでは意味がありませんからね、それも不完全なものですし。いやはや、ライセンサーのリジェクションフィールド中和能力が羨ましい。
 ……はい? まるで引継ぎ作業のようだ、と? 当然じゃないですか。戦う以上、絶対に負けない保証がどこにあると? もちろん最初から負けるつもりではありませんが、対策は必要なことですよ。慢心はいけません。考えて、備えて、対策して、できることはやり尽くさねば。プライドで命を守れますか? では引き続き善処します、どうぞよろしく」



『了』



(執筆:ガンマ
(文責:フロンティアワークス)

●嵐の後、なれど雨中
 SALF北方部はひっくり返ったような慌ただしさに包まれていた。
 ロシア各地で発生した、ロシアインソムニア『ネザー』勢力の攻勢。
 それは『ライセンサーの拉致』を目的としたものであり――結論から言うと、攻勢の規模に対して被害は少ないと言えるだろう。ライセンサー達の尽力の賜物だ。
 今はライセンサーへの攻勢は落ち着いたが、使徒にナイトメア、そしてエルゴマンサーと不穏な勢力が跋扈していることに変わりはない。引き続きロシア方面での『ネザー』勢力との戦いは続いて行くことだろう。

 北方部隊長ハシモフ・ロンヌスは慌ただしい司令部にて、強面の眉根に皴を刻んでいた。
 彼が頭を悩ませているのは、ネザーに連れ去られたライセンサー、及び未だに所在不明な市民らについてだ。もちろん救出を行いたい、が、収容されている場所はおそらくインソムニア『ネザー』。救出作戦とは即ち、ネザー陥落を目指した大決戦となる。
「……無事だといいのだが」
 何しろ今、SALFはニュージーランドで既に大規模作戦を展開している。……今は待たねばならない時だった。戦力問題は勿論、レイクサムナーインソムニアの戦闘結果は必ず『ネザー』攻略にも役立つはず。

 ――『ネザーを攻略できれば、今捕獲している人間は全て解放すると約束しましょう』。

 それはある任務において、そよぎ(la0080)の言葉に対しエヌイーが返した言葉だ。
 かの奈落を踏破すれば、多くの命が救われるのだろう。
 ……歯がゆい気持ちはある。ハシモフはぐっと目を閉じ、そして開いた。
 今は――ニュージーランドでの作戦成功を祈りながら、来るべき時に備えねばならぬ。


●厄と災

<エヌイー>

<ザルバ>
「アズライル。ヘヴン。シーラ。バルアス。それから全ての私の同胞。皆、よく頑張っていますね」
 それには全て見えるのだ。子らを見守る父のように、それは悪夢を通して世界を知る。
「ニュージーランドの方も盛り上がっているようですね。ラディスラヴァとヘクター達には頑張って欲しいものです」
 かの地のナイトメアはそれの配下ではないが、知りたいから目を送って中継はしている。
 あっちはまさに火の点いた火薬庫さながらだ。援軍を出してもいいが――
「ちょっと遠いんですよねぇニュージーランド。ああ、でもちょっと行って来ましょうかね。今ならロシアの人々も疲弊しているでしょうし……ダメですかね、ザルバ君に怒られそうだ」
 人間の真似をして溜息を吐きながら、「ならば」と悪夢は思い付くのだ。
「ザルバ君、聴こえますか」
 全く気軽な様子で、それはこの惑星における最高司令官に通信を行うのだ。
「今お時間よろしいですかね。ちょっとニュージーランドの方に行きたいのですが」
『……』
 返って来たのは呆れたような沈黙だった。
『自らの立場を理解しているのかね、エヌイー』
「もちろん、理解していますよ。『私』は今もこうしてロシアの深い場所に居て、こうして貴方に話しかけていることが証拠です。なに、たった数分、ラディスラヴァ達の邪魔なんてしませんよ。戦線の隅の方を少し見るだけです。よろしいでしょう?」
『……』
「その沈黙と溜息を肯定と受け取ります。どうもありがとう。君も偶には外に出るといいですよ」
『お前ほどの“引きこもり”はそういないと思うがね』
「ああ、君、随分と溜息が上手になりましたね。素晴らしい。……しかして不思議なのですよ。なぜ我々は人間のように会話をしたり情動表現ができるのに、彼らのように想像の力を用いることができないのか?」
『いずれ滅ぶ種族の、下らん機能だ。――通信を切るが、構わんね』
「ええ。この話はまた今度」



