小さく蠢く驚異 マスター名:花巻はるまき

形態
ショート
難易度
普通
ジャンル
防衛
人数
68
相談期間
3
プレイング締切
08/30 24:00
完成予定
09/19 24:00


●ショッピングモール_メイン通り

 大規模なナイトメア襲来――そんな切迫した状況で、ライセンサー達は方々への出動を余儀なくされていた。
 問題を1つ片付けても、また次の出動要請が待っている。そんな状況だからこそ、目の前に広がる光景には違和感しかなかった。
 中には激戦地となっている地域もあるというのに――この場所はやけに静かすぎる。

『都市部から少し離れた商業施設で、店員、一般客を含む全ての人間が気を失っているとの通報がありました。要請を受けたライセンサーは至急、気絶した人々の安全を確保し、原因の究明にあたって下さい』

 そんなオペレーターの要請を受けて駆け付けたのだが……。
 ショッピングモールを突き抜ける様に伸びるメイン通りに、ナイトメアらしき姿は無い。
 代わりに、買い物客と思しき人々がそこかしこに倒れ込んでいた。負傷した形跡はなく、眠るようにただ意識を失っている。

『状況からみて、精神吸収型のナイトメアが原因だと思われます。死傷者がいないのであれば、恐らく小型の……』

 通信機から響くオペレーターの声を聞きながら、ライセンサーは被害者の状態を観察する。
 脈あり、呼吸あり、顔色もそこまで悪くない――確かにオペレーターの言う通り、小型の精神型ナイトメアの仕業である可能性が高い。

『まだ近くに潜んでいる可能性があります。それに被害規模の広さから言って、単体での襲撃とは考えにくいです。何か気になることはありませんか?』

 オペレーターに問われたものの、気付きといえるほどの発見は今のところなかった。
 実際は駆け付けてからずっと、ナイトメアの痕跡に目を光らせていたのだが、それらしきものが全く無いのだ。
 既にここを去った可能性も、なくは無いが――ライセンサー達は一先ず、人々の救助を優先させることにした。


●ショッピングモール_駐車場

 倒れていた人々を救急隊員に引き渡した後、ライセンサー達は施設内の見回りを行った。
 見落とした人がいないか、そして今回の騒動の原因は一体なんだったのか……しかし、結局なにも見つからなかった。
 見回りを終えて駐車場に集まったライセンサーの1人が、オペレーターにそう告げる。早々に見切りをつけたようだ。

『了解しました。では、ナイトメアの脅威は過ぎ去ったと判断し、これにて任務完了と……』
「うっ!?」

 オペレーターが任務完了を告げようとしたその時、通信機を手にしたライセンサーがドサッと音を立てて倒れ込んだ。

『どうしました!? なにかありましたか!?』

 他のライセンサー達がすぐさま駆け寄り、安否を確認する。気絶した人々と全く同じ状態だ。
 しかしどんなに目を凝らしても、ナイトメアらしき痕跡は見当たらない。攻撃を受けたことにすら、気付かなかったのだ。
 倒れた1人を囲むようにして、周囲に警戒を向けるライセンサー達……ふと、1人が足元の黒い点を目に止めた。

「……蜘蛛?」

 それは、直径3ミリ程度の小さな蜘蛛だった。
 何かの拍子に弱ってしまったのか、動きが鈍い。
 ライセンサーの何気ない呟きに、オペレーターが反応する。

『蜘蛛ですか? ええ、はい、3ミリ程度の……。今は電波妨害が起きている地域もありますから、生体反応を上手くキャッチできなかったのかもしれません。もう一度、調べてみます』

 ライセンサーとしての観察力が無ければ、見落としていたかもしれない。
 これだけ小型の生物なら、被害者の服や物の隙間、通気口などにも潜り込める。隠れる場所はいくらでもあっただろう。
 もしもこれが、ショッピングモール全ての店員、客から精神エネルギーを奪ったナイトメアだとすれば……かなりの数が、どこかに潜んでいるはず。

