金魚には手を出さないで マスター名:龍川那月

形態
ショート
難易度
易しい
ジャンル
救出
人数
68
相談期間
3
プレイング締切
09/06 24:00
完成予定
09/26 24:00


 大学進学で上京して初めての夏休み。
 生まれて初めて出来た彼女との初デート。嬉しい初めてづくしに青年は浮かれていた。
 彼女の提案で初めてやってきたお台場の人の多さには驚いたが、今日は複数のイベントがあるみたいだ、と教えてもらうとさすが東京だ、と納得する。
 公園で飲み物を片手に楽しく話をしていると空中を金魚が泳いでこっちへやってきた。
「すごーい、本物みたい。これも何かのイベントかな?」
 彼女が笑う。
 周囲を見れば結構な数の魚が空中を泳いでいる。
「どうやって浮いてるんだろう。触っても大丈夫かな?」
 青年が魚の方へ手を出した。
 いくつもイベントをやってるとか言ってたし、宣伝用の新型ドローンとかだろう。そんなことを思っていたせいだろうか、自分の身に起きたことが理解できなかった。ボタボタと落ちる赤い液体。先を失った手首。彼女の悲鳴を遠くに聞きながら彼は意識を失った。


「お台場に複数の金魚のような姿のナイトメアが出現しました。手あたり次第に人を襲っているようです」
 都内で同時多発的にナイトメアの襲撃が起きているせいだろう、状況を説明するオペレーターにも疲労が見える。
「すでに何人ものライセンサーが向かいましたがナイトメアの数も多く手が足りません。ナイトメアは建物内に入って来られないことが分かっていますが、屋外にはまだ複数の民間人が取り残されています。皆さんは彼らの救助をお願いします」


●目的
 民間人の救助
 金魚型ナイトメア15体の撃破

●状況
 休日のお台場。
 要救助者達は公園内の東屋に隠れています。
 今のところ無事ですが、周囲をナイトメアに囲まれておりいつ襲われるかわかりません。また手当が必要な人もいる為あまり時間はありません。
 最寄りの建物まではそんなに遠くないので周辺のナイトメアを撃破すれば建物までの安全は確保されます。

 要救助者は以下の6人です
・カップル
 OPで出てきたカップルです。彼氏が手を食いちぎられたショックで意識不明。彼女は無事ですが彼氏を置いても行けず動けなくなっています。
・おばあさん
 散歩に来ていた近所に住むおばあさんです。足腰が弱く何か掴まるものがないと歩けません。いつも使っているシルバーカーが避難中に壊れてしまい動けなくなっています。
・親子連れ
 観光に来ていた親子連れです。避難中にカップルとおばあさんを見つけ一緒に逃げてきましたが、その途中で小学生の子供が足を噛まれ動けなくなってしまいました。両親は無事です。

●敵
 金魚型ナイトメア。
 体長30㎝程度のナイトメア。高い攻撃力を持ち空を飛びますが、あまり頑丈ではない(防御力が低い)ため壁や窓を体当たりで破壊して屋内に侵入することは出来ず、攻撃を当てれば簡単に倒すことができます。
 噛みつき攻撃のほか水を飛ばして遠距離から攻撃してきます。


「金魚掬いって頃でもねぇが…やるとするか」


他者は苗字の方で呼び捨て
ユスタは見知りなので名前で
アドリブ行動等はなんでも歓迎します


要救助者の盾役を念頭に行動する
シールドを構えて要救助者の傷を兎に角減らしに行く
誘導や手当は一緒の味方に任せる形になっちまうが、その分止められる相手は俺が受けるぜ
「危なくなったら遠慮なく俺や周りのやつに隠れときな。俺はまぁ、ほんとならそんなガラでもねぇけどよ」
ガラじゃねぇけど、俺達の方が傷を受けられるからな

敵との戦闘は相手の位置を味方に知らせながら俺はオートマチックで援護
わざわざ寄って来るやつは叩き斬るけどな!

