戦士の信頼 マスター名:楠原日野

形態
ショート
難易度
普通
ジャンル
救出
人数
68
相談期間
3
プレイング締切
09/06 24:00
完成予定
09/26 24:00

●そこは危険につき

 鳥のさえずりに少女は閉じていた瞳をゆっくりと開け、いつもの景色ではない事に危うく枝から落ちかけてしまった。木にしがみつき、体勢を立て直す。

(そっか。見晴らしの良い所にと思って登ったが、少し安心してつい寝てしまったのだね)

 枝と枝に体重を預けて眠るのは曲芸のようだが、少女は固い床で寝返りもうたずに眠れるのでさほど難しい話ではなかった。

 とはいえさすがに無理があり過ぎて、体が悲鳴を上げていた。痛みを我慢して固まった関節を伸ばしながら、夕陽が照らす森にくまなく目を走らせる。

 名前は知らない鳥やリスなどが視界の隅でちょろちょろとしているくらいで、大きいものが動いている気配はない。

(眠ってる間に、あれも眠ってるとか。それとも私が動いて音を立てるまで身を潜めているのかね)

 だからと言って、このままずっとここにいるつもりはない。動いたところで事態が好転するわけでもないだろうが、スマホも落としてしまった今、動かなくても同じなら動く方を選ぶ——それが少女の性分だった。

 木の上で仮眠するだけあり動きやすい服装の少女は、落ちるようにではなくゆっくりと、それでいて的確に枝を足場にして、スルリスルリと木を降りていく。

 降りてからもう一度ぐるりと見回す——と、目が合ってしまった。それもわりと近くで。

 目が合ったと言っても、こちらに頭を向けているというだけで、そいつに目はない。ただ鮫のような細かく鋭い歯が並んだ口がついているから、そこが頭で、顔なのだとわかる。その恐ろしい牙をこちらに見せつけているのだと気づいた瞬間、少女は正面へ斜めに向かって跳ぶように駆けだしていた。それとほぼ同時に、地面を這いつくばる四つ足のそいつも正面へと飛びかかっていた。

 激しい衝突音と木の倒れる音、押し寄せてくる風圧に振り返ることもなく少女は下っている山道を全力で駆け下りていく。

 人の手がまったく入っておらず、日の当たらないところにしつこく雪が残っているだけあって草木もそれほど生い茂ってはいないので、走りやすくはある——が、やはり不意に足を取られてしまった。とっさに頭を腕で抱え込み足を縮めた少女は山道を何度も転がり、やっと止まる。

 怪我らしい怪我はしなかったが、世界がぐるぐると回っていて、耳の中では鐘が鳴り続けていた。

 それでも少女はいま置かれている状況を忘れず、落ちている枝を拾い上げ真横に投げつけると、やはり追いかけてきていたそいつが落ちた枝に向かって跳んでいく。

(さて困ったわね)

 こうなるとほぼ詰みに近い。

 眠る前はたまたま離れたところで何かが移動している音がしたから、なんとか巻くことができた。その後、あんなのが他に居たりするのではとか、どこら辺にいるだろうとかを調べるために木の上へと登ったが、緊張が少しほぐれ、つい、眠ってしまったのだ。

 脅威に襲われ、まだそこら辺をうろつく可能性が高いという緊張感の中で、だ。

 さてどうしようかと思案していたところ、そいつの顔があらぬ方向を向き、そこで少女も気づいた。どこかの民族衣装をまとった、少女よりも少し年上だがそれでもまだ少女と呼べる女性がそいつを目にしながらもひるまず、まっすぐに向かってきている。

 飛びかかってきたそいつの下に潜り込み、ほとんど倒れているような前傾姿勢のまま横に回転して、腕にはめているクワガタムシの角のような物でそいつを叩きつけるように切りつけ放り投げた。

 その女性は片手を地面につき体勢を立て直し、その勢いのまま少女を脇に担いで駆け抜けていく。

 女性の口が動くが、何を言っているのかまだ聞こえないが、大丈夫などの言葉だろうと、頷く少女。直後、女性が後ろに向かって蹴りを放った。

 いつの間にかまた飛びかかってきたそいつの額につま先をつけ、相手を吹き飛ばすのではなく、自ら跳んで距離を引き離す。

(かっこいい……!)