『了』



(執筆:ガンマ
(文責:フロンティアワークス)

●n
「あれが、人間がナイトギアをサンプルに組み上げた技術……『ダンテ』」
「素晴らしい。人間は窮地に追い詰められてこそ本当の力を見せてくれる。ああ、実に参考になる」
「……そうか。混沌雑多として散らばってしまうのならば、強い力でまとめあげれば良かったのですね」
「想像の力を持った者を起点に、自我の強制拡大、他自我との接続、境界融解……バラバラの細胞で一つの脳を」
「なれど人間は『もつ』でしょうか?」
「ライセンサーならばあるいは。なれど使い捨ては否めませんね。精々一度の出撃が限度かと」
「洗練が必要であることには同感です。であらば実験が必要ですね。何事も挑戦です」
「では皆さん、参りましょうか」


●五月某日
 ロシア某所、そのSALF支部は小さなものであるが、広大なロシアをライセンサーが護る為の重要な拠点であった。
 その日は管轄区域のあちこちにナイトメアが広く目撃されたのことで、所属する多くのライセンサーが出撃していた。
 今日は皆が忙しい日のようだ。警備係のライセンサーは表情を引き締めたままそう思う。そして自分の仕事をこなしながら考えるのは、昨今の戦況のことだ。

 使徒やレヴェルに対するカウンター作戦も各地で成果を得ており、人々の失踪被害は減りつつあった。使徒がもたらす市民への精神的な不安も、ライセンサーの活躍によって甚大なモノにはなっていない。
 更にノヴァ社は、『ネザー』『エンピレオ』に対する烈火の執念から、この短期間で新型アサルトコアの試作機を作り上げたという。なんでも超攻撃型で、完成すれば今後のインソムニア攻略に大いに役立つだろう。
 遥かニュージーランド、【OL】作戦の方も順調なようだ。人類は、インソムニアなる難攻不落の城砦を遂に攻略できるのかもしれない。

 ……このまま、いつか、『ネザー』『エンピレオ』も撃破できる日が来るのではないか?

 それはロシアにおける長い敗戦の中、見え始めた一縷の希望。
(勝てるかもしれないんだ、人類は――)

<エヌイー>

 警備員は空を見上げた。
 その肩を、後ろから、ポンと叩く手があった。
 警備員が驚いて振り返れば、そこに涼やかな顔立ちの男が一人、立っている。
 いつのまに――気配もなく――何者――めまぐるしい謎と驚愕に警備員が目を見開くと、男はニコリと微笑んで。

「初めまして、私はエヌイーと申します。貴方はライセンサーですか?」



●その戦意に祝福を  ロシア各地で一斉に事件が起きた。
 各地にあるSALF支部、出撃中のライセンサーが、ナイトメアによって次々と襲撃を受けたのだ。
 それも無秩序に戦力をぶつけるのではなかった。
 デコイとして出現させたナイトメアのもとへライセンサー達を出撃させ、手薄になった支部を襲う。
 ナイトメアとの戦いの最中・あるいは終了後、疲弊しているライセンサーを襲う。
 ……明らかに戦略的に動いていた。

 彼らの狙いは、どうもライセンサーを拉致することらしい。
 ナイトメアはライセンサーにトドメを刺さず、拘束してどこぞへと運んでいるとの情報がある。
 なぜか。……これまで市民がネザーに拉致された例を考慮すれば、何かしらネザーの連中が『使用』したいからだと予想できるだろう。