俺がやるのはこんなとこだ、後は周りに合わせて動くぜ
【行動】
戦闘開始前、目元を隠す様な仮面を装着する。
先ず近距離戦に持ち込み対象一体を的確に処理する事に専念する。
『人間様のお通りだ、邪魔すんじゃないよ!』等と叫びつつ道を開けさせるような戦闘。
その後敵の数を減らしたら仲間と同時に全力移動による東屋への接近。その後救護班に救助対象を任せて入口にてシールドを展開した上で防御行為を行う。
防御行為中の台詞『絶対此処を通すんじゃないよ!死んでも立ち続けるんだ!』
主に自身より他者を優先したヒールの使用で確実な時間稼ぎを決行する。万が一、盾役が一人でも厳しい状態だと判断した場合は更に前へ出て補う。とにかく侵入を阻止することに専念する。
治療終了後は武器をラヴィーネソードなどに持ち替えて殲滅を開始。確実に一撃ずつ攻めていく形で全滅を狙う。敵の攻撃は防御ではなく回避を選択。
『そろそろ反撃開始かな、私に仕掛けた以上の痛みを知るといいさ!』

戦闘終了後、仮面を剥がして安堵の表情し独り言のように
『やっと救えた…やっと前進、かな』
【全体作戦】
チーム行動用に記す
大体の流れをまとめますが、難しいなら反映しなくて大丈夫です。

↓・全員で最低限の敵を倒しつつ最短で東屋まで取り付く
↓・集まった後に救助者に数人もしくは担当PCが付き、残りは表を対応
◇・外でナイトメアの殲滅を行い、救助組は救助者の治療

【行動】
基本行動は遠距離からフォースアローでの攻撃やヒールでの回復

救助行動としては味方全員と敵陣を突破し、東屋に着いたら治療ならびに精神的に落ちつかせるような話をする

・カップル→彼氏の腕にベルトなどなんでも使い止血を行う、ただし怪我の状態として危篤状態に近いならすぐ様他のPCに避難を促す。彼女は彼氏が助かると安心させる
・おばあさん→乗り物は回収しあとで直すと説明、助けに来た旨を伝え無事かどうか確認する
・親子連れ→まず子供の怪我の具合を確認、軽傷なら軽い処置をして励まし、重傷ならば応急手当をして親に見ていてもらうように伝える

怪我人の程度次第では全員を一度避難させることを具申する
目に見える範囲で敵がいたならばフォースアローを使い攻撃をします。
医学の知識は本でみたんですよ多分!
「橘 六花。よろしくね」
挨拶なんてしてる余裕はないけれど、ね。
金魚が空を飛ぶ、なんて縁日でもありえない余興ね。
さっさとダメ出しして、危険物には退場願いましょう。

〇行動
まずは要救助者の周りに道を作る。
自分と同じライセンサーが走って近づくのを確認し、その進行方向に敵がいたらそれを攻撃して排除を役目とする。
攻撃にはサブウェポンでの銃撃か、『フォースアロー』にて攻撃。
届かない場合には『移動攻撃』を試みる。
そのまま可能な限り敵とは距離をおいて付近の地形と敵の配置を観察。
戦闘を行いながら金魚の動きを観察して行動パターンを探る。
動くものにとにかく近づくタイプなら武器でないものを投擲したりして誘導を行う。
客観的な視点で一般人を連れて退避できるルートを見出し、指示を飛ばすわ。
移動している間は、射撃で敵をけん制して一般人を守る仲間には手を出させないようにしつつ、注意をこちらに向ける。

自分が狙われるなら後退。
敵を引きつける事が出来るのならしめたものだしね。
後衛とはいえ私もライセンサー。
一般人に牙を剥かれるよりはよっぽど耐えられるもの。
居合わせている仲間に声をかけて誘導して叩きましょう。