 ただ逃げるだけしかなかった自分と違い、立ち向かえている女性に少女が感動し震えていると、やっと聞こえるようになった耳で、彼女の言葉を聞いた。

「ぼくからの連絡。少女を確保。複数のターゲットをつれて、今からポイントに向かうよ」




 少女が眠る数時間前のこと。

 リンゴ型のナイトメアが出現したと連絡を受け山を封鎖したあたりで、その反対側にもナイトメア発見の報を受けて集結しつつあったライセンサー達に、「封鎖される直前、その地域に散策許可を貰って入っていった少女が帰還していない」と連絡が来た。

 山の持ち主はライセンサーについてよく理解していなかったため、少女が1人で数日間、山でのキャンプという異常さも「ライセンサーとやらは大変なんだねぇ」と、少女をライセンサーだと思って許可したとのこと。その少女が封鎖されても連絡一つよこさないのだと、少女の家族から通報があったのだ、と。

 それを聞いた民族衣装の少女、シャラヴィン・ソウドゥはこう提案した。

「みんなで探し回って散り散りになれば、逆に狩られる人もいるかもしれない。一番身軽で実戦経験もみんなより多いぼくが、その少女を探しに行くよ。
 たぶん、ナイトメアから逃げながら見つけることになると思うんだ。少女と一緒に戻ってきてそのまま安全なところに運ぶから、退治はみんなに任せていいかい?」

 17歳の少女にこう言われ、ムッとする者も居たかもしれない。だがライセンサーとしてはソウドゥの方がずっと長く、何度かMVPをとったほどの実力者である。ここで話し合っている時間の方が無駄であると理解して、内心がどうであれ、すんなりとその提案を受け入れたのであった。




 そして今、ソウドゥは少女を脇に抱えたまま道らしき道まで戻っていた。

 道中、鹿の走る音に反応して追いかけていたヤツが枝を払いのけて大きな音を立てるソウドゥに引き寄せられたりして、その数を5体にまで増やしていた。

 それでもソウドゥは後ろから迫り来る気配を脚で叩き落としたり、首を腕で抱えて投げ飛ばしたりと、ダメージになっていなくとも、いなし続けている。

「すごい人だね、キミは!」

 こんな状況に怯えもせず、目を輝かせそんなことを言っている少女に、ソウドゥは僅かながらも驚いていた。

「君こそすごいね、こんな状況なのに泣き喚きもしないなんて」

「そんな暇があるなら生きる方法を探す方が得だ」

 それはそうなのだが、実際にそれが実践できるとなると少しぶっ飛んでいる気もした。

 だがそれはそれで大事な素質かもしれない——

「君はライセンサーに向いているかもね。

 ——みんな、もう少しで合流するよ」

 少女に笑いかけ、ソウドゥは残った体力を使い切るつもりで道を走る。そして開けた先に、準備万端の仲間たちが待ち構えていた。

 後ろに気配を感じながら、ソウドゥは仲間達の間を「後は任せたよ」と通り過ぎていくのであった——……


●状況・目的
・ソウドゥと少女を追いかけてきたナイトメア達の殲滅
・抜けられてソウドゥを追いかけられたとしても、最終的にソウドゥがどうにかはしてくれる——が、彼女の信頼を裏切る形にはなるだろう

●場所
・山の麓あたり、1本道の途中にある10sq四方の拓けた空間

●敵情報
・シャザード×5体(確定)
 危険度3の下あたりとされる攻撃型ナイトメア。大型犬くらいのサイズで、白い肌をした人型ではあるがトカゲのような歩行と、鮫のような牙を持ち、目も鼻もない。全身か、あるいはどこか特殊な器官で音を頼りに動くものを襲っている。
 その突進力は軽トラックほどで、かみつきにも注意

●情報・補足
・時刻は夕方、まだ暗いと思うほどではない
・5体ともソウドゥを追いかけてきたので、すぐに戦闘へ
・事前に来る方向やタイミングはわかっていたため、事前準備はばっちり
・拓けた空間は申のような形状で、ソウドゥは上から来て下の車両が通った道を走り抜けていく
・音で認識しているためライセンサー達の存在にまだ気づかず、誰も音を立てなければそのままソウドゥを追いかけていく
・敵はより大きな音を優先して狙う傾向にある
・拓けた場所は間伐作業の車両が駐車していた事があり、そこの空間だけ木は生えていない。草も他と比べだいぶ短い
・周囲は森というだけなので進入不可ではないが、まばらに木が生えているため移動力にマイナス補正


【全体】参加
B班左翼に展開
開幕一斉射撃に参加、サブマシンガン2丁をフルオートで弾幕を張る
>ひゃっはーー!なーのよー!

