青蠍 マスター名:十三番

形態
ショート
難易度
普通
ジャンル
危険
人数
68
相談期間
3
プレイング締切
09/06 24:00
完成予定
09/26 24:00

●都内某所/ショッピングモール
 あなたは趣旨がよくわからないオブジェクトの物陰に隠れていた。ごうごう、という空調の音が巨獣のいびきのように轟いている。他に聞こえる音は自分の鼓動だけだ。
 平日の昼間にも関わらず、この場所はそれほど静かであった。警報が発されてから数時間が経過している。モールの中には人っ子ひとり、ペットショップの動物たちすら残っていない。迅速かつ的確に避難が完了しているという情報は正しかったようである。しかし、だからこそ、ここだったのかもしれない。独りで静かな場所に佇みたいときもある??のだろうか。
 端末が光を放ち、短く振動した。
 画面に躍り出たのは、同じ作戦に参加した仲間の名前だった。すぐさま応答、マイクを顔に密着させ、可能な限りの小声で要件のみを簡潔に伝える。
 通信、完了。これで全員へ伝達することができたことになる。口を零れた短い溜息は、しかし安堵でなく緊張で重くくすんでいた。
 片目分だけ身を乗り出し、開けた一帯を確認する。
 大型のナイトメアは、あなたが発見した時と変わらずエントランスの中央でうずくまっていた。真上にある色気のない照明があれだけを照らしているので、もう少し飾り気か、或いは奇麗に磨き上げられていたら、何らかの展示物として捉えられたかもしれない。少なくとも、今身を隠しているオブジェクトよりは余程立派に見える。
 機械然とした見た目である。上背は4メートル、脚を含めた幅は5メートル程度だろうか。焼きたてのミートパイのように膨らんだ腹部から伸びる四脚は蠍を連想させた。細い腰の先には人の上体に似たパーツが取り付けられている。黒を基調としたデザインだが、頭、大腿、前腕は硬質そうな赤いパーツで覆われており、特に地面に触れそうなほど長い両腕、その両前腕のそれは??実際にそうだったのだが??乗用車をひと振りでぺしゃんこにしてしまいそうな重量感も携えていた。後足の間から生え伸びる尾はまるで大蛇のように太く、長い。先端に付いている銀色の三角錐は……その一部が欠けていて、赤らんだ中身が露出していた。
ぎち。
 関節が稼働する気配を察知して、あなたはすぐさま物陰に引っ込んだ。
 独りで敵う相手ではない。
 それは予想や経験などというあやふやなものでなく、ほんの数十分前に記録されたログが裏付けていた。

●交戦記録並びに経緯
 未明にナイトメアの大軍が東京を襲い始めてからしばらくして、この個体??以下『青蠍』と表記する??は都内に現れた。青蠍はライセンサーの配備が薄かったその地域に現れると、小型の仲間を引き連れて暫く破壊を続けた。
 真っ先に対峙したのは、あなたと同じ、まだ実戦経験の少ないライセンサー6名だった。彼我の戦力さも不明なまま、偵察という『てい』で現場に向かっていたライセンサーたちは、青蠍の一団と不運にも遭遇、戦闘となり、ほどなく半壊、辛うじての撤退を果たした。殆ど一蹴という有様だったという。
 次に青蠍と交戦したのは、付近での討伐任務を完了させた、駆け出し以上ベテラン未満のライセンサー4名。疲労もそれなりであっただろうが、4名は奮闘、小型の取り巻きを多数討伐しながら、青蠍の背中に一撃を叩き込み、大きな傷を負わせるという結果を残した。討伐に至らなかったのは、1名に尾の先端から放たれたレーザーが直撃、重傷を負ってしまったが故である。ライセンサーが仲間を助けに行くと同時に、青蠍もまた残り少ない部下と、互いの傷をカバーし合うようにしてその場を離れた。
 以後、青蠍の足取りは一度途絶える。
 途絶えて良いものであるはずがなかった。即座に召集が掛けられ、付近一帯の索敵がいくつかの班によって行われることとなる。この作戦に参加していて、且つ、発見を果たしたのが、他ならぬあなただったのである。

