昏き舞台に道化は嗤う マスター名:鷹尾だらり

形態
ショート
難易度
普通
ジャンル
防衛
人数
68
相談期間
3
プレイング締切
09/06 24:00
完成予定
09/26 24:00

●首都高に陽は沈む
 人生は舞台だ、と言った詩人がいる。他人の悲劇を、喜劇と嗤った道化がいた。
 万物は流転する。人生は舞台でしかなく、舞台に立った役者は皆、定められた台本通りに踊り狂う滑稽な道化だ。
 侵攻する悪夢の道化に、蹂躙される哀れな道化。弱者の反攻すらも平凡な劇のスパイスに過ぎず、物語はまた進み、道化は泣き笑う。

 ──流転する舞台に群れ立つ、道化がいた。
 異形の襲撃で荒廃した東京。乗り手を逸した孤独な車の群れと、戦禍に穿たれたアスファルト。随所に散りばめられた朱の星を蹂躙して、四体の悪夢が無人となった高速道路を往く。
 共に戦場を駆け、人類と死闘を演じた同胞とも逸れて久しい。
 予想外に強固な人類の反攻。趨勢そのものは覆らずとも、前線は彼我共に混乱し、撤退。
 同じく後方に撤退し布陣した友軍と合流を果たすべく、四体のナイトメアはその傷だらけの足を速める。

 彼らの行く手に佇む大井ジャンクション。
 その口に落ちた陽光の先には仲間が待つか、死が待つか。
 醜悪で、強大。しかし悪夢──ナイトメアの名を冠するその道化は弱弱しく、敗残と落日の陽の中に消え去ろうとしていた。


 緊急ブリーフィングを開始する。
 すまないが、他のライセンサー達を待っている余裕はない。現在この場にいるライセンサーのみに通達する。
 今回のナイトメアによる東京襲撃で、前線に出張っていた敵ナイトメアの小部隊が、首都高湾岸線で補足された。このユニットは攻撃型3体と万能型1体で構成されており、そのいずれも小型の5~7m級である。
 この部隊は襲撃の初戦で損害を受け、後方の部隊と合流を目論んでいるものと考えられる。
 手負いの虎だが、万能型に率いられているだけでも十分脅威だ。
 またこのナイトメア達が本隊と合流した場合、我ら人間が被る被害は甚大だろう。

 そこで諸君らライセンサーは、奴らの進路上に位置する大井ジャンクションに急行。現地に防衛線を張り、同ジャンクションを死守せよ。
 なお現地は硝煙や火災による煙でやや見通しが悪く、アスファルトも戦闘の余波で削れ、足場が悪い。
 しかし、乗り捨てられた乗用車や観光バスが散乱しているため、ナイトメアからは人間の発見が遅れるだろう。そのアドバンテージを上手く活かせ。
 出撃。

●道化は嗤う
 炎と煙に包まれた東京。硝煙と炎に包まれた首都高の上空を、キャリアーは進む。
 眼下に流れる首都高の湾岸線。鉄屑に帰した車に、肉塊となった人いきれ。かつては和気藹々と観光客を運んでいたであろう、大型バスの残骸。
 削られたアスファルトに横たわる、SALFの偵察兵。地獄の釜の蓋は、既に抉じ開けられていた。

「ひでぇ……」

 窓外に流れる変わり果てた首都を見下ろして、キャリアー内のライセンサーが呟く。機内の空気も重い。

「見えてきました、大井ジャンクションです」

 目的地到着を伝えるSALF隊員の声も、緊張により上ずっている。
 その声に中てられて、ライセンサー達にも緊張が走った。君の足は震えていて、握り締められた掌は白い。その拳の白さは、その足の悲鳴は、恐怖か。あるいは怒りか、悲しみか。
 いずれであろうと、眼前に迫った戦闘を切り抜けなければならない。刻一刻と迫り来るナイトメアの足音を、死神の足音と重ね合わせて。
 ライセンサー達は各々の感情を噛み締める。

『現着したようだな』

 大井ジャンクションの傍らに接岸したキャリアーの無線が、オペレーターの硬い声を流す。

『再度任務を確認する。初戦で損害を受け撤退中のナイトメア4体を、後方部隊との合流前に大井ジャンクションにて殲滅せよ。人ン家に土足で踏み込んだ罰だ、キツイお灸を据えてやれ。健闘を祈る』

