境の内にて マスター名:真人

形態
ショート
難易度
普通
ジャンル
奪還/救出
人数
68
相談期間
3
プレイング締切
08/30 24:00
完成予定
09/19 24:00


 わっしょい、わっしょい、わっしょい……!

 威勢の良い掛け声とともに、金色の神輿が大きく揺れる。
 沿道に人垣が築かれ、担ぎ手達に声援を送る。
 大通りから少し奥、普段は閑静な裏参道も、今日は浴衣を纏った人々で賑わっている。
 夏祭りである。
 決して大きいわけではない。地元に伝わる氏神様を祀るありふれた神社だが、昨年何かのドラマの舞台になった事もあり、例年以上の人出になっていた。
「おじさん、渦巻きのポテト、ひとつお願いします」
「あと、『連理の杉』ってどこですか?」
 やはりドラマの場面をマネするつもりなのだろう。
「社務所の裏手だよ。茅の輪はご神木を囲む柵に結ぶんだよ」
「はい、ありがとうございます」
 丁寧に頭を下げ、社務所へと向かう少女。屋台のおじさんは、彼女と同年代の愛娘を思い浮かべ、目を細めて見送った。

 巫女神楽の時間が近づき、境内に人が集まりだした。
 シャン。
 澄んだ鈴の音を響かせ舞う巫女。その優雅な動きに、見物人の誰もが見入っていた時——

 ギャッ、ギャッ……!!

 境内のどこかで耳障りな叫びが上がった。
 何があったのか? その異様な気配を前に、さすがに巫女達も舞を止めて様子を探る。
「……サル?」
 それは確かにサルのように見えた。もっとも普通のサルがあんなに大きく、そして鋭い鉤爪を持っているはずはないが。
 人は自身の理解を超える状況を前にすると思考が停止するらしい。
 サルの化け物は呆然と立ち尽くす女性を捕まえると、力任せにその腕を引きちぎった。
 響き渡る断末魔。
 吹き出す鮮血を頭から浴び、サルは愉悦の笑みを浮かべる。
「ナ、ナイトメアっ」
 思考が動き出すと同時、境内は一瞬にしてパニックに陥った。
 逃げ惑う人々が出口に殺到し、押される者や転ぶ者が続出する。当然のように避難の動きは鈍り、逃げ遅れた人々が次々とナイトメアに屠られていく……。


 要請を受けてライセンサーが駆け付けた時、すでにそこは、『地獄』そのものだった。
 ぐちゃぐちゃに破壊された屋台。濃密な血と死の匂いが充満する中、散らばる人々の断片。
『現れたナイトメアは狒々のような姿をしていたようです。鋭い爪で人を引き裂き、文字通り貪ったそうです。正確な数は不明ですが、おそらく4体はいるでしょう』
 通信機から流れるオペレーターの声が事件の詳細を告げる。
『目撃情報と過去のデータから、ナイトメアは肉弾戦がメインの攻撃型。危険度は2と推測されます。これ以上悲劇を増やさないためにも、この場でナイトメアを殲滅してください』
 皆さんなら必ずできるはず。
 そう告げるオペレーターにライセンサー達は当然だと頷き、武器を手に鳥居をくぐり抜けた。


●目標
ナイトメアの殲滅

●登場
狒々型ナイトメア×4体
見た目は2m程の大きなサル。鋭い爪と牙、怪力を持つ。
それほど機敏とは言えないが、耐久力は高く、瞬発的に繰り出される攻撃は目を見張るものがある。
知能は低い。とはいえ連携して行動をする事もあり、侮っては危険でしょう。

●現場
町の氏神を守る神社。50m四方。
当時はお祭りで、境内には十数棟の屋台が並んでいましたが、狒々によってすべて破壊され、現在は残骸が障害物として転がっています。
授与所などの建物はまだ破壊されていませんが、時間の問題でしょう。

・大まかな地図
□□■□□   ■本殿
□□★□◆   ◆神楽殿
▲□□□□   ▲授与所
□□□□□   ◎鳥居
□□◎□□   ★狒々(4体)

●その他
生存者の有無は不明です。
(実際は存在します。10名です。
とはいえ、狒々がいては救出不可能なため、まずは殲滅を優先させてください。)