 ――これは、ナイトメアによる『人狩り』だ。

「おい! 事前に目撃情報のないナイトメアが――」
「支部周辺に多数のナイトメア反応!」
「援軍を派遣して下さい! 早く!」
「何て数だ……こんなの聞いてないぞ!」
「囲まれています! 撤退できません!」
「どうして支部との連絡が繋がらないの!?」
「来るな! 来るな! 離せぇえええ!!」

 手薄な場所に、疲弊した戦士に、悪夢が雪崩れ込む。
 奴等はライセンサーを殺すことはしなかった。痛めつけ、思念の盾を粉砕し、無力化させ、拘束し、奈落へと運んで行く……その過程で、命さえあれば四肢が多少傷付くことすら厭わなかった。
 人間が釣りで魚の口の中に針を刺すのと同じこと。

「ロシアの方々は、もう随分と前に戦意喪失したものと思っていましたが」

 エヌイーは、血に濡れた廊下を一人歩く。
 静まり返った支部。誰もいない世界。奈落より来たエルゴマンサーは、正面玄関の扉を開けた。

「ああ。それでもまだ、立ち上がろうと足掻くのですね。素晴らしい。そうこなくては。いいでしょう。何度でも。受けて立ちますとも」

 太陽の輝きに目を細め――見せしめの為にライセンサー以外を『喰い尽くした』怪物は。
 盾も体も砕かれ、それでもまだ息がある先程の警備員に、手を伸ばすのだ。

「さあ、行きましょうか。進化の果てへと。貴方の犠牲は、次の進化の礎になる」



『了』


(執筆:ガンマ
(文責:フロンティアワークス)

●Durante

「これがノヴァ社最新アサルトコア――」

 ノヴァ社研究所。
 SALF北方部隊長ハシモフ・ロンヌスは、鉄の巨人を見上げていた。

「その名を『ダンテ』。奈落(ネザー)と至高(エンピレオ)を踏破する者」

 武骨なハシモフの隣にいるのは、麗しい婦人だ。
 ノヴァ社が社長、アルビナ・ルーシーその人である。

「随分と早い出来上がりなのだな」
 どこか物々しい雰囲気をまとう機体を隻眼で眺めつつ、ハシモフが言う。アルビナは平然と答えた。
「うちの社員は優秀でしてよ。……皆、あの悪夢に復讐したくて堪らないの」

 ――復讐。

 ロシアインソムニア『ネザー』『エンピレオ』。
 それがノヴァ社に植え付けた悪夢は数えきれない。
 技術も人員も領土も誇りも友達も家族も思い出も人生も、何もかもを蹂躙していった。
 悪夢が始まり凡そ三〇年。
 当時を知る社員だっている。あるいは遺志を継いだ者がいる。
 ライセンサーのようにイマジナリードライブの力を持たない者が、ナイトメアに復讐できる手段。
 それこそが兵器開発。アサルトコア:ダンテは、数多の復讐を背負っている。

「スペックとしては超攻撃型、反面細やかな機動性や精密性は課題があり、継続戦闘力は低い。何よりもまだ不安定で――そう、とてもパイロットを選ぶの」
 資料をハシモフに渡しながら、アルビナは淡々と続けた。
「生半可な精神力では、ダンテに圧倒されてしまう。これを乗りこなせるライセンサーは少ないでしょうね。でも――もし乗りこなせる強いIMDの持ち主がいるのなら」
 一間。アルビナはダンテを強く見澄ましながら、こう言った。
「このダンテは、奈落を踏み潰し、至高を握り潰すでしょう」
 そしてその為には、よりダンテを洗練させる為のデータが必要だった。
 既に起動実験の為のライセンサーを招集している。このダンテが失敗作になるか、傑作になるかは、これからのデータにかかっていた。
「成程な」
 資料をぺらりとめくりながら、ハシモフは相槌を打った。今一度、ダンテを見上げる――。

(復讐……か)

