かくれんぼ マスター名:日方架音

形態
ショート
難易度
普通
ジャンル
救出
人数
68
相談期間
3
プレイング締切
08/30 24:00
完成予定
09/19 24:00

 なぁ、かくれんぼしようぜ。校舎からでたらアウトで。
 フツーじゃおもしろくねえから——まけたヤツが、好きな子に告白な!



 傾きかけた太陽が、夕暮れの色を深めていく。どこか不穏なその色が、己の心を影に塗りつぶそうとして。

「ああもう、何だってこんな事に……!」

 零れそうな泣き言を、食いしばった歯の根で止める。どれだけ慌てふためこうとも、冷静に、気丈に振舞わなければならない。

「大丈夫、ここまで離れれば、大丈夫……」

 ナイトメアがそちらに向かっている。——電話で知らせを受けた時、慌てて張り付いた窓から、破壊が竜巻のように近付いてくるのが見えた。閉じた裏門を目指すように、全てを巻き込んで、真っ直ぐと。

「先生、どしたのー?」
「ううん、大丈夫よ。ほら、ちゃんと列に並んで?」

 爪を立てて拳を握り締め、無理矢理にでも笑顔を向けた。子供というのは、こちらの思う以上に空気に敏感だ。不安を見せてはならない、それは瞬きの間に彼らを覆いつくすのだから。
 必死に、祈るように自分に言い聞かせる。どうかこのまま何事もなく——

「はーい、これで全員よね? お隣のお友達を確認して」
「せんせー! 剛くんがいない!」
「えっ?」
「匠くんも! ピアノのへやまでいっしょだったのに」

 健ちゃんもじゃないー? あー、おさらを全部だしてたよ、いっけないんだー。
 ざわめく生徒の言葉が、耳をすり抜けていく。頭のどこか遠くで、叱り飛ばす声が聞こえる気がした。何をしているの、早く、彼らに連絡を——

「……もしもし、SALFですか……ッ!」

 ——絶望に震える声を、もう、抑える事はできなかった。



「小学校へ向かってください」

 冷静な口調とは裏腹、オペレーターの声色にどこか焦りを感じて。ライセンサー達は開きかけた口を閉じた。
 東京全域が急襲されている今、彼らもまた襲撃を受ける重要施設の一つへと援護に向かう、その道中での割り込み。

「貴方達の任務が重要な事は知っています。ですが、叶うならばどうか、こちらを」

 個人端末へと有無を言わさず送られてくる資料。正規の手順を無視したその行為に、しかし目を通したライセンサー達は迷わず進路を変えた。

「おそらく手当たり次第に大きな建物を襲っているのでしょう、小学校が襲撃されました。幸い放課後のため、残っていた児童は少なく、教師によりすぐに避難は完了しました」

 それだけで終わるならば、オペレーターは彼らを止めることなく。彼らもまた、進路を変える事はなかっただろう。

「—不幸にして放課後のため、教師の数も少なく、残っていた児童の正確な数も危急の最中に把握することが出来ず。避難してから、かくれんぼをしていたらしい3名の姿が見えない事が、児童の訴えで発覚したそうです」

 資料の最後にあるのは、小学生の証言故に時系列も場所もあやふやな情報。避難途中までは居た、いや先に帰ると言っていた等矛盾したものから、数ヶ月前にいなくなった先生が裏門に居たなどと関係ない言葉もある始末。それでも、ライセンサー達はむしろその足を速める。

「帰っているならばそれでいいのです、校内にいないのならば。けれど情報を精査するに、彼らはまだ残っている可能性が高いと考えます」

 対ナイトメアの研究施設は確かに重要だろう。この厳しい戦況を照らす一筋の光、人類の切り札と成り得る可能性だってあるかもしれない。それでも。

「貴方達の他に、間に合う戦力がいないのです。どうか——どうか、彼らの未来を守ってあげてください」

 正門へと駆け込んだ彼らの耳に、オペレーターの願いと共にガラスの砕け散る派手な音が届く。遅れて、異常を知らせる警報が鳴った。到着のタイミングはほぼ同時、後は、どちらの手が届くのが先か。


 貴方がたが、真に護りたいモノとは。
 ——己が答えは、その胸に在りますか?


