君がいない世界 マスター名:秋月雅哉

形態
ショート
難易度
普通
ジャンル
救出
人数
68
相談期間
3
プレイング締切
09/06 24:00
完成予定
09/26 24:00

●色も、音も、香りもしない世界。君がいない世界。
 付き合ってから三年目だった。そろそろプロポーズを考えていた。そのために地位や財力がほしくてがむしゃらに仕事をした。
 先のことに目が行き過ぎて、目の前のことを取りこぼした。そんなつまらない失敗に足元をすくわれた。
 彼女の好きそうな指輪を買った次の日に、振られた。もう終わりにしましょう、私がそばにいなければいけない理由は、ないのでしょう? そう言われた。
 違う、そうじゃない。言えなかった。自分の努力を彼女も理解してくれている、プロポーズのために整える準備や体裁や、新婚旅行のために仕事を詰め込んでいるのだということをわかってもらえないことに愕然として何も言えなかった。
 何も言えない俺を見て彼女はひどく悲しそうな顔をした後さようなら、といって俺の部屋の合い鍵を返してその場を去ってしまった。
 手に入るはずだった幸せ。もう二度と手の届かない幸せ。それを失ったことを痛感してから、夜ごと悪夢を見る。
 悪夢を覚えていないのは心の防衛機能だといつか本で読んだ。恐ろしいから忘れてしまうのだ、と。
 失恋が尾を引いているのだろうか。女々しいことだと思う。でも、彼女以上に愛せる人に出会える自信はない。いつか彼女のことを、色あせた写真を見るようにしか思い出せなくなることが悲しくて、そうなるくらいならずっと悪夢にとらわれたままでいいような気もしたし、いっそすべてを忘れられたらとも思う。
「……あぁ、そろそろ会社に行かないとな」
 しばらくは自分の衣食住にだけ気を使えばいい。ドライブに使うガソリン代や、デートで行くおしゃれな店の食事代、プレゼントを気に欠けなくてよくなる。
 ……なんて、味気ない日々が続いていくんだろう。
 家を出て、電車に乗ろうと駅に近づいていると路地裏からわらわらと小さな生き物がわいてきた。
 まるで平安時代の絵巻物に書かれている餓鬼のような、腹部だけが異様に肥えて、他の部分はがりがりに痩せた小鬼たち。
 フラッシュバックする今まで見た悪夢たち。それは彼女に振られた自分の追体験ではなかった。この小鬼たちによって彼女が取り殺される夢だった。
 あぁ、これがナイトメア。現実にいる悪夢か。そう理解すると同時にすぅと血の気が引いた。血の気ではなく生気を吸い取られたのかもしれない。
 最後に願ったことといえば。やっぱり彼女に会って、君が大事じゃなくなったから仕事に打ち込んだんじゃなく、君と一緒に生きる未来がほしくて仕事ばかりしていたんだ。そう告げたかったな。それだけだった。

●婚約指輪の行方
「ナイトメアの出現が確認されました。今回皆さんに討伐をお願いしたいのは精神寄生タイプ、とでもいいましょうか。人の感情を糧に成長し、寄生された人を衰弱死させるナイトメアの群れです。総数約三十。一体でもうち漏らせば増殖して同じような被害を繰り返しますので念を入れて始末してください。
 攻撃方法は強い感情を持つ相手への寄生による精神力の剥奪。精神干渉により味方同士での相討ちへの誘導。強く心を持たなければ精神干渉されやすくなりますし、何か強く思うことがあればそれを吸収されてしまいます。どんな感情にしろ強い感情を持っていれば寄生か干渉、どちらかの被害を受けやすくなります。強い感情をライセンサー側が持っていなかった場合は微弱ですが通常の攻撃を行ってくることが想定されます」
 被害者の男性は別動隊が救助し、一般市民の出入りは封じてあるので討伐に専念してください、とオペレーターは告げた。
「数が多いですが物理的な戦闘能力は低いです。心に付け入る隙がなければ討伐自体は難しくないでしょう。幻覚作用のある霧を吐き出しますのでその点については注意がいるかと思います。精神力を食らうことにより少しずつ戦闘力が増していきますし、食われた分精神的疲労でこちらの戦闘能力は下がりますから短期決戦ですむならその方がいいでしょうね」
 男性が狙われた理由はおそらく失恋により心が折れて寄生しやすい精神状態になっていたことだ、とオペレーターが補足を入れた。
 指輪を男性が処理してしまう前に、諦めきってしまう前にもう一度恋人に向き合うようにおせっかいを焼くのもいいかもしれない。
「男性へのアフターフォローはお任せします。ですがナイトメアの討伐が本分。男性を衰弱死させないよう、しっかり倒してくださいね」