その後は、味方と離れ無いようにしつつ各個撃破を狙う
マシンガンは撃ち尽くしたら、Pロッドに持ち替えてフォースアローで攻撃する
>このロッド、割と高性能だけど、矢がハートマークになるのが欠点よね…改造したら、別の形にできたりしないかな(Fアロー撃ち込みつつ

基本間接攻撃メインだけど、いざとなったら体張る
>まほーつかいが皆やらかいと思ったら大間違いなのよ、自分の身くらい少しは守れるのよ(そのためのセイント

一応、バックアップの予備として防犯ブザー他大きな音が出るものを何種類か見繕っていくつか持っていく
>こんなこともあろうかとなのよ 備えあればうれしいなって言うでしょ?
【全体】
●目的
NPC2名救出
●目標
敵を拓けた空間(以後広場)内で全撃破
●要綱
敵誘引し火線集中後、個別撃破
・詳細
敵先頭の広場突入に合わせ、ブザー投擲し誘引

釣った敵に対し、合図(挙手)後参加者が集中砲火

各自敵撃破
●班分け
(広場俯瞰視点で右側)A班
(同左側)B班

【個別】
事前準備:
防犯ブザー(理想3個ほど
携帯(VOL最大設定済

A班
無言
広場中央で待機
日光対策サングラス着用
【全体】参照
敵広場突入約5m手前でブザー発報させ上入口より2SQほど下に投擲
敵先頭がブザー箇所に誘引されたら合図実施
参加可ならフォースアローで集中砲火参加
集中砲火後盾に持替
同班常陸を同SQで庇う方針
射線確保の為基本膝立ち

攻撃行動
未移動射程内敵相手にフォースアロー優先使用
当てること最優先
味方と偏差で仕掛け敵の回避行動を潰す
近接味方への誤射警戒し、射線被りを防ぐ
アロー切れ時は盾打撃
防御行動
敵攻撃導線は直線と予想
進路、角度を推測
突撃、尻尾は腰を落とし盾を構え、角度をつけ衝撃を逃がす
とびつき、噛みつき系は掬い上げるよう盾で叩く
回復
負傷率50%以上の未移動射程内味方にヒール
自己は70%以上
戦闘不能者無視
優先度
防御>攻撃>他回復>自己回復

敵が広場突破しかけるor味方の一部に殺到した場合
残りブザー(不可時携帯)を鳴らして敵誘因試行

その少女は何故ここで一人だ?
【目標】
シャラヴィン様と救出対象の少女への被害無く敵を殲滅

【準備】
防犯ブザー1個

【行動】
広場俯瞰視点で左側のB班に配置
事前に生命の書SPを装備しフォースアローを撃てるように待機

味方のブザー投擲後の合図に合わせてフォースアローで近い敵に2回攻撃
以降はBD4SPに持ち替え味方とともに行動しつつ同じ敵を狙って攻撃する
動きが止まっている敵・負傷している敵には生命の書を装備したフォースアローで攻撃
フォースアローは1回は敵が抜けた時に備えて残しておく
基本は距離をとって突進をまともに受けないように注意

攻撃の優先順位は、NPC2名へ向かう敵>味方に組手いている敵>負傷・停止している>その他

NPC2人の方へ向かう敵は最優先で対処
この際は盾を装備し防犯ブザーを使用、敵の気を引いた後に味方のいない方向へ投擲する
惹き付けができない場合は攻撃を優先しフォースアローも使う