 綺麗な感情ではないだろう。だがそれを頭ごなしに否定するような青臭さをハシモフは持ち合わせてはいなかった。なにせ条約も人道も騎士道精神も通じぬ連中と戦争をしているのだから。
 むしろ。絶望に足を止めてしまうより、復讐に駆られながらでも前に進むことに意味があった。
「これがダンテならば、さながらパイロットはウェルギリウスか、ベアトリーチェか……」
「あら。意外とリリカルなことを仰るのね、ハシモフ北方部隊長殿」
「読書は好きだぞ。……今日日は電子書籍ばかりでいかん。文字を読むなら紙に限る」
「相変わらずですね、貴方。その書類、貴方の為の特別印刷(オーダーメイド)でしてよ」
「お前さんの歯に衣着せぬ調子も変わらんなぁ。大事にとっておくよ、このオーダーメイド」



『了』


(執筆:ガンマ
(文責:フロンティアワークス)

●怯えたAIは悪夢を見るか
「ソラリス隊員は?」
「はっ。現状は安定しているとのことで――精神が疲弊し不安定なことから、戦線復帰は未だ難しそうですが」
 SALF北方部。指揮官であるハシモフ・ロンヌスの問いに、隊員が背筋を伸ばして答える。
 ハシモフは隻眼で手元の資料を見た。今時、紙の資料というのもめずらしいが、彼にとっては紙媒体の方が目に馴染むのだ。
 ソラリスがライセンサー達によって救出され、ようやっと会話ができるようになったのがつい先日のこと。アナログなデータに記されていたのは、ソラリスの証言だ――。

 ――ソラリスについて。
 仲間と共に、ロシアのインソムニア『ネザー』へ潜入任務を行ったものの、失敗。
 ナイトメアに捕獲され、想像を絶する人体実験を受けることとなるが、ソラリス自身は辛うじて脱走。他のメンバーの生死不明。
 ネザー脱出の為に、ソラリスはネザー内にあった『謎の巨大人型兵器』を強奪し搭乗。
 その後、ナイトメアの追跡を受けるも、SALFによって無事に保護された。

 ――謎の巨大人型兵器について。
 アサルトコアに類似した、巨大人型兵器――その名も『ナイトギア』、とのこと。
 ナイトメアに滅ぼされてしまった異世界の技術が用いられているという。その技術は難解なものであるため、ナイトメア側は完全解析には至っておらず、ナイトギアは未完成の代物である。
 ナイトギアは複数の人間を生体エンジンとして積んで、脳(精神)を刺激することで恐怖させ、その精神エネルギーで起動する。
 ソラリスがナイトギアによって恐慌していたのは、精神を恐怖という感情で刺激されていたからだ。……ソラリスが搭乗していた機体より、複数の遺体が発見されている。
 ナイトギアは本来、エルゴマンサーが搭乗する対人兵器である。

 ――ネザーについて。
 特殊なフィールドが展開してあり、衛星カメラなどの視認を阻害している。
 穴の中はまるで『絵画に描かれる地獄』のように、壁面に沿うように施設が設けられてインソムニアが形成されている。
 ネザーは研究所にして工場の役割を持つ。
 司令官であるエルゴマンサーの名前は『エヌイー』。外見不明。戦闘屋というより技術者の側面が強い。

 ――エヌイーについて。
 ソラリスの証言や、『過去に行われたネザー及びエンピレオ調査について』を照合するに……
 ナイトメアにとっては食事であるはずの人間を使い潰すナイトギアの作製、捕食せずに町一つ分の虐殺を行うなど、ナイトメアらしからぬ行為が特徴。
 ソラリスがネザーで得た、エヌイーの理念は以下の通り。
「この世界の人間の発想力は素晴らしい。
 人間のポテンシャルは見事なので、今後いっそう彼らは反攻することだろう。アサルトコアによる大攻勢も激化するはず。
 だからナイトメアはもっと『対人戦略』をしっかりしておくべきだろう。
 ここで培った技術や戦略は、次の侵略にも活きるだろう。
 人間は強い。もっと戦闘本能を刺激してやれば、もっともっと凄い技術や戦略を見せてくれるはず。
 それを『喰らえば』、我々ナイトメアはもっともっともっと進化できる」