猩々…なるほど、猿が相手ってワケか
随分好き勝手してくれたみたいだし、遠慮無く「躾け」をしてあげようか

▼作戦
敷地が広大でも無いし、混戦を想定しておくよ
近接戦が得意な4人が攻撃を仕掛け、残り4人が敵の足止めや逃走阻止って感じだね

私は遠距離攻撃の方が得意だし、後者だよ
壊れていない建物へ近付けさせない為と味方の攻撃を集中させる為、その場に釘付け出来ればいいんだけれど
不測の事態を予測して、臨機応変な対応を心掛けたいな

▼戦闘
基本装備は生命の書SPだから、持ち替えせずにこのままいくよ
猩々から4スクエア離れた場所に移動して、もし身を隠せる瓦礫があれば利用したいね
攻撃目標は、射程内で尚且つ味方の攻撃が集中していている個体だよ
フォースアローで小さな脳みそに風穴を開けてあげたいね、脳があるのか知らないけど
フォースアローの使用回数が尽きるまでは、基本的にはこの流れで動くとしようか
猩々に位置を悟られて攻撃対象にされた場合は、射程内に納めつつ適宜移動かな
フォースアローを撃ち尽くしたら、次のフェーズではスナイパーライフルZW-1SPに持ち替えようか
全力移動を使用して6スクエア離れた場所に位置取り、あとは通常攻撃で味方を支援していくよ

▼戦闘後
すぐに生存者の捜索を行おう
可能であれば、病院等への連絡も行っておきたいな
捜索と並行して、被害者の身元が確認出来そうな物品も回収しておくよ
・心情
随分と悪趣味な真似をしてくれたな…
大切な人と死別したり、やりたい事も出来ないまま死んでいく…
そんな悲しい思いをする人をこれ以上増やしてたまるかよ!
その為にも、ここでナイトメアを始末する。逃げられるなんて思うなよ?

・目的
これ以上被害が拡大することを防ぐために敵を殲滅する

・準備
生存者がいる可能性を考慮して応急処置のための薬や包帯を準備しておく
また、作戦を再度仲間と確認して協力体制で臨む

・行動
前衛組と後方支援組に分かれて戦闘
オレは前衛組として動き、目の前のナイトメアの相手に集中する
敵が連携し始めると面倒なことになりそうなので、火力を集中させてなるべく早く倒したい

孤立したり出遅れる事のない様に他の前衛組と足並みをそろえる事を意識して移動
武器の射程内に敵が入ったら戦闘を開始する
基本的には【デュエルナイトソードSP】を用いた通常攻撃で戦い、
攻撃範囲内に味方がいない場合は【パワークラッシュ】で複数をまとめて攻撃しよう
敵の爪や牙による攻撃はなるべく回避し、負傷した時は後方支援の仲間に回復してもらおう

戦闘が終わった後は生存者がいないか手分けして捜索する
もし負傷した生存者を発見した時は事前に準備した薬や包帯で応急処置を施そう
・目標
生存者の救助、ナイトメアの撃破

・攻撃
フォースアローで攻撃し、フォースアローを使いきった場合はエネルギーガンに持ち替えてポイントショットで攻撃する
ポイントショットを使いきった場合はエネルギーガンのまま攻撃
なるべく近い方を攻撃

・行動
できるだけナイトメアと距離をとって、攻撃範囲にギリギリ入る程度で、近接して戦ってる人に後ろから攻撃で支援するように戦う
神社に入ってから、辺りを軽く見渡してナイトメアと生存者がいるかを探して見つかれば位置を把握してから戦闘に入る
戦闘するときに、ナイトメアが生存者に近づこうとする、もしくは生存者のいそうな場所へ行こうとした時は攻撃して足止め。同じように、逃走しようとしている場合も攻撃して足止めをする
ナイトメア同士で連携しようとしている場合、攻撃で連携を妨害するように心がける
ナイトメアを倒し終わった後、生存者を探して救出する
方針:前衛と後衛に分かれ、敵を1体ずつ確実に潰す
生存者の確認は敵殲滅後に
ただし建物内に生存者がいる可能性を考え、敵はなるべく建物から離す
携帯電話と救急治療セットを持参