●ナイトメア三十体の討伐と、可能であれば男性へのフォローをお願いします(後者は必須ではありません)

ナイトメア
餓鬼(腹部だけが大きく膨らみ、枯れ木のような手足の小鬼。体長は各々三十センチほど)真っ黒な体に灰色の角。赤い瞳。
精神干渉、幻覚、精神力の搾取など現実的な攻撃ではなく心を揺さぶる系統の攻撃を仕掛けてきます。
通常攻撃は複数体で相手の体によじ登り、引っかいたり目をつぶそうとしたり。
BSの具体的な効果としては「ありえない幻を見たことによる移動妨害として移動力の低下」「攻撃することを忌避する幻、攻撃されることを前提といて考えられないものをみてしまい攻撃力、防御力、回避力の低下」、干渉により「行動妨害と回避低下」が適用されます。
干渉、寄生の成功・失敗判定はプレイングで行います。
回復のための条件は味方の声かけ、または精巧な幻覚ではありますが「幻だと見破る」ことになります(こちらの判定も「こういった理由で幻だと看破する」というプレイングからの判定になります)
連携はあまりとれておりません。その外見にふさわしく、飢餓感に飢えているのか強い感情を自分が一番むさぼり食らうことを重視しているためです。
一体でも取り逃すと寄生者の精神をむしばみ続け再び群体にもどります。
物理的には攻撃力、耐久力共に低いですが強い感情を捕食すると操る力が強くなります。
怒りだけでなく決意や冷静であろうという心も捕食対象となりますのでご注意ください。

青年
プロポーズをサプライズでするために奔走していたところを「仕事以外に興味がなくなったから自分は彼にはもう必要ない」と彼女に誤解されて振られた男性。
婚約指輪はもう贈る相手もいないし未練になるから売ってしまおうと考えています。
可能であれば彼に諦めるな、と発破をかけてあげるとより良い結末が待っているかもしれません。


【目的】
敵の早期撃破及び青年の説得を目的として参加。
【準備】
精神干渉、幻覚、精神力の搾取に備えて、二人一組のバディを組んで行動。
硴間 真架(la0798)は 朏魄 司(la0008)さんとペアを組んで行動。呼び方は朏魄さんと呼ぶ。強い感情に餓鬼が反応する為、戦闘中に見える剣の柄の部分にくまのぬいぐるみを付けて見たり触ったりして気晴らしとして利用。
【行動】
戦闘では餓鬼を撃破。 フォースアローで徐々に距離を詰め、ライトバッシュと通常攻撃を駆使し攻撃。常に声掛けを行い情報の共有・連携や精神干渉の対策。幻覚作用の霧は回避優先。霧攻撃後、ありえないもの等を見たときは幻覚の為、一度状況を整理し自分で打開できそうならそのままに、無理そうなら仲間に連絡。

戦闘中の台詞「餓鬼は生前の悪業の報いで、手にとった食物が火に変わってしまい常に飢えに苦しむと何かの文献で読んだことがある気がします。あなた達も飢えたまま終わりです。」