 ――エヌイーが作製した対人兵器『使徒』について。
 人間の脊髄に特殊なナイトメアが寄生することで発生するナイトメア。
 エヌイーが作製した対人兵器の一つ。
 寄生型ナイトメアが人間の脊髄に寄生し、精神捕食、脳神経や細胞に張り巡らせる極細の触腕による肉体強化及び操作、リジェクションフィールドの展開、その他特殊能力を行使する。
 交戦情報、目撃情報は現時点でまだ極めて少ない。



●対処法とカウンター
「……ていうのが、今んとこ分かってることだ」

 ニキ・グレイツ(lz0062)がホログラム資料を見せながら、一同にそう言った。
「ナイトギアに多くの人間が材料にされるってこたぁ……少なくない数の失踪事件が起きているはずだ。ゆえに! 我々SALFはロシアを中心に失踪事件の洗い出しを行った。
 結果! レヴェルやナイトメア共が、人身売買やら拉致やらをしてたってことが判明! 我々のオーダーは、この下劣なる侵略行為をぶっ壊すことだ!」
 教官の大きな声が響く。

「奴等の跋扈を、決して赦すな!」



●奈落からの亡命者・アフター
 時は戻って――
 それはソラリス救出任務が完了した直後のこと、SALF所有の空母が港に到着してすぐのことだった。
 空母から降りたライセンサーが目にしたのは、ナイトギアが厳重にそして迅速にどこぞへ回収されていく風景である。回収作業に当たっているのは、どうもSALFの者ではないようで……。
「……あ。あの人が付けてるバッジ、ノヴァ社の……」
 気付いたのは神崎 花音(la0020)だ。
「ノヴァ社……ロシアに拠点をおくメガコーポですね。ギラガースを作っているところの」
 鈴鴨(la0379)がそう言えば、正に先ほどそのギラガース――重騎士鎧装【ブロッケン】――に登場していたクリカラ=ドラグレイズ(la2920)がウムと頷く。
 不思議に思ったモーリー(la0149)は、作業の指揮をしているスーツの男に話しかける。
「あのー、『アレ』はどこに運ばれるんですか?」
「……答える義務はありません」
「ほう? かの巨大兵器をナイトメアとの戦闘の末に回収したのは我々なのだが」
 男の素っ気ない物言いに対し、異議を唱えるようにエドウィナ(la0837)が言う。
 すると男は一同に向き直り、一瞥すると、彼女らが本物の出撃部隊であることを理解したようだ。「失礼しました」と一礼をする。
「で、なんだってノヴァ社がアレの回収を?」
 ケネス・スタンリー・オティエノ(la0430)が顎で作業風景を示す。スーツの男――ノヴァ社のエージェントが頷いた。
「アレの解析を我々ノヴァ社が行う予定でございまして。……ご安心ください、SALF長官エディウス・ベルナー殿には既に許可はとっております」
「嗚呼、成程。ノヴァ社にとっては、ネザーやエンピレオってのはトラウマだからなぁ――」
 ヴラム ストークス(la2165)が片眉を上げた。

 ――二〇四九年、ノヴァ社のアサルトコア処女作ギラガース四機編隊、エンピレオ周辺調査に向かうも、ロスト。

 ノヴァ社は負けた。ネザーに、エンピレオに、勝てなかった。至らなかった。叶わなかった。
 八つ裂きにされ凌辱されたのだ。技術も人員も領土も誇りも守りたかったモノも何もかも。