●目標
校内に取り残されたと思われる児童3名の保護。

●場所
3階建ての小学校校舎。正門からグラウンドを挟んだ正面に校舎が一棟あり、正門から見て正面の左右二ヶ所に出入口がある。1階には左右の下駄箱、理科室、家庭科室、保健室、職員室が。2階は美術室、教室が5クラス分、多目的教室、3階は教室が5クラス分、音楽室となっている。ライセンサー初期位置は正門であり、そこから見た校舎に異変は見受けられない。

●登場
・ナイトメア『万能型』
人型。鋭い爪のついた腕を伸ばして攻撃する。武器なども扱い、簡単な言語も発する事ができる。

・ナイトメア『攻撃型α』
熊型。障害物を破壊しながら直線に突撃する。パワータイプ。

・ナイトメア『攻撃型β』
狼型。鋭い牙で急所を狙ってくる。スピードタイプ。


アドリブなど大歓迎
「子供を襲う不埒な輩はお仕置きしないとね」
【目的】
子供たちの救助及びナイトメアの撃退
【心情】
任務なのもあるが、子供に危害を与えるのは許せない
子供が傷つく前に敵を撃退する
【準備】
仲間と繋ぎっぱなしの携帯を用意しておく
ストラップに繋ぎ、それを尻尾につけ戦闘中でも手を塞がずに使えるようにしておく
【行動】
三階に行き上から下へ子供たちを探す班で行動。子供の安全優先
・捜索時
隠れてるであろう子供たちの名前を呼びながら教室の中などを探していく
発見次第他の人に任せる
子供が面白がって隠れ続けないように起こってることを話しながら探す
・敵と遭遇時
敵と遭遇、または一緒に行動する班の遭遇の報告を聞き次第足止めに回る
攻撃型αと戦うときは仲間や子供と一直線にならないように立ち回る
攻撃型βと戦うときは壁を背にするなど、背後から攻撃されるのを防ぐ
最初は旋空連牙を使い、手数の多さで攻める
敵の攻撃は基本よける
旋空連牙が切れた後、仲間が周りにいないときにパワークラッシュを使用していく
子供たちの避難が無事に終わった後は、敵の存在有無関係なく合流する
合流した後も敵が残ってる場合は協力して敵を倒す
◆目的
自働3名の保護・救出

◆準備
班分け、俺は校舎を下から上へ捜索する班に参加。仲間達と緊急時の連絡先を交換しておく。外にいるオペレーター、先生、児童達から情報収集しておく(残されている児童の特徴等)
※連携・協力行動において齟齬がある場合は他PC優先。

◆行動
スキル:嗅覚を使用
児童を捜索
「犬みてーだな…俺…でも、違和感感じる為の情報源は多いほうがいーよなっ!」
「職員室なんて、俺だったら近寄らねーけど…そう考える賢い奴もいるかもなっ。」
職員室・音楽室・家庭科室は念入りに調査(ピアノの部屋、皿を出していた等の情報を考慮)
接敵時は知覚攻撃を行う
スキル:フォースアロー使用。敵の意識を此方にむける・避難経路・退路を確保する事に重点を置く。(挑発等による誘導を駆使)
児童を巻き込まないようにする事を第一優先

「俺が来たからには、もー大丈夫だぜっ!」(とりあえず安心させなきゃな♪)
心情
「全部を護るなんて私には出来ないけど、目の前の未来と笑顔を護ることなら出来るよ」
目的
児童三人の救出。
準備
作戦の共有。スマホは片耳イヤホン付けてポケットに入れておく。
行動
左の入口から侵入、他PCより前に出て敵との交戦に備える。
「私たちが鬼だよ!ちゃんと上手に隠れられたかな~?」と校舎全体に響くように叫ぶ。
侵入後、1階の各教室を順に探索、その後階段を上り2階へ行き、同様に探索。
「み~つけた♪」
探索時、子供が隠れられそうな場所を重点的に探し、子供発見時他PCに外に連れ出してもらう。
「鬼さんこちら!手の鳴る方へっ!」
探索中敵と遭遇した場合、挑発し牽制を入れながら接敵する。可能なら、探索終了済みの教室に誘い込む、また追い込む。
「……さて、遊ぼうか?」
case1.人型
初期装備、ヒット&アウェイで注意をこちらに向ける。狙うは主に足、機動力を奪う。
case2.熊型
初期装備、挑発しながらも回避に専念する。背後、真横に位置出来た場合攻撃を仕掛け、当てられる場所に当てる。
case3.狼型
杖を装備、首、胸、胴体、頭を中心に杖で防御することを意識する。また、接近してきた敵を薙ぎ払うように杖を振りぬく。
case4.複数同時
回避と足止めに専念。
1.2.3.で倒せた場合探索を続行。
子供達も皆も、大きな怪我がありませんように