『見つけました! 地中の……地下水路でしょうか。大きめの生体反応を確認しました。恐らくナイトメアです』

 弱った蜘蛛が歩き出し、マンホールの隙間にモゾモゾと入って行く。
 それを黙って見送りながら、ライセンサー達はEXIS(エクシス)を手にした。

●目標
地下水路の司令型ナイトメアを討伐する。

1.大量の小型ナイトメア(蜘蛛)に対処しながら、地下水路を進む。
2.最奥で巨大な蜘蛛型ナイトメア(司令塔兼マザー)と対峙し、討伐。

※ボスを討伐すると、蜘蛛達も動かなくなります。

●登場

・小型ナイトメア(精神型)
見た目は直径3ミリの蜘蛛。
司令型を仕留めない限り増え続ける。
蚊に吸われる程度のダメージしかない為、個々の危険度は1。
ただ、激しく攻めては来ないものの、地味に群がってダメージを与えてくるので注意は必要。

・大型ナイトメア(司令型)
地下水路にいるボス(巨大蜘蛛)。小型ナイトメアを次々と生み出す(分裂的な意味で)マザー的存在。司令塔。
8本の足で繰り出す攻撃は強力だが、その場をほとんど動かないので危険度は2。

※OPで気絶したライセンサーはNPCで、リプレイには登場しません(救急隊員に預けます)。

●プレイングについて

以下の2つ(探索、ボス戦)を含めてプレイングして下さい。

・探索
マンホールから地下水路へ入り、大量の小型ナイトメア(蜘蛛)に対処しながら進みます。壁にびっしり蜘蛛がいる状態です。
最初の入り口は同じですが、通路は沢山あります。PC同士で協力して進むも、別々に進むも自由です。

壁、足場共に滑りやすくなっています。通路の高さは約2m。
幅は5mほどありますが、中央に水路(幅3m)が伸びています。
水路の両側に、各1mの足場があるとお考え下さい(足場|水路|足場)。
水の深さは約1m。流れは速い所も遅い所もあり。入ることも可能です(あまり綺麗ではない)。

・ボス戦
通路の先は繋がっていて、円錐型の広い空間に出ます(幅10m、高さ12m)。ボスがいるので倒しましょう。

床(足場)はコンクリート製で、5cmほど水が張っています。
ボスは床から5mの位置に巣を張っており、初期位置から移動しません(全身の直径9m、足の長さは8m)。
巣の上から、足だけを伸ばして攻撃してきます。かなり強力な為、まともに食らうと重傷を負う可能性が高いです。
また、小型蜘蛛のナイトメアも操り、地味にダメージを与えて来ます。味方の増援は無い為、出来るだけ早く仕留めて下さい。

※到着順序は判定によります。ご希望に添えるとは限りませんのでご了承下さい。
※地上はショッピングモールです。天井や壁を破壊するほどのスキルや攻撃は控えた方が良いでしょう。地上の被害が大きいと任務失敗になります。

【心情】;
「(蜘蛛って…足がいっぱいあってかっこいいな…。良い蜘蛛だったらよかったのになぁ…)」?;

【目的】;
みんなで無事にもどります!

【準備】;
タートルネックな長袖と長ズボン軍手と長靴着用
袖口や裾を粘着テープで固定して小蜘蛛の侵入を阻止
粘着テープに蜘蛛の天敵である蜂の絵を油性ペンで描いておく
気分はおまじない
首元はマフラー等調達し軽く巻く

【行動】;
基本行動はエスメルの全体指針と同じとする

・探索
皆から離れないように気をつけて足早についていく
足を滑らせて水路に留意
誰かがうっかり落ちたらマフラーを首からはずして差し出す
かっこよく助けに行くには、きっと身長が足りない…

自分が小蜘蛛だらけになってしまった場合
水路の流れがゆるやかだったらあえて一旦潜り小蜘蛛を流す

他の人に小蜘蛛がついているのをみつけたら指摘
手が届くなら軽く払い
届かない場所なら「ここについてます」といって
その人の頭についていたら自分の頭を指す

・ボス戦
射程ギリギリのところから胴体を狙いつつ
時折、自分から一番近い脚も狙う

ボスの脚が自分に近い場合は攻撃を当てることよりも避けることに専念
他の人のカバーリングができるようなら積極的に行います
【探索】
装備品以外の持ち込み道具:懐中電灯