●ショッピングモール/エントランス
 最後のひとりが足音を殺しながら合流を果たした。他の仲間がそうしたように、物陰から静かに青蠍の様子を確認する。緊張が表情を硬く強張らせた。
 端末が光を放ち、短く振動した。
 取り出して画面を確認する。SALFからの連絡が入っていた。周囲のライセンサーを応援に向かわせている。到着するまで手を出さぬように。
 この指示が守れたら、果たしてどれだけ楽だっただろうか。
 青蠍が立ち上がった。どことなく疲労を感じさせながらも、その挙動には覚悟が伴っていて、互いに混ざり合い悲壮となって香るその有様は、『戦士』という単語を連想させた。
 ぎちぎちぎちぎちぎち。
 長い尾が持ち上がるのと狙いを定めてくるのは同時であり、鋭利ささえ伴った光を放ってきたのは直後だった。あなたたちは一も二もなく飛び退く。爆音で弾け飛んだ、これまであなたを庇い続けてきたオブジェクトが、つぶてとなってあなたと仲間に降り注いだ。
 それを払いながら立ち上がる。
 悠々と、立ち上がることができた。
 青蠍は待っていた。幾らでも追撃を掛けられたのに、ただ見下ろし、あなたたちが立ち上がるのを待っていたのだ。
 強靭な身体で、強力な力を操り、相手の出方を待つ余裕のある、待つという行為を選択できる個体。
 あなたの胸裏に過った感情は、果たしてどのようなものだっただろうか。
 地力差のある相手である。逃げる、という選択もあった。しかしそれはナイトメアを見逃す、即ち逃走を許すということである。もし他の個体と合流でもされてしまえば、その脅威は何倍にも膨らんでしまう。
 だから、もう、やるしかない。
 あなたたちが一斉に得物を取り出し、構えを取る。
 青蠍が両腕を広げた。浮かぶ表情の色は肯定、或いは歓迎。
 一転、全否定。一度顔前で交叉させ、改めて開かれたその姿勢は、紛うことなき『敵』のそれ。
 内臓が丸ごと絞られるようなプレッシャーを、あなたはなんとか抑え込む。
 やるしかないのだ。
 たとえ、やれるところまでしかできないとしても。


●目標
ナイトメアの討伐
・施設への被害は判定に影響しない
・気絶者が少ない場合、成功度が上昇する

●環境
夕方。晴天。東京都内の中型ショッピングモールのエントランス。照明の問題なし。
広さは10sq(スクエア)×10sq。
東側と西側には壁がある。北側と南側は通路が続いているが、戦闘中は侵入できないものとする。
参加者は南端、ナイトメアは北端中央が初期位置。

●ナイトメア
>>青蠍
単一の個体であるが、判定上【本体】と【尾】を別のユニットとして扱う。
・生命:個別に保有。本体の生命が尽きると、その瞬間尾の生命も尽きる
・移動:本体のみ保有。尾は追従し、独立して移動できない
・変調:全ての効果について、本体と尾は互いに共有する
>>本体
物理攻撃↑↑/各防御、回避↑/生命力4割減少済
万能型の、巨躯の個体。
見た目に反して俊敏で、見た目通り一撃が重い。
通常攻撃は拳による殴打(射程1の物理攻撃)。
一手先程度まで読み、対応してくる。
背中に大きな傷があり、内部が露出している。
・スタンプ:飛び掛かり、圧し潰そうとしてくる。自身を中心に範囲(2)の物理攻撃
・ブロック:対抗スキル。回避に失敗した場合、追加で防御できる。1ターンに1度だけ使用可能
・ブレイヴ:パッシブスキル。生命の減少量に応じて各攻撃値と命中が上昇する
>>尾
各攻撃、回避↑
先端は獲物を求めるように絶えず動き続けている。
背中の傷を可能な限り庇おうとする。
切断を狙う場合は生命を削り切る必要があるものとする。
・レーザー:射程9の知覚攻撃
・スイング:本体を中心に範囲(3)の物理攻撃


「ハッ、動くと迫力三割増しだねこりゃ。ションベンどころかクソまでチビっちまいそうだよ」

と軽くジョーク飛ばしつつ敵の動き方観察。
初ターン前衛と敵が移動するまで待機。回復必要な味方いれば其方へ向かいヒール。
いない乃至移動後射程届かなければ全力移動で敵から敵斜め正面か側面位置どり。
蠍から4~5sq距離を空け、移動込みで南側前衛足止め系にヒール届く位置確保。北は桜壱君任せる。
以降上記条件の位置をキープしつつ、生命力半分以下になった味方へヒール。
「ほいっと。もうちょい頑張ろうか」