味方負傷時にはプリンセスロッドを装備しB班の味方を優先してヒールで回復
基準は生命が半分を切った際

依頼終了後、回数が残っていれば負傷した人へヒールを使用。
【心情】 「シャラヴィン…おひさー。今、忙しい…?仕方ない、ね」

【目的】 依頼を解決する為、敵の攻撃目標誘導と撃破を目的として参加する。

【準備】
緊急時の敵の誘導に備えて、防犯ブザーを数個準備しておく。 作戦があれば事前に打ち合わせ、それに協力で応える。

【行動】
A班で後衛。

戦闘では合図に合わせて初手にフォースアロー。

一斉射撃の後は班に分かれながら移動する。
88と同スクエアでカバーリングをしてもらう。
誤射しないように攻撃する時は射線を逸らす。
使用回数が0になればエネルギーガンに持ち替えて通常攻撃をする。
無駄な音は立てず敵を惹きつけないようにする。
「狩られるのはお前たち、という……話、ちゃんちゃん」

前衛が抜かれたり、敵が下り道に向かったら防犯ブザーを投げて敵を遠ざけつつ広場に引きつけるようにする。
射程内に未行動の敵がおらず、かつ生命力が半分以下になった味方が範囲内にいればヒールをかける。
同じターンで仲間とタイミングが被って無駄うちしないように意識する。
「立って…そうじゃないと、ボクに攻撃入る。痛いのめんど、い」

戦闘終了後にはシャラヴィンに声をかけてみる。
「そっちの子は…なんで、山登りしてた、の?」
心情】
ランセンサーじゃない女の子がこんな山で数日間キャンプだなんて、何でそんなことしたのかな?任務が終わったら女の子に理由を聞いてみたいなぁ

目的】 ソウドゥさん達がいる方へ向かわせない様にしつつ敵殲滅目指すよ
ソウドゥさんや仲間を信頼し、また皆の信頼に応える戦いを

準備】 防犯ブザー購入(可能なら複数
予め皆と携帯番号交換

行動】
【全体】参加
A班
基本レガース装備で極力音立てずに戦闘

最初は十字砲火で一斉攻撃(ここだけ自動拳銃で
敵が向かってきたら後衛守る様に前へ

仲間の出す音に気をとられた敵になるべく横合いや後ろ等敵の隙狙い格闘打撃攻撃
(仲間の音なければブザーの音鳴らしつつ敵の横へ投げ横を向いた隙に攻撃
敵からの攻撃はダンスの要領で敵攻撃タイミング見計らい回避

敵が離れてソウドゥさん達の方へ行ってしまいそうな時や仲間危機時は
ブザーや携帯の音を鳴らすかタイムロスあるなら大きな声で歌い敵の注意を引付け
注意引付け等で敵が周囲に複数いる時は
仲間を巻込まない位置取りでクレイモアに装備を持替えパワークラッシュ範囲攻撃!
「イメージを力に代えて……。これが今の私の全力です!

知覚攻撃する仲間見て敵が知覚攻撃に弱い様なら魔導書に持替えパワークラッシュで攻撃

敵を追う必要時は全力移動で追う
「ソウドゥさんの信頼に応えるためにも、絶対に行かせません!
●目的
第一:NPC2名の安全圏への退避
第二:敵殲滅

●行動
・貸与申請
防犯ブザー2個程度
フラッシュライト3個程度
(最低各1個ずつ

【全体】参加
A班
A&Hで集中砲火参加、撃ち切りか敵散開で薙刀に持替え近接移行
優先は味方遠距離攻撃の補助→常陸、88のカバー優先
止めや大ダメージではなく薙刀の射程活かし毒の様にチクチク削る事を主眼に→ライトバッシュ序盤より積極使用で効率↑図る
特に敵が自身以外狙っている場合積極攻撃
敵突進は回避優先
敵複数体が味方に集中しないよう最大限注意→最低1体は相手取るよう声や武器の打ち鳴らしで誘引(2体以上隣接又は突進来たら防犯ブザー鳴らし敵背後に落ちる様投擲
敵がNPC追う素振り見せたら最優先対応→ブザー、声、残弾ある銃器等あらゆる物・音で誘引