 色のない声を聞き流して、ライセンサー達がキャリアーから駆け出す。
 ツンと鼻を衝く硝煙と、焼けたガソリンの匂い。胸を締め付ける、燃える死体の臭気。
 戦禍に曝されたアスファルトは抉れ、横転した観光バスが車線を塞ぐように横たわる。乗り捨てられた車たちの群れは、悲し気にエンジン音を響かせていた。
 地獄と化した現状に、誰かが嘔吐く。

「うっ……! キャ、キャリアーは上空に退避します……っ」

 一般隊員が蒼い顔に汗を流して、キャリアーに駆け込む。
 貧弱な武装のキャリアーに対ナイトメア戦闘力はない。戦闘の余波による損害を未然に防ぐため、貧弱な七面鳥は上空に退避する。
 安全圏に退避する母船を横目に、ライセンサー達は大井ジャンクションの前方に陣取った。

「来たぞ!」

 やがて地面が揺れ始めた。火煙に霞む地平に、異形の姿が浮かび上がる。
 1体、2体、3体、4体……。ナイトメアがその異形を曝す度、空気が重くなってゆく。
 滴る汗、重圧に鳴る喉。心臓の鼓動が、いやに大きく高鳴る。
 獲物を構える手に、力が籠る。

《Guraaaaa──!》

 異形の咆哮が、高速を駆けた。
 万物は流転する。川の水が天に昇り、また地に降り注ぐというのなら。
 力量もまた然り。弱者は時に強者となりて弱きを襲い、強者はいずれ弱者となりて地に這いつくばる。
 哀れな道化は強者となるか、弱者となるか。
 人よ、迫るナイトメアを殲滅し、強者となれ──


 


※瓦礫などで見通しの悪くなった大井ジャンクションで、ナイトメアを迎撃する場面からシナリオスタート。
 4体のナイトメアを殲滅し、ジャンクションを防衛する。

●目標
 首都高湾岸線大井ジャンクションの防衛

●失敗
 ナイトメアが大井ジャンクションを突破

●成功
 ナイトメア×4を討伐し、大井ジャンクションを防衛

●環境
 午後7時30分。夕暮れの首都高湾岸線大井ジャンクション。
 アスファルトは所々が抉れ、やや足場が悪く、視界も煙のせいでやや悪い。
 乗り捨てられた車や観光バスなどの遮蔽物が多く、アンブッシュによる奇襲に適している。
 シナリオ参加者は大井ジャンクションでナイトメアを迎撃する場面からシナリオスタート。


●ナイトメア
 人型6m級『攻撃型』×3
・殴る
 単体対象。ダメージ(中)。
 射程は3m。
・突進
 単体対象。ダメージ(大)+配置変換。

 虫型5m級『万能型』×1
・指揮統制
 ナイトメア対象。5ターン攻撃力10アップが継続。
・支援砲撃
 全体対象半径20mにダメージ(小)。

【方針】防衛ラインを作り、人型を牽制しつつ虫型から撃破。
【準備】煙から目を保護する為のライダーゴーグル、
いざという時の照明代わりに、ペンライトを所持。【行動】音&牽制攻撃で人型を虫型から、なるべく引き離し、防衛ラインに引き付けている隙に
虫型の後方または側面を位置取り、奇襲できるよう遮蔽物を利用しながら立ち回る。
スキルの温存はせずに、早期決着を目指す。虫型戦、初手3ラウンドに限り、
スナイパーライフルZW-1SPをリロードせずに持ち替え、ポイントショットでの銃撃。
他者の攻撃があっても倒しきれなかった場合、リロードと通常攻撃の反復行動に移行。
撃破後、ゼロ=シックチップが受け持つ人型を背後か横からポイントショットで
強襲。その後、武器を持ち替え、生命の書SPでのフォースアローを交えつつ、スナイパーライフルZW-1SPで通常攻撃を試みる。任務終了までにスキルを使い切る所存。
■心情
ボクはね、スリルジャンキーってわけじゃないんだ。ホントだよ?
でもさ、今はとっても楽しいんだよね
なんでだろうね?ふふ

■準備
煙対策にライダーゴーグル装備
視界不良時ペンライト使用

■行動
有華さんと組んで人型の相手
人型を防衛ラインまで誘導、そこで引きつけておく

攻撃行動の際は以下の装備に持ち替え
フォースアロー:ミンネザング
移動攻撃、通常攻撃:銃
ヒール:ロッド

銃1丁は撃ち尽くしてもリロードは行わず、以降は2丁目を使う

遮蔽物や煙を利用して攪乱
常に一定の距離を取る
元のメッセージを表示しない
移動攻撃を駆使して遮蔽物の陰から飛び出し撃ち→別の陰に移動
「ははっ、鬼さんこっちらーってね」
移動攻撃を使い切ったら煙に紛れて遠距離からフォースアロー
6mサイズだもん、きっとそれなりに目立つよねぇ
狙えるようなら足や頭部を狙って怯ませる

突進要警戒
遮蔽物ごと吹き飛ばされそうだからそれっぽい動作を確認したら回避できるように

自分の相手以外の人型の位置もできるだけ把握
油断して鉢合わせして殴られるのはイヤだもの

自分、仲間がダメージを受けたら適時ヒール

担当の人型を倒したらゼロさんの加勢に
▽準備
煙対策で【ライダーゴーグル】を持ってきたっす。
キャリア―の中で装着。作戦の最終確認も皆としておくっすかね。

そうそう。家からタイマーを幾つか持ってきたっす。
100円の何で少し煩いけど、相手の気を引くには持ってこいっすよね?

▽行動
★作戦★
虫型と人型でチーム分け
ウチは人型の相手。詳細はゼロくん準拠。

【ポイントショット】で相手の脚を狙うっす。
脚をやってしまえば、どんな生物でも動きが遅くなるモンっすよ。

怒ってコッチに来る前に逃げないと。移動中にリロード。
時間差をつけたタイマーをあちこちにセットしておいて相手の気を引き、相手がそちらに気を取られている隙に攻撃。

傷口に【ポイントショット】っす!
視界が悪くて無理そうなら胴体狙いで通常攻撃。
相手が崩れそうな何かの下に居れば、それを攻撃して下敷きに!

敵の消滅を確認次第、【全力移動】でゼロくんの方へ急行!
足や傷口を狙撃してゼロくんのサポート。有華ちゃんの前で無防備な姿を見せちゃダメっすよ!

戦闘終了後、皆に取材を申し込んでおくっす!
『新人ライセンサー、初任務で大活躍!』とかどっすか!?
・行動
目の保護にライダーゴーグル
光源にはペンライトを持参、身体に固定し視界が悪い時に必要に応じ使用

敵の引きつけに携帯端末のアラームを他と重ならないよう設定
合流時に視界が悪い場合、此方の位置を把握できるよう自分のアラーム音を周知しておく

防衛ラインに引きつける間、背後を取るよう立ち回り挟み撃ちにする形に陣形を組み
敵が離れそうになった際には妨害・挑発などで、取り逃がすことの無い様に注意を払う

・戦闘
人型班(分け方はゼロさんに順守)、虫型班に分かれ
虫型班の合流まで私は人型対応を行い、牽制に回ります
牽制中は敵の攻撃は回避を主体とし、此方からは通常攻撃でスキル温存
攻撃の際は動きを遅くするため足を狙い
周囲の瓦礫を蹴り上げるなど阻害行動を中心に行う

合流後からはインパクトアタックも使用
弱点を把握していればその部位、不明の際は傷口を中心に狙う

仲間の様子を確認し体力が半分以下の味方にヒールで回復を行います
期待の新人、前田幸子様の初陣ってね!
初めての戦いだからって怯えてると思った? 残念! アタシそーゆー性格じゃないから!
やるからには全力で。何事も前向きに。っつーわけで、行くよ!!

まずは姿を隠して、あらかじめ用意しておいたキッチンタイマーを誰もいない場所にセットするよ。
もし入手できなければアタシのスマホで代用しようかな。
で、タイマーで音を鳴らして敵を引き付けるって寸法。
敵が音に引き寄せられたら、側面あるいは後方から奇襲を仕掛けるって流れね。
とりあえずこれがアタシ達全体の作戦。

アタシは指揮してるっぽい虫型を優先して狙うよ。
フォースアローを連打して、敵を穿つ! ぶち抜く! ぶっ飛ばす!
攻撃するときは、可能な限り側面か背後を狙うようにするね。その方が避けづらいでしょ?
で、敵も反撃してくるだろうけど、そこはこのサチ様が華麗にカバーしちゃうんだから!
アタシ、セイントとしての資質も持ってるから、ヒールが使えるんだ。
だからこっちが押されてやばいかも! ってときはヒールで回復に回るよ。
攻撃と回復、臨機応変に立ち回っちゃうんだから! アタシ凄くない?

スキル使い切っちゃって攻撃も回復も出来ない! ってときは、武器を銃に持ち替えるよ。
あんまし得意じゃないけど、何もしないで棒立ちとか最高にカッコ悪いし。

と、そんな感じかな。
アドリブとか絡みとか大歓迎なんだかんね!!
アドリブ歓迎

心情
「やれやれ…緊急事態つってももうちょい状況は確認したいとこなんやけどなぁ

準備
周辺地形把握し戦闘可能箇所の割り出し
キッチンタイマー
事前に作戦行動の再打ち合わせを行い意識の誤差等のずれを修正
戦闘開始前可能な限り周辺状況の確認、共有避難している人がいれば戦闘地帯を可能な限りずらす
煙等はバイザーハットで対応不可であれば携帯品ライダーゴーグル使用

作戦
虫型3(霧凪、前田、スター
人型2(御法堂、月城):2(ジークリンデ、来栖):1(ゼロ)の形で対応
戦闘予定地にキッチンタイマー仕掛け敵反応時の隙に奇襲各対応の敵を早期撃破し他のフォローへ行動
周辺状況は常に把握しておく(足場対応も含め
人型対応
1体1戦闘時は基本的に撃破メインではなく時間稼ぎ
攻撃するフリや周辺の瓦礫を蹴り上げる等阻害行動を中心に行い無理のない場面で攻撃を行う
敵攻撃はのらりくらりと回避主体、可能であれば受け流しや払い落しを行う
攻撃時は直接攻撃だけではなく踏み込む際の足や振るおうとする手のなど敵に自由に行動させないような行動をとる
敵を足場が悪い箇所へ誘導する攻撃など徹底的に相手を阻害する

「あいにく正々堂々ってのは趣味やなくてな。イラついたら俺の勝ちやで?

味方合流後も同じように立ち振る舞い味方の攻撃をアシストしながら立ち回る
◆事前
ペンライト持参
光が煙で散るなら灯りつけない
ゴーグルで目覆う
臭いはハンカチで押さえて対応

◆手段
瓦礫やバスなど遮蔽物で即興で防衛ライン作る
足場に注意
要救助者に被害が行かない様に此方へ注意惹きつける
暗視で敵の位置把握出来たら仲間に伝達
虫型優先的に退治
人型対応組が少しでも人型と虫型を分断出来たら、後方か側面から先制攻撃仕掛けて虫型へ奇襲
光で虫型を虫型対応組の方へ誘導出来るなら誘導
後方に回りこみ一気に叩く
虫型対応組と連携
十分注意しつつ少し前に出て射撃
ポイントショットで確実に虫型の胴体狙う
敵の攻撃には回避か遮蔽物使ってカバー
支援砲撃が厄介なので発動の兆候が分かればすぐ仲間へ知らせて、退避か防御の体勢取る
虫型退治後は近くにいる人型へ応戦
後方から遮蔽物利用して身を隠しつつ射撃

◆終
亡くなった一般人を弔う
準備
前もって煙対策に【ライダーゴーグル】の装備。
光源に【ペンライト】を装備。暗い時に使用します。
仲間と作戦の確認、コンビを組む来栖さんとのお互いの戦闘方法の確認。

作戦
案人型を狙う組と虫型を狙うに分れます。
人型を狙うメンバーは班分けはゼロさん案を採用し
私は来栖さんとコンビを組みます。

作戦としては人型を狙うメンバーで進行ルートに防衛ラインを構築。
人型を音や牽制攻撃等で引き付けておいて虫型を狙う組による側面、背後からの奇襲を仕掛け
虫型の撃破を狙いその後、人型の各個撃破を狙います。

ゼロさんのキッチンタイマーや来栖さんの携帯端末のアラームで敵が反応したら人型へ攻撃を開始。
戦闘手段の違うコンビという利点を生かす為に、来栖さんが前へ出るので
こちらは後ろから物陰等遮蔽物を利用して【フォースアロー】で援護します。

狙いは当れば怯む頭、攻撃を鈍らせる腕、ですが視界不良で狙いにくい場合は同士討ちにならないよう
来栖さんに気を付けつつ狙います。

もし、突進で来栖さんを突破したり彼女がダメージを受けた場合や仲間の回復に動く場合
メイン武器を【ミネルヴァP8000】に持ち替え、人型と距離を詰めつつ【移動攻撃】を行い、
相手の攻撃に注意ししつつ【ポイントショット】で来栖さんが体勢を立て直すまで引き付けます。

自分達の対峙した人型を倒しまだ戦闘を行っている人がいれば来栖さんと手分けし援護に向かいます。

●万里駆け消ゆ落日の咆哮
 耳障りな遠雷が地を駆けて、空は昏く群青に沈んだ。
 悲しげに啼いていた車の群れも沈黙し、首都高には炎の爆ぜる音だけが木霊する。

「よっしゃ、んなら作戦確認しよか」
 
 防衛線を敷き終え、再び集った8人の中で、ゼロ=シックチップ(la0672)が口火を切った。
 残る7人もそれに呼応して、各々の認識を確認していく。
 アスファルトが削れてやや足場が悪い事。襲撃による火災で光源には困らない事。視界は霞む程度に悪いため、ライダーゴーグルを装着する事。
 攪乱用のタイマーとアラームはすでに設置した事。虫型を優先に叩き、人型攻略班は牽制に徹する事。
 付近一帯に──生存者はいないこと。

「こうした場には、慣れそうには、ないですね……。きっと、何度足を踏み入れても。しかし今、私の意志でこの場に立っている事だけは確かです」

 来栖・望(la0468)が零した言葉に、悲愴が滲んだ。
 
「やれやれ……。緊急事態っつっても、もうちょい状況は確認したいとこやねんけどなぁ……」

 シックチップの嘆息。やがて大地の鳴動は大きくなる。
 揺れる電灯は落ちて硝子を舞わせ、車のボンネットに棄てられた骸は血溜まりに沈んだ。
 硝煙の緞帳を割き、道化はやがて現れる。無数の傷を刻まれた体躯が溺れるようにライセンサー達に迫る。

《──!?》

 アラームが鳴った。
 それは図らずしも、舞台の開演を知らせるブザーのように。罪人が絞首の瞬間に聞く合図のように。
 奇妙な静寂を切り裂いて、悪夢の侵攻を止める。

「止まった! 前に人型3体、後ろに虫型1体!」

 スター・ゲイジー(la0307)の暗視に見えた光景が、素早く7人に伝播する。

《Graaaaa──!!》

 落ちた陽の残光に、舞台は濡れて。満身創痍の咆哮が、万里の先に消えていく。
 道化は交錯する。己が命運をその手に懸けて、8人の道化が大地を蹴った。

●残響は嘆息に消えた
 その異形は蟲を思わせた。
 4足の鉄脚に対の鉄腕、歪に曲がった背。残光を引く赤い両眼に、縦に延びた頭蓋。右肩に載せられた榴弾砲が、その者の危険性を物語る。

 霧凪 紫乃(la0753)は虫型ナイトメアの後方を目指して、防衛ラインの右翼から背後へと迂回していた。
 手にしたZW-1SPの引き金を引く。肩を打つ衝撃、廃莢、装填、射撃。弾切れ、再装填はしない。2丁目のZW-1SPを構えてポイントショット。
 僅かな、ほんの僅かな瞬きの間に、虫型の左足は全てが砕かれる。異形の身が、左へ傾く。

「オッケー、アタシの番だね!」

 直前、飛び出した前田 幸子(la0019)は、左翼から背後までを走り抜けていた。

「アタシの全力、魅せてあげる!!」

 矢状に形成されたイマジナリードライブが、宵闇に乱れ咲く。3つの閃光が走って、虫型の右腕が爆ぜた。
 一瞬の内に左脚と右腕を逸したナイトメアに、嘗て強者であった面影はない。後は、止めを待つのみ。
 疾駆するその先に、一足早く役目を終えた紫乃の姿が現れる。
 サチと紫乃は速度を上げ、ナイトメアの背後ですれ違う。瞬間、2人が右手を上げる──

「イエーイ、紫乃っちナイッシュー!」
 
 パチン、と小気味良い音が爆ぜて、対の掌が交錯する。
 夜闇を裂いて妖精は舞う。その軌跡には星が走り、星の光跡を追って、星読みの男が悪夢の背後を取った。

「振り返った……ッ」

 闇夜をも見通す梟の目に、獲物の蟲が僅か身じろぐ。捉えた虫の蠢きに、ゲイジーの眉根が僅か吊り上がった。

「レディ達、砲撃来るぞ!」

 叫ぶと同時に走り出す。苦し紛れに獲物を求める榴弾砲は、すでに3人を捉えていた。

「ヤッバ……!」
「……ッ」

 身構える柴乃とサチを追い抜き、ライフルを構えてスコープを覗く。この一撃を外せば、砲口の深淵は紅蓮の炎を吐き出すだろう。
 回避は後でいい。今はただ、ポイントショットに全てを賭ける。後ろに控える女性たちの盾になる。回避は、その全部が終わってからでいい。

《レディを狙うのは、無粋ってもんだろう? なあ──ブ男?》

 引き金を引いた。
 肩を殴る鈍い衝撃と銃声。ボルトを引く、排莢、装填。そしてまた、引き金を引く。銃声が残響を生むより、早く。
 背後に目をやる。女性達は回避を終えていた。後を追って飛び込む。

 ──音が、死んだ。
 爆ぜる焔も、烽火連天の雷鳴も。その全てが残響を置いて、無へと帰結する。
 3つの顔が上がった。
 視界を影らせる巨影。3つの視線が、停止した蟲に注がれる。削げ落ちた右腕、砕かれた左脚。沈黙した砲と、光を失った、赤い瞳。胴を穿つ、2つの弾痕。

「「「ハ~……」」」

 3つの溜め息が重なる。
 地を抱く体を起こして、3人のライセンサーは胸を撫で降ろした。
 虫型ナイトメア──沈黙。

●双蝶舞天、愚を穿て
 人理に悖る地獄があるとするのなら。神が見捨てた世があるというのなら。
 この極東の街はまさにそれだと、来栖・望は瞠目した。
 最早神の見せる未来も見えなくなった今、この地獄に抗えるはその地に立つ者のみ。その瞳には人ならざる贋作、ナイトメアが映る。
 
《Arrrr──》

 ジークリンデ シグルズ(la0426)の牽制射撃が人型の脇を掠める。
 人を模したナイトメアも、所詮は贋作に過ぎず。その稚拙な知能は単純な殺戮を求め、眼下に踊る得物ただ一人を目掛けて殴り掛かる。
 その背後に迫る鉄槌の気配さえも、気付かずに。

「……ッ」

 シグルズの肢体が贋作の拳を跳躍する。背面を抜く剛腕の風切り音。背後のトラックが、歪な悲鳴と共に鉄屑へ帰す。

「今です!」

 シグルズが着地した瞬間、背後に回った来栖のプリンセスロッドSPが、艶やかに人型の腱を穿つ。
 崩れ落ちる巨体。獲物の動揺を、狩人は決して見逃さない。魔導書「沈黙の予言」が贋の膝を穿った。

「Arrrrr──!」

 耳障りな咆哮が地を駆けて、醜い贋作の疾走が地を揺るがす。攻撃を終えたばかりの望が、突進の射線上にいた。

「距離が近い、回避を!」
「クッ……」

 地を蹴る。1秒が、或いは、コンマ1秒が。幾通りに分岐する世界を選定するように。宙を舞った望とそれを見守るシグルズから時間の概念を奪う。
 訪れるその瞬間に備えて、目を閉じる。衝撃は──ない。

「ッ!」

 遅れてくる、衝撃。痛みはない。目を開ける。横になった視界に、フォースアローの閃光が走った。
 上肢を起こして、後ろを振り仰ぐ。ナイトメアはすでに望を通過して、観光バスを吹き飛ばしていた。

《Gu──ッ!》

 伸びた1条の閃光が、人型の頭部を弾く。シグルズの狙撃が、ナイトメアを怯ませた。
 素早く体勢を立て直し、振り返りつつある人型の顔面に瓦礫を蹴り上げ、走る。人型の脇を抜け、再び背後へ回り込む。

「シグルズさん、お願いします」

 やや煤に塗れた微笑みが、人型の背後へ消えて行く。

「……お任せください」

 彼女たちは淑やかな微笑で別れ、得物を構えた。花の開くように柔らかで、可憐に。しかしその眼光は──

「「参ります」」

 ──猛禽の如く。
 空を切り裂く音。爆ぜる右足に、飛散する断片。傷だらけの右足に、亀裂が入る。

《Arrr──!!》

 轟く咆哮が、天を衝く。同時に、背後で機械音に似た轟音が崩れ落ちる。
 虫型ナイトメアが、沈黙していた。攻略したライセンサー達も、各々新たな獲物を求めて戦場へと駆け出してる。

「援護しますぜ、お嬢さん方!」

 虫を仕留めたゲイジーが、車両に身を隠して人型を挑発する。
 敵ばかりが増え、人型はただ闇雲に暴れまわる。果てに、ゲイジーへと突進した。

「回避を!」

 望が叫ぶ。  然れど贋作は、何処に在れど人成らず。顧みなかった右足の亀裂が崩壊する。崩れた足が巨躯を地に沈め、好機を捉えた狩人がアスファルトを蹴った。
 ゲイジーとシグルズのポイントショットが突き刺さる。
 動きの止まった人型の上空に、艶やかに蝶が舞う。

「──お覚悟を」

 胴体深く、インパクトアタックが悪夢の胴を突き穿った。深紅の眼光が、明滅を残して消える。
 人型ナイトメア、1体目──沈黙。

●精舞いて、悪夢消えゆ
 地獄を真っ直ぐに見据える美しい二対の瞳が、人の皮を被った悪夢を防衛線上に絡めつける。

 硝煙の狭間。二人の妖精が、月下に佇んでいた。
 酷薄な微笑。小柄ながらも艶然な魅力を垂れ流す妖精。陽の如く明朗快活。雪原に春を寄越す無邪気な精霊。
 手折れば消える幻華の如く、然れど触れること能わず。
 妖精に魅入られたナイトメアが手を伸ばした先に、既に妖精はいない。

「ボクはね、スリルジャンキーって訳じゃないんだ。ホントだよ?」

 鈴の音にも似た月代 真白(la0447)の声に、人型が振り替える。しかしそこに、彼女の姿はない。代わりに三度、銃撃が脛を打つ。

「でもさ、今はとっても楽しいんだよね。なんでだろうね? フフッ」

 車列の陰に白い影が走る。
 昂る声は嬌声にも似て、然れどその手腕は揺るがず。真白の放つ弾丸一つ一つが、的確に人型の機動力を削いでいく。
 自動拳銃がスライドが退いた。弾が切れる。リロードはしない。BD4SPを持ち替え、再度斉射する。

「ははっ、鬼さんこっちらー、ってね」

 硝煙とスクラップヤードを踊り駆ける真白。届かない白影を追う人型。手を伸ばす度にその腕は、足は弾痕を刻まれて、徐々に衰弱していく。

「おー、真白ちゃん容赦ないッスね~」
 眼前で繰り広げられる「鬼ごっこ」を眺めて、護法堂 有華(la0196)は独り言ちる。
 その間も引き金を引く指は狂わない。次々と命中する度、左の足は亀裂を走らせ、その機能を失っていく。

「ま、そりゃうちも一緒っスけど」

 呟きつつ、余波で飛来した破片を回避する。リロードも忘れない。目前の遮蔽物に飛び込み、ポイントショットを放つ。正確な射撃が左足の亀裂を穿つ。人型の左足が粉砕された。ナイトメアはもう立てない。

「フフ、サヨナラだね」
「そッスね、ゼロくんの所に急ぎましょっか」

 近付き、得物を構える。最早2人の目に、眼前の獲物は映っていない。無慈悲に放たれた有華のポイントショットが、出来損ないの悪夢を穿った。
 人型ナイトメア2体目──撃破。

●万物は流転する
 異形の咆哮が、高速を駆けた。
 万物は流転する。川の水が天に昇り、また地に降り注ぐというのなら。
 力量もまた然り。弱者は時に強者となりて弱きを襲い、強者はいずれ弱者となりて地に這いつくばる。
 それが世の定めである、と嘗て賢者は言った。

「……上等」

 流転する戦場を眺めて、シックチップはほくそ笑む。
 既に虫型は「足」を失った。人型もその全てが分断され、翻弄されている。
 首尾は上場。だが万物の流転は一度とは限らず。最後で気を抜くことは許されない。

「っと……」

 眼前を過る剛腕に、上肢を逸らせる。回避の度に感じる風が心地良い。
 開戦から数刻。牽制と攪乱に徹するシックチップに、人型の大振りな攻撃は一向に当たらない。

「あいにく正々堂々ってのは趣味やなくてな。イラついたら俺の勝ちやで?」

 人型の眼光を濡らす紅が、怒りの感情を想起させる。
 だがそれすらも嘲笑うかのように、シックチップは4発の拳の全てを回避する。ついでに、人型の足を払う。

《Gi──ッ?》

 巨体が傾く。苦し紛れの拳が、シックチップに振り下ろされた。

「ハッ、やからンな大振り当たらんって──あ」

 踏みしめた足場が崩れる。僅かに、ほんの僅かに重心がズレて、人型の拳がシックチップを捉えた。

「……っぶなぁ」

 拳に捉えられる寸前、シックチップは防御の型を取っていた。
 咄嗟の行動ながらも、その防御に寸分も狂いはない。だが、剛腕の残した衝撃ばかりは緩和されず。構えたイマジナリーシールドに亀裂が走る。

「なんや、エエもん持っとーやんけ」

 ニッと歪めた口角を置いて、前線に目を遣る。
 既に虫型は沈黙し、その付近にライセンサーの姿はない。

《Ka──!》

 瞬間、人型の側頭が爆ぜた。体勢を戻しつつあった人型が再度転倒する。
 弾道を追う。その先に柴乃とサチの姿が走った。柴乃の牽制射撃の間に、サチがシックチップの隣に滑り込む。

「牽制お疲れ、ヒールすんよ!」
「おう、ありがとーサン」

 柔らかな光が、シックチップのシールドを濡らした。
 時を巻き戻すように、或いは世界を跨いだように。イマジナリーシールドは亀裂の存在を忘れる。
 
「そっちへ行った、注意」

 柴乃の声に、2人は左右に跳んだ。
 間髪入れずに地を割る轟音。反撃のフォースアローをサチが放って、さらに距離を取る。人型の注意がサチに向く。

「こっちや単細胞君」
 
 シールドの癒えたシックチップが、手にしたラヴィーネソードを薙いだ。
 人型の右の腱を断ち切られる。咆哮が孤独に轟く。すでに、同胞の声は絶えて久しい。
 さらに真白と有華が戦列に加わり、2人の銃口が人型の脚部を捉えた。

「ゼロくん、有華ちゃんの前で無防備な姿見せちゃダメっすよー! あ、帰ったら取材ヨロシクッ」

 シックチップが射線から退避する──瞬間。
 2本の火線が夜闇を切り裂いて、無慈悲な閃光が悪夢に迸る。

「お手伝い致しましょう」

 シグルズの淑やか声が、戦場を優しく揺るがす。
 ゲイジー、望も続く。これで全員が揃った。8人の攻撃が、地を這う道化に集中する。
 最早、眼前の哀れな道化は異郷の地にて孤立無援。還るべき場所は遥かに遠く、友も無し。

《Ka、kakaka!》

 慟哭か、命乞いか。はたまた錯乱か。ナイトメアに人の感情は当てはまらない。
 しかしそれは狂笑のようであったと、後に記録されている。

 望のインパクトアタックが、道化の胴を地に沈めた。
 ゼロ=シックチップが、虚ろに宙を眺める最後のナイトメアに歩み寄る。

「六文銭、忘れなや」

 剣が振り下ろされた。
 人型ナイトメア3体目、撃破。

●終幕
 硝煙の霧が晴れた。
 スクラップヤードと、沈黙した4体のナイトメア。死して動かぬ人いきれ。惨禍の後が、月光と戦禍の残り火に照らし出される。

 嵐の去った戦場で、ゲイジーは瞠目した。
 魂に取り遺された亡骸の群れが、孤独に空を見つめる先。生き遺った8人は胸に手を当てて、静かに瞑目する。

 人生は舞台だ、と言った詩人がいる。他人の悲劇を、喜劇と嗤った道化がいた。
 万物は流転する。然れど人生は舞台に非ず。その歩みに導はなく、決められた生き方などありはしない。
 運命など、自らの生き方を他人の言葉で決めた、負け犬の言い訳に過ぎないのである。

 さらば、紳士淑女の皆々様。
 精々地獄に抗って、守るものを見定められよ。その手に抱いた者を離さぬよう、固く拳を握られよ。
 この芝居がお気に召したのなら、どうか拍手喝采を──

成功度
大成功

MVP一覧

重体者一覧

重体者はいませんでした。

参加者一覧

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