一通り避難が終わったら可能な限り敵のせん滅を試みる。
「んじゃまぁ、手早く救助と殲滅目指してやるとしますか!」

序盤、要救助者救出の為狙撃である程度数を減らし要救助者の元へ向かう。
その後、落ち着かせるように明るく振る舞い元気付けながら止血を優先し治療。
ある程度落ち着いた後、味方の援護やフォローを中心にスキルを多用し敵を狙撃して回る。常に移動しつつ孤立しすぎない位置取りを心掛ける。

要救助者の状況も常に把握出来るようにし危ない時には護衛に動く。

全体を把握し倒す事よりも守ることを優先し立ち回る。
にゃはは~、食べれない金魚はこわしちゃおー
東屋到着後は戦闘班

・行動
現場到着の際に救助者に声かけするにゃん
「ライセンサーの者にゃ、もうちょっとだからがんばれー」

金魚型ナイトメア(以下、金魚)撃破に努める
東屋に近い敵を優先撃破できる様に最初はプリンセスロッドSPに持ち替え
移動後フォースアロー
盾役が東屋到着後は、メイン武器に戻し東屋に向かいつつ通常攻撃
盾役不足時は全力移動で東屋へ、盾役に徹する

自身が東屋到着後も一匹でも多く早く倒せるように心がける
手当は任せた!
基本東屋付近の金魚を優先的に攻撃
近い敵から殲滅にゃ、さっさと倒せばあんぜん!
対抗は基本回避
救助者に攻撃が向いた場合、射線の妨害を試みる

安全が確保されたら救助者を素早く建物へ避難させる
けが人の止血がちゃんとできているか確認しつつ
行動不能の人は抱えて連れていくにゃ
いちおう、不安にならないように声かけはしておこーう
「よくがんばったー。建物内はあんぜんにゃぞー」
【心情】
まさか東京にも襲撃が来るなんて。
いいや、そうなんだ。もう、他人ごとではいられない。他人事にはしたくない。
そのために俺はライセンサーになったんだ。

だから、この場でやることは考えるまでもなくただ一つ。
そう、俺の手筋は決まった。

【目的
要救助者全員の無事。

【準備
怪我の治療や何かの補強・固定などに使えないかと、包帯とテープを購入。

【行動
仲間の攻撃に合わせ、東屋を包囲する金魚の間隙をつくように、シールドを構えて全力移動。
東屋に迫る金魚の進路を阻むべく、放たれた香車の如く吶喊。
金魚を轢いたり弾き飛ばすかどうかは状況次第。

東屋を背にし、金魚に立ちはだかって、初陣の恐怖と緊張を飲み込んで構える。
氷のように鋭くなる思考と、振り切れる平常心。
じいちゃんだったらどうするだろうか。
胸を張り、高らかに、宣戦布告。
「そこまでだ!ナイトメア!」

盾を構え、寄られれば刀を抜いて旋空連牙を使用する。
万一にも外さないように、命中を手数で補う。
慣れない装備の重さと白兵の鍛錬を意識して、刃を走らせる。

金魚が全部片付いたらおばあちゃんを負ぶって避難する。
おじいちゃんっ子なので、ご老人には優しく。
怪我人はもちろん優先なんだけれど、俺に治療のスキルはないし。
シルバーカートも直るかもだし、買い物とか貴重品があるかもしれないから、ちゃんと後で拾いに行く。
プレイングが提出されていません。