戦闘長期化による視界暗化警戒
日没手前で貸与のライト点灯、地面に置き光源とする→複数ある場合離して設置
◆方針
仲間と連携して敵を殲滅する

◆行動
銃声で敵を誘引
常に味方前衛の4SQ以内にいて
なるべく1体の敵に複数で当たる

申形地内下側、左に配置
初手、奥手前に向かってくる敵を狙うようにして当てやすく
ポイントショット使用し確実に当て先手取る

武器はまずミネルヴァ使用
弾切れでA&H→オートマチックに持替、以降オートマチック使用

リロードはタイミングを味方とずらし誰も音を出さないターンは作らないように
リロードのターン行動遅延宣言
自分や味方の重体危機時リロードせずライフルで攻撃

銃声必要時全武器弾切れで
足踏みで代用

受け側は回避宣言
銃を撃った後同一SQ内で1歩移動する
半身を取り敵に対して面積を小さくする等して避けやすく
突進を食らったら受け身をとる

ヒールは気絶しない程度
優先度 自分>陽動係>他

味方フレンドリーファイア警戒
射程分前方空ける
万一の場合のため背中を晒さない
◆方針
・救出対象の安全確保が最優先
音でソウドゥらの足音、気配を掻き消す

・B班
個人方針は遊撃と囮
奇襲(優先護衛対象を狙う敵を攻撃)⇔囮(狙われなくなるまで攻撃を引き付ける)
基本的にこの繰り返し

・護衛対象の優先順はサウドゥたち>後衛>回復>他の優先順
敵を引き付けている最中は他の味方前衛に任せる
(1体でも敵を手すきにして自由に行動させたくない)

・待ち伏せ⇒ブザー⇒味方の銃撃のタイミングで動く

◆戦闘行動
・奇襲は<ライトバッシュ>
初撃までは音を殺して意識外からの攻撃を心掛ける
此方へ向かない様なら遠慮なくがら空きの処を攻め続ける

・囮中は<移動攻撃>でヒットアンドアウェイ
此方への攻撃に移動を必要とさせる=他の味方への攻撃が疎かになる『案ずるな、散り去ぬも義の礎に過ぎぬ』
『散り候へ凶夢よ、うぬらの喰らえる空蝉は既に此岸にない』

●少ない準備時間に
「退治はみんなに任せていいかい?」
 ソウドゥが言うが早いか、常陸 祭莉(la0023)が「シャラヴィン……」と声をかけきる前には森へと走り始めていた。
「おひさー……今、忙しいみたいだ、ね?」
 追いかけたり大きな声で呼びかけると言うエネルギーを使わず、手を振って見送る。
「言い草は癪に障るが腕前は大層なものと見受けられるの。まぁよい、先人の顔を立てるのも礼儀じゃ」
 あまり面白くなさそうな顔をする八重崎 牡丹(la0028)だが、とりあえずは納得した様子を見せる。
「気にいらんと思うのは個人の勝手だが、事実として合理的だ。こちらには僅かでも、作戦を準備するための猶予期間もあるのだからな」
 そんな事を言って、88(la0088)は煙草に火をつける。
「ひよっこにも至らないのは十分に理解しているさ。今はそんな事を気にかけるより、目的遂行のみだ」
「ソウドゥさんの信頼に応える事が重要ですねっ」
 九十九里浜 宴(la0024)と水無瀬 奏(la0244)も、それを十分に理解していた。
 少し咳き込みながら、「物事には優先順位がありますわ」と華倫(la0118)も納得した様子である。
 ヨハン・クルーゲ(la1595)が落ち着いた声で、「まずは今のうちにできるだけの話し合いを、という事ですね」と言っている横で腕を前後に振って、「買う物があるなら、ひとっぱしりしーてくーるのよ」とフローラ(la0319)が楽しそうにしている。
「じゃあ……相談しなきゃ、だね。早く眠る……ため、にも」