エスメル君提案の隊列で通路を進むね。
一応エスメル君の後ろだけど、彼女の後ろに隠れるんじゃなくて、少し壁際にずれて前方は確認できるように。
それと調べものするエスメル君が小蜘蛛に纏わりつかれないよう振り払うね。
群がってきたら足早に進みたいけど、足元滑らせないように気を付けるね。
母体って言うから大きいんだろうし、それなら開けた場所に陣取ってそう。
それなら用水路の上流、空気の流れを感じることが出来るなら風上の方かな?
恐らく母体に近づくにつれて蜘蛛の数が増えるだろうし、数が増えてきたら警戒。
またこちらを妨害してきたら小太刀で切り伏せて突破するよ。
【ボス戦】
一応ヒーラーなんだけど、さっさと片付けた方が良さそうだし、動き的にもボクも前に出た方が良さそうだね!
小太刀を構えて、インライトバッシュ発動。
狙う部位は皆と合わせるよ。
おっきいし、いきなり胴が狙えないなら同じ足を狙えば体勢崩せるよね。
負傷して動きが鈍っている子がいたらヒール。
同時に複数の負傷者がいたらより重傷者、敵に近い人を優先するよ。
・探索
エスメル(la1938)さんの方針に従い隊列を組んで小蜘蛛を追いかけます。
僕は隊列の最後尾で周辺警戒をしながら進みます。
照明はペンライトを持参。
できるだけ足を止めないように進みますが、最低限滑らないように気を付けておきます。
前の皆さんの様子に気を配り、蜘蛛に集られて動けない人が居たら積極的に助けます。

・ボス戦
小蜘蛛に集られないように動き回りながら、大蜘蛛の胴体や頭部を狙って短期決戦を挑みます。
僕自身は敢えて脚に狙われやすい位置に移動し、生命の書を使ってフォースアローで頭部を狙います。
意図としては防御や回避がそれなりな僕が狙われることで、少しでも他の皆さんを狙われないようにする感じですね。
また、脚の攻撃が激しすぎて攻撃に集中できない場合は刀に持ち替えてライトバッシュで脚の切断を狙います。
敵が地上付近に落ちてきた時も刀で接近戦ですね。
基本は敵の近くで動くので、後衛の皆さんの射線を妨げないように気を付けます。
●準備
全体:以下を調達→透明ビニル傘、布粘着テープ、懐中電灯
●探索
全体:以下の隊列を組み、全員でまとまってボスの居場所を探索。懐中電灯orペンライトを照明に、先頭のエスメルと幸田が主に探索を務め、水路を挟み二列で移動。基本は小蜘蛛に追いつかれぬよう立ち止まらず早足。小蜘蛛のしおり糸を手繰れないか探す。
第一縦隊:エスメル、エリナ、六ツ野、マンドーサ
第二縦隊:幸田、楓、鈴檎、愁
個人:透明ビニル傘を盾代わりに正面上方の小蜘蛛を防ぐ。髪も纏めておく。粘着テープをすねに巻いて服と靴の隙間を無くす。また、表側を粘着面にして一巻き、蜘蛛獲り代わりに。
●ボス戦
全体:移動ステップでは小蜘蛛を寄せ付けぬよう、各自が通常移動でたち位置を変える。
個人:スナイパーライフルで胴体へ攻撃(ポイントショット)、次ターン武器持ち替えステップで未使用のライフルに変更、再攻撃。3ターン以後はオートマチック。
●探索
第一縦隊の最後です
「どんじりやな。うしろから来るかも分からん敵に注意や」
敵が来たら「敵や」と説明をして迎撃します

小クモの動きを観察
「小クモの動きでボスの居場所とか分かるかもしらんけど、どうやろ」
基本移動は先頭の動きに倣いますが、小クモの逃げる方向なども見ています

小クモにたかられないように仲間の背中にも注意します
「背中に目があるわけとちゃうから、前の子に小クモくっついとったら払って踏んだるわ」
自分はたまに壁に背中こすりつけて潰します。へっちゃらです

