サマーナイト・メア マスター名:花巻はるまき

形態
ショート
難易度
普通
ジャンル
救出/防衛
人数
68
相談期間
3
プレイング締切
09/06 24:00
完成予定
09/26 24:00

●オペレーションルーム

大規模なナイトメア襲来――そんな切迫した状況で、ライセンサー達は方々への出動を余儀なくされていた。
そして対応に追われているのはもちろん、特別な力を持つ者達だけではない。

「〇〇高速にナイトメア出現。速やかに討伐、孤立した市民を救助して下さい」
「こちらSALF支部。問題の起きている場所と、被害状況を教えてください」
「〇〇商店街に原因不明の濃霧発生。要請を受けたライセンサーは速やかに出動し、まずは住人の安全を――」

SALF本部だけでなく、地方に点在する支部にまで、通常時とは比較にならない量の通報が集中していた。
普段は数十名で対応しているこのオペレーションルームでも、今は100名以上の職員で緊急対応を行っている。
鳴りやまない通信にオペレーター達が1つ1つ対応する中、臨時職員の1人が新たな通報を受けた。

「はい、こちらSALF支部。……えっ? 〇〇山で、花火師達が座り込んでいる、ですか?」

今は各通報への対応と並行して、地域住民の避難指示も行っている。
都心部など襲撃の多い地区から離れるよう、順に誘導を進めている最中だ。危険地域からの避難拒否――臨時職員の顔が曇る。

「その山は確か、市街地からもかなり近いですよね。よりによってそんな所で……」

住人の説得が一筋縄でないことは救助活動でもよくあることだ。
しかしSALFにまで通報が入ったということは、それだけ緊迫した状況だということを意味していた。
臨時職員はより詳しい情報を聞き出した後、通信機を手にライセンサーへの出動要請を行う。いずれにしろ、ここからやれることは1つだ。

「危険地域付近で、避難を拒否している市民が複数いるとの情報がありました。場所は本日花火大会が予定されていた〇〇山で、避難を拒否しているのは花火師12名。今回の騒動で中止となった花火大会を強行するつもりのようです。激戦区が近い為、ナイトメアに襲撃される危険があります。要請を受けたライセンサーは至急、周辺地域の安全を確保。花火師達の避難誘導を行って下さい」

ライセンサー達から任務了解の連絡を確認し、通信を終える。しかし一拍もおかず、また次の受信音が鳴り響いた。


●都市近郊の山、山頂広場

「何度言われようが、花火は今夜打ち上げる」

ライセンサー達が現場に駆け付けると、厳めしい顔をした親方が淡々とそう告げた。
花火師達は赤々と燃ゆる西日を背にして、同じ様に腕組みしながら座り込んでいる。
状況が状況だけに、祭りを予定していた広場は閑散としており、当然ながら客もいない。
雑草まで綺麗に抜き取られた広場の奥には、等間隔で並べられた円筒と大量の花火玉があるのみである。

「こいつを打ち上げる為に、どれだけの時間を費やしたと思ってやがる!」
「台風やら何やらで延期されて、最初の予定日から1ヶ月半だ!」
「これ以上は待てねぇ!」
「そうだそうだ! オメーらさっさと帰れ!」

救援に来てくれたはずのライセンサーを、追い返そうとする花火師達。
どっしりと胡坐をかく男達からは、頑として動かないという固い意志が感じられる……が。

「まあまあ親方~。確かにかなり延びてっけど、まだ季節外れって訳でもねーッスから。あと1週間くらい待っても良いんじゃないッスか~?」

固い意志……の中に、緩い感じの青年が1人。
花火師達と同じ法被を着ているので恐らく新米なのだろうが、他の仲間達と比べて微妙に雰囲気が軽い。
先輩花火師達から物凄い目力で見つめられているのにも気付かず、ヘラヘラと避難を促している。

「去年も雨で延期になったけど、結局は大盛況だったじゃないッスか~」
「火薬がしけっちまう雨なら延期も辛抱できる。だがナイトベアなんてぇわけわからんもんにまで、邪魔されてたまるかってんだ」
「親方、ナイトベアじゃなくナイトメアっすよ~」
「う、うるせぇ! 新入りは黙ってろぃ! ……誰が何と言おうが、これ以上の延期はしねぇ」

親方は怒った様に耳を赤くして、胡坐をかいたまま全員に背を向ける。
避難を促しているのか発破をかけているのかイマイチ判断できないが、新入りは説得に失敗した様だ。
金髪の彼を除いた11人の花火師達は、ライセンサーの言葉に全く耳を貸そうとしない。かといってこの青年花火師も、自分だけ逃げる気は無い様だが。

「もう意味わかんねーッスよ。なんで今回に限ってそんなに拘るかな~」
「なんだ新入り、お前なにも知らずに来てやがったのか?」
「今夜しかねぇんだよ。この打ち上げを最後に、親方は……」
「バカ野郎! 余計なこと言うんじゃ……ぐぅっ!?」
「親方!?」

親方が急に身体を丸めて唸り出したのを見て、ライセンサー達がすぐさま駆け寄る。
苦悶の表情で左胸を握りしめる親方を見て、察した者もいる様だ。もしかしたら彼はこの花火を最後に――引退するつもりなのかもしれない。
難しい表情で黙り込むライセンサー達を一瞥した後、親方は深く息を吐いて立ち上がった。

「……おめーらは新入り連れて先に逃げろ。花火は俺1人で打ち上げる」
「な、何言ってんだ親方! そんな体で……」
「そうッスよ! 親方を置いて逃げられるわけ無いじゃないッスか!」
「新入り! テメーは逃げたいのか逃げたくないのかどっちなんだ!?」
「そ、そりゃ逃げたいッスよ! 町じゃ戦闘のせいで煙も上がってるし、もし被害がここまで来たら……俺はいいけど、親方達が危ないんスから!」

花火の打ち上げ場所として、山頂広場周辺の木々は都心部を見渡せる程度にぐるりと切り取られている。
新入りの彼の言う通り、事前に通達のあった戦闘地域も近い。これ以上ごねるようなら、安全の為に力ずくで移動させなければならなくなるが――。

ボンッ! ヒュルルル~~……

強硬手段を視野に入れ始めてすぐ、大きな爆発音が響き渡った。
花火の打ち上げ音に似ているが、ここではない。ライセンサー達が視線を巡らせていると、花火師の1人が呆けた様に空を指差した。

「あ」

上空から、何かが近づいて来ている……というより、落下してきている。
市街地から立ち上る煙の1つが、上空で弧を描きながらこの広場に向かって来ていた。

「避けろーー!!」

誰がそう叫んだのか理解する間もなく、全員が跳び上がる様に動いた。
そして3メートルほど離れた頃――

ドーーーーン!

花火師達の元居た地面を砕くようにしてに、黒い大きなものが轟音と共に着地する。

「い、一体何が起きたんだ!? 花火玉に引火したのか!?」
「違うそうじゃねえ! ありゃあ……あれ、が……」
「ナイトメアだ……」

土煙の中から徐々にその姿を現したのは、全長8メートルはありそうな巨大なクマだった。
だが市街地からここまでジャンプだけで辿り着いたことを考えれば、当然、普通の動物ではあり得ない。
ライセンサー達がEXIS(エクシス)を構えながら、花火師達を庇う様にして立つ。

「おいオメーら! 俺達はどうなっても覚悟の上だが、親方と花火玉だけは傷つけるなよ!?」
「いやいや! そこはみんなで逃げましょうよ先輩~!」
「アホ! 花火師が花火置いて逃げれるかってんだ!」

実に勝手なことを言う花火師達だが、もともと助ける為に来たのだ。
花火師ごと移動するようにジリジリと後退りながら、ライセンサーはすぐにでも対策を考えなくてはならなかった。


●目標
花火師12名の命を守り、ナイトメアを討伐する

●登場

・ナイトベア(攻撃型ナイトメア)
全長8メートル、体重7000キロの巨大なクマ型ナイトメア。
腕(爪)による強力な斬打撃と、噛みつき攻撃などを行ってくる。
しかし最も危険なのは、市街地から山頂まで一瞬で移動したジャンプ力。
戦闘中に2回、20mジャンプからの落下攻撃を行ってくるので注意が必要(ジャンプによる砂煙で、落下位置の測定が困難)。

・花火師
なんとしても今日中に花火を打ち上げたい、わがm……もとい職人気質な方々。親方と新入り(軟派な金髪にーちゃん)を含めた総勢12名。親方は胸に持病あり。

●プレイングについて

・広場内の配置
整地された山頂広場の大きさは、大体6km×4km程度。
市街地が見渡せる程度には伐採されていますが、それ以外の場所は木々で覆われています(山なので)。
それぞれの位置を直線に並べると【花火玉&円筒||ナイトメア||ライセンサー||花火師】という状態です。
花火師はライセンサー達のすぐ後ろにいて、花火玉はナイトメアの後方20メートルほどの場所に積み上がっています。

・留意点
広いので本来なら戦いやすい場所かもしれません。
しかし今は非戦闘員である花火師達と、花火玉という大量の火薬があります。引火すると大変な事になるので注意。円筒は素人(PC)には扱えません。
尚、花火師たちは花火玉にも無事でいて欲しいと思っています。花火玉を失っても任務失敗にはなりませんが、花火師達にとってはかなりショックな結末になるかもしれません。

※敵が素早い(一瞬でジャンプしてくる)ので、先に花火師達だけ逃がすのは危険です。親方も持病のせいで走れません。


アドリブ絡み・歓迎
<行動>
熊対応上側【A】に位置する
熊との戦闘で、花火師達から引き離しながら、前衛で盾を構えて立ち回る。
熊に攻撃をする時に後ろ脚を集中して攻撃を行う。
敵が爪の振り回し攻撃の姿勢に入る直前に、熊の間合いを一気に詰めてすり抜けてパワークラッシュを後ろ脚に叩き込む。
また、遠くに逃げた場合は、フォースアロで攻撃する。
敵がジャンプ攻撃で空中に居る時にフォースアローを撃つ。
防御は盾を使用し、盾を寝かせ攻撃を逸らすようにする。
シリアル(la0250)さんの方針に準拠。位置は【A】
適宜ヒール。射撃は皆に合わせ可能なら脚に集中
ジャンプ攻撃は跳んだら即その場から3m以上離れることで対応

「初陣ゆえに学ぶ側…とはいえ、俺も俺らしく行きたいね」
余裕あれば生物学を下地に特徴を観察。隙や攻撃の起点となる挙動があれば随時連携
観察から跳躍が使用不可になったか見極められれば攻撃を集中化よう呼びかけ
「…姿勢が変わったな。あの重心で飛べるか?脚が現界じゃないかな」

●戦闘後
「目上の者全員に逆らって正しい主張を続けるというのも、勇気が無きゃ出来ないと思うんですよ、俺は」
親父さんに向け、偽りなしに若手くんを絶賛
「引退を終わりと考えず、伝える時間が出来たと思えませんか。…意外と、貴方を超えるのは彼かもしれませんよ」
満足して病気をなおざりにしないよう目標を与えてみたい
次にこんなことがあれば守れるとは限らないし
立ち位置:【A】or【B】で人数合わせ兼相手の動く方向をコントロールし、敵のジャンプで陣形が崩れた際のフォロー行動

前衛、まずは先手を取り移動攻撃で相手を挟撃できるポジションにつき、足元を動き回って後ろ足アキレス腱を狙って攻撃
回避されてもいいが、回避の際に足を動かさざるを得なく体勢を崩させ、続く味方攻撃が当たりやすくなるよう攻撃
その後、挟撃したまま攻撃を続け、相手が後ろを向いたところで再びアキレス腱を狙って攻撃しつつ、できる限り相手移動に合わせ花火から敵を引き離す
この時、相手に大きな隙があればパワークラッシュを使用しアキレス腱へ攻撃、一気に攻める

敵攻撃は4つ足歩行時の噛みつきや振り払い、突進の素早い動きや、立ち上がってふりおろし攻撃があると想定、相手の動きをよく見て体の可動域で相手が攻撃しづらい立ち位置へ
ジャンプ攻撃時は現在位置をすぐさま離れて誰もいなかった方向へ散会し避難
また、花火師さんが避難が間に合わない人がいそうな場合、背負って逃げるなどの対応も考慮に入れ皆と情報共有

ジャンプの回数制限について、飛んだあとの相手の動きを観察し、疲れや動きの精彩を欠くなどの予兆がないか確認
また、ジャンプ後陣形が崩れた際は素早く立て直しを図り、花火師さんに狙いが向く前に接近、あるいはミネルヴァP8000に装備を切り替え顔など相手が嫌がる部位を狙い攻撃し注意を引く
■立ち位置【C】ライセンサー後衛
花火師の近くに陣取ることになるため、同時に花火師護衛を行う。
ブザーマンさんの作戦指示、了承。味方と動きを合わせて連携、陣形展開。

■金髪の青年をはさんで説得と説明を
初対面の人物がどうこう言うより、話を聞いてもらえるのでは。

花火玉から離れ、破壊されないようにライセンサーがナイトメアの気をひく。
戦闘が早く終われば、それだけ花火玉が破壊されるリスクも減る。
そのためにご協力をお願いしたい、と。

熊に上空からとびかかられないようにする。
花火師さん達を自分の後ろにかばいつつ、
樹木の枝葉で空を遮ることができる場所へ避難する。
熊の動きに注意しながら、じりじりと後退して森林地帯へ。
親方の持病が心配なので急激な動きはしない。

■戦闘
フォースアローは熊が攻撃してきた場合の応戦にのみ使用。
基本は攻撃せず。
攻撃回避のため熊の動きから目を離さず。味方と連携し花火玉より引き離すことを意識。
熊がジャンプしてこちらへ向かってきた=回避不可の場合、
自分が着地場所を占有し身体を盾にして花火師達を守る。
ヒールは温存し、自分に対する保険として使う。
【A】
職人にとって作品は誇りだろう。
それを守ることは私にとっては十分に理由になる。
今回はそれから引き離すという手段になってしまったが、私の矜持にかけて約束しよう。
それは、私にとって羨ましいものでもあるのだから。
私の目標は花火師も玉も両方無事に返すことになる。

守る事には向かない私にできることは、攻撃することくらいだ。
足やアキレス健狙いが中心。
より有効に注意を惹くことを考えれば顔、特に鼻が有効だろう。
四足の時なら飛べば届き得るだろうからその時は積極的に。
銃なら届く可能性があるならやってみる。
試す際は流れ弾が玉の方へ行かない位置から。
常に二足なら膝回りをよく狙おう。
あれだけ大きいのが飛び跳ねるのだ、負荷も凄まじいと予想できる。
花火玉からも花火師からも十分に離れるまで攻撃の手を休めない。
また、こちらを追ってくるようならあえて離れるように逃げるのも手だろう。
花火師は放っておいても他の者が守るだろうから私は玉の方を気にかけておこう。
もしもの時、間に入って止められるサイズではなさそうだがないよりはましだろう。
玉の方に興味を持つそぶりを見せないなら戦闘の余波さえ気を付け順当に倒せばよし。
興味を持つならひたすらに嫌がらせと行こう。
心情/
困ったなあ…まあ、気持ちは分からなくもないけど
…こうなったら、やれるだけ頑張りましょう
行動/
花火を守るため、ナイトメアをけん制しつつ、迂回するようにして花火に向かう
花火を背にしたらナイトメアを狙う
気をひきすぎないように、仲間の攻撃に紛れるようフォースアローを撃つ
狙う部位は仲間と同じ個所
万が一、ナイトメアが自分の方に向かってきたら、花火から遠ざけるようにする
自分に注意を向けるため、ナイトメアの頭を狙って銃を撃つ
気をひきつつ花火から遠ざかる
熊さん、こっちにおいで…ハチミツでも投げつけてやろうかしら
ジャンプの時はその場から移動して避ける
落ちてくる熊を受け止めて花火を守るなんて芸当はできないという判断
最後に/
花火を打ち上げるということになったら
(花火を目印にまたナイトメアが来るなんてことにならないといいけれど…)
思っても口には出さず
これはこれで、特等席で花火が見れて良かったわ
花火師さんたちの矜持も大事にできたしね
以下の図にて散開を仲間に提案、指示。

【A】前衛4人

花火玉&円筒 ナイトメア  → 【C】後衛2人・花火師

【B】前衛2人

前衛組の六人がナイトメアの左右に散り、それぞれヘイトを稼ぐ様に攻撃
注意を引けた方はそのまま後退しつつ、背中を向けられた側は隙を見てジャンプに関わる脚部位の破壊を狙うという作戦である

熊対応上側【A】
熊対応下側【B】
護衛【C】
上の三つをタグとして扱い、タグを使用したPCはその位置へ向かう
万が一タグを使用していない前衛PCがいる場合は【A】【B】の人数配置に合うよう調整、指示を飛ばし
シリアルも【B】を予定しつつ、最終的に人数が会わない場合は調整する

基本は剣による攻撃を中心にしたいが、ヘイトを稼ぎつつ後退する動きのためにオートマチックも使用
銃撃については花火が対角線上に入らない位置になったのを確認したのち発動
熊対応しながら、ヒールで仲間をサポートし隙あらばインパクトアタック。攻撃よりもサポートメインで行動!
武器は、攻撃時はチャージングランスSP、防御時はテンプルムシールドSPで対応
【A】or【B】で行動し、人の少ない方を担当し挟撃を目指す、熊が花火師か花火玉に向かって敵が動いたら身を挺しても護りに回り、被害を抑えれるように頑張る
熊がジャンプ時は急いで走って土煙が止むまでは周囲を気にしながら立ち止まらいで動き続け、熊が見えたら仲間に声かけをして挟撃と熊誘導の連携を少しでも上手く出来るように頑張る!
一応重体にならない様に注意しながら、最後まで戦えるように注意しながら行動をする
その他は他の皆様に合わせて行動する

●熊狩り、開始!
山頂広場に突如として現れた、熊型のナイトメア。捕食した熊に擬態したのか、元々そういう形状なのかはわからないが……。ナイトベアという親方の言い間違いも、あながち的外れではなさそうだ。
「図体のデカいナイトメアが来たもんだ……前衛左右散開! 人数配置は4:2で調整! 護衛は任せた!」
瞬時に戦略を立てたシリアル・ブザーマン(la0250)が、全体に指示を出しながら地面を蹴る。反射的に、ライセンサー達も動いた。各々がそれに近い構図を思案していたからというのもあるが、指揮経験がありそうなシリアルの口調に、つい反応してしまったのだ。緊迫した状況で浮かべる不敵な笑みは、軽薄ゆえか、はたまた余裕からか。元は某国軍に所属していたという噂もある、謎多き男である。

(困ったなあ……。まあ、気持ちは分からなくもないけど)
ベアから大きく迂回するように走りながら、黛 深墨(la0490)は溜息を吐いた。逃げる気のない者を守りながら戦うのは、実にやりにくい。
(花火師さんの護衛は1人。花火玉の護衛は……今のところいないみたいね)
仲間の内4人はベアの右側へ、1人はシリアルと共に左側へ移動している。敵を挟撃し、花火師からも花火玉からも遠ざける様に誘導すること。それが、あえて口に出さずとも察した共通認識だ。しかし、花火玉も気がかりだった。敵が花火自体に興味を持つとは思わないが、もし後ろへ逃げる様なことがあったら――。花火師の護衛に残った人物をチラリと見た後、深墨は最も離れた位置にある花火玉へと向かった。

「花火玉は、問題ない……多分」
「うお!? 姉ちゃ……じゃなくて兄ちゃんか。いつからそこにいたんだ?」
花火玉に深墨が向かうのを見て、花火師の護衛に残った比良坂 リョウ(la1042)が安堵した様に呟いた。同時に、花火師達が驚く。リョウの存在に、この時初めて気づいたらしい。一気に集中した視線に緊張しつつ、リョウはゆっくりと深呼吸した。注目されるのも話すのも、あまり得意ではない。女性に間違えられたことだけは心外だが。
「けど、戦いが長引けば……花火玉も危険、と思う。邪魔にならないよう、今は森まで……後退して欲しい」
「わかった。一番目上の俺が、後ろを走る」
「親方……」
自分達の為に戦ってくれているライセンサー達に、思う所があったのだろうか。親方の予想外の言葉に、花火師達も頷いた。

「まずは、先手を取ります!」
ライセンサー達が各方向に散ったことで、ベアは攻撃する対象を決め切れずにいる。その隙に、左翼として周り込んだ水樹 蒼(la0097)が先制攻撃を仕掛けた。一気に距離を詰め、ベアの足下へ潜り込む。
(警戒すべきは、かなりのジャンプ力を誇るこの足、ですね!)
足を負傷させれば、その威力を減少させることが出来るかもしれない。ベアを挟んだ向こう側に、味方は4人。どちらかにベアを誘導できれば、花火師からも花火玉からも引き離せる。青い髪を波の様に揺らしながら、ザンクツィオンハンマーを振り下ろす蒼。しかし熊同様の嗅覚を持つベアは、蒼の存在に気付いていた。わずかな動きで足を逸らされ、ハンマーが地面を抉る。
(! マズいな)
ベアが攻撃態勢へ入ったことに気付いたシリアルが、咄嗟に武器をオートマチックへ持ち替えた。ベアの顔に何発か撃ち込んでいる間に、蒼もすかさず後退を開始する。

「熊さん、此方! 手の鳴る方へってね!」
周囲に響いた声に、カウンターを繰り出そうとしていたベアが動きを止めた。声の主は、右翼に回っていた天野 一二三(la1559)。ナイトメアが人の言葉を解すかはわからないが、効果はあった様だ。蒼を見過ごしたベアが標的を変え、振りかざしていた腕を一二三に向かって薙ぐ。しかし一二三とて、ただ挑発した訳ではない。盾を寝かせる様にして構え、爪攻撃を弾く。
(さてさて、コレは面倒なことになったなぁ)
巨大なベアを見上げながら、苦笑いを浮かべる。予想以上に、シールドを損傷した。このまま2発目を食らえば、無事では済まないだろうが……。
「させん!」
一二三の横を、黒い風が疾風の如く駆け抜けた。侍を先祖に持つという彼女の名は、一本柳 凛咲(la0214)。銘無き刀から繰り出される一閃が、仲間に向けられた無慈悲な牙を眼前で受け止める。ベアが前足を地面につけ、一二三に向かって突進したのだ。
(より有効に注意を惹くことを考えれば顔、特に鼻への攻撃が有効だろうが……)
その為にはまず、かなりの力で押し返してくるこの牙をどうにかしなくてはならない。凛咲は何故か笑みを漏らした。
「つばぜり合いか……望む所だ!」
少しでも気を緩めれば、命は無い。しかし職人達とその作品を守ることは、それを賭けるに十分な理由だった。崇高な思想、誇り――そういったものを羨ましく思う、凛咲にとっては。

「ヒールをかけます! 下がってください!」
凛咲とベアが押し合っている間に、同じく右翼にいた小清水 翡翠(la0475)が一二三に呼び掛けた。スタイルの良いメイド服の少女……もとい女性だ。後退した一二三にヒールをかけつつ、状況を観察する。他の仲間達は接近戦と援護射撃が主。となれば自分は回復役として、後方支援に回った方がいいだろう。そして隙あらば、討つ。
「初陣ゆえに学ぶ側……とはいえ、俺も俺らしく行きたいね」
井木 有佐(la0921)は翡翠より後方で、仲間の攻撃に合わせて狙撃していた。ベアの挙動を観察するには丁度いい位置だ。花火師達には、些か物申したい気持ちもあったが。
(本気で、誰かの命と人生の成果物を天秤にかけたのかな)
価値観は人それぞれ、だが――彼等の軽率とも思える行動に、有佐の心がざわつく。
(俺は、あの時……研究成果全てを投げ出せばあいつを助けられたなら、そうしたが)
滲み出る気持ちを抑える様に、スコープ越しにベアを睨みつける。

「今度こそ!」
蒼が再度突撃し、右後ろ足にのみ狙いを定めて叩き込んだ。シリアルと有佐もタイミングを合わせるようにして狙撃し、畳み掛ける。集中攻撃が効いたのか、ベアが大きく吼えながら体勢を崩す。
「! 全員、敵から離れろ!!」
凛咲の声に、仲間達が身構えた。痛みに耐える様に体を丸めていたベアは、実はジャンプ体勢に入る為に構えていたのだ。蒼と凛咲が飛び退くと同時に、砂煙が竜巻のごとく巻き起こる。

(ん?)
森へ向かっていたリョウも、ベアの不穏な動きを察知した。花火師達を先に行かせ、振り返る。渦巻く砂煙に眉を顰めると、黒い塊が大砲の如く打ち上がった。
「この音は……」
「いいから! 早く行け!」
つい立ち止まった花火師達を、珍しく強い語気で急かす。跳び上がるベアと目が合った気がして、リョウは即座に迎撃の構えに入った。

「ふふっ……こんなに走ったの、どれくらいぶりかしら?」
花火玉から充分に離れたのを確認して、深墨はクスリと口元を緩ませた。汗でべったりと絡みついた髪を艶やかに払いのけ、跳び上がったベアを見上げる。
(落ちてくる熊を受け止めるなんて芸当は、できないものね)
やる気が無い訳ではない。それが深墨のやり方なのだ。両翼が誘導を行っている間も、仲間の攻撃に紛れてベアを攻撃するに留めていた。花火玉のある自分の方に気を引かないよう、仲間すら気付かないほど慎重に援護する。そうやって花火玉を守ろうとしていた自分が、狙われる訳にはいかない。
「こうなったら、やれるだけ頑張りましょう」
やや焦りを滲ませた言葉を、口にしながら。深墨は本気で照準を合わせ、フォースアローを放つ。

(あれは、黛さんの……!)
砂煙に目を奪われていた一二三が、上空めがけて飛ぶ矢状の光に気付いた。飛ぶ方向からベアの位置を予測し、その場から自分もフォースアローを放つ。ベアの背を正確に撃ち抜いた深墨の矢と交差する様にして、脇腹に命中させることに成功した。しかし完全な死角からの銃撃に戸惑いつつも、ベアは降下を開始している。

(やっぱりこっちか。このままじゃ直撃なんだけど)
ベアが自分達の方へ落下してくるのを見て、リョウは慎重に狙いを定めた。恐らく、撃てるのは1度だ。
「親方ぁーー!!」
「は……?」
後ろからの声に振り向くと、森の手前で親方が蹲っていた。発作を起こした様だ。あの位置では、恐らく巻き込まれる。
(くっ……間に合うか!?)
誰かを見捨てて逃げる気は、さらさらない。決死のフォースアローを放ち、武器を放り投げて走る。どうにか立ち上がった親方を抱える様にして、森の方へ勢いよく押し出した。

「親方ぁ!!」
「大丈夫か!? 誰かこっちに来てくれ!」
「はい!」
リョウの攻撃がベアに到達するのとほぼ同時に、巨大な影が地面へと直撃した。地鳴りと共に空気が震え、砂煙が一気に散っていく。助けを求める声に翡翠が駆け付けると……そこには無傷の親方と、倒れているリョウの姿があった。
「と、とにかくヒール……いえ、傷の手当を!」
(なんとか、生きてた……)
意識を失う程では無かったが、背中の痛みが酷くて起き上がれない。翡翠が応急処置を行ってくれている間に、リョウは辛うじて動く腕でシールドにヒールを開始する。
「俺のせいで怪我を……すまん。この通りだ!」
親方が突然、2人に頭を下げた。無責任な行動が招いた結果に、花火師達も顔を伏せている。
「今回が最後だと思ったら……どうしても弟子達に、最高の一発を見せてやりたくてなぁ」
親方はポツポツと語り始めた。明日から胸の手術の為に入院すること。医者からは、成功しても仕事は無理だろうと言われてること。打ち上げの様な重労働が出来るのは今日までで、事実上の引退となること――唯一事情を聞かされていなかったらしい新入りが、ショックを受けた様に目を見開いている。
「そういうことだったんですね。……比良坂さん、少し待っていて下さい」
「了解、した」
応急処置を終えた翡翠が、武器を手にベアへ向かって走り出す。

「あの野郎……もう1回やる気だぞ!」
砂煙で視界不良となっていたシリアル、凛咲、蒼が、武器を手に走る。どうやらベアは着地位置から、もう一度ジャンプ攻撃を行おうとしている様だ。
(姿勢が変わったな……あの重心で飛べるか?)
リョウを気にしつつベアに照準を合わせ続けていた有佐が、変化に気付いた。蒼の斬りつけたベアの右足傷が、酷くなっている。
「今の内に、動ける者全員で集中攻撃を!」
全体に呼びかけながら、有佐が引き金を引く。それを合図に、近くにいた者達も動いた。ようやく持ち替えた剣を嬉々として握りながら、シリアルがベアの背中を斬りつける。
「ハ、良く切れる! 熊肉で食えないのが残念だ!」
「正義は必ず勝ちます!」
「終わらせるぞ!」
膝をついたベアの左右から周り込むようにして、蒼と凛咲が同時に地面を蹴った。蒼は両目を横に、凛咲は鼻先から縦に。十字に斬り込む。しかし、倒れない――しぶとく唸るベアの前に、翡翠が立った。
「花火師さん達を苦しめた……あなたを許さない!」
彼等は確かにやり過ぎた。だが、そもそもベアの襲撃さえなければ、こんなことにはならなかったのだ。視覚と嗅覚と封じられ、俊敏さを失ったベアを正面から見据え……翡翠はチャージングランスを真っ直ぐに突き出した。
「一斉攻撃!? なら僕も……」
「もう、終わったみたいよ?」
「えっ」
左胸を完璧に貫かれたベアが、うねる様な声を上げながらその巨体を地面へと沈めていく。
目に入った砂を落としながら走り出した一二三の肩を、追いついて来た深墨がポンと叩いた。

●サマーナイト
「結局、こうなっちまうわけか」
芝生にのんびりと寝転がりながら、シリアルは視線の先にある光景を眺めた。広場の向こうには、避難していた住民が集まっている。ベアを討伐したことで周辺地域の警戒が解除され、花火大会が開催されることになったからだ。リョウは手配した救急車で運ばれたが、親方は案の定、搬送を拒否した。
「明日は絶対に入院するから、今夜だけは……だそうですよ」
シリアルに返事をしながら、苦笑いを浮かべる有佐。しかし、その顔はどこかスッキリしていた。討伐後、『引退を終わりと考えず、伝える時間が出来たと思えませんか。意外と、貴方を超えるのは金髪の彼かもしれませんよ』――そう自分が言った時の、親方の顔を思い出す。希望を見出した今の親方なら、もう2度とこんな無茶はしないだろう。そう確信していた。
「あっ、花火が……!」
一二三の声と重なるようにヒュ~ッと音がして、空を見上げる。それと同時に、色鮮やかな火花が視界いっぱいに広がった。立ち昇る火の筋をウズウズと眺めていた蒼が、開花と同時に勢いよく跳ね上がる。
「わあ~、すごいです! た~まや~!」
「うん、やっぱり綺麗ですね♪」
翡翠も日傘を傾けながら、純粋にそのイベントを楽しんでいた。出来るなら妹も一緒に見たかったが、いずれその機会もあるだろうか。そんなことを考えながら、次々と寄り添うように上がる花火に妹の顔を思い浮かべる。
「凛咲さんも、見ないともったいないですよ!」
「ああ。無事、打ち上がった様だな」
楽しげに空を指差す蒼の言葉に、凛咲も素振りしていた手を止める。この夜空を彩る火の花も、それを見て喜ぶ仲間達も……花火師とその誇りを守り切った証だ。それを訓練の片手間に見るのも無粋というもの――凛咲は刀を脇に置いて正座し、そのまま空を見上げた。
(花火を目印に、またナイトメアが来るなんて事にならないといいけれど。まあ、特等席で花火が見れて良かったと思いましょう)
冗談の様な本気の様な懸念と共に空を見上げる深墨。広場の向こうは住民達でごった返しているが、ここには自分達しかいない。お酒があれば尚、言うことなしなのだが……これはこれで悪くない。
「比良坂さんも、一緒に見られなくて残念です。病室から見えるといいですが」
(いや、いるんだけど)
自分の不在を残念がる一二三に、木の陰に隠れていたリョウが心の中でツッコんだ。親方同様、リョウも搬送を固辞したのだ。しかし、完全に出るタイミングを逃してしまった。
(ま、いいか……チョコでも食べてよ)
笛を吹くような高い音が螺旋を描きながら伸び、花びらの様に広がっていく。それが1つ、また1つといくつも重なり合い、夜を彩る大輪が空いっぱいに咲き乱れる。その様子をそれぞれの想いで眺めながら、ライセンサー達の夜は更けていった。

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