「あれか」
 ミハエル サリバン(la1317)が金色の目を隠すように仮面を付けながら少し向こうにある東屋へ視線を定める。
 東屋の周囲を回遊する金魚型のナイトメアの数は15匹。
 オペレーターの話にあった民間人の姿が見えない。
 無事だろうか、そんな不安が一同の胸によぎる。
「金魚が空を飛ぶ、なんて縁日でもありえない余興ね。あぁ、私は橘 六花。よろしくね」
 橘 六花(la0083)はそう一礼する。
 揺れる銀の髪と青い瞳が涼やかだ。
「一緒に戦う仲間だもの。名前くらいは知っておきたいじゃない。本当は挨拶なんてしてる余裕はないけれど、ね」
 確かに、そう頷いて、めいめい軽い自己紹介をする。そして手早く作戦を立てる。時間をかけられないからこそバラバラに動くことは致命的に思えた。
「初任務か……」
 作戦を頭の中で整理しながらミハエルは小さく呟く。
(怖いのは私だけじゃない、救助を求める彼らの方がもっと……怖がってる暇は無いな)
 ちらりと横を見ると先島 旭(la0768)が買ってきた包帯とテープを到着後すぐに出せるように準備している。
(まさか東京にも襲撃が来るなんて……)
 先島は首を横に振り、これは現実なのだと自分に言い聞かせる。
(いいや、そうなんだ。もう、他人ごとではいられない。他人事にはしたくない。そのために俺はライセンサーになったんだ)
 目の前にはナイトメアと、救助を待つ人がいる。
(だから、この場でやることは考えるまでもなくただ一つ)
「よし……!」
 先島は眼鏡の奥にある茶褐色の瞳をすっと細め集中力を高めていく。
(手筋は決まった。後は動くだけだ)
「んじゃまあ、手早く救助と殲滅目指してやるとしますか!」
 クーパーT220を手に明るく言う朱堂 朧(la0131)。
「金魚掬いって頃でもねぇが……やるとするか」
 オートマチックB1に込められた弾の数を確認する周太郎・A・ペンドラゴン(la0062)の横でネコ(la1925)がすぅと息を吸い込む。
「ライセンサーの者にゃ、もうちょっとだからがんばれー」
 その声に金魚達が一斉にライセンサーの方へと向き直り、そのうち数匹がこちらへ泳ぎはじめた。どうやら音に反応する様だ。その奥で父親と思しき男性が立ち上がって手を振った。
 最悪の事態にはなってないと皆は少しだけ胸をなでおろす。
 だが、ゆっくりしている時間があるわけではない。


「たべられない金魚はこわしちゃおー」
 最初に動いたのは、ネコだった。
 プリンセスロッドSPから闘気とともにフォースアローを放つ。
 目の前に泳ぎ出たナイトメアを撃ち落とされたのを確認する間もなく東屋の少し手前まで移動する。
 彼女の顔や手足は茶色の毛で覆われ、その素早い動きも相まって本物の猫を思わせた。
 近くにいたナイトメアが揺れる尻尾に噛み付こうとするが、
「にゃははー当たらないにゃー」
 すこしゆっくりとした語り口調と裏腹に機敏な動きで躱す。
「余所見すんな!」
 怒声と共にナイトメアの背後から望月・月卯(la0620)がザンクツィオンハンマーを振り下ろした。
 地面に叩きつけられたナイトメアは二、三度跳ね絶命する。
 度重なる音に東屋周囲に散開していた金魚がライセンサーの方へと集まり始めた。
「今だ!道を開く!」
 先島はジャイアントシールドを構え吼えると香車のようにまっすぐ走り出す。
 声に反応し群がろうとする金魚を弾き飛ばしながら東屋の中へと走り込んだ。
 東屋の中には報告通り6人。あれから被害はなかった様で、怪我人は増えていなかった。
「助けに来てくれたんですね」
 現れたライセンサーに腕に子供を抱いた女性が安堵した声を出した。
 他の人の表情にも安堵の色が灯る。
「安全を確保するまでもうすこし頑張ってください。それから金魚は音に反応するようです」
 出来るだけ急ぎますからと先島は微笑み口元へ人差し指を当てた。
 無言でこくりと頷く人々に大きく頷くと、打ち合わせ通り立ち上がり腕で大きく丸を作った。
 それを確認した周太郎、ミハエルの両名と視線を合わせると2人は一斉に移動を開始する。
 先島に弾き飛ばされたナイトメア達は見失った大声の主を探して動き始めようとしているところだった。
「援護するわ」
 橘が意識を集中させ叙事詩「ミンネザング」を開く。
 彼女の意識に応えるように本から光の矢が浮かびナイトメアへ飛んでいった。
 橘のフォースアローが東屋のすぐ近くにいた金魚を撃ち落とす。
 仲間が撃ち落された音に意識の向いたナイトメアを今度は周太郎の銃弾が正確に撃ち落とした。
 周太郎の死角からナイトメアがその口を開き突っ込んでくるが、
「人間様のお通りだ、邪魔すんじゃないよ!」
 ミハエルの小太刀「五月雨」が一刀両断した。
「……っ!」
 一匹のナイトメア後方からサリバンの腕に噛み付いたのはその瞬間だった。
「大丈夫か」
 サリバンへ迫るもう一匹へ牽制の銃弾を放ちながら周太郎は駆け寄る。
 ナイトメアを振りほどくサリバン。
 イメジナリーシールドのお陰で怪我は負わなかったが、シールドの損傷でその息は上がっている。
 サリバンと背中合わせにナイトメアへ睨み合う周太郎の声にミハエルは鼻で笑う。
「どうってことないよ。それよりも。絶対此処を通すんじゃないよ!死んでも立ち続けるんだ!」
 サリバンの檄にネコが答える。
「近い敵から殲滅にゃ、さっさと倒せばあんぜん!」
「違いねえ」
 周太郎は持ち替えたジャイアントシールドに力を込めた。