●戦闘
大クモと戦う時はサッと接近、インパクトアタックでグサッと行きます
「ドクニンジンの一撃じゃ、ただではすまんど」
かわいい顔して容赦ないです

クモの攻撃は接近して噛む、という感じだと思うので接近白兵戦での戦いを想定します
「ひっくりかえせたら勝ちやと思うけども、かませるだけかましとこ」
インパクトアタックでむちゃくちゃ攻撃します

戦闘に支障が出るほどの怪我をしている人・前衛で積極的に戦っている人の負傷を中心に回復
「これでもセイントやからの、ヒールはお手のもんやで」
ドクニンジンのヒールとは冗談が過ぎますが、治すべき人は見極めます

●セリフ
クモも確かにそうやったかもわからんけども、と前置きして、
「ホンマの小さく蠢く脅威ちゅうのは、わしのことや」
80センチのドクニンジンでした
エスメルの全体方針に同じ。

医療系スキルを使用して他のPCを支援する。
軽度の怪我や時間がある時は医療1を使用(蜘蛛の少ない場所などで)。
重症化した場合はヒールを使用する。他のヒール使用者が使用しそうな時はパスしてスキルの残を残す様にする。
また医療1で他のPCへの精神攻撃でのダメージをチェックして見落とした子グモがPCに取り憑いて居ないか絶えずチェック。酷い場合は被害を受け難い位置へ移動させる。

移動中まず子グモの一匹を掴み下水に放り込んで水に対して子グモが弱いかどうか確認する。
弱かった場合
/移動中子グモに対処しきれ無かったら下水に飛び込んで洗い落とす。集結して通路の移動が困難なら水路を進む。
ボスとの戦闘中は医療系の仕事が無い時はチャージングランスを使用して子グモを刮げ落として床の水に叩き落として敵を減らす/

そうで無いなら医療系の仕事が無い時は銃撃でボスの足場になっている部分の蜘蛛の巣を攻撃してバランスを崩し嫌がらせをする。
・心情
初めてのお仕事……頑張る。
蜘蛛は、あんまり好きじゃない……

・目的
事態の解決。
この場合はボスの撃破と定義。

・探索
懐中電灯を持っていける場合、手がふさがらないように腰などでベルト固定。
蜘蛛が逃げていく方向に向かう。
という方針を提案。
道中はできるだけ大人しく攻撃。
水路側より壁側を歩き、蜘蛛が密集している部分に銃撃。
蜘蛛で隠された通路が無いか、という考えを常に持っておく。

・ボス戦
恐らくボスであろう存在の、攻撃手段を潰す動きを行います。
蜘蛛と仮定してその脚の根本を狙い、そうでなければ糸を出している部分。
角度的に狙えない、意味が無い場合は視覚を封じるために目を。
高い位置にいるなどした場合、足場となっている部分(蜘蛛の巣とか)
を破壊する動きに入る。
攻撃方法はフォースアローとポイントショットを試し、有効っぽいほうをチョイス。
・その他

エスメルさんの全体指針に同じ。
できるだけ建造物は壊さないように意識。
ぞっとしねぇ!こんなうじゃうじゃ蜘蛛見たの幼稚園の時のじいちゃん家以来だぜ!
こいつ普通の蜘蛛と同じなのかな、習性は調べたことあるけど…
ま、やってみっか!

■準備
うぇー、蜘蛛に集られんのヤだぁ
ダイバースーツとか全身タイツめいたもん準備できるかなぁ
できなきゃ包帯全身に巻いてミイラ男にしてガムテ巻いて…
んで、その上に服とか着るっきゃねぇなぁ
おし準備完了、行くか!

■探索
さてさて、先頭任されたからには頑張らないと!
小さいの潰して回ってもキリがねぇ、親玉とか巣とかあるはずだ
学校で調べたけど、蜘蛛ってのは動く時に必ず「しおり糸」を出すそうな
つまり、一箇所からこの小蜘蛛が湧いたなら、しおり糸の先に親玉なり巣なりがあるはずだ
気持ち悪ぃけど、先頭だしなぁ。調べてみっか
こんだけ数がいりゃあ、しおり糸も使えるのが見つかるだろう
ダメージ嵩んだらセイントの皆さんに治療お願いしよう!