●待ち伏せからの
 拓けた空間の中央やや右寄りにサングラスをかけ、コンビニで手に入れた安いおもちゃのような防犯ブザーを数個手にした88、さらにそこから右側に宴、奏、祭莉。
 左寄りに牡丹、ヨハン、華倫、フローラと分かれて配置につき、息を潜めて待ち構えた。咳き込みそうになるが、我慢する華倫。
 虫の声、風の音、動物の気配。それらだけが8人の耳に届いている。
(初めての依頼ですね……頑張りましょう)
 ヨハンが黄色い表紙の書物を手にする。
 森から激しい音が聞こえてきた。ひと際大きな音と共に少女を抱えたソウドゥが飛びこんできて、道を駆け抜けていく。
「後は任せたよ」
 白いトカゲもどきのシャザード5体が森の中に姿を見せた。
 まだ誰も動き出さず、正面に立った88が防犯ブザーの紐を引き抜いた。静かな森には十分すぎる大きな音がソウドゥの足音をかき消し、目のないシャザードが88の方を一斉に向いた。
 ブザーをちょうどシャザードの通り道へと投げつける。
 我先にと他を押しのけながらブザーへと集まっていくシャザード達へ、88は祭莉の元へと静かに移動しながら無言のまま先頭の1体に向けて腕を振り下ろした。
 牡丹が足音を殺しながら、仲間の射線を塞がないようにぐるりと迂回する。
「ターゲット確認。排除開始」
 ヨハンの左目が銀色に変化し、空いた手を前に突きだすと、力が収束されていく。
「Feuer!」
 力が矢を形作り、シャザードへと放たれる。喋るだけのエネルギーが惜しい祭莉も、青く染まったその手で作った力の矢を投げつけていた。
 艶消しされた黒色の拳銃のトリガーを引く、奏。
 紫のアロハから覗く右腕から背中にかけて黒い紋様をゆっくりと這わせ、宴のサブマシンガンも火を噴いていた。
「即席チームでも、わたくしは自分の仕事をこなすだけですわ」
「ひゃっはーー! なーのよー!」
 フローラと華倫の小型ライフル弾を使用したサブマシンガンが、派手な音を立てて弾をばら撒いていく。ばら撒かれてはいるが、華倫の弾はしっかりと1体だけに絞られていた。
 一斉に放たれた攻撃。先頭の1体を一瞬にして肉塊へと変える。
 仲間がやられても意に介した様子を見せない4体が、殺到していたブザーから方向を変えて、別の目標へと向かっていった。その目標は――フローラだった。
 フローラに向かっていく1体の横を牡丹が並走する。
「うぬの相手はわしよ」
 獣皮のレガースでシャザードの顔を下からかち上げるように蹴り上げて、動きを止める。そこへヨハンが投擲した力の矢が貫いた。
 それでもなお動くその1体は目標をフローラから牡丹に変え、牡丹の足音についていく。
 3体がフローラに集中するのを見て、88がもう一個、ブザーを鳴らして投擲する――が、わずかに止まりはしたものの、目標がフローラのままだった。
(音を覚えるのか? そうでなくては生物兵器として役に立たんか)
 とりあえず試した程度なので効果の薄さに全く落胆しない88。
 この間にもフローラとシャザードの距離は詰まり、フローラは近づいてくる奏に目配せしつつ、飛びかかってきたシャザードの下を潜り、振り回す白い腕を跳んで躱す。だが3体目の突進を躱せないと悟り、足を止めて正面から受け止めた。
 イマジナリーシールドが激しく輝き、光が弾ける。
 弾ける光の圧に頭部の大きな耳のヘッドセットが後ろへと吹っ飛ぶが、フローラは「まほーつかいが皆やらかいと思ったら大間違いなのよ、自分の身くらい少しは守れるのよ」と一歩も退かない。
 そこで大音量の音楽がフローラから流れる。
「こんなこともあろうかとなのよ。備えあればうれしいなって言うでしょ?」
 発信者が『水無瀬』になっている携帯を取り出し、反対の方向、奏達の方へと投げた。
 それに釣られる2体が顔の向きを変える。フローラに衝突した1体と牡丹に一撃を喰らっている1体は、それに釣られる様子を見せなかった。
「憂いなし、だと思いますわ」
 ツッコみつつも、華倫がフローラの前で動きが止まっているシャザードをしっかりと狙い、サブマシンガンを全弾お見舞いする。
「一度殴られれば、さすがに音くらいで目標を変えませんか。それなら……!」
 金色に輝く刃の大剣に持ち替え、奏はフローラの携帯から流れるアイドルである母親の曲に合わせ歌いながら、さらに注意を引く。
「イメージを力に代えて……」
 跳びかかってきた2体のタイミングを見計らい2体の間をすり抜け、奏は力が弾けるイメージを思い描いた。
「これが今の私の全力です!」
 星の瞬きのような力の炸裂が、シャザード2体を切り裂く。
 2体は叩き落され、地面をのたうち回っていた。
「漁夫って……いいよ、ね」
 転げまわるシャザードに祭莉が力の矢を投げつけ、「労力が少なくなるのは理想だな」と時間差で88も投げつけていた。
 その1体の頭部を狙って薙刀を振り下ろす宴。
「こっちのは引き受けた! うぉら、こっちきな!」
 柄で地面の石を小突き音を立てつつ、薙刀で斬りつけた1体を挑発しながら誘導するのだった――


 フローラの前にいた1体を撃ってから、半身になって待ち構える華倫。
 そこへ。
「もう1体、わしがお相手仕ろう」
 追いかけてくるシャザードの腕を躱しつつ、フローラから華倫に狙いを変えた素振りを見せる1体へと駆け寄り、レガースの爪先でその頭部へしっかりと体重も力も乗せた飛び蹴りを食らわせた。
 爪で抉れた頭部からは血飛沫ではなく花吹雪が舞う。
 頭部を抉られながらも腕を牡丹へと振るうが、着地と同時に後ろへと跳んでひらりと躱してみせた。そこに突進してきたシャザードがシャザード同士で衝突する。
「今ですわね!」
 華倫がサブマシンガンの銃口を向けると、フローラも構えた。
「そろそろ数を減らしたいのですよ」
 ヨハンの手に力が収束されていく。
 そして「Feuer!」という掛け声に合わせ、華倫とフローラのサブマシンガンも火を噴いた。
 投擲される矢と弾の雨が衝突して動きの止まっているシャザードを貫き、蜂の巣にした。それだけしてようやく、その活動を停止するシャザード。
 だが1体の陰になって弾が届かなかったもう1体が仲間の死骸を押しのけ、ヨハンへと突進していく。
 身構えるヨハン。
 だが突進するシャザードの首めがけ、桜の花弁が舞い散る。
 シャザードの首筋に、蒼い刃文が揺れる小太刀の刃が食い込んでいた。
「案ずるな、散り去ぬも義の礎に過ぎぬ」
 牡丹が語りかけ、食い込んだ刃は綺麗に振り下ろされ、首を通過した。
 シャザードの頭がゆっくりと落ち、牡丹のイメージの力によってそう見えるだけだが、綺麗な断面から桜が舞い乱れる。
 小太刀を鞘に収める牡丹。
「散り候へ凶夢よ、うぬらの喰らえる空蝉は既に此岸にない」


 突進してくるシャザードに対して、宴が構える。
「きやがりな!」
 そう言って腰を落とし――横に避けた。
 その後ろ、祭莉の前に膝立ちで円形の盾を構えていた88が、シャザードの突進を受け止める。正直に真っ直ぐ受け止めるのではなく、斜めに角度をつけ、突進の方向を斜め後ろに逸らす様に受け止めるのだった。
「直線移動なのは予測済みでな」
 自らの勢いで後ろへ吹っ飛んでいくシャザードの背中を宴の薙刀が貫き、地面へ縫い止めた。地面をシャザードの体液が濡らす。
「そこで渇いてくたばっちまえ」
 バタバタと手足を振り回すシャザードだが、宴が薙刀の柄に力を籠めて捻じりこむと、一瞬、手足を痙攣させてそれっきり動かなくなる。
 その時、奏がシャザードの腕で殴られ、吹っ飛んできた。
 地面を滑り転がり回って、祭莉の横で止まった。その可愛らしい顔が土まみれである。
(まだまだ未熟だね、私)
 顔を拭い、立ち上がろうとすると温かみを感じた。
「立って……そうじゃないと、ボクに攻撃入る。痛いのめんど、い」
 顔の擦り傷が治りはしないが祭莉にヒールをもらい、気力も取り戻した奏は頷いて立ち上がった。
 そこに奏を狙ってなのか祭莉を狙ってなのかわからないが、シャザードが跳びかかってくるも、割り込んだ88が盾で顎を下からかち上げた。
 奏を庇ったというより、戦力が減るのは好ましくないがための行動だが。
「いきます!」
 かち上げられ、浮いたままのシャザードへ向って跳ぶ奏。くるりと一回転するように身を翻して、浴びせ蹴りの様にレガースの爪を食いこませ、地面へと叩きつけた。
「もういっちょ!」
 宴の薙刀が、再びシャザードを地面に縫いつける。だいぶ弱っているようだが、それでもまだ死なずにもがいていた。
 その頭上に力の矢が形成されていく。
「狩られるのはお前たち、という……話、ちゃんちゃん」
 祭莉がこれ以上動きたくないと言わんばかりに、立てた人差し指だけを下に向け、収束した力の矢でシャザードの頭部を貫くのであった――


●少女は何故?
「このロッド、割と高性能だけど、矢がハートマークになるのが欠点よね……改造したら、別の形にできたりしないかな」
「できるかもしれませんね」
 吹っ飛んだヘッドセットを被り直し、プリンセスロッドをぶんぶん振るフローラへヒールしながらヨハンが答えていると、足音が近づいてくる。
「あ……シャラヴィン」
 祭莉がその名を呼ぶ。
「君達、思っていた以上に動けるみたいだね」
 安全な地域まで離脱するつもりだったソウドゥだったが、予想以上に早期決着がついたので少女を連れて戻ってきた。ソウドゥの後ろを歩く少女の足取りはしっかりしているどころか、なんだか軽いくらいである。
「まだまだひよっこです」
 応えながら、宴はもう少し時間がかかるだろうと踏んで地面に刺していたフラッシュライトを回収する。
 フローラから離れ、ヨハンがソウドゥの前へとやってきた。
「ヨハン・クルーゲと申します。これから依頼でお会いする事があるかもしれませんが、よろしくお願い致します」
「ヨハンか、覚えておくよ」
 自分の胸へと手を置いて挨拶するヨハンの横から、奏がひょっこり割り込み、ソウドゥの手を取った。
「ソウドゥさんが女の子を抱えて連れてきてくれたおかげで、こんなに早くあの子を助けられました。いつか私もそれくらいできるようにがんばりますっ」
「うん、期待しているよ。ボクは祖父のように立派な戦士となってみんなを守るつもりでいるけど、きっとボクだけじゃ全ての人を守りきることはできないからさ」
 その言葉に牡丹の眉がピクリと動き、ソウドゥを見る目がやや険しいものになったかと思うと、身体ごと向きを変えてソウドゥに背中を向けるのだった。
「そして少なくとも、キミ達の実力は信頼できるレベルにはなってきているってことだね。いいことだよ」
「――それにしても、ランセンサーじゃない女の子がこんな山で数日間キャンプだなんて、何でそんなことしたのかな?」
「うん……ソレ、ボクも聞きた、い。そっちの子は……なんで、山登りしてた、の?」
 みんなを見て回ろうとちょこちょこ動く少女に、奏と祭莉が視線を向ける。
 視線を受けても我がもの顔の少女は華倫の前まで来ると、後ろに回り込みつつ「ほほー」と声を漏らす。
「何でしょう?」
「うむ、実にいい尻していると思っただけだよ」
 そう言って華倫が気にしている肉付きの良い尻を触る。華倫は小さな悲鳴を上げ、顔を赤くして少女から逃げるように奏の後ろへと隠れる。
 それを追い掛けようとする少女の襟を88が掴み、持ち上げる。少女に対して怒っているとか苛立っているとかではなく、単に扱いが雑なだけである。
「何故、ここで1人だ? ナイトメアがいなくとも、常識的に言えば大人でも1人は危険な所だ」
「えー? 確かに危険だがね、私は迷っても生きて山を降りられる自身もあるし、熊と出会っても逃げきる自信がある。自信のない誰かを連れていても、ただ邪魔ではないかね?」
「まあ、確かにな」
 納得したのか、88はストンと下ろす。
「でも自身のある者を引き連れて歩くというのは、もちろん心強い。今後は君らに頼るか……それともいっそ私の私による私のためだけの者達でも集めるか……?」
 少女は腕を組み、口元を隠して何やらブツブツと言っていたが、やがて肩をすくめる。
「何をしていたかについては……くだらん夢を追いかけている、とだけ答えておこうか。
 ――それにしても、キミ達は実にいいね。戦えるという意味について疑問だったが、実際に戦い、ライセンサーは勝利を収める事が出来ると知れたのは大きい! すばらしいよ!」
 少女が手を叩き喜ぶ。そのテンションの上がり具合に、奏が乗れずに困惑している。祭莉には最初からそんなテンションを持ち合わせていないので、「ふーん」としか言わない。
「よって、私もライセンサーを目指す事にするので、よろしくだ。先輩方」




戦士の信頼   終

成功度
大成功

MVP一覧

MVPはいませんでした。

重体者一覧

重体者はいませんでした。

参加者一覧

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