>目的
子供の救出

>連絡手段
スマホをハンズフリーで使用
常にグループ通話状態で情報共有

>グループ
上→下(上から下へ向かう)

>捜索
各階の部屋を慎重に探す
発見したら大きな声を出さないよう口に指を当てて
『静かに』のしぐさで伝えつつ保護する

>見つけた子の避難
隠れてる場所から連れ出せそうなら連れ出すが
隠れたまま待ってもらう方が安全なら待っててもらう

>戦闘
後衛
主に敵対応で動く
接敵したらフォースアローで攻撃
怪我人が出たらヒールで治療
スキルの使用回数が切れたら、サブ武器のハンドガンで援護射撃を行う

>『万能型』
簡単な言語を話すようだが、子供に影響が出る言動でなければ戦闘続行
武器が射撃系の場合は射程に気をつける

>『攻撃型α』
熊型なので突進しそうな構え等に気付いたら周囲に伝える
突進は大体直線で真っ直ぐ来ると考慮し回避を選択

>『攻撃型β』
スピードで翻弄されないよう注意
大変な状況ね状況なの
頑張るわっ

●目標
救助者確保

●行動
・事前
先生に連絡を取りたいわ
子供達からの情報、本人の経験則から子供達の特徴や居場所予測
オペさんが事前に聞いてたら教えて貰うわ
情報は皆で共有よ

・現地
全体共通:密な相互連絡用にスマホを常時繋ぎグループ通話状態にする・個人
スマホ連絡はHFで対応
私は下→上所属で捜索継続対応よ
到着時に割れたガラス確認に
上対応が直ぐ上がれるように下階の敵を対処よ
大きな音で子供達は怯えているかしら
捜索は事前情報を精査し慎重に効率的。スキル使い、物の位置、音、僅かな違和感も見逃さないわ
「ごきげんよう、私はともだちの為のAI人形、音夢よ。迎えに来たの。一緒に先生の所に行きましょう」
直ぐ逃がしたいけど退路が確保できない場合は隠れてもらうの
「鬼ごっこかくれんぼ。見つからないようお静かに。大丈夫、私が見張りをするわするの」
その際は隠れた場所の近くで警戒よ

戦闘時はスキルや狙撃で後方援護
距離を取り敵の気を逸らしたり敵攻撃時に遠攻で邪魔したり救助時はけん制したり
子供や仲間に当てない様に注意ね
退路確保で子供を連れて校舎の外に連れていくわ
でも戦闘対応の方が退避に適していたら代わりに戦闘を請け負うの
全員救助避難後は戦線に戻るの。敵を学校に放置できないもの

「頑張ったわ頑張ったわね。まるで物語の勇敢な子のよう!」
●全体作戦
下から探す班と上から探す班の4:4で分かれ、以下のようなルートで子供を探す(階段が左右にある場合)

↓←←←←← 3階
↓    ↑
→→←←←↑ 2階
↑↑
→→→→↑↑ 1階
左    右

接敵時は2:2に分かれて敵の足止めと捜索続行

●個人
上から探す班、接敵時は捜索続行

建物に入ったら声を出して敵の注意を引く&子供が出て来ないように促す
教室ではカーテンの裏、教卓の下、掃除用具入れの中など。音楽室や美術室では楽器や道具の裏などを覗いて探す
得られた情報も活用

子供発見時、接敵時は仲間へ連絡
子供に他の子の手がかりを聞く
スマホは首からストラップでかけておく

子供を見つけたら出口まで一緒に避難
その間の接敵時は足止め組に任せるか、退路が確保できない場合は子供に隠れてもらい向かいうつ(やり過ごせそうなら隠れてやり過ごす)