■ボス
ようやく見つけたぜ親玉野郎!フラストレーション溜まってんだ、思いっきりぶん殴ってカタルシスだ!
蜘蛛ってのは後部の膨らみ…胴体に心臓がある、だったな!
あんだけ高いと、最初は銃で狙うっきゃねぇ。皆で足並み合わせて撃とう!
弱って脚の動きが鈍ったら直接ぶん殴るチャンス!
壁を伝うないし三角跳びで!胴体に跳びついて!
ラヴィーネソードナッコゥ・旋空連牙ァ!!
大蜘蛛心臓!とったぁ!!

●地下水路へ
 倒れた1人を救急隊員に預け、ライセンサー達はマンホールから地下へ入った。錆び付いた梯子を降りて真っ先に目にしたのは、嫌な臭いと共に流れる水路と、それを挟むように伸びる苔生した通路。壁に等間隔で空いた穴から、道も複数に分かれている。だが何より気になるのは、本来の壁を覆い尽くす様に蠢く小蜘蛛――小型ナイトメアの群れだ。
「うぇー。こんなうじゃうじゃ蜘蛛見たの、幼稚園の時以来だぜ」
「立ち止まらない方が良いと思いますぅ~。水路沿いに隊列を組んで、お互いに見張りながら進むのはどうでしょうかぁ~?」
 後藤 幸田(la0691)の靴に小蜘蛛が群がりつつあるのを見て、エスメル(la1938)がそう提案した。小蜘蛛によるダメージを極力防ぐ為だ。年長者の冷静な発言に、全員が頷く。もっともエスメル自身は、成人女性型のボディを与えられたヴァルキュリアなので、実年齢はよくわからないのだが。
「水路沿いを進むのは賛成。大きな生体反応を持つナイトメアなら、開けた場所に陣取ってるだろうし。目的地は案外近いかもしれないよ?」
 エスメルに同意しつつ、鴇城 エリナ(la0332)が意味深な笑みを浮かべる。白く輝く金髪に透き通るような肌を持つ美少女だ。普段から周囲の音や空気の流れに敏感な彼女は、親玉の居場所について何かを感じたのかもしれない。
 結局8人は、第1縦隊と第2縦隊に分かれて水路の両側を進むことにした。全員が配置についたのを確認して、第1縦隊先頭となったエスメルが透明のビニール傘を開く。服の隙間を粘着テープで巻いたり髪を纏めたりするなどの対策は他の者もしているが、こうすれば前方上方の小蜘蛛も防げるだろう。
(クモって、足がいっぱいあってかっこいいなぁ)
 内面と外見の年齢が一致しない例は多々あるが、ヴァルキュリアである茂原 六ツ野(la0282)は、見た通りの純真な少年だろう。恐らくほぼ全員が不快感を抱いているであろう蜘蛛の群れを、むしろ興味ありげに眺める様子は、ごく普通の子供を見ているようで微笑ましい。そんな思わず守ってあげたくなるような小さな背中に……オレンジ色の何かがツンツンと触れた。
「わしはどんじりやな。六ツ野ゆうたか? 小クモくっついとったら払ったるから任しとき」
「あ、マンドーサ……さん。ありがとうございます」
 第1縦隊最後尾を守る謎の生き物・マンドーサ(la2505)が、六ツ野の背中についていた小蜘蛛をせっせと払う。放浪者という立場以前にどう見ても人間では無いが、彼(あるいは彼女)もまた、EXIS(エクシス)を使用できるライセンサーの1人だ。
「ん? そないじーっと見てどないしたん?」
「あ、えっと……クモを見てました。ボクなりにとくちょうやたいさくをまとめようと思って」
「そら感心やな。六ツ野はええライセンサーになるで~」
 予想しなかった褒め言葉に、六ツ野は恥ずかしそうに微笑んだ。本当に見ていたのは背中の蜘蛛ではなく、それを払う奇妙な腕の方だったのだが……。聞くのは失礼な気がして、六ツ野は好奇心をそっと飲み込んだ。