自分は後衛。攻撃対象は前衛の選択に準じる
前衛と離れすぎないように注意。ヒールの効果範囲を常に意識
ヒール優先度:前衛>自分以外の後衛>>自分

フォースアローは出し惜しみしない
→回数終了で武器をエネルギーガンに持ち替え、攻撃対象以外の敵を足止めや牽制。与ダメージは二の次
→ヒール使用時には再度、生命の書に持ち替える

万が一、生存者が姿を見せた場合、隠れ続けるように言う
敵がそちらへ向かわないよう、声かけ協力しつつ進路をふさぐ

殲滅後:自分達がSALF所属のライセンサーであること、敵はすべて倒したことを語りかけながら生存者を探す
発見次第、怪我の有無を確認
救急治療セットでの応急処置や、重傷者の救急搬送依頼など、適宜対応
現場保存の観点から、遺体には触れない。ただ、十字を切る。
狒々を倒すわ。

どう見たってお宝があるようには見えない、ごくごくありふれた神社。
出雲や熊野のような最上位の宝石クラスとは比べるべくも無く。
精々が【星3】トンボ玉レベルってところね。

だからと言って、その価値も分からぬ猿に破壊されるところを黙って見ているワケにはいかない。
地元の人間に愛され、正しく年月を重ねていった祭祀の場は、霊格を備えてゆく。
ナイトメア風情に蹂躙されて良い場所ではない、ってね。

まずは私達が「敵」であることを狒々に印象付けることから始めるわ。
万が一生き残りがいたとしても、こちらが自分たちの生命を脅かす存在だと分かれば、
敵の注意は否が応でも、自分たち狩人にのみ向くハズ。
自然、それが生存者の安全に繋がると判断。

近接戦闘を仕掛ける面々とはタイミングをずらして、長弓による射撃を。
遠距離攻撃手段を持たない相手に対し、遠近両面からの攻撃を仕掛けることで、
圧力をかけると共に、狒々同士の連携を物理的に阻むことが狙い。

もしも戦闘中に生き残りの人間を発見した際は、敵との直線距離上に、自分が入る位置取りを。
その上でナイトメアには近寄らず、淡々と射撃を行い、その生命力を削る感じで。
あくまで援護射撃役に専念することで、前衛が立ち回りやすい環境を整えたいわね。

全部片づけたら、改めて現場の状況確認がてら、生存者はいないかチェックしましょう。
ボクは前衛として動かせてもらう。
一番近場にいる狒々から、前衛職全員で火力を集中して確実に1体ずつ狩っていく作戦になるな。
まだ破壊されていない建物から可能な限り離れた場所へ誘き寄せるように挑発も加えよう。
知能が低いようだから、ボク達の姿を発見すれば襲いかかってくるだろうがな。
それに建物近くに生存者がいて、そちらをターゲットにされると面倒なことになるからな。
基本的に狒々の攻撃は避けて、通常の斬撃で浴びせて追い込んでいく流れでいかせてもらう。
障害物が近くにある場合、蹴れる程度の重量であれば向かってくる狒々の足元を狙ってみよう。
踏んで転倒でもすれば、強力な一撃を叩き込むチャンスを生めそうだからな。使える物は使う。
対面している狒々が逃走しようとする素振りを見せたなら、全力移動で回り込み退路を塞いでやろう。
数体の狒々に囲まれてしまった場合は、パワースマッシュで凌がせてもらうか。
その際は近くの仲間を巻き込まないか警戒しつつ、な。
スキルは今回保険と考えているから、万が一必要になった場合に使用させてもらう。
■狒々戦
接近戦を得手とする前衛側のアキレイア、吉野、GypsophilAは攻撃要員として機能。
残りの4人は支援、足止め的な役割も兼ねて
後方から攻撃したり、逃走を阻止したりも含めた、遊撃的な立ち回り。
敵の注意を引きつける為に全力移動で近づき、通常攻撃。先制なので当たらなくても可。目的は注意をこちらに向かせること。
全長1.2メートルの刀で敵を攻撃、狒々の半分ぐらいの大きさだが敵対心を持たせるには十分だろう。
鋭い爪が邪魔だから手首を狙い、動かれると面倒だから足首を狙う。
もし、生存者を見かけたらその場所から離れるように攻撃していく。
生存者のところへ逃げられたら全力移動を使う。

■救助
敵を全部殲滅したら生存者を探す。
怪我をしていたら応急手当てぐらいはするが、基本は障害物の除去や生存者を見つけるように行動する。
せっかくのお祭りで浴衣を着ている人もいるだろう、動きにくい人は抱えて運ぶ。
【心境】
境内で騒ぐ悪い子だーれだー
ダメだよ?神様の降りるところなんだから

【行動】
「高天原に神留まり坐す……」
こう見えて神職だ。神社は聖域
表情は変わらないけど内心怒り

前衛担当
建物に人がいると推測。自身に注意を引きつけ、被害を減らす
授与所側から回り込んで本殿側に立ち位置を取るよう心掛け

自分の横を抜けられそうなら『移動攻撃』で切りつけこちらに集中させ
「ダメだよー?『神様の剣』から気を逸らしちゃ」
可能であれば足の腱等、移動に必要な個所を狙う
声を掛け合い、挟み撃ちしてみたり
「もういいかーい、ってね?」
狒々の動きは常に注意して観察
妙な動きや人質を取ろうとすればその狒々を最優先に殲滅
「祓い給へ、清め給へ」
自身への攻撃は回避優先
間に合わなければ刀の腹で受け流すように防御

中~遠距離メンバーへ被弾を少なく
各人のリロードのタイミング注意
リロード時に狙われない様、そちらへ意識を向けそうなら大きな声を上げて狒々の意識をこちらへ
「極めて汚も滞無れば穢とはあらじ!……なんちゃってー?」

敵の殲滅を確認したら、境内に人が残ってないか捜索
え?僕の傷?だいじょーぶだいじょーぶ、男の子だからねぇ(ほわほわ
可能な限り境内を綺麗にして、神様にまたいつでも降りて頂けるように
「神主さんはいるかなぁ?祓をお願いしたいんだけどー……ほら、僕は余所者だからねぇ」


 ――なんのお宝もない、極々ありふれた神社。
 星三つのトンボ玉レベルとアンヌ・鐚・ルビス(la0030)は思う。
 しかし地元の人々にとって、ここは代々溢れる程の信仰を注いできた紛れもない聖地なのだ。
 その価値も分からない猿の冒涜行為を、このまま黙って見過ごすわけにはいかない。
 生まれながらの神職である吉野雪花(la0141)も、聖域を侵すナイトメアに対し、静かな怒りを燃やしていた。
(随分と悪趣味な真似をしてくれたな……)
 普段の――明るく気さくな性格からは想像もできない激しい怒りを漂わせ、カンナ・カブラギ(la0617)が拳を握りしめる。
 ナイトメアによって破壊される何気ない日常。大切な人との突然の別れ。そんな悲しみを、これ以上増やす訳にはいかない。
 その横ではR・リュミエル・タイナート(la0564)が、自身の目で状況を確認するため境内に視線を走らせていた。
「あ、……っ!」
 境内の中ほど。石灯籠の下敷きになった男性の姿を見つけるも、リュミエルは静かに目を伏せた。男性の体が腹から下が引きちぎられたように無くなっていたからだ。
 本当にもう生存者はいないのだろうか? リュミエルは焦る心を抑え、戦いに備え精神を集中させる。
「生存者の有無も気になりますが、まずは敵の撃破を優先で良いっスね」
「前衛は俺とカンナ君、吉野君、アキレイア君で」
 後衛が足止め等のサポートをする間、火力を集中させて一体ずつ確実に倒していく。
 カンナの確認に、瞳を金色に染めたGypsophilA(la0842)が相槌を打って答えた。
 少しでも早くナイトメアを倒す事が、生存者の救出に繋がる。そう信じて。
「安心して力をふるってくれ。削られたシールドは僕が癒そう」
 最年長者であるクリストフ・アイントラウム(la0479)の落ち着いた口調が、心強く後押しをする。
「随分好き勝手してくれたみたいだし、遠慮無く『躾け』をしてあげようか」
 飄々とした中にサディスティックな雰囲気を浮かべ、夕子・メルクロヴァ(la0398)が生命の書を手にした。
「……さぁ、戦闘開始だ」
 アキレイア(la2618)の掛け声に皆の声が重なり、ライセンサー達は一斉に走り出す。
 この聖域を、忌まわしき悪夢から解き放つために。