避難させてまだ隠れてる場合は再び捜索へ
もういない場合はまだ戦ってる足止め組に合流して戦う

ハンマーが扱いにくそうならミネルヴァや魔導書に持ち替え
戦闘時、後方に子供がいるなら敵の攻撃を受け止め
相手が倒れるまで通常攻撃
花音は下の階から順にこの依頼の目標である児童を探しに行く。
他にも参加者が下からいくのであれば彼らとともに同行し探索する。
もし児童が見つかった場合は所持している携帯電話でその児童かを先生や他の参加者と連絡し確認しつつ確保して脱出させる。
仮にそうでなくても救出する。
敵に遭遇した場合は、距離をとりつつ、遠距離からフォースアローを放ち攻撃する。
そして花音はセイントでなおかつヒールを習得しているので、味方または自分自身がピンチになった場合はそれを使い、傷を回復する。
戦闘より探索を優先事項とし、活動をする。
行動/小学校に急行し、ナイトメアの脅威から、取り残されている少年達を救出するよ。

理由/ナイトメアの脅威から人々を護るのも、この世界に来たボクの使命だと思うから…それが望んで来たわけじゃないとしてもね(にこっ)。この世界を脅かす、悪がいる限り!!

手段/まず資料を精査(身長外見、最終目撃地点等々)。

到着したら、ボクはすぐに三階へ上がって、そこから下に降りる順で捜索するよ。
「(警戒してエネルギーガンを構えつつ進み)小学校か、なんだか懐かしいな…この世界でも学校は変わらないね」

ピアノの部屋まで一緒だったらしいから、まずは音楽室を中心にして捜索。
物を動かした跡や少年達の身長体格から推理して、隠れ場所を見つけられないかな?
「ほら、かくれんぼの時間は終わりだよ…みーつけた(微笑)」

もし途中で敵が現れた場合は、武器を構えて足止めに。
「大丈夫、君達は絶対にボク達が護る…この正義と秩序の証(かぶってるアニマルヘルム)にかけて!」
「今はボク達の後ろに…合図で一斉に駆けるんだ」

距離のある時はエネルギーガンやフォースアロー(アローを放つ時は昔のエスパー物の様に、腕を伸ばし体の前でクロス)、近づいたら妖刀やハンマーにパワークラッシュを乗せて攻撃し逃げる隙を作るよ(脱出優先)。
「これでもくらえ!」

(所で少年達は校舎から出て全員負けたんだけど…告るの?告るの?)


 今にも泣きだしそうな曇天に沈む校舎を目掛け、ライセンサー達が走っていく。途中で半分に別れた集団の片方は、右の入口より三階まで駆け上がり。ヴァイス・リーゼロッテ(la0070)とアリス(la1168)は息を吸い込んで同時に叫んだ。

「ナイトメアから逃げるよ!隠れてないで出てきて!」
「ナイトメアがいるの!出て来ちゃダメなの!」

 互いの口から出た言葉に、思わず顔を見合わせる。生命の艶を感じさせる、ヴァイスの赤い鱗の尾が驚きに伸び。悪戯な躍動感にあふれるアリスの黒い絹の尾が、戸惑ったように背後で揺れた。
 その横を、青く束ねたポニーテールを背に流しながら、羽鈴 しっぽ(la1535)がエネルギーガンを構え進んでいく。

「なんだか懐かしいな……」

 浮かぶのは、元の世界への郷愁か。たどり着いた最初の部屋――音楽室の扉を、懐かしさを胸にそっと開いた。

「隠れてる子はどこかなー?」

 音楽室特有の大型楽器の裏を覗き込むアリス。ロッカーが並んでいる中を、物を動かした形跡や体格など、しっぽは子供目線で探し始める。ヴァイスは扉付近で捜索しつつも、廊下への警戒を怠らない。
 子供達も皆も大きな怪我がありませんように。祈るように探すロジェ(la0114)の瞳が、窓際の戸棚の上、分厚いカーテンの不自然な膨らみを映す。頬を滑る金糸の一房を頭を振って払いながら、ロジェは何気なくカーテンをめくった。少し警戒した眼差しの子供と目が合った。

(どう、扱えば)