●探索
「気持ち悪い、ですね……」
 第2縦隊最後尾の霜月 愁(la0034)が、壁を照らしながらポツリと呟いた。虫が苦手な訳ではないが、無数の蜘蛛が蠢く様子は見ていて気分のいいものではない。優しげな瞳をほんの少し細めながら、前方の仲間達に小蜘蛛が集らないよう気を配っている。
「最初が下水で蜘蛛さん駆除とか……きびしいです」
「蜘蛛は、あんまり好きじゃない……」
 列の2番手、3番手として歩く栗洲 鈴檎(la2519)と赤羽 楓(la0206)が、ぼやく様な言葉を口にする。この2人はパッと見の印象だけで言えば、およそこういった場所には似つかわしくない少女達だった。目のパッチリしたセミロングの鈴檎は、女子高生の様な雰囲気の可愛らしい少女で、濃い金髪にワインレッドの瞳を持つ楓は、西洋人形を思わせる可憐さだ。しかし間違いなく、彼女達もまた守る側の人間である。一見奇妙に映るその行動にも、ちゃんとした意味があるのだ。
「あ。やっぱりこの蜘蛛、水に弱いみたい」
 例えば林檎。彼女は小蜘蛛をポイポイと水に投げ入れ、小型ナイトメアの弱点を探っていた。小蜘蛛が水面でみるみる弱っていくのを見て、その予想を的中させる。
「怪しい所は……今の所ない、です」
 楓も同様に、ただの物静かな少女ではない。誰よりも壁際を歩きながら、小蜘蛛によって隠された通路がないか注意深く観察していた。煌くような髪を揺らしながら、密集した蜘蛛の動きを目で追っている。
「ん? ……おーい、どうする? 左右に分かれるかー?」
 20分ほど歩いた頃。第2縦隊先頭の幸田が、T字の突き当りで立ち止まった。来た道から向かって左右に通路が分かれており、大きな水路が垂直に伸びている。
「蜘蛛が湧いてんのが同じ場所なら、しおり糸でも探してみっか? その先に親玉なり巣なりがあるはずだろ」
「それやったら、蜘蛛の動きを探るんはどや? 軽く刺激したら、ボスの所へ逃げよるかもしれん」
「あ、それなら……私がやり、ます」
 一拍置いて、通路内に一発の銃声が響き渡った。楓が正面の壁に向かって撃ち込んだのだ。驚いた蜘蛛達が一斉に左方向へと移動し始めたのを見て、エリナは「やっぱりね」と頷いた。
「水も左に流れてるし、空気もそっちに動いてる。親玉のいる可能性が高いってことで、ここからは合流して後を追おう」
「了解。じゃ、そっちに飛び移るから少し離れててくれ」
 幸田、楓、林檎、愁が第1縦隊に合流し、全員で蜘蛛を追う。水路が地下への穴へ流れ落ちる様にして途切れた後も、足場だけになった通路をまっすぐ進む。するとやがて、広い空間に出た。
「通路はここまでのようですぅ~」
 窓や扉があるわけでもない、円を描くようにカーブする壁。床に少しだけ張っている水に足を取られながら、全員がグルリと周囲を照らす。
「ここじゃなかったのかな? 壁に小蜘蛛は少しいるけど、巨大なナイトメアなんてどこに、も……」
「うわー、奥方様登場……」
 ライトを上に向けたまま、エリナが言葉に詰まる。林檎も、それ以上の言葉は思いつかなかった。頭上5メートルほどの位置に張り巡らされた、白い蜘蛛糸。その巣の向こうに、天井を覆うほど巨大なマダラ蜘蛛が見えた。

●巨大マダラ蜘蛛
 避けろ! そう頭で考えるよりも先に、全員がその場から飛び退いた。稲妻のごとき轟音と衝撃に耳鳴りがして、何人かが思わず顔をしかめる。今のが大蜘蛛の振り下ろした脚だったと気付くのに、そう時間は掛からなかった。
「――っターゲット発見っ! 散開ですぅ!」
 真っ先に攻勢へと転じたのは、エスメルだった。素早く移動して攻撃位置を確保する。照明や傘は足下に転がし、得物を構えて照準。トリガーを引いて、またすぐ移動に移る。内心は不安でいっぱいだが、やることに変わりはない。最小限の動きで的確に脚をかわしながら撃ち続ける。実戦経験の少ない者にとっては捨て身の戦法だが、『たとえ自分が倒れても、隊の誰かが必ず仕留める』――それだけの覚悟が、彼女にはあった。
「ようやく見つけたぜ親玉野郎! 思いっきりぶん殴ってカタルシスだ!」
 幸田もまた、特攻気味に走りつつ攻撃を当てようと奮闘していた。しかし何の考えも無く突っ込んでいるわけではない。容赦なく落とされる脚を避けながら、大蜘蛛の真下を目指す。
(蜘蛛ってのは後部の膨らみ…胴体に心臓がある、だったな!)
 早くも大蜘蛛の弱点にあたりをつけた幸田。しかしそこへの移動は、思うほど簡単ではなかった。壁の端から端いっぱいの巨体を持つ大蜘蛛は、床全域に足が届く。胴体の真下は、実は最も激しい脚攻撃が来る場所でもあるのだ。
 しかし、死角が全くないわけではない。その証拠に、果敢にも胴体の真下で怒涛の攻撃を繰り返す者がいる。この場にいるライセンサーの中では最も身長の低い、謎の人参マンドーサだ。
「ドクニンジンの一撃じゃ、ただではすまんど」
 それは、如何とも形容しがたい戦いだった。8方向からランダムに打ち下ろされる脚が、胴体の真下にある床を抉り続けている。周囲の者が見てわかるのは、床への攻撃によって発生した砂煙に紛れて、赤褐色の何かが縦横無尽に動き回っているということだけだ。マンドーサは大蜘蛛の脚をちょこまかと交わしながら、時にはその脚を足場に胴体まで接近。より綿密に作られた蜘蛛の巣ごと、胴体へのインパクトアタックを続けている。そのサイズとすばしっこさが幸いしてか、大蜘蛛は標的を上手く絞れずにいた。
(あえて狙われやすい位置にいて、少しでも皆さんへの攻撃を逸らす!)
 誰もが目の前の対処を必死に行う中、愁は冷静に機会を見定めようとしていた。小蜘蛛に集られないよう動き回りながら、ペンライトを大蜘蛛に向けてその意識を誘う。脚を避けながら大蜘蛛の胴体や頭部へ撃ち返し、かつ隙をも探ろうなどという芸当は、冷静沈着な彼だからこそ出来ることだろう。誰よりも激しく動き続けているであろう愁。しかしその黒髪は未だ振り乱れる様子も無く、紫の瞳には疲労の色すら浮かんではいない。
「初めてのお仕事……頑張る」
 それぞれがより効果的な一撃を放てる隙を窺う中、楓は自らその機会を作ろうとしていた。攻撃を受ける頻度が高い愁から最も離れた位置をキープしつつ、複数ある大蜘蛛の目を狙っている。しかしある程度の攻撃は回避せねばならない状況で、且つ、蜘蛛の巣の隙間からその目を狙うのは至難の業だ。だがこの地道な作業が、後の好機に繋がる――そう信じて1つ1つ、確実に目を潰していく。
「ボクも、せいいっぱいがんばります!」
 射程ギリギリの位置でハンドガンを構える六ツ野は、常に他の仲間とタイミングを合わせる様にして攻撃を続けていた。ただし、大蜘蛛の脚を避けることが最優先。攻撃を当てることに執着して自分の身も守れないようでは、他者の援護などできないからだ。今は脚の猛攻で、綿密な作戦を話し合う時間も余裕もない。だからこそ、全体を見ながらサポートに徹する六ツ野の存在は何より貴重だった。
「目を開けたままもりもり食べられるのだけは勘弁だぜ!」
 口調が完全に別人と化しているが、林檎は仲間のシールド回復と自身のダメージ回避に専念している。大蜘蛛に気を取られている仲間が小蜘蛛の餌食にならないよう、周辺の小蜘蛛をせっせと水に叩き落とすのも忘れない。
「ボク一応ヒーラーなんだけど、今回は前に出た方が良さそうだね」
 どちらかというと後方支援向きのエリナも、積極的に戦いへ身を投じていた。踊る様に小太刀を振るい、歌うようにヒールを使うその姿は、緊迫した状況にあって尚、そこだけが別世界であるかの様な清廉さを感じさせる。
「! エリナさん!」
「うわっ!?」
 しかし次の瞬間――湖上を舞う妖精のごとき風景に、異質なマダラ模様の槌が無慈悲にも振り下ろされた。いち早く気付いたエスメルがエリナに手を伸ばし、押し出す様な体勢のまま一緒に倒れ込む。それに気付いた六ツ野が咄嗟に弾を放ち、脚の軌道を少しだけずらす。
「エスメル君!? まさか、ボクを庇って……」
「へ、平気ですぅ~……六ツ野さん、感謝ですぅ!」
 直撃は免れたが、少しかすったのだろう。エスメルのシールドは完全に破壊されていた。命に別状は無さそうだが、言葉ほど軽傷ではない。このままでは大蜘蛛の脚はもとより、小蜘蛛のダメージにすら耐えられない。
「すぐにシールドを修復します!」
「これでもセイントやからの。ヒールはお手のもんやで」
 あの猛攻をどうやって掻い潜ったのか、いつの間にかマンドーサも駆け付けていた。既にヒールをかけ始めている林檎と共に、後方支援に転じる。とにかくシールドを修復しないことには、傷の手当も意味をなさない。こうしている間にも、払いきれない数の小蜘蛛が群がろうとしているのだ。
(このままここにいたら、格好の的だ。3人を守れるのはボクしかいない!)
 エリナが、小太刀を構えて駆け出した。すぐ近くに突き刺さった別の脚に向かって、ライトバッシュを発動する。前衛向きではないと言っても、繊細さと観察力をあわせもつ彼女の狙いは正確だ。思惑通りに小太刀を脚の関節へ差し込み、そのまま一気に力を込める。脚の先にある鎌部分が、重々しい音と共に見事斬り落とされた。
(今だ!)
 大蜘蛛の意識がダメージに向いている今こそ、好機。既に複数の視覚を封じていた楓のおかげで、攻撃の精度も頻度もかなり落ちている。行き場を見失って彷徨う脚に愁が素早く近付き、狙いを定めて斬り落とした。あえて長めに切り取られた脚が、壁にもたれ掛かる様にしてその動きを止める。
「! そういうことか……!」
 愁の行動の意味をいち早く理解したのは、幸田だった。太くがっしりした脚と壁を足場にして、巣の上まで一気にジャンプする。
「大蜘蛛心臓! とったぁ!!」
 巣の隙間を潜り抜け、大蜘蛛の上……背後を取る。そして既に目星をつけていた胴体のやや後方に向かって、大太刀を勢いよく突き立てた――。

●討伐!
「みんな無事で良かったですぅ。ナイトメアの残骸と、残った小蜘蛛達はどうしましょう~?」
「僕達だけでは運べませんから、報告して解散になると思います。あとはSALFに任せましょう」
「小蜘蛛も動かなくなったし、もう大丈夫だな。あー、スッキリした~!」
 司令型ナイトメアが討伐されたことで、小蜘蛛もその動きを停止した。後は念の為に水路内を確認しつつ、地上へ戻るだけだ。
「ひど……絶対洗濯機使わせて貰えないよ」
「ボクも、ドロんこになってしまいました」
「蜘蛛……動かなくなって良かった、です」
 依頼を達成したライセンサーは基本、現地解散だ。SALFに任務完了の報告をし、そのままそれぞれの家路につく。
「なかなか気持ち悪かったね。大蜘蛛もそうだけど、ボクあんな大量の蜘蛛を見たの初めてだよ」
「蠢く小さな脅威ってヤツやな!」
 小さくとも、ナイトメアの大群はそれだけで脅威だ。見え難い場所で息を潜める敵……そういった存在も視野に入れつつ、今後もナイトメア対策を進めなければならないだろう。
「ま、クモも確かにそうやったかもわからんけど。小さく蠢く脅威ちゅうたら、わしかて負けへんで~!」
「…………」
 そう言って、うねうねとよくわからない動きをするドクニンジン。結局、マンドーサ(さん)ってなんだったんだろう――そんな疑問を残しつつ、ライセンサー達は地上へ戻った。

成功度
成功

MVP一覧

MVPはいませんでした。

重体者一覧

重体者はいませんでした。

参加者一覧

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