 突如現れたライセンサーを狒々達は何者と捉えただろう?
 自分達を倒しにきた忌まわしき敵か、それとも新たな獲物か。否、あれらにとって目に映ったモノが何であるかという疑問は、無意味と言えるだろう。
 喰えるか喰えないか――恐らくそれがすべてなのだから。

「まずは俺から行くよ」
 初撃はジプソフィラだった。十数メートルの距離を一気に詰め、袈裟懸けに切りつける。
 白刃は空を切った。しかしジプソフィラにとってはそれも作戦のうち。牽制に気を取られた狒々の背に、後方へ回り込んでいた雪花が攻撃を繰り出した。
「もういいかーい、ってね?」
 狒々は挑発の言葉をかける雪花を追う。その左側から、今度はカンナが斬撃を叩き込んだ。
 肉を割く感触と共に、まるで岩を殴ったかのような衝撃がじわりと腕に伝わる。
「……情報通りのタフさっスね。まるで強化兵士みたいっス」
 あきらかに手応えはあったのに、狒々が怯んだ様子はない。とは言え、まったく効いていないという訳ではないだろう。おそらく感覚が相当に鈍いのだ。
「カンナくん、下がって!」
 背後に迫る殺気を感じたカンナが飛びのくと同時、クリストフの放ったフォースアローが狒々の胸を穿ち、その突進を押し留める。
「私達も援護しますね」
「ぐひひ、狩りって楽しいよねぇ」
 狒々は右へ左へと踊るように動き回る。
 その動きを少しでも鈍らせるためリュミエルがフォースアローを放ち、アンヌは嗜虐的な言葉を織り交ぜ自分達が『敵』であるとアピールしつつ矢を放った。



 生臭い血を吐いて、喉を裂かれた狒々が膝を付く。
 どれほど生命力が強いのか。そんな状態になっても、狒々は近づこうとするライセンサーに対して威嚇の爪を振るう。
「脳みそに風穴を開けてあげる。もっとも……あればの話だけど、ね」
 神木の陰から放たれた狙撃手・夕子のフォースアローが止めとなり、狒々はそれきり動かなくなった。
「なるほど、こうも骨を折らせてくれるとは」
 まずは一体……ようやく一体。
 戦闘開始からの時間を考えれば、予想以上に苦戦しているとクリストフは思う。
 相手のタフさだけが原因ではないだろう。
 ライセンサーが各個撃破を目指し火力を一体に集中させていのるに対し、狒々達は一点に留まる事なく境内中を駆け回り、本能の赴くままに攻撃を繰り返す。
 主な連携方法は単純な挟み撃ち。
 一体が獲物を追い立てれば避けた先で他が待ち構える。逆に仲間が足止めを食らえば、それを囮に他が横から殴りかかる。
「こいつら、また混じっちゃったっスよ」
 先ほどまで集中攻撃を与えていた狒々を見失い、カンナが声を上げた。
「ごめんなさい。私がもっと気を付けていれば……」
 建物の方へ向かった狒々に対応した直後の事。不手際を詫びるリュミエルを非難する者はいない。
 物陰に垣間見える遺体。それが生存者である可能性を捨てきれず、足止めの対象が分散してしまうのは皆も同じだったから。
「別にダメージが回復する訳じゃないんだ。問題ないだろう」
 そう吐き捨てながら、アキレイアは手近にあった瓶ケースを狒々の脛に向かい蹴りつけた。
 足を取られて転んでくれたなら皆でフルボッコできる。そう目論んでの事だったが、狒々は易々と瓶ケースを蹴り壊してしまう。
「小細工は効かないってワケか」
 ちっと舌を打ちながら、アキレイアは間合いを取りなおして太刀を脇に構える。