戦闘終了後青年を説得。内容としては、振られるにしても、自分の思いを伝えないままでいいのかという所に重点を置く。

青年の説得無事終了後一緒に戦ってくれた仲間に「お疲れさま」と感謝
心情
仕事か。男の事情なぞ知ったものか。
ただ、仕事だから俺はやつ等を殺す。それだけだ
行動
「ははははははははは!やっと仕事だな!」
大笑いで戦闘に参加
数か月待ち続けた鬱屈した気分を晴らすには少々敵の力量不足だが、構いやしない
嗤う表情は強く。されど、感情は冷たく
俺は悪人だから、嗤う。殺す。嬲る。ただ、それだけだ
俺の今回の相方は硴間 真架(la0798)か
なんつーか……あぁ、普通の女だな。戦闘に出るとは思えねぇ。本当に……〇〇な世界だな
余計な思考だ。ただ、敵を殺す方法を考える。どれほど効率的に惨たらしく殺せるか
ライトバッシュ使用。砕くぜ
もしも、敵以外の余計なものが見えたらハンドガンを上空に撃つぜ。バディに迷惑かけずに射撃の衝撃で我に返るかもしれねぇ。
「幻覚だ。混乱状態に陥っている可能性がある」
あぁ、顔のにやつきが止まらねぇ。俺は今、戦えてる!
戦闘後
「馬鹿野郎」
素手で男を殴るぜ。ライセンサーなんて、魔法使わなきゃただの一般人だろうが、相手はもやし。怪我しねぇけど衝撃でぶっとぶくらいはするぜ
それくらいしねぇとこの馬鹿は気付かねぇ
「お前、何見てんだ。」
「女は『自分がお前に必要ないから身を引く』っつってんだ。加えて未練がましく泣き付けもしない手前の覚悟不足だ。捨てる前に叫べ。想いを伝えろ。馬鹿野郎」
全体:アドリブ歓迎
ローレル・レオンハートさんと協力をしてナイトメアに攻撃、基本的にガンガン攻めるスタイルで。
★心情
失恋かー……話を聞く限り、悲しいすれ違いよね。
あたしも思い当たる節がないでもないけど……よりが戻るなら、それに越したことはないわ。
★行動
・事前
現場までは交通機関を使い、移動中にスマホゲームをしてリラックスしておきます。
道中、コンビニでガムを買っておきます。
・現場到着、作戦開始後
イルヴィアさんと二人一組を作り、自身に香水(キツすぎない、リラックスできる香りのもの)をかけます。
「あ、ガソリンは結構です」
作戦中、リラックスできない状況が訪れた時はチョコレートバーを一噛みします。なくなったらガムを噛みます。
バディの状態に注意し、少しでもおかしな様子があれば肩を叩いて声かけします。
「大丈夫ですか?変なもの見てませんか?私を見てください」
逆に自分が異様なものを見たときは干渉を要求します。
「あたしをひっぱたいてください!早く!」
ナイトメアとの戦闘は、フォースアローの知覚攻撃をメインに。スキル切れしたらハンドガンに切り替えます。
・討伐完了後
救助された男性の元へ向かい、彼女のために頑張っていたこと、寂しがらせてしまった詫びを伝えれば気持ちは伝わるのではないかと提案します。
「女っていう生き物は、結構めんどくさい感情を抱えているんですよ。……女心と秋の空、って言うと、雲行き変えられそうな気がしませんか?」
アドリブOK

がっかりしすぎたお兄さんの弱った心を狙うなんてすごくヒキョウ!
絶対になんとかするんだから!

事前にガムを噛んでおく(戦闘中も)

基本方針はツーマンセルでの行動
餓鬼の幻には声かけや肩を叩くなどで対処
精神力搾取はガムを噛むなどで過集中になりすぎないように対策

あたしのバディはクーデリアさん
敵の数も多いし双方とも前衛
時々相手の目や身体の動きを確認
幻覚を見ているように感じたら声をかけてあげる
『お姉ちゃん、まだまだだよ!』

自分が見そうな幻覚は…家族絡みかな
それでもお父さん達もお兄ちゃんもそんなに弱くないし
あたしのこと大好きだから攻撃なんかしないよ!
気持ちを強くもつ

戦闘後
落ち込んでるお兄さんの元へ
ふられたって思い込んでるみたいだけどそれは早合点
大切な人のことはそう簡単に忘れたりできないよ?
そう言って励ましてあげる
星杜 莉来(la0142)とペアを組み行動

「精神寄生タイプねぇ…似たようなのなら昔相手にしたことあるような気がするけど…多分気がするだけね」
近くに居る敵から大剣で切り払っていく
大剣での隙を埋める様に蹴りなどの近接格闘を挟み自身の隙を最小限にする
莉来の行動に合わせるように動き、可能な限り隙を小さく、効果は最大にを心がける
1匹ずつ確実に仕留めていき、残りが少なくなった段階で逃げようとする、離れようとする敵を目標にし、確実に殲滅していく

「落ち着きなさいよ、それとも死にたいの?」
味方が幻に取り込まれた場合積極的に声をかけ現実に引き戻す
幻に取り込まれないようにする対策案としてお互いに声掛けを行い幻に取り込まれたかどうかの確認と引き戻しを行う

「これは…?」
「なによ、似てるだけでただの幻じゃない」
自身が幻に取り込まれた場合は直前にやろうとしていた行動と現在の状況の差異を見つけ、幻突破の足掛かりとする

「諦めるのはあんたの勝手だけど本当に諦めなきゃいけないものなのかどうか最後にもう一回考えてみるのね」
全てが終わった後男性に声をかけて去る
la0075の吉良川さんと組みますね?;♪

スマホで全員をVCモードで常時接続提案

小盾(ラウンド)で敵布陣具合と様子を見ながら前進
接敵迄は狙撃銃で容赦なくぶち抜く(
接敵前に大盾(ジャイアント)切替えて盾で殴り倒しながら戦車の如く坦々平然とラインを維持・押上げていく
自生命半分でヒール
1R25以上の被害を負わないように前進調整し、被包囲時はLバッシュで間引く
ヒールが切れたら危険な場合は剣を使い殲滅重視するか、退きながら1体づつ相手して支援を頼るか計算しながら被害調整
これが私の普段通りなので?;(ニコニコ)白亜の不沈城塞‥推し通ります!状況からして変なモノ・状況を感じたら吉良川さんにスマホなり声掛けして詳細な地点を指定して視覚のすり合わせ・射撃支援要請
幻でしたら素通りしますし、実体でしたら助かりますし?;?
吉良川さんもお助けですよ?;?(最悪平手打ち■キャラクター描写
見たところエンゲージですか~?捨てちゃうんですか?勿体ないですよ?;?ソレに込められた想いをポイしちゃうのは惜しいと思いますですよ?;?
これでも向こうではお母さんだったこともありまして?;そんな事する人はすれ違いが大体原因ですよね?;?男の子なんですからドーンと当たりましょ?;!きっとわかってくれるハズですからねぇ?;♪
▼心情
精神に関与するナイトメア、か。
………厄介、だねぇ?

▼準備
煙草とライター
スマフォ(仲間の連絡先登録済

▼行動
リオンと二人一組で行動
基本はリオンが打ち漏らしたり打ち残った敵をスナライで可能な限り敵から離れた上で狙撃してリオンの支援
ポイントショット>通常攻撃
「……さて、ちゃっちゃと行きます、か

精神的な攻撃にはあまり深く考えないで行動
煙草を周囲には十分に注意して吸いながら平常心を保つ(だけどそれを優先にしたりや深く考えることはしない

リオンとは話しながら普段通りに行動

リオンや自分が精神的な攻撃に呑まれた時は軽く顔を抓ったりしてみる
それでも駄目なときは叩く←

状況から考えて変なものを見たり感じた場合リオンから地点を指示されたらその場を撃つ(幻看破出来るかも?

仲間や自分が生命力半分以上低下でヒールを使用

仲間とは何かあったり連絡する事項が出来たらスマフォで連絡を取り合う

●生きる意味さえ見失った世界で。
 プロポーズの準備をしているときに彼女に誤解されて失恋した青年に、泣きっ面に蜂のように精神寄生型のナイトメアの魔手が迫る。
 生きる意味をなくし、抜け殻のようになった青年に毎夜訪れた悪夢は精神をさらに衰弱させ、自らの肥やしとするための恣意的な悪夢だった。
「悪夢を見せて精神を弱らせ、宿主を食らいつくすナイトメア……悪夢といわれるにふさわしい所業ですね。許すわけにはまいりません」
 硴間 真架(la0798)は黒い体に灰色の角、赤い瞳で腹部が異様に膨らんでいるのに手足は枯れ木のようにやせ細った、餓鬼に似たナイトメアの群れを見ながら意識してに剣の柄につけた熊のぬいぐるみに触れて、強く敵をそらした。
 今回の敵の群れは強い感情を取り込み、心の隙に付け込んで寄生して攻撃を仕掛けてくる。だからこそライセンサーたちはツーマンセルを組み、気をそらすものを自宅から、あるいはコンビニなどで調達して戦いに備えていた。
 本来であれば戦闘に集中しなければ命が危ないが今回は集中しすぎると逆に敵の手中に落ちてしまうので、過ぎる集中は毒だと考えた戦う者たちの生き残る術だった。
「ははははははははは! やっと仕事だな!」
 朏魄 司(la0008)は大笑いで群がる餓鬼を見下ろす。嗤う表情は強く、けれど感情は冷たく。
(俺は悪人だからな。嗤う。殺す。嬲る。それだけだ。男の事情なぞ知ったことか)
 司とバディを組む真架と真逆の感想を抱きながら戦いに備える横でイルヴィア ギーベリ(la0761)とローレル・レオンハート(la0413)も餓鬼を見つめていた。
 オッドアイの瞳と腕と足が特徴的なヴァルキュリアはバディにガソリンをすすめたが遠慮がちに、けれどはっきりとガソリンは結構です、と断られている。
 イルヴァは自分と他の者の違いをよく理解していないので人間でもガソリンを飲むように勧める癖があるのだ。
「失恋かー……あたしも思い当たる節がないでもないけど……よりが戻るなら、それに越したことはないわ。すれ違いで思い合ってた二人が別れちゃうのは、悲しい話だしね」
 自身にきつすぎず、リラックスできる香りの香水を吹き付けながらローレルは振られた男性と振った女性を思う。
 星杜 莉来(la0142)は落ちこんだ男性の弱った心を狙うなんてすごく卑怯だ、絶対に何とかする! と意気込んだ後そういう人を思う心も餓鬼は取り込んで糧にするのだと思い出して落ち着くためにガムを噛んでいた。
 八歳という年齢のわりに背伸びをしているけれどまだまだ本質は子供らしいまっすぐさを持つ相方の様子にクーデリア・クレーエ(la0175)はうなずきを返す。
「精神寄生タイプねぇ……似たようなものなら昔相手にしたことあるような気がするけど……多分気がするだけね」
 戦闘の開幕を控えて大剣を鞘から抜くといつでも切りかかれるように静かに呼吸と精神を整える。
 リオン=ブランシュ=ブークリエ(la0258)と吉良川 鳴(la0075)が今回の作戦に参加する八人の中の最後のペアだ。
 布陣にもなっていない、今まで憑りついていた男性を見失って次の標的を探すために散開し始めている餓鬼の群れにリオンが大盾で殴りかかったのが開戦のきっかけとなった。
「精神に関与するナイトメア、か。…………厄介、だねぇ?」
 鳴の言葉に司が鼻を鳴らす。
「精神に寄生される前に、取り込んだ感情で強化される前に倒しちまえばいいだけの話だ。もともとの攻撃力は大したことねぇらしいからな。オラ、藻屑にしてやらぁ」
 敵を殺す方法を、どれだけ効率的にむごたらしく殺せるかを考えることに集中し二番手を切った司の強い感情に誘導されたように餓鬼たちが司を取り囲む。
(あぁ、顔のにやつきが止まらねぇ。俺は今、戦えてる!)
 敵が群がってくるのを好機とばかりにもろい体を砕く司の体が突然思うように動かなくなった。
 じわじわと毛穴から体内へ、その奥の精神へとむけて何かが侵蝕してくるおぞましい感触。戦いに対する昂ぶりを吸い取って司の中で肥大する思念。
 自由を徐々に奪われつつある腕を叱咤し、ハンドガンを上空に撃つ。
 射撃の衝撃で徐々に見えない触手のように司に侵入していた餓鬼の思念体が離れていく。
「面倒な敵だな」
 待ち望んだ戦いは敵の力量不足と能力で戦いに集中することもできない。
 自分一人での戦いなら、あえて寄生させて命懸けの戦いを楽しむという選択肢もあったが他にも共闘する相手がいるしこの餓鬼は一匹残らず仕留めなくてはあとで再び増殖するという。
 ライセンサーとしての初陣が実質的な失敗に終わるのは司も本意ではない。
 大丈夫か、という仲間の言葉に頭を振って不快感を打ち払い、気を取り直して今度は戦いに集中しすぎないように挑む司。
「餓鬼は生前の悪行の報いで、手に取った植物が火に変わってしまい、常に飢えに苦しむと何かの文献で読んだことがある気がします。あなたたちも飢えたまま終わりです」
 真架が司が餓鬼との精神面での攻防を繰り返している間にイマジナリードライブを矢状に形成し、撃ち放って敵を屠る。
(思った以上に厄介ですね……朏魄さんは大丈夫でしょうか……)
 真架の心にバディを心配する人間らしい思いやりが満ちると、同時に餓鬼の魔の手が今度は彼女に伸びる。救ったのは慣れ親しんだぬいぐるみの手触りと「馬鹿野郎、しゃんとしろ」というバディからの声掛けだった。
「ありがとうございます」
「さっさと片づけるぞ。数を減らさねぇと面倒だ」
「はい!」
 イルヴィアとローレルにも餓鬼の精神干渉は及んでいた。行動阻害や幻覚が中心ではあるしライセンサー同士でツーマンセルを組んで対策を練っているため大きな被害には今のところなっていないがまだまだ餓鬼の数は多く、少しでも相手を心配したり戦いへ集中してしまうと軽く精神に干渉されて動きが鈍ったところを、ちまちまと餓鬼たちはシールドを削ってくるのがうっとうしい。
 バディの様子に何か異変が見られたときは大声で声を掛け合い、イルヴィアは戦闘前に吹きかけた香水とチョコレートバーやガムで気分を仕切り直し、ローレルはそんな相棒に「あたしが憑りつかれそうになったらひっぱたいてください。頼みましたよ?」と頼みながら現実に引き戻すように肩をたたいて戦闘の手助けをする。
 莉来の場合はもう少し深刻だった。子供らしくまっすぐな心がよりたやすく餓鬼の侵入を許してしまったのかもしれない。
 彼女の脳裏に広がるのは家族が自分に惨殺される姿。ショックを受けなかったといえばうそになる。だが。
(お父さんたちもお兄ちゃんもそんなに弱くないし、あたしは家族が大好きだし、みんなだってあたしが大好きだもん。こんなのは、幻だよ!)
 幻覚を解く方法の一つに自分でそれが幻覚だと見破るというものがあるのを幼い少女は実践して見せた。
 反撃へ移りながら相棒の女性へと声をかける。
「お姉ちゃん、まだまだだよ!」
「私は大丈夫よ。あなたも落ち着きなさいね、それとも死にたいの?」
「大丈夫! こんなところで負けていられないもん! それに死んだら家族が悲しむからいきてかえるんだ!」
「そう。ならいいわ」
 精神攻撃を食らいながらも餓鬼の脆さを利用してライセンサーたちは徐々に群れの数を減らしていく。
「白亜の不沈要塞……推し通ります!」
 大盾を振りかざし包囲網を鳴と力を合わせて薄くしながらリオンが高らかに名乗りを上げる。
 このペアに憑りつき、包囲網を利用しながら、幻影を見せた餓鬼たちはリオンが方角と距離を指定し、鳴が射撃して倒されたり、鳴に憑りつきかけた餓鬼をリオンがひっぱたいて現実に呼び寄せたりしながら、戦闘に集中しすぎないように煙草を咥えた鳴とリオンの普段通りの会話に付け入る隙を見出せずに徐々に数を減らしていった。
 イルヴィアの攻撃に特化した戦法とローレルの相棒に遠隔から攻撃しようとするナイトメアへのフォースアロー、リオンのライトバッシュの攻撃と司、真架の二人の攻撃に餓鬼は次々と脱落していく。
 鳴は精神攻撃で足止めされた仲間に群がった餓鬼が薄くしたシールドにヒールをかけていたがそろそろ戦いも終わりだと他の仲間に声をかけて八人は火力を集中させることで餓鬼に似たナイトメア、都合三十体の討伐を終えたのだった。

●願わくば君と歩く世界を。
 別動隊に救助されていた青年のもとへライセンサーたちはもう心配はいらないと声をかけるついでにおせっかいをもう一つ。
「結果はどうなっても、今の自分に素直で正直にいることが、大切だと思います」
 売り払ってしまおうと考えていたらしいエンゲージリングの箱に青年は視線を落とし、でも、と真架に切り返そうとする。
 そんな青年の弱気な態度に司は胸ぐらをつかんだ。
「お前、何見てんだ。女は『自分がお前に必要ないから身を引く』っつってんだ。加えて未練がましく泣きつけもしない手前の覚悟不足だ。思いを捨てる前に叫べ。想いを伝えろ。馬鹿野郎」
 青年の事情など知ったことか、と言いながらも青年が気づいていなかった女性の本心を、馬鹿だといいながら拾い損ねた青年の代わりに拾って司は青年に届けた。
「まだチャンスはある。きっと」
 イルヴィアが短く言葉を添え、ローレルがそれを補うように口を開く。
「女っていう生き物は、結構面倒くさい感情を抱えているんですよ。……女心と秋の空、っていうと、雲行き変えられそうな気がしませんか? 変えた後しっかり自分に夢中にさせないと駄目ですけどね、この例えだと」
「ふられたって思いこんでるみたいだけど、それは早とちりだと思うな。大切な人のことはそう簡単に忘れたりできないよ?」
 莉来が子供故の無邪気さと強さで笑顔で励ます。
「あきらめるのはあんたの勝手だけど、本当にあきらめなきゃいけないものなのかどうか、最後にもう一度考えてみるのね」
 クーデリアも言葉を引き継ぎ、青年は徐々にそわそわし始める。
「みたところエンゲージですか~? 捨てちゃうんですか? それとも売っちゃうのかな。もったいないですよ? ソレに込められた想いをポイしちゃうのは惜しいと思いますですよ? そんなことする人はすれ違いが大体原因ですよね? 男の子なんですからドーンと当たりましょ? きっとわかってくれるはずですからねぇ?」
 これでも私、お母さんだったことがあるのですよ、とリオンが告げるとますます青年は落ち着かないそぶり。
「……まぁ、俺も、さ。大事な子はいるから、ね。いつも、喧嘩したりすれ違いも多いけど、ちゃんとあきらめないで伝えようとすれば伝わるものだから、さ。頑張りなよ。ここであきらめたってまた同じようなことが起こるだけだぜ?」
「あ、あの。助けてくださってありがとうございました。交際相手のことも……。もう一回、今度はちゃんと、自分の言葉で伝えてきます! 後悔するにしたってぶつかってみなきゃお互い分かり合えないから」
 あとできちんとお礼を言いに行きますので、これで失礼します! そう叫んできっと恋人のもとへと走り出したのであろう男性をライセンサーたちは見送っていた。
 戦闘中吸っていた煙草を携帯灰皿で消して、鳴はいつも煙草を吸うのを怒る幼馴染の顔を思い出す。
 また縁があれば次は別の戦場で。
 そう声を掛け合ってライセンサーたちも解散したのだった。

成功度
成功

MVP一覧

MVPはいませんでした。

重体者一覧

重体者はいませんでした。

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