 無意識に鎖骨の立花をなぞる手が、顔に出ないロジェの戸惑いを仕草で表している。見つめ合うことしばし。無表情のまま焦りはつのり――何を思ったか、ロジェはおもむろに両手で己の頬をびよーんと伸ばした。

「……アハハ!ヘンな顔!」

 ウケたらしい。ホッとして戸棚から降ろしながら、人差し指を口元へ。笑い声に集まってきた仲間へと場所を譲る。怪我の無さそうな様子に、しっぽは微笑んで頭を撫でた。

「かくれんぼの時間は終わりだよ」
「今から安全なところに連れて行くからね」

 澄んだ湖の瞳を少年へと片方だけ瞑り。発見の報を、ヴァイスはスマホに告げる。アリスは少年と手を繋ぐと、残る仲間へ頷いて階段へ、外へと避難を開始した。



 同じように曇天の下を駆けたもう片割れの集団は、左の入口から一階へと突入する。
 依頼者と繋がるスマホからの情報に、音夢・デイドリーム(la0746)の知性を宿した黒曜石の瞳が瞬いた。ピアノの部屋から数ヶ月前にいなくなった先生の話まで、得られた情報を幼き見た目にそぐわぬ分析力で精査しながら皆へと。

「私たちが鬼だよ!ちゃんと上手に隠れられたかな~?」

 突入と同時、ツインテールを揺らし雨崎 千羽矢(la1885)の明るい声が大きく響く。全てを護るなんて言えないけど、せめてこの手の届く所は笑顔のままに。

「もーいーかーい?まーだだよってか」

 孤児院での光景を思い出す茅野 敦(la2650)の胸で、チョーカーが笑い声に合わせて弾む。

(絶対に、皆を守るんだから)

 和やかな空気に微笑み、神崎 花音(la0020)は柔らかな印象を与える瞳に決意を乗せた。
 その間にもガラス片を確認していた音夢からの、敵が近いとの目配せに警戒は怠らずに進む。少し先で、壁を破るような爆音が響いた。駆け付けた四人の眼の前には、理科室で暴れる熊型の姿が。

「ナイトメア……!」

 息を呑む花音の横で、千羽矢のレガースが蹴り飛ばした瓦礫が熊型のバリアーを震わせる。ダメージは通らないまでも、その凶暴な視線を刺すように向ける熊型。敦は念の為と鼻をひくつかせ。

「子供の臭いはしねえ気がする」
「ではここはお願いするわ」

 手筈通りに。四人は頷き合うと、音夢と花音は次の教室へ。

「……さて、遊ぼうか?」

 手をゆらゆらと招きながら、千羽矢の両の翠玉が挑発的に嘲笑んだ。


 ――い、おーい。

「にゃっ!?」

 階段を駆け下りるアリスの三角の耳が、人の声らしきモノを拾いピクピクと動く。

「あれ?先生のこえだ」

 傍らの少年の言葉に首を傾げる。救出対象は子供三人ではなかったのか。疑問に思いつつも、子供連れで確認しに行くわけにはいかない。せめて、と戦いの気配を伝えるスマホに向けて声を上げ足を速めた。

「二階から――」



 アリスの連絡の少し前。音楽室を出て教室に差し掛かった所で――横の壁が吹き飛び、瓦礫と衝撃が三人を襲う。完璧なタイミングでの奇襲に、だが。

「残念、ボクにはお見通しだよ――フォース、アローッ!」

 警戒していたしっぽの腕が掬い上げるように胸の前でクロスし、壁を砕き突撃してきた狼型の鼻先へ光の矢をお見舞いする。怯んだところへ、ロジェの魔導書から追撃の嚆矢が突き刺さり。

「子供を襲う不埒な輩はお仕置きしないとね」

 ニィ、と笑ったヴァイスの瞳孔が、縦に長く細められたかと思うと。蹴爪が、青白いオーラを纏って上段から舞い落ちた。速さを軸に激しさを増す戦場。あちこちの壁が崩される中、スマホから声が漏れ出る。

『ザザッ――かい――で』
「なん――ッ、今は無理、か」

 だが、辺りに満ちる騒音の中からソレを拾おうとした一瞬を狙われ、ロジェは首を振って戦いに集中する。どうか、悪い知らせでