その小さな掌に マスター名:秋月雅哉

形態
ショート
難易度
普通
ジャンル
救出
人数
68
相談期間
3
プレイング締切
09/06 24:00
完成予定
09/26 24:00

●ある雨の日
 子供はすぐ背が伸びるから去年のレインブーツやレインコート、もう入らないね。
 お母さんはそう嬉しそうに笑って僕に新しいレインコートとレインブーツを買ってくれた。
 去年は小学一年生だったから身に着けるものほとんどが黄色だったけれど今年は好きな色を選んでいいよ、と言われたから傘は晴れた日の空色を、レインコートは雨に濡れる緑の色を選んだ。
 レインブーツはお母さんが一番好きな、春の青空に似た淡い水色。
 買ってもらったばかりの傘に雨粒がはねる音がする。
 お母さんは洗濯物が乾かないから雨が嫌いだと言っていたけれど、僕は雨が好きだ。
 二人で傘をさして、買い物した後で荷物があるのに僕と手をつないでくれて、車が水を撥ね飛ばして僕が濡れないようにとかばってくれるお母さんの優しい手が好きだ。
 スクランブル交差点にたくさんの傘を持つ人たち。空から見たらきっと色とりどりの花が咲いたように見えるだろう。
 信号が青に変わって、歩き出そうとしたら空気が変わった。なんだろう、寒い。足が震える。まだ冬は遠くて今日は暖かいのに。
「ナイトメアだ!」
「助けて!」
 地面から急に生えてきたのは泥人形のようなお化けだった。大人の人たちはみんなそれをナイトメアだといった。
 ナイトメア。悪いやつだっていうことを、知ってる。知ってるから。
 お母さんを、守らなくちゃいけないと思ったんだ。
 僕をかばおうとするお母さんの前に立ちふさがるとナイトメアの腕がぐん、と伸びた。代わりに胸のあたりの厚みが減っている。
 体を構成する泥を移動させて腕や足の長さを調整できるみたいだ。
 大きさは二メートルくらいなのにびっくりするほど大きな手が僕をわしづかみにして釣り上げた。苦しい。
 完全に浮いた足をばたつかせても、ナイトメアは痛くもかゆくもなさそうだ。そうだろう、小学二年生の悪あがきでやっつけられるなら大人の人たちがこんなに怖がるわけがない。
 胸を圧迫されているせいで息苦しくて、傘が手から落ちる。
 あぁ、せっかくお気に入りの傘だったのにナイトメアに踏まれて壊れちゃうかな。
 たしか、ナイトメアを倒すための機関と、正義のヒーローみたいな人たちがいるって聞いたことがある。
 難しい話は分からなかったし、子供が聞く話じゃありませんって詳しく教えてはもらえなかったけど。
 ねぇ、正義のヒーローがいるなら。お母さんを助けてよ。それで、できるなら。ここにいる人たちも助けてよ。だってここにいる人たちが死んだら、この人たちの知り合いが悲しむでしょう?
 お母さんが悲しむから、僕のことも助けてほしいけど。……無理、かなぁ……?
 だんだん意識がぼうっとする。死ぬなら、あまり痛くなくて、死体がひどい状態じゃなかったらいいな。だって痛そうな死体や死に顔だったら、お母さん、ますます泣いちゃうもんね。

●小さく勇敢な子供に
 管制室に緊急通報が鳴り響く。話を聞いたオペレーターが上司に報告、上司はライセンサーに現場に急ぐように指示を出した。
 彼らに求められたのはナイトメアの撃破ではなく、別動隊として一般人の救助と交通規制を行うこと。
 討伐は、非常事態警報を聞きつけてあとから集まってきたライセンサーたちに任せられることになった。
「泥人形のような形状のナイトメアの出現を確認しました。数は一体。不定形に体の肉に当たる部分を他の部分に移動させて太さや長さを変えることができる能力を持っています。
 唯一硬度や長さが変わらないのが爪ですが、非常に鋭利なのでそれだけで切れ味のいい刃物の代わりくらいにはなりそうです。
 不定形で骨に該当する器官がないからか、攻撃が非常に通りにくくタフネスなつくりになっています。何らかの処置をして凝固させればその部分には通常通りのダメージが入るのではないかと。例えば冷気で凍結させるとか……逆に強力な炎で伸縮能力を奪ってしまうとか。風力を集中させて圧縮、なんかもできるかもしれません。どの方法もどの程度通用するかは試してみないとわかりませんが。それと、凝固している間は伸縮はできないでしょうね。対応策で出したものがどれも効果がなかった場合はすこしずつ体積を削るような攻撃を仕掛けて伸縮と凝固をしにくくして最終的に無力化を目指すことになると思います」
 一般人の避難と交通規制はすでに別動隊が動いているので心配はいらないということと、スクランブル交差点で交通量が多い道路なので破壊は最小限に控えないと後の生活に差し障ることを告げた後、オペレーターはこれが最も重要ですが、と眼鏡の位置を直した。
「母親をかばおうとした小学生の男の子が人質に取られています。ナイトメアは首が三百六十度回転することと、一つ目であることを頭に入れておいてください。
 後ろから数人で注意を引いて機動力に自身がある人が子供を奪還するなどの処置をしていただければと思います。奪還後は別動隊に戦闘が終わるまで保護をお願いしてあげてください。
 ナイトメアのスピードですが、音を立てずに不規則に動く厄介さを除けば突出して早くはありません。一般人ほど遅くはありませんがライセンサーの皆さんであれば対応可能でしょう。
 どうか小さな英雄を、助けてあげてください」


●ナイトメア・泥人形タイプ
全身が泥でできたようなナイトメア。泥でできたゴーレムというのが印象的に近いかもしれません。
不要な部分の泥を伸ばしたい部分、厚みを持たせたい部分に移動させて強化することができます。
体長は約二メートル(基本時。ここから伸縮します)
掌に該当する部分だけは異様に大きく子供一人であれば握りつぶせるほど。爪は長く鋭く、短刀のように物を切り裂けます。
関節がないため首が三百六十度回るなど動きの予想がしにくいですが単眼のため視野は狭いです。
知能もそれほど高くなく、より注意を引くものを集中して攻撃する傾向にあります。

男の子以外の一般人は別動隊が救助済み、交通規制も敷いてあるので男の子の救助が終わってからは戦闘に専念してください。
男の子の生死は依頼の成否にかかわりませんが助けたほうが後味がよくなります。

男の子
小学二年生。雨と飴玉が好き。飴玉に関しては好きだけれど虫歯になるといけないから、とあまり食べさせてもらえないのをおとなしく我慢しています。
男の子は人を守るもの、と考えている英雄譚や正義のヒーローが好きな子供です。
頑張ったご褒美に飴玉をあげると喜ぶことでしょう。


◆心情
嘗ての騎士としてなら小僧の救出もサマになったんだろうがな
厳つい獣のツラで小僧の前に出るってのは、何とも言えねえ
まあ仲間が「そういうのもアリだ」つってくれたからな。気合い入れてくぜ

◆救助
役目は小僧の救助だ
オツキミ、越月なごみの三人で救助しに行く
更にその中の役目は、先陣切って泥人形の腕を落として小僧を解放する役だ
何かしらヤバい事が起きた時には、身を挺して小僧を優先で護る
忠犬ドラ公ってな、自虐が過ぎるか

◆戦闘
仲間とパワークラッシュで畳み掛けて再生の暇を無くして討つ
武器は獅子王SP(物理攻撃)・無銘妖刀(知覚攻撃)で、仲間の方針・敵の耐性によって使い分ける
仲間の方針と段取りを最優先し、確実に息を合わせる

◆目玉を攻撃する
でけぇ目玉だ
まるで「突いてください」って言わんばかりだぜ
目玉焼きは好物だがよ、こいつは戴けねえな

◆火炎瓶
瓶とウォッカで火炎瓶を作って持って行くぜ
使えるかは不明だが、一応反応を見るぜ

◆言葉
正義の味方はいつだって、何かを護ろうとして身体を張る
多少怪我したりもするが、絶対に生きて戻って来る
そいつがヒーローって奴だ
チビ介も「多少」怖い目には遭ったが、生きて戻った
ヒーローの素質ありだ
母ちゃんを護ろうとした心意気も合わせりゃ、満点だ
いつか肩を並べて、悪者を倒そうぜ
このツラ見て敵と間違えて俺を殴るのだけは、ナシだぜ?
◆救出
陽動班として敵背面から接近
他の仲間と足並みを合わせ、敵の足元を狙い攻撃
男の子に危険があれば攻撃はわざと外す
敵の視界に入るようにしたり、男の子に声を掛ける事で音を立てたりして注意を引いてみる
「助けに来ましたよ!もうちょっとですからね、頑張ってください!」
敵の気を引く事と男の子の安全を優先に行動。もしもの時は庇う

◆戦闘
・攻撃
紬-2で行動
知覚・物理の有効な方を使用
サブ武器2で前衛の仲間の後ろのマスから。畳掛けたい時はライトバッシュ使用
仲間の邪魔になるようならサブ武器3で距離を取る
他の仲間のために隙を作ったり、支援メイン
位置取りはなるべく前衛の仲間がヒール射程に入るよう心掛ける

・回復
メイン武器を装備
敵の攻撃をあと2発耐えられない仲間がいればヒール
敵の射程内かつ次の一撃を耐えられない仲間は優先で回復

仲間とは声を掛け合い連携する
作戦の齟齬は仲間に合わせる
【心情】
未来ある子供に、これ以上手出しはさせねぇっす!!

【目的】
男の子の救出と敵の撃退

【準備】
事前に打ち合わせた役割分担で行動

【行動】
1出陣
敵の射程0まで接近出来るならスキップし2へ
届かない場合は前進する
「さぁて、この作戦が無事終わったら、弟の柚子丸に報告しないとっすね~‥月光のヒーローオツキミ、いざ参るっす!!」

2救助
ドラゴの攻撃で敵の腕が緩んだと思ったら子供を奪取、不足だと思えば追撃
子供を奪取したら越月へ引き渡す
「よっと、よく頑張ったっすね少年、もう心配いらないっすよ~(ニカっと」

3包囲
敵右側から攻撃し移動しないようにする
「おっとぉ、ここは通行止めっすよぉ~(ニヤリと」

4連続攻撃
森野に合わせてパワクラを放ち敵の圧縮を狙う
パワクラを使い切る為に4を四回実施 但し敵が移動して囲いを抜けたら一旦3を挟む
「合点承知っすよぉ!森野ぉ!!どりゃあっす!!」

5サブ4に変更し森野と連携して追撃

6戦闘終了後
「いやぁ、立派なヒーロー魂だったっすね少年!!これからもその気持ちを大切にするっすよ~(頭撫でて」
行動は他の皆に細部は合わせることを優先
作戦の全体方針遵守が前提

事前準備
以下4点を発注
度の高いお酒等直ぐに集めやすい発火物
オイルライターや花火等買いやすい火種
消火用の水と飴玉やお菓子

行動
陽動班の盾役兼サブアタッカーで作戦全体で以下4点を留意
・仲間の必要以上のダメージを抑え戦闘と救出のお膳立て
・仲間と相互に活かし合う攻撃
・後衛の狙撃との連携円滑化
・敵の動きの観察と皆との共有

1:救助の為の陽動
積極的に攻撃参加
意識と攻撃を此方に向け、子供や救助班から逸らす
後の反攻の為自他の損耗を抑え、積極的な攻撃で敵を抑える
なるべくこの時点でエネルギーガンと他の武器を試し、耐性傾向やさらなる特徴を読む

2:救助後の殲滅戦
仲間のパワークラッシュの衝撃による突風、発火物による着火等
柔軟性剥奪からの逆襲を狙う。連携参加時は森野さんの後まで待つ
攻撃は敵の危機対処の妨害と脆弱化部位の2点を狙い、ライトバッシュも活用
防御以外は足を止めず相手を撹乱
「移動攻撃」は連携のための位置取りに専ら利用

戦闘後
飴やお菓子を贈り少年を窘めつつ労う
・目的
男の子の救助、ナイトメアの撃破。

・準備
私、オツキミさん、ドラゴさんの3人で救助班を結成。救助成功までは纏まって行動。

・行動
〈救助〉
救助班はナイトメアの正面に立ち、陽動班の行動を待ってから行動。行動順はドラゴさん→オツキミさん→私。
1.敵と同スクエアまで接近。接近できたら2に移行。
2
・男の子を奪取出来ている
男の子を受け取り、全力移動で戦闘を離脱。意識があれば「もう、大丈夫です。…後は、我々にお任せを。」と微笑みながら伝える。別動隊に預けた後、戦闘に復帰。

・出来ていない
敵の腕が緩んでいなければ腕狙いで通常攻撃。緩んでいれば男の子を奪取。奪取できるまで〈救助〉を繰り返す。

〈救助後〉
行動順はパワークラッシュを行う3人のすぐ後に調整。パワクラ終了後は調整なし。
1.味方の射線に入らないよう、敵と4スクエア分離れた位置まで移動。移動力が足りなければ全力移動。
2.4スクエアの距離を保ち、敵を対象にフォースアロー。(アロー撃ち切りまで続ける)
3.メイン武器をビーストレガースSPに変更。敵と同じスクエアに移動した後、通常攻撃。(敵戦闘不能まで繰り返す)

〈戦闘後〉
微笑み、男の子に「誰かの為に勇気を出せる、貴方もまたヒーローです」と話しかける。
【心情
孤児院の弟達を思い出すわ…子供を助けたい…
小さな子の悲しい顔は見たくないの

【目的
子供の救助と敵の無力化

【準備
爆竹とライターを買い持っていく
作戦を事前に打ち合わせ、それに協力する

【行動
●共通
・移動する際は味方の攻撃に巻き込まれない位置へ
・味方と射線の被らない位置を取り攻撃を行う(盾役には守ってもらう)
・攻撃には回避を試みる(または盾役に任せる)
・弾切れの場合、予備のオートマチックに持ち替える
・全て弾切れの場合、盾役の後ろでリロード→攻撃に戻る

●救助時:囮役
「あなたが奪っていい命じゃないわよ…」
1T:救助後の戦闘に向け、射程(6)内、敵の斜め後方位置へ移動。敵後方に爆竹を投げて鳴らし敵の気をひく
2T:距離を保ちつつ、引き続き爆竹で陽動
(救助できるまで繰り返し。その場合以下行動そのままにターンだけずれます)

●救助後戦闘
(あたしも弟妹に顔見せないとね…。まぁ、今はこっちに集中……!)
3T:敵の単眼に《ポイントショット》を撃ち怯ませる
4T~7T:以下1~4の行動を行う
1.射程(4)内へ移動
2.味方の攻撃の前に敵の単眼へ《ポイントショット》
3.味方のパワークラッシュ攻撃
4.1~3を4回繰り返す
以降、敵が無力化するまで攻撃を行う

●戦闘後行動
優しく微笑み男の子を褒める
「よく頑張ったわね。お母さん、きっとあなたのこと誇りに思うわ」
【心情】
おい・・・子供に手ぇ出してんじゃねぇぞ?

【目的
男の子の救出と敵の撃退

【準備
事前に打ち合わせた役割分担で行動

【行動
敵の背後から近付き自分に注意を向ける
初手は獅子王、次に無銘妖刀を試し良く通る方を選択
「どうやら○○の方が(どの程度)効くようだな。」等、声に出して言う

1:通常攻撃が届くなら省略して2へ
全力移動で敵の背後に立つ
「よう、俺が遊んでやるよ。」2:挑発しつつ背面から攻撃
「どうした、かかってこねぇのか?」
救助成功なら3へ そうでなければ2継続

3:左側面から攻撃し移動を封じる
「行かせねぇよ!」

4:連続攻撃
紬の攻撃の後にオツキミ・ドラゴと同時にパワークラッシュを放って圧力で押し潰そうとする 
「タイミングを合わせろ!同時攻撃でぶっ潰す!」
パワークラッシュを使い切るまで継続
敵が移動して囲いを抜けたら一旦3へ

5:オツキミと連携し彼が殴った場所を斬る
生命が1/3を切っても回復が無い場合はレガースに換装して戦闘継続

戦闘終了後
「無事だったようだな?そいつが何よりの報酬だ(ニヤリ」
プレイングが提出されていません。

●雨の中の激闘
 人気の絶えたスクランブル交差点。
 ナイトメアの出現により逃げ出した人々が放り出した傘が散らばっている。
 中央に位置するのは泥人形のように不定形に姿形を変えるナイトメア。そのナイトメアが捕らえた勇敢な小学二年生の男の子が一人。
 買ってもらったばかりらしいピカピカの傘がナイトメアの足によって踏みつぶされた。
「おい……子供に手ぇ出してんじゃねぇぞ?」
 怒り心頭といった様子で、今にも子供を握りつぶそうとするナイトメアの掌の中、ぐったりとしながらもライセンサーたちに「危ないから逃げて」と目で訴える健気な少年を、とらえて離さない悪夢へ向けて森野 紫苑(la2123)が低く吐き捨てる。
 孤児院にいる弟たちを思い出し、母親をかばってナイトメアに囚われ、命の危機に瀕している子供を助けたいと思う日十歳 紬(la2491)も、怖いだろうけれどすこしだけ我慢して、と少年に声をかける
 桃武 侑飛(la0525)も、他のライセンサーも等しく卑劣なナイトメアに怒りを感じていた。
 ドラゴ・D・フォルケンダイン(la2093)、オツキミ(la0325)、越月 なごみ(la0204)の機動力にたけた三人で、まずは少年の奪還を図り、他の四人はその間ナイトメアの注意を引き付けて救出班がより確実に男の子を助け出せるように陽動する。
 ナイトメアの駆逐はそのあとになる。雨の中、戦闘の火ぶたが切って落とされた。
 まずはドラゴが先陣を切ってナイトメアの長い腕を切り落とそうとするが、腕に厚みを持たせた後すぐさま凝固したナイトメアの腕にはじき返される。
「未来ある子供に、これ以上手出しはさせねぇっす!! 月光のヒーロー、オツキミ、いざ参るっす!!」
 腕が緩まなかったことを見てオツキミが追撃を仕掛け、目があった男の子に安心させるように笑顔を向ける。
「よっと、よく頑張ったっすね、少年。もう心配いらないっすよ~。正義のヒーロー、ちっとばかり遅れたけどただいま参上、っす!」
 にかっとわらったおおらかな笑顔と『ヒーロー』という単語に自分の命をあきらめかけていた少年の目に光が宿る。
「助けに来ましたよ! もうちょっとですからね、頑張ってください!」
 結花が足元を狙って攻撃を仕掛け、ナイトメアの視界に入るように動いたり、男の子に声をかけることで、音を立てることにより注意を男の子から、ライセンサーたちへと移そうとする。
 侑飛もそれに合わせて別の方向から攻撃を仕掛けながら、ナイトメアの注意が徐々にこちらに向いてきていることを確認する。
 さらに物音と攻撃で救出班が動きやすいようにお膳立てに一役買う。
 紫苑は背後から近づき、ナイトメアの注意力を散漫にする作戦。
 ナイトメアに対して陽動班の四人が連携して注意をそらし続けるため、知能がそれほど高くないナイトメアは徐々に少年から意識をライセンサーへと集中させ始める。
 結果的に少年をつかむ巨大な腕の拘束が緩む。
 なごみがそのすきをついて男の子を奪還、すぐさまナイトメアから距離を取った。
「もう、大丈夫です。……あとは、我々にお任せを」
 恐怖と、長い間拘束されていたため走ることができずにいる男の子を抱きかかえて、なごみが人々を避難させ、ナイトメアが移動しないように見張っていた別動隊に預けるためにいったん戦線を離脱する。
 その間にドラゴ、オツキミ、シオンは仲間を巻き込まないように陣取った後、声を掛け合って自らの力を解き放つイメージで、威力を高めた一撃を放つ。
 武器が自分を中心に流れるため味方を巻き込む危険もある大技だが今回は全員が被害を受けない位置に退避済みだ。
 泥人形のようなナイトメアはそのままではひどく攻撃が通りにくく、現状の戦力では強力な炎や氷での炎上や凍結、風の魔法によって圧縮させることが難しい。
 そこでライセンサーたちは三方向から一斉にパワークラッシュを仕掛けて一時的にナイトメアを凝固させることができないか、と試してみることにしたのだ。
 作戦は成功し、一時的に固まったナイトメアの体に他のライセンサーがパワークラッシュの範囲外から追撃を仕掛ける。
 一回目の連携が終わるころにはなごみも合流して、残り三回のパワークラッシュの残弾を打ち切るまでにライセンサーたちは射程が許す状況での最大限の攻撃力を持ってナイトメアの体積をそいだ。
 厚みを攻撃を受ける箇所に集中させられれば攻撃は通りにくくなるが、それも移動させるだけの体積の余裕があればの話。
 パワークラッシュの圧力により表面の泥は飛ばされ、ナイトメアが一撃を受けるごとに少しずつ体積を失っていく。
 それはナイトメア自身の弱体化と、ライセンサー側の攻撃が通りやすくなることを如実に告げていた。
「でけぇ目玉だ。まるで突いてくださいって言わんばかりだぜ。目玉焼きは好物だがよ、こいつはいただけねぇな」
 再生の暇さえ与えずパワークラッシュを連打した後、ナイトメアが反撃に、そこだけは質量が移動しない代わりに、ナイフのように鋭い爪で切り裂こうとするのをよけながら、ドラゴは挑発を兼ねた感想を漏らし、巨大な単眼に攻撃を仕掛ける。
 ナイトメアに通常の道具ではダメージを与えることはできないが凝固させることはできるかもしれない、とドラゴが持ち込んだ火炎瓶を投げつけ、泥人形を炎上させた。
 その炎を雨が鎮火する前に、侑飛が柔軟性が剥離したナイトメアに狙いを定めて、的確に武器を振り下ろして攻撃する。
 なごみがエネルギーを矢の形に変換し、フォースアローで侑飛が傷つけた場所に被弾を重ねるように一撃を放つ。
「貴方たちが奪っていい命なんてないのよ。この世界は、貴方たちの慰み者じゃないわ」
 今までナイトメアに奪われ続けた命と、目の前で奪われかけた命。それを思うとやりきれないものがある。
 だからこそ報告のあったナイトメアは倒す、と紬は狙いを定めて先に行動した二人の攻撃によって脆くなった箇所に、さらに追い打ちをかけるように銃弾を撃ち込む。
(あたしも弟妹に顔見せないとね……でもまぁ、今はこっちに集中……!)
 ナイトメアが音を立てずに移動するがもともとライセンサーが薄くではあるが包囲網を固めている状態。柔軟性を失ってトリッキーな攻撃ができなくなってからは、ひたすら単調に腕での薙ぎ払いや、脚での回し蹴り。そして鋭い爪での切り裂きを音がする方向を頼りに仕掛けてくるので、その反対側に位置するライセンサーがナイトメアの攻撃に合わせて、背後から強襲する形をとる。そうすることで数で優位を取っているライセンサー側は、致命的なダメージが加わることはない。
 それでも戦いの中で消耗していく味方のシールドを結花がそれ以上ひどくならないように、ヒールで修復する。
 盾役を買って出た仲間の後ろで紬がリロード、攻撃に移るという即席ではあったが息の合った連携を見せて、ナイトメアを追い詰めていく。
「よう、動きが鈍いな、唐変木。俺が遊んでやるよ」
 紫苑が左側から攻撃して移動を封じれば、右側にいたオツキミがすかさずコンビネーションを決めて、より効果的にダメージを蓄積させていく。
「物理攻撃よりどうやら知覚攻撃のほうが利いてるみたいだな。まぁ、体積も減ってきたし火炎瓶で柔軟性が軽減したから物理攻撃も通るが」
 手ごたえの差からより効果的なのは知覚攻撃だが、物理攻撃も確かに聞いていると結論を出し、紫苑が仲間にそれを伝える。
 侑飛の持ち込んだ火種と発火物で、さらにナイトメアから柔軟性を奪って、ライセンサーの七人はラストスパートとばかりに攻撃をたたき込んでいく。
 凝固させることも伸縮させることもできなくなったナイトメアの最後の武器は、ただひたすらに鋭利な爪のみ。
 けれど攻撃が単調なおかげで、ライセンサーたちは回避する余裕も生まれ、空振りに終わった攻撃に、ナイトメアが体勢を崩すと狙われたライセンサーとは別のアタッカーが、さらに体勢を崩させるように攻撃を仕掛けていく。
 畳みかけるためにライトバッシュで殴りつける結花は、痙攣するように動くナイトメアにいっそ明るく聞こえる口調で最後通牒を突き付けた。
「勧善懲悪は万国共通の子供への教育の一つ。ナイトメアは地球の生物にとって害悪に他なりません。私達ヒーローが退治して差し上げますよ!」
 だってあなたはいたいけな子供を、あんなに怖い目に合わせたんですから。十分悪役の資質あり、です。
 その言葉を理解できたかどうか。結花の攻撃に合わせて、なごみ、紬、紫苑も集中攻撃を仕掛けると、ナイトメアは個を保っていられず雨の中、道路に泥のような残骸を残した。
 それも雨と、火を使うということで侑飛が持ち込んだ消火用の水によって洗い流される。
 ナイトメアはこうして、一人の命を奪うことなく鎮圧されたのだった。

●本当のヒーロー
 ライセンサーたちがまず真っ先に駆け付けたのは別動隊に保護を頼んだ小学生の男の子のもとだった。
 体を圧迫されていたので肋骨などの骨折が心配だったが、幸いそういう怪我はしていないそうで、侑飛が贈った飴やお菓子に遠慮がちに手を伸ばして、きちんと助けてくれてありがとうございました、と頭を下げてお礼を言った。
「正義の味方はいつだって、何かを護ろうとして体を身体を張る。多少けがをしたりもするが、絶対に生きて戻ってくる。そいつがヒーローってやつだ。
 チビ助も「多少」怖い目にはあったが、生きて戻った。ヒーローの素質ありだ。母ちゃんを護ろうとした心意気もあわせりゃ、満点だ。いつか肩を並べて、悪者を倒そうぜ」
 このツラ見て敵と間違えて俺を殴るのだけは、ナシだぜ?
 そう冗談めかしたドラゴの言葉にまず大きくうなずいて。
「この年でここまでできるなんて……十分ヒーローの資質がありますとも! わたくし感動しちゃいました!」
 そういって顔の汚れをハンカチで拭ってくれる結花の言葉にはにかみ。
「いやぁ、立派なヒーロー魂だったっすね少年!! これからもその気持ちを大切にするっすよ~」
 ナイトメアにとらわれていた時笑顔で勇気をくれたオツキミに、改めてお礼を言って。
「君の勇気が助けになった、でも無茶は駄目。他人も自分も大事に! 元気に帰って安心させてこそ、ヒーローさ!」
 今日は飴玉とお菓子、我慢しなくてもお母さんはきっと怒らないよ、という侑飛にはお菓子のお礼を告げて。
「誰かのために勇気を出せる、貴方もまたヒーローです」
 そんななごみの言葉にお兄ちゃんおねえちゃんみたいになれるかな、と顔を輝かせる。
「よく頑張ったわね。お母さん、きっとあなたのこと誇りに思うわ」
「さ。もう一仕事といきましょう、ヒーロー。お母様に元気な姿を見せてあげてください。無事に帰るまでがヒーローのお仕事ですよ」
 紬と結花の言葉に大きくうなずき、手を振って。
「助けてくれてありがとう、ヒーローみたいに格好いいお兄ちゃんおねえちゃん! 僕、今日のことは絶対忘れないでいつか本当のヒーローになるからね!」
 そう元気に母親のもとへ無事を知らせに走り出していく。
 朝方から降り続いていた雨はいつの間にかやんで、空には綺麗で大きな虹がかかっていた。
 これからの人々の未来に、こんなふうに笑顔が咲きこぼれますように。
 ナイトメアという脅威と戦い続けるライセンサーにとって、少年のはじけるような笑顔は、戦う理由として十分なものをお返しとして与えてくれたことだろう。

成功度
成功

MVP一覧

重体者一覧

重体者はいませんでした。

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