回復不要時は尻尾銃撃。攻撃相手定めた所を撃ち抜き攻撃妨害試みる。
背中護ろうとする場合動き止めた所を狙う。
距離によってライフル、拳銃、マシンガン使い分け。他後衛とリロード被らぬよう留意。
味方がリロード行った次ターン、ヒール必要ない時に拳銃かライフルリロード。
マシンガンは尻尾切断直後の立て直しまで2発残しておき、味方体制整える間必要なら弾幕を張り足止め。
立て直し後は前衛回復・援護射撃。脚やハサミの節目か傷見えたら狙う。

己への攻撃常に警戒。尻尾や胴体が己向いた時点で自衛準備。
衝撃直前後方へ飛び衝撃減らす。
公:青蠍の撃破
私:初の依頼だからとにかく目一杯遊ぶ(戦う)

心情・動機
最初の依頼からそこそこ強い奴とやれるとは俺もツイてるぜ。青蠍だったか、血沸き肉踊るさいっこうの遊び(戦い)。
武者震いも止まらねぇ、あぁ早く遊びてぇな。こっちの世界での戦いはいったい俺にどんな世界を見せてくれるんだろうな。

行動
俺の役割は本体の足止めととにかく攻撃を叩き込みまくることだ。他のことは周りの奴に任せる!
まずは青蠍に全力移動で接近した後、とりあえず一発通常の攻撃を叩き込んでみる。
その後は、他の奴等との連携を意識しつつ青蠍の傷口に集中的に攻撃をしていく。
他の奴と青蠍が接近しすぎていたら撃ちにくいが、隙を見てパワークラッシュを叩き込んでみてぇな。味方も巻き込んじまうデメリットはあるが、これなら本体も尻尾もまとめて潰せるし積極的に狙っていくか。
これでどうやって足止めするかって?そりゃ普通に攻撃してたんじゃ歯牙にもかけねぇが俺はスピリットウォーリアだぜ?青蠍も無視出来ねぇ一撃をぶちこめば此方を意識しざるを得ねぇって訳よ。
あと、来る攻撃はなるべく避ける努力をしてみよう。一撃じゃ落ちねぇだろうが、二発も三発も食らったんじゃ流石にきちぃよ。
初期位置から前衛先行を追いかけ接敵
立位置は尾/背中を狙う後衛と蠍の射線間、咄嗟の敵前進を防ぐ為蠍の近接に居ることを意識
反対に後衛味方は射線を確保できる様、誰のカバーに入るかは宣言し伝える

武器は基本ラウンド盾使用
味方狙いの攻撃に対し介入可能→盾防御
庇える位置に味方無しor自身狙いの攻撃→回避
ヒール:自身体力が半分以下or気絶者発生で使用
もし前衛で気絶者が出た場合、追撃を受ける前に抱えて一旦後衛と同距離まで退避させる

敵が自身に対し正面向→拳やスイング等物理攻撃が届かない様盾と自身をバリケードにして敵前進の妨害
攻撃も殴打と言うより盾を構え突進し後衛が距離を開けられるターンを稼ぐ
〃背面向→移動攻撃使い防御可能な位置を離れぬ様に
背中傷を狙い尾で庇う体勢を敵がとる様に仕向け、尾の攻撃開始地点と射線を絞り防御が成功し易い様に
尾を殴る際は味方と同じ箇所/根元を狙う

スタンプ、スイング等予備動作が大きそうな物は観察
予測できたら周囲への回避or自身が防御できる位置への移動促しを試みる
ブロックが味方攻撃の強弱で使用選択をしていない場合
まず自身や攻撃の強くないモノから殴りブロックを使わせられないか試みる
【心情】
SALFの持つ秘密情報や技術にアクセスするため、先ずはリリの有用性を示すのだよ。

【目的】
ターンが進むほどキツくなる感じなので、最初に背中に一発喰らわして、後はサポート重視で気絶を減らす。

【準備】
遭遇戦なので特に無し

【行動】
前衛が青蠍を押さえている間に背後に回り込む。
狙いは背中の傷。
青蠍はこちらの攻撃を読んで防御してくるので、「隠密1」で物陰に隠れて気配を断地ます。
存在自体を認識出来なければ先読みできないのでは?
青蠍の尻尾が行動した直後を狙って「フォースアロー」を背中に撃ち込む。
後半戦は前衛への「ヒール」を中心にサポート役になる。
【方針】
後衛として背中の傷を攻撃し、それを庇う尾へのダメージ蓄積→切断を狙う。
傷への射線が通らない場合は極力当てやすい腹、腕などの部位を攻撃し足止めを行う。
気絶者が出てきた時点でヘイトを買い、可能な限り自身にレーザーを撃たせるよう行動。
尻尾切断後、距離を取ってFD5Aをリロード。以降本体と4マス以上の距離をとって戦う。

【装備】
傷(尾)への攻撃時はZW-1。
それ以外の部位への攻撃時はFD5A。BD4は緊急用。
平時リロード優先順位はBD4>ZW-1>FD5A。

【連携】
他の射撃武器使用者と武器を持ち替えてでもリロードのタイミングが
被らないように攻撃する。自身がリロードする際は宣言する。

【スキル】
格闘の間合いからの離脱時に「全力移動」を使用し
青蠍との距離が4マス以上(自身の射程)になるように移動。
尻尾切断後の態勢立て直し時にも全力移動を使用。
背中(尻尾)への攻撃時、2回に1回のペースで「ポイントショット」を使用。
気絶者の出現・増加に伴って使用ペースを早める。

【戦術】
受付、看板など使える遮蔽物は適宜使う。但し気絶者等がいればそちらを優先。
初手は青蠍の動きを待ち動く
武器をライフルに持ち替えて全力移動で可能な限り迂回しながら青蠍の後方(5SQ程度、手が届く距離)へ移動し、尾を狙って攻撃
次ターンからは獅子王に持ち替え、尾の根本まで近づいて攻撃、この時味方と近づき過ぎないように注意

注意の優先順位は、尾の動き>本体>味方の位置

パワークラッシュは敵の大技の後と尾が落ちた後に使用
狙いは尾>背中の傷>蠍の脚

レーザーは尾の先端が動きを止めた時、自分を向いていたら攻撃を捨ててでも避ける。
スイングは回避よりも態勢を崩さないことに注力、直後の攻撃を狙う

後方から尾を狙うつもりだが、本体と向き合った場合は足止めに専念する
足止め方法は、青蠍の通常攻撃が当たる位置を維持、回避を続ける
本体と対峙する際の攻撃は、青蠍の足元を狙う

あと一撃で気絶すると判断したら、距離を取り、仲間の回復に余裕があれば近く
無ければ、以後はライフルで遠くから牽制する

尾が切れて背中がむき出しになったら、全力移動で一旦離れて味方の態勢を整える
準備が出来たら後は後先は考えずに全力で積極的に傷を狙う
【心情】
「デカイ蠍だな、オイ。戦うと面倒そうだ。面倒だが…これも仕事だ、やる事はやろうか」

【目的】
青蠍の討伐

【準備】  
作戦があれば事前に打ち合わせ、それに協力で応える。

【行動】
青蠍が中央付近に移動するまで様子見し、その後、打ち合わせ時の配置につく。
位置に着いた後は尻尾切断目的で背中狙いの攻撃。背中を庇わないようになったら尾を集中攻撃。
尾の攻撃時は根本を集中攻撃。

青蠍が方向転換や移動する際には中央より動かないよう足止めに回る。
足止め時は足間接などを狙う。
尾が切断された時は一度距離をとり態勢を整え、その後再び攻撃開始。

戦闘中はスタンプには注意を払っておく。

言動や態度は淡々として気だるげに、戦闘時は攻撃を恐れていないように平然と敵に突っ込んで行くように。

戦闘終了後には煙草で一服する。
スプリンクラー作動時には煙草が濡れて吸えず、それでも何度か火をつけようとして諦める。
ったく、こちとら兼業ライセンサーだぜ?
だってのにいきなしマジモンの戦士と戦場たぁ俺の人生傾いてやがる
ハッ、上等!漢の花道歩いて魅せらぁ!