「やはり優先順位をはっきりさせた方が良いかもしれないな」
「では……」
 クリストフの提案に、リュミエルは本殿の方へ視線を向ける。先ほど、格子戸の向こうで人影が動いたような気がしたのだ。
「狒々に『人質を取れば有利に戦える』なんて考えるだけの知能はないと思うよ」
 しかし、ライセンサーにとって建物が大事な物であると学習してしまえば話は別だ。
 餌を貰うためにベルを鳴らす猫のように、ライセンサーを挑発するために、建物を破壊し始めるだろう。
 だからアンヌは撃破を優先すべきと唱える。
「要するに、ただ攻撃して気を引いていれば良いって事なんだよね?」
 フォースアローを打ち尽くしていた夕子は、知覚をサポートする生命の書から、狙撃に特化したスナイパーライフルへと持ち替える。
「一気に畳みかけよう。狙いは『白髭』だ」
 顎の毛が白い狒々に目標を定め、ジプソフィラが突進する。移動や攻撃を封じるための部位狙いはやめた。これからは斬撃あるのみ。
 カンナも退路を塞ぐように立ち、共に白髭を狙う。
「パワークラッシュが使えれば良かったんすけど」
 複数体をまとめて薙ぎ払う大技だが、敵味問わず巻き込むため、今のように密集している状態では少々行使しづらい。
 白髭は周囲を飛び跳ねてライセンサーを翻弄するが、二人は根気よく攻撃を重ね続ける。
 ジプソフィラの剣が白髭の背中から腹を貫いた。
 磔状態となった白髭は剣を引き抜こうと暴れるが叶う事は無く、その目から急速に光が失われていった。

「今度はお前の番!」
 仲間の奮闘を見てアキレイアは自身を鼓舞するように声を上げると、脇構えから鋭い一撃を叩きこむ。
 胸回りの毛色が他の狒々よりも濃い『胸黒』は、ライセンサー達が最初にダメージを集中させていた個体だ。
 雪花と二人、柔剛タイプの異なる戦い方はそれだけで胸黒を翻弄し追い詰めていく。
 ぶんと風を切り、胸黒が拳を振り抜いた。
 彼女の頭上に陰が差したのは、その大振りな攻撃をバックステップで避けた時だった。
 いつの間にかもう一体の狒々――『金尾』が回り込んでいた。アキレイアはその懐に飛び込んでしまったのだ。
「危ない!」
 アンヌは咄嗟に矢を番えるが援護射撃は間に合わず。金尾は力任せにその剛腕を振り下ろす。
 ごきりと鈍い音と共に、イマジナリーシールドを打ち砕かれたアキレイアがその場に崩れ落ちた。
 命を破壊する感触を己が手に感じ、金尾は歓喜の咆哮を上げた。そして更なる快楽を求め、彼女の頭を握りつぶさんと鷲掴みにする。
「その汚い手を放しなさい。石ころにも満たない野猿風情がっ!」
 ――直後、咆哮は悲鳴へと変わった。アンヌの矢が金尾の眼を貫いたのだ。
「極めて汚も滞無れば穢とはあらじ! ……なんちゃってー?」
 相手の意識を引き付けるよう、雪花は大声で気枯れを祓う祝詞を唱えつつ、金尾との間に割って入った。
「ここはオレ達に任せるっス」
 駆け付けたカンナが大剣を一閃させて押し出した胸黒に、リュミエルと夕子が銃弾を叩きこむ。
 仲間が狒々達を押し留める隙に、ジプソフィラは迅速にアキレイアを回収。戦いに巻き込まれない場所へと退避させる。
「あとは僕に任せてくれ」
 幸い身体へのダメージは浅い。安静にしていれば、じきに動けるようになるだろう。
 そう判断したクリストフはヒールを行使。生命を守るシールドの力を修復した。


 仲間がすべて倒され時――ここにきて金尾はようやく己の不利を悟る。
 これまでとは明らかに違う直線的な動きに、アンヌは金尾の思惑に気が付いた。
「逃げるつもりよ!」
「それをされちゃ困るんだよね」
 ライセンサーの中で即座に行動に移れたのは、最長射程のライフルを持つ夕子だった。素早く照準を合わせると、金尾の脇腹を撃つ。
「ダメだよー?『神様の剣』から気を逸らしちゃ」
 狙撃で足が止まった一瞬を見逃さず、雪花は舞うような動きで金尾の横に回り込むと、無防備になった右足めがけて太刀を翻した。
 伝説に謳われる英雄の名を冠した腱である。ヒトに近い霊長類に擬態したナイトメアなら、同じようにそこが急所になると信じて。
「……って、やばっ」
 攻撃の後、十分に距離を取ったつもりだった。
 しかし金尾は傷ついた足で驚く程の跳躍を行い肉薄。怒りに満ちた拳で、受け流しに構えた太刀もろとも雪花の体を数メートルも殴り飛ばした。
 頭から石塔に叩きつけられ動けない雪花に目を向ける事なく、夕子は再びライフルを金尾へと向ける。
 他の仲間達――ヒールを行うクリストフ以外も同様に。
 跳躍の衝撃で右足首から先を失った金尾は、四足歩行で逃走を続けた。
 ここで倒しきらなければ、せっかく雪花が手繰り寄せたチャンスが無駄になる。
 ジプソフィラが、カンナが金尾の手足を断つ。
 これまでは支援に徹していたリュミエルも、命を奪うための攻撃を繰り出した。
 次々と撃ち込まれる攻撃を避ける事すらできず、金尾は鋭い悲鳴を上げる。
「これはさっきの礼だ、遠慮なく受け取りやがれ!」
 最後の最後に。気力を取り戻したアキレイアが金尾の頭に太刀を振り下ろし、その頭部を叩き斬った。



 境内に静寂が戻った。
 狒々が完全な骸になった事を確認したライセンサー達は、息をつく間もなく生存者の捜索に取り掛かる。
 鳥居からもっとも離れた本殿には、幼い子供を含め、十人が息を潜めていた。
「ナイトメアはすべて倒した」
 クリストフの報告に、人々の表情に安堵の色が広まった。
 人々は少なからず傷を負っていた。リュミエルやカンナは一通り状況を確認すると、負傷の激しい者から優先的に手当てを施していく。
「転んだ拍子に腰がイッてねぇ」
 骨折の添え木にと自分の杖を提供した老人は、狒々は鳥居の方へ逃げる人々を追い回し、取り残された自分達は逆側となる本殿へと身を隠して難を逃れた、と説明した。
「うん、傷も化膿していないし、ちゃんと治療すれば傷も綺麗に塞がると思うよー。……え? 僕の傷? だいじょーぶだいじょーぶ、男の子だからねぇ」
 額から血を流しながら、雪花はほんわり柔らかな表情で微笑む。
 ヒールが修復できるのは、イマジナリーシールドを創造する精神の力だけ。鋭い爪でひっかかれたり、石塔に突っ込んだ傷までは治せないのだ。
 ……頭部は傷のわりに出血量が多いと言われるが、それを差し引いても、けっして大丈夫なレベルに見えなかったりする。

 境内を捜索していたジプソフィラは、犠牲者の上に覆いかぶさっていた残骸を丁寧に取り除き、恐怖の色を宿したままの瞼をそっと閉じらせる。
 生垣の中に垣間見えた鮮やかな色に足を止めた夕子。拾い上げてみると、それは片手のない着せ替え人形だった。
「これ、誰かの遺品……だよね」
 周囲を見渡すと、少し離れた場所に倒れる小さな女の子の姿があった。その手の中には、人形の片腕らしき物が握りしめられている。
 夕子は無言のまま、少女の腕に人形を抱かせてやった。
「そっちはどうだった?」
 立ち上がった夕子に問われ、一通りの捜索を終えたアンヌはお手上げというように肩を窄めた。
 結局、境内で命を取り留めた人は発見できなかった。誰もが一目で手遅れと分かる、悲惨な状況だった。


 ライセンサーにより応急処置を施された生存者達が救急車へと乗り込んでいく。
 リュミエルはその様子をじっと見守っていた。
 生と死の狭間。そこに立ち続けていれば、自分はどんな風に変わっていくのだろう? と無意識に思いながら。
「さて、僕はもう仕事しとかなきゃ」
 くいっと背伸びをして、雪花は境内へと戻っていく。
 病院へ運ばれた神主さんが戻ってくるまでに、いつでも神様に降りていただけるよう、境内を綺麗にしておかなければ。

 でもその前に、ちゃんと自分の傷を治療したほうが良いと思うけれど……。

成功度
成功

MVP一覧

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重体者はいませんでした。

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