「アレはネザーで造られていると思しき兵器。その解析を行えば『対策』の発見になるでしょうし、何かしら役立つ技術が見つかるかもしれない――そういうことですわね?」
 花咲 ポチ(la2813)がそう言えば、エージェントは沈黙で肯定を示した。
 対し、いぶかしむように十八 九十七(la3323)が唸るように呟く。
「……ナイトメアの技術を転用する、ってことですの?」
 危険ではないのか、何か罠があるかもしれないのではないか。『敵』というモノがどれだけ悪辣かを、九十七は知っている。
「我々は最早、なりふり構ってはいられないのです。既にプライドは奴らによって蹂躙されてしまった。……我々ノヴァ社は、なんとしてもかの『奈落』と『至高天』に打ち克ち――過去の悪夢を打破せねばならないのです」
 エージェントは淡々と、しかし瞳には復讐心を滲ませて、こう言った。
「我々は。ノヴァ社は。この国は。勝たねばならないのです。ネザーに、エンピレオに、ナイトメアに」
 握り締められたその拳は震えていた。エージェントがどれだけ悲劇と絶望を見、無力感を噛み締めてきたのか、察することができるだろう。
 ロシア。それはエレーナ フェドロワ(la1815)の故郷である。少女はじっとエージェントを見つめると、ペコリと頭を下げた。
「……解析……よろしく、お願い……します」
「勿論です。……ノヴァ社の威信にかけて」



『了』


(執筆:ガンマ
(文責:フロンティアワークス)

●Noise
「――け …… たす…… ……助け て ――」

 悪夢が。
 悪夢が蘇る。
 悪夢が繰り返される。

 わたしが なんどでも こわされる


●四月の良く晴れた日の出来事だった

 奈落(ネザー)、と呼ばれる場所がある。

 場所はロシア、カティリク。
 ナイトメアの侵略が始まった黎明期、激しい光が『落ちて』きて――その上の一切を焼き尽くしたと同時に、大地に垂直の巨大穴を開けた。
 その大穴はナイトメアの要塞、すなわちインソムニアとなり、一切の人を寄せ付けぬ地獄と成り果てた。
 真っ暗な穴はいかなる手段を用いてもサーチすることができず、未だそこは謎に包まれている。

 かといって、放置を是とするSALFではない。

 ナイトメア側にも悟られぬよう、SALFは極秘任務としてネザーへの潜入捜査を実行。
 選りすぐりのライセンサー部隊が出撃し……
 ――二度と戻らなかった。

 そしてこれは、潜入部隊がロストしてから数か月後の出来事である。
 良く晴れた日のことだった。

 ロシア近海に、謎の巨大人型兵器出現。
 それはアサルトコアに類似していて……
 複数のナイトメアに、追われていた。

「――ネザーからの生還者、だと?」

 報告を受けたSALF北方部隊長、ハシモフ・ロンヌスは隻眼を見開いた。
「はッ」と、通信機越しの兵士が緊迫を押し殺した声で答え、続ける。

「件の『謎の巨大人型兵器』より通信が入りまして――パイロットはロストしたネザー潜入部隊の一員、ソラリス隊員と名乗っております!」
「その情報、確かだろうな! ナイトメアの擬態ではなく、か!?」
「それは……まだ……分かりませんが、ソラリス隊員及び謎の兵器はナイトメアに追跡されております、彼女自身がナイトメア、という可能性は低いかと思われます!」
「他に彼女から通信は入っていないのか?」
「それが――ノイズが酷く、ソラリス隊員自体も錯乱状態のようで…… ただ、『助けて』『怖い』『痛い』と悲鳴のように繰り返しておりまして……!」
「ううむ……!」

 ハシモフは電話口で唸った。

「……何にせよ! 大切な仲間の危機だ。みすみす死なせては士魂の恥! 直ちに救出作戦を実施せよ!」
「了解でありますッ、指揮官殿!」

 ハシモフという男は最新技術に関して積極的ではない。
 だが、ネザーから現れたと思しき謎の機体――これには『何かある』、と兵士としての本能が告げていた。

 かくして。
 SALFライセンサー・ソラリスの救出。
 謎の巨大人型兵器の回収。
 それらを追跡するナイトメアの殲滅。
 上記のオーダーを課せられた任務が、発動する――。



『了』


(執筆:ガンマ
(文責:フロンティアワークス)

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