んでいざどうするかってぇ話だが…どうしたモンかね
相手は格上こちらは新人、フツーならビビって足も鈍る
けどよ、俺ぁフツーで終わるワケにゃあいかねぇんだわ!
周囲全部から注目を集める様に呵々大笑してやる
でもって名乗り口上だ
漢トラッシュ、この花道を歩ませてもらうぜ!ってな!
仲間を鼓舞し蠍野郎の気を惹く事が出来りゃ重畳だ

前衛として盾に持ち替え全力移動で蠍野郎の本体真正面まで移動するぜ
近付いたらそのまま盾でぶん殴る
当たりゃ良いが最悪当たらなくとも良いさ
蠍野郎にてめぇの敵はここだと示す
ここまで蠍野郎の気を惹いたんだ
ちったぁその腕を俺目掛けて振り下ろしてこいよ
…てめぇが傷付くのは耐えられる
けどよ、隣の奴が傷付くのは耐えらんねぇしなにより漢道に背くしよ!

そん後は基本盾でライトバッシュをキメる
近くに庇える仲間がいりゃあ我が身省みず盾で庇う
射線妨害も出来りゃあするぜ

傷付きゃ傷付く程根性出すとは敵ながら見上げた野郎だ
だったら先の事なんぞに目ぇくれてんじゃねぇぞ
魂込めててめぇの全部ぶつけてこいや!


 ナイトメア――青蠍が構えを取る。堂に入った所作も相まって、遊園地のアトラクションを真下から見上げているような心地だった。ケヴィン(la0192)は失笑を零し、銜えるフィルターを強く噛む。
「ハッ、動くと迫力三割増しだねこりゃ。ションベンどころかクソまでチビっちまいそうだよ」
「まったくだぜ! いきなしこんなモンが相手たぁ、俺の人生傾いてやがる!」
 本当に傾いているのはその作戦だが――とは思うに留めることとする。ケヴィンの視線は青蠍の正面、己の身の丈の倍ほどもありそうな大楯を携えるトラッシュ(la0505)へ流れた。
「それじゃ、打ち合わせどおり下がらせてもらうか。おじさんがコンビでオモラシ、なんてネタにもならないからねえ」
「ハッ、確かにな! 忘れられねぇ初陣になっちまう!」
「なに、やることはやるさ。それじゃよろしく」
「おうよ!
 そういうわけだぜ、青いの!!」
 トラッシュは盾を担ぎ、大股で青蠍の間合いに近づいていく。
「アンタは格上、こちらは新人、フツーならビビって足も鈍る。けどよ、俺ぁフツーで終わるワケにゃあいかねぇんだわ!
 漢トラッシュ、この花道を歩ませてもらうぜ!」
 モール中に響きそうな、腹の底からの笑い声。それを圧し潰そうとするように、今、青蠍が右の拳を振り上げ、トラッシュに襲い掛かった。


 青と黒で構成された巨体が前進を決意し、実行に移すべく重心を前に傾け、後ろ足を俄に浮かせた瞬間、残りの6名は一斉に青蠍の背面を確保するべく、それぞれ両サイドを駆け抜け始めた。
 距離を取って進むのはシセ・カジュ(la2517)。両手で抱えているのは1メートル近い大型のライフル。回り込むように進み、滑り込むように壁際へ移動、すぐさま腰を落としてスコープを覗き、大蛇のような尾を目掛けてトリガーを引く。射出された弾丸は、しかしぐるり、と身を捩られて躱されてしまう。
 相手にとって不足なし。口角を上げるカジュ。
 を、
 尾の先端が見下ろしてきた。
 見る見るうちに、目に見えて『力』が満ち満ちていく。
「っ……!」
「Iが守ります」
 抑揚のない声で宣言し、桜壱(la0205)がカジュの前へスライドするように移動、直後放たれた光線状の攻撃を、IMDで固めた円形の盾で受けた。膝だけで伏せたカジュの視界が目まぐるしく変化する。数瞬の拮抗、溶接作業を思わせるような閃光の後、表情のない仲間の顔。
「お怪我はありませんか?」
「はい」
「Iはお役に立てましたか?」
「もちろんです。引き続き、どうかよろしくお願いします!」
 力強い微笑みを返す。桜壱の左目が弾むように揺れた。
 カジュが床を蹴り進む。仲間の銃弾を追い風にして進む。持ち替えた刀の柄を強く握り、鞘から引き抜いた。
「走り、撃ち、走り、斬る。見よ、このサムライっぷり!」
「Iが所持しているデータとは異なる情ほ「シセ・カジュ、参る! いざ尋常に勝負!!」
 大きく接近し、強く踏み込んで大太刀を振り下ろす。身を投げ出すほどの勢いで放たれた一閃は、太い尾の根元に深い裂創を刻んだ。


 乗用車をひと振りでぺしゃんこにする右ストレートを、腰を落とした体勢で受け切るトラッシュ。その横を、長い槍を担いだ男が金髪を揺らしながら進んでいった。足取りはスキップの一歩手前。
「――ふはっ」
 男――夜帳 穿通(la2581)の口元で感情が爆発した。
「はっは、うはははははは」
 巨躯だ。強敵だ。
 遊び(戦い)だ。
 戦い(遊び)だ。
 笑いが込み上げてくる。武者震いが止まらない。
 楽しみだ。楽しい。
 こっちの世界での戦いはいったいどんな世界を見せてくれる?
「さぁ、さぁ、さぁ、さぁ――……行ぃぁくぜぇぇぇぇえええあああああああっッッ!!!」
 急加速し、駆け引き皆無の、我武者羅な渾身の一撃を、目の前の黒い腹目掛けて放つ。う゛ぉん、という空を揺らす音が遥か後方に控えていたケヴィンの耳にも届いていた。
 命中確実と思われた刺突は――しかし寸でのところで割り込んできた左手によって阻まれてしまう。がいん、と悲鳴を上げて槍が撓み、衝撃で腕が捩れそうになる。穿通の笑みがまた深まった。
 青蠍が大きく腕を払う。穿通は床を二度転がり、受け身を取りながらも壁際、レベッカ・アスクウィス(la1759)の近くまで弾き飛ばされてしまった。
 視線の交錯はほんの一瞬。穿通はくぐもった笑みを零しながら青蠍に向かって進みだし、レベッカはスナイパーライフルでナイトメアの背、生々しく残る傷跡目掛けて射撃を試みた。が、別の弾丸を避けた尾がその挙動を延長するような動きで丸まり、中腹で受け止めた。
(「シカもクマも狩ってきたけど、サソリの化物は初めてね」)
 口の中で舌を打つレベッカ。
(「狩る側と狩られる側が逆転しないように――」)
 を、
 尾の先端が一瞬、見下ろしてきた。
 ――ぞくり。
 黒いポロシャツの裏で背中が粟立った。
 初陣として過分な相手であることは認識している。安全とは対極の状況であることも自覚している。だから必然浮かび上がるざらざらとした緊張を――不敵に笑うことで蹴散らした。
 しかしそれも一瞬のこと。予備の一丁を取り出すと、帽子のつばの裏で表情を消し、両目を強く見開いてスコープを覗き込んだ。


 戦闘の渦中に飲み込まれ、同化していく青蠍。その挙動を半ばほど閉じた目で見上げながら、雨宮 仁(la0655)が今、持ち場に到着した。
「デカイ蠍だな、オイ……」
 思ったままを口にする。面倒とは思うが、やる事はやらなくてはならない。短い溜息を落とし――視線だけ、背後に送る。
「動けるか?」
 出会いがしらに破壊されたオブジェクト、その比較的大きな瓦礫の陰で、甕星 リリ(la0339)がうずくまっていた。仁の位置からは姿を見ることができない。にも関わらず正確に位置を把握できたのは、上がり切った息遣いがどうしようもなく聞こえてきたからだ。
「オイ、大丈夫か?」
「はぁ、はぁ、はぁ……っは、はぁ、はぁ……」
 リリは未だ移動以上の行動を取っていない。持ち前のフィジカルの弱さがもろに露呈してしまった形となる。しかし、言うまでもなく、それを言い訳に諦めたりはしない。
(「大人しく逃げ切っていれば何も面倒にならず済んだだろうに……手負いの獣よ、貴様は何の為に戦っているのだ……」)
 緑色の双眸は自分のできること、やるべきことを探し求めて虚空を睨み続けている。――だとしても、とにかく息が上がり続けていた。
 音のない溜息を傍らに捨て、仁は走り出す。頭上を行く味方の弾丸も、傍らで聞こえるカジュの剣閃も、目の前で裁断機のようにガチガチと蠢く脚も、仁を止めるには至らない。
 唇で短い擦過音を奏でながら、強く踏み込み、得物を振り回した。辺り一帯を防風のような斬撃が襲う。眼前の脚と腹、その奥の尾に無数の傷跡が生まれた。


 青蠍の対応は即座であった。ぎちぎちぎち。長い尾を天井近くまで持ち上げると、身を捻り、その場でスピンするような所作を見せ、仁ら白兵戦を挑んでいた面々をまとめて薙ぎ払った。
「ったく……」
 得物で被害の軽減を図った仁が弾き飛ばされ、
「うはははっ!!」
 直撃を許してしまった穿通は笑い、
「甘い!」
 カジュは衝撃を踏ん張り、浅いながらもカウンターを決める。
「ハッ、そんなもんかよ!」
 尾撃を大楯で防いだトラッシュに青蠍が殴りかかった。引き続き掲げられていた大楯に青い拳が激突する。天井から塵が落ちてくるほどの衝撃だった。
「しばらく頼むよ。攻撃してるヒマはなさそうだ」
 了解を意味するハンドサインがレベッカから返ってきた。ケヴィンはすぐさまトラッシュのイマジナリーシールドを補填する。間一髪であった。
「『まだまだ強くなる』んだってさ」
「上等じゃねぇか!」
 即答し、トラッシュは青蠍の最も殴り易かった部位――目の前の股座へ大楯を振り下ろした。
「別に根性ってのはてめぇだけの専売特許ってわけじゃねぇんだよ!
 オラ、打って来やがれ! こんなモンで終わりじゃねぇだろうがよ!!」
 見上げるトラッシュ
 を
 見下ろしていた青蠍
 が
 両腕を振り上げた。


 対の青が振り下ろされると、胃がせり上がりそうなほどの衝撃が一帯を襲った。レベッカは束の間呼吸を忘れてしまう。数センチ浮かび上がった自身に対し、トラッシュは高らかに盾を掲げたまま、脛の辺りまで床に沈んでいたからだ。
 意識して息を再開し、リロードを行う。
 やや劣勢である。白兵を挑む者が尾の迎撃を立て続けに受けていることに加え、本体の敵意を一手に請け負うトラッシュが尾撃に巻き込まれてしまうのが厳しい。持ち前の頑丈さとケヴィンの援護によりなんとか受け続けているものの、予断を許さぬ状況であることは明らかだった。削れてはいるが、削られてもいる。
 視線の先、ありありと見える背中の傷を狙い、研ぎ澄ました射撃を放つ。くねる尾の隙間をすり抜けた銃弾は――しかし寸でのところで、糸に引かれるように戻ってきた青い手に阻まれてしまう。
「防ぐ攻撃を選んでいるのですね」
 誰へともなく零した桜壱が、振り回された尾からカジュを庇う。
「そうなのですか?」
「尾で受ける攻撃と、手で防ぐ攻撃を判断している節が見受けられます」
 結果、ここに至るまで、背中の傷へ攻撃を行えた者はいない。
 判断し、対応し、予測までしてくる。
 心境を表すように黒く淀む桜壱の左目。
 その
 すぐ
 横を
 矢を模した、鮮烈な光が奔っていった。
「どうということもないのだ」
 光は最短距離を進み、背中の傷口、そのど真ん中に激突、炸裂した。
「如何に先読み能力が優れていようと、存在自体を消してしまえば読みようがないのだよ」
 オブジェの奥から線の細い女性が長い銀髪を揺らしながら立ち上がる。
「リリの存在を見落としていたか、あるいは看過していたか。何れにせよ、今のがその怠慢のツケなのだ。
 悟れ、手負いの獣よ。ここが貴様の墓場なのだ」
 一気にしゃべり過ぎたリリが身体をくの字に折って咽る。
 そちらにゆっくりと青蠍が振り向く。
 その背に穿通が飛び乗るのと、その足元に仁が踏み込むのは同時であった。
 目配せ、無し。
 思考、合致。
 2メートル近い大剣を携えた仁と、3メートルを超えるランスを掲げた穿通が、同時に、全力で得物を振り回し始めた。
 闘争本能を総動員した穿通の連撃は暴力そのものであった。
 何物をも恐れずひたすら攻撃を叩き込む仁の有様は災害のようであった。
 青い殻が舞う。
 黒い肉が散る。
 終わり際に互いのイマジナリーシールドを弾けさせ、反発するように両者は吹き飛ばされた。
「何事にも加減というものがあるのだ……」
「ほいっと。もうちょい頑張ろうか」
 なんとか息を整えたリリが仁を、口元を揉むケヴィンが穿通のシールドを補填する。
 単独である青蠍を癒すものはいない。唯々その場に佇み、あちこちに満ちる痛みを耐えるばかりだった。
 そこへカジュが駆け込む。
「介錯仕る!」
 大太刀は仲間が滅多矢鱈に、そして自身が幾度も刻み付けてきた尾、その根元目掛けて振られた。
 ばん゛っ。
 短い音を遺して、太い尾が腹を離れ、床に落ちて、のたうった。


 青蠍は胸を反るような姿勢で束の間硬直した。あごを上げる様は、覚悟したようにも、観念したようにも見える。
「先の事なんぞに目ぇくれてんじゃねぇぞ」
 これまでよりも低い声でトラッシュが告げる。散々削られていたシールドは、今ケヴィンの手によって最大限まで補填された。
「百歩譲ってそうだとしても、目線が違うぜ。この漢トラッシュを無視して進もうなんざ百年早ぇ!
 魂込めててめぇの全部ぶつけてこいや!!」
 ぐわり、と、青蠍の体が浮かび上がった。健在な六脚で伸びあがり、次の瞬間、全体重をかけてトラッシュへのしかかってきた。
 ここまで耐え続けてきたトラッシュを信頼していない者はいなかった。その成果に応えようとするように、一同が、一斉に出立し、攻撃を始めようとする。
 青蠍は手を後ろに回し、なんとか仁の斬撃を防いだ。が、防げたのはこの一撃だけであった。穿通の槍、そしてケヴィンらの銃弾が背中の傷口を深め、桜壱の殴打とカジュの一太刀が一脚を強烈に痛めつける。
 巨体が再び持ち上がった。先ほどよりも低く、素早い。
「それはもう――」
「――見た!」
 足を左右に大きく開いたトラッシュが圧し潰しを受け切る。
 複雑に蠢く脚の隙間から一旦退いたカジュが、次の瞬間深く飛び込んだ。目の前に腕が滑り込んでくるが、構わず刀を抜き、連撃を放つ。少ない手数ながらも、殺陣のように完成された剣閃が、遂に腕を弾いた。
 千載一遇の機を逃さず、素早く歩み出たレベッカが、両目を強く見開いたままサブマシンガンのトリガーを握りしめた。射出された弾丸が次々と無防備な傷口に直撃、直撃、直撃、直撃、直撃、直撃。
 身を反る青蠍。その衝き出された胸を、背後から、ダメ押しとばかりに叩き込まれた銃弾が貫き、飛び出していった。
「いやー、悪いね、美味しいところもらっちゃって」
 ライフルを担いだケヴィンが背を向け、
 納刀を済ませたカジュが踵を揃えて向き直る。
「貴殿ほどの強者と対峙できたこと嬉しく思う――サラバ!」
 深く頭を下げ、戻し、踵を強く返す。
 これを受け取ったかのように、青蠍は次の瞬間その場に崩れ、それきりもう、二度と動くことはなかった。


 未だ厚く舞う土埃の中、骸と化した青と黒に、穿通はしばらく、浅く頭を下げながら手を合わせ続けていた。
(「楽しかったぞ。本当に、ありがとうだぜ」)
 すっきりとした顔を上げる。それから青蠍に手を伸ばそうとして――背後でSALFと連絡を取る桜壱の口から「現場保存」という言葉が聞こえてきたので、引っ込めた。
 壁際に腰を降ろした仁は、銜えた紙巻に中々火をつけることができずにいた。ライターの調子が悪いのか、手にうまく力が入らないのか、判断がつかない。つけるつもりもそこまではなかった。
 遠く離れたところで、トラッシュがリリとレベッカに声をかけ続けている。リリは幾らか嫌がるような反応を見せているが、レベッカは戦闘の余韻を噛み締めているのか、特に取り合う様子はなかった。まったく何を、とは胸中に留めて置くことにする。
 ようやく煙草に火が点る。深く吸うと、身体の隅々にまで煙が染み渡っていった。それでやっと、自分がそれなりに疲労していることを実感する。
「あー……美味ぇなぁ……」
 火照った、大きなため息を吐き出す。紫煙を多分に含んだそれは、厚く漂う土煙を切り裂き、高い天井を目指して音もなく昇っていった。

成功度
大成功

MVP一覧

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重体者一覧

重体者はいませんでした。

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