「援護するから先に行ってくれ」
 朱堂がユスタにそう声をかける。
「分かった。こっちも援護する」
 頷いてユスタはその青い瞳を東屋へ定め移動を始めた。
 気がついたナイトメアが行く手を阻もうとするが、朧のポイントショットが許さない。
 ある程度行ったところでユスタがくるりと朧の方に向き直る。
 来いということだと理解して朧が動き出す。
「朱堂さん!」
 橘の声に先に反応したのは警戒していたユスタだった。
 口を開け水を吐き出そうとするナイトメアを確認すると素早く生命の書SPを開きフォースアローを放つ。
 水を押し戻す様に口の中へ入っていったエネルギーの矢はそのまま金魚の体を貫通し物言わぬ死体へと変えた。
「くっ!」
 次の瞬間、くぐもった声を出したのは望月。
 避けきれずダメージを受けたのだろうその声に獲物を見つけたと2匹の金魚が彼女の周囲へ集まってくる。
「そこまでだ!ナイトメア!」
 動いたのは先島だった。
 元々、安否を確認したら盾役に回る予定だった彼と入れ替わりにユスタが東屋に入る。
 先島の獅子王SPから繰り出される旋空連牙が黄金の線を引いて的確にナイトメアを叩き落とす。
 先島はすぅっと息を吐き、シールドを構えなおす。
(じいちゃんだったらどうするだろうか)
 初陣の緊張と恐怖を酸素と共に飲み込むと平常心は振り切れ思考は氷のように鋭くなった。
「ネコはひたすら倒ーす」
 ネコの両足に装着されたビーストレガースSPの鋭い爪が金魚の体を引き裂いていく。
 ネコに迷いはない。
 それが安全につながると信じているのだ。
 イマジナリーシールドが削られた望月も攻撃を繰り出すが、ダメージの影響かすんでのところで躱されてしまう。
 目標を失いよろけたところへ背後からのナイトメアが噛みつく。
 致命傷にはなっていないが2回の攻撃でかなり精神的に疲弊した望月の顔色はよくない。
「望月さん」
 ミハエルがヒールをかける。頭を振りちらりとミハエルの方を向いた彼女の顔色は普段通りに戻っていた。

 東屋の中では応急処置が始まっていた。
「ちょっと見せてくれ」
 ユスタの声に女子大生が青年の手首を掴んでいた手を開く。
 傷口を抑えていたハンカチは赤を通り越し黒くなり、受け止めきれなかった血は地面に小さな水たまりを作っていた。
 彼女が一生懸命抑えていたせいだろう、青年の血はだいぶ止まっていたがそれでも今なお出血は止まらない。
 しっかり止血したほうがいいだろうとユスタは先島が持ってきた包帯で手首をきつく締めながら彼女の方を見る。
 彼女の顔はひどく青ざめ、顔色だけ見れば彼よりも彼女の方が重傷に見えた。
「ふむ、食いちぎられちゃいるが大丈夫だ。生きてはいる」
「本当ですか?……よかった」
 生きてはいる、という言葉に彼女の目から涙が溢れる。
「助かるはずだ、お前が信じてさえいれば必ずな」
「ハンカチかなんかで上から覆った方が良さそうだな。ハンカチまだあるか?」
 首を振る彼女や両親の横からそっとタオルが差し出された。
「おばあちゃんのタオルでよければ使っておくれ」
「助かる。あんたらは無事か?」
 ガーゼの上からタオルを当てながら他の民間人にも気を配る。
「この子が噛まれて怪我を…傷口は洗ったんですけど」
 しっかり抑えている様に彼女に言い次は子供の怪我を見る。
 足の肉が少しえぐれてはいるが傷口は小さくそこまで重傷ではない様だ。
 痛みと恐怖で泣きすぎたんだろう、小さくしゃくりあげる子供の顔には涙の跡がいくつもつき目も腫れている。
「怖いか?大丈夫だ、みんな怖い。だからこそ気持ちで負けてはいかんぞ、たかが怪我したくらいで諦めるほど泣き虫ではなかろうよ?」
 ぽんぽんとユスタは子供の頭に触れる。
「う、うぅ……でも……」
 少しだけ緊張の緩んだ子供の目にまた大粒の涙がたまっていく。
「大丈夫だ。怖いナイトメアは俺たちがやっつけるから」
 上からの声。
 子供が頭を上げると朱堂が赤い瞳を細めにかっと笑っていた。
「ほら、みてごらん」
 東屋の壁から少しだけ頭が出るように子供を支え外を見せる。
「な?」
「本当だ……」
 数匹しかいなくなったナイトメアに子供が小さく声を漏らす。
「危なくなったら遠慮なく俺や周りのやつに隠れときな。俺はまぁ、ほんとならそんなガラでもねぇけどよ」
 目の前のナイトメアにライトバッシュを叩き込んだ周太郎が子供に気が付いてそう言う。
 金の髪と白い貴族のような服装のその姿は子供の目にゲームに出てくる騎士のように映った。
「うん、僕頑張る」
 涙を手の甲でごしごしと拭く子供にえらいぞ、と朱堂は笑い親元へと返した。

「残り4体。だいぶ少なくなったわね」
 少し離れた場所から全体を観察し建物までの安全な経路を探っていた橘は避難の合図を出すと東屋から目を離し周囲を警戒し始める
 もう周囲にナイトメアがいないとは断言できないし、ナイトメアを逃がせば仲間を連れてくるかもしれないからだ。
 一人東屋から離れている橘にナイトメアの一体が気付いたのはその時だった。
 1人なら殺せると思ったのか移動しながら口から水を勢いよく吐き出す。
 それを見越していたかのように橘はすっと躱しそれと同時に彼女のミンネザングが光る。
 フォースアロー。
 イマジナリードライブの矢が正確にナイトメアを撃ち抜いた。

「おばあちゃんは俺がおぶりますよ」
 足の悪いおばあさんに先島が背中を貸し皆の方を見る。
 建物までの道にナイトメアの姿はない。
 これならいける。
 青年に肩をかしながら朱堂が頷き、ナイトメアと対峙している他の仲間たちも頷く。
 このまま意識を向けさせないように戦っていれば建物まで避難できるだろう。
 それが全員の総意だった。
 先島と朱堂は音を立てないように慎重に東屋を出ると建物目指して走り始めた。
 後ろからはユスタが護衛についている。
「う、うわぁぁぁぁ!!!」
 叫び声が上がったのは東屋から出てすぐのことだった。
 突然の大きな音にナイトメア達が一斉にそちらへ体を向け泳ぎ始める。
「落ち着け。大丈夫だから」
「ちょ、一回深呼吸しろよ。な。ちょっと落ち着けって」
 声を上げたのは気絶していたはずの青年だった。
 痛みと混乱でパニックになっている彼にユスタと朱堂が声をかけるが彼の声は止まらない。
 声につられて子供の目にも涙がたまっていく。
 このままでは。そう思った時
 パンッ
 青年の悲鳴を止めたのは先島のビンタだった。
「静かにしろ」
「は、はい。ごめんなさい」
 きょとんと眼を丸くしていた青年は掻き消えるような小さな声を出した。
 これで行けるかと思いきや前方に金魚が立ちはだかっていた。
 東屋に戻ろうにもそちらにも金魚の姿がある。
 進むことも戻ることもできない。

「お前らの相手はこっちだ!」
 後方にいる1体が周太郎の声とともに切り裂かれる。
 真っ二つになったナイトメアの体液が自分の服にかかるのも気にせず皆に駆け寄ると、守るようにジャイアントシールドを構えた。
「しばらく俺に隠れとけ。そういうのはガラじゃねぇが…な」
 ノブリス・オブリージュ、彼の嫌うその精神は彼の血に体に確かに染みついている。
 そこをどけ、とばかりに金魚達が突進してくるが、盾で殴るように牽制する。
「シュタロさん、ありがとにゃ」
 少し距離をとり、さっきよりもスピードを乗せて突っ込んできた金魚を待っていたのは周太郎の盾ではなかった。
「私に仕掛けた以上の痛みを知るといいさ!」
 ナイトメアの眼前、そこにあったのは鋭利な爪のついた脚と太陽光にきらめく水のような蒼い波紋。
 追い付いたネコとミハエルが走ってきた勢いそのままに金魚へ武器を叩き込んだのだ。
 綺麗に三枚おろしになったナイトメアはそのままぼとりと地面に落ち動かなくなった。
「やっと救えた…やっと前進、かな」
 ナイトメアの全滅を確認したミハエルが仮面を取りひとつ息を吐く。
 その表情には少しだけ安堵が見えた。



「今度こそ周囲にナイトメアはいなさそうよ。今のうちね」
 橘が周囲を警戒しながら東屋へとやってくる。
 周囲を警戒しながらも全力で走ると程なくして建物が見えて来た。
「よくがんばったー。建物内はあんぜんにゃぞー」
 建物まで着くとネコがそう言って子供の頭を撫でる。
「うん、猫のお姉ちゃんもありがとう」
 新たな避難者の対応に建物内で救護をしていたライセンサーが駆け寄ってくる。
「護衛ありがとうございます。ここは我々が警護しますので、もう少しナイトメア掃討にご協力いただけないでしょうか?」
 予想以上に数が多く、掃討に時間がかかっているというのだ。
「俺はいいですよ。おばあちゃんのシルバーカーを探しに行こうと思ってたところなんで」
 おばあさんと話していた先島が声を上げる。
「猫缶はもう少しおあずけかにゃー。おしごとだからしかたないにゃん」
 大きく伸びをしてネコがみんなの方を見た。
 それぞれの表情こそ違ったが異論を唱える者はいない。
「どこに向かえばいいのか教えてくれないかしら?」
 そう言って橘が施設にあった観光案内用の周辺地図を広げた。

 ライセンサーの長い一日はまだ終わらないようだ。

成功度
大成功

MVP一覧

重体者一覧

重体者はいませんでした。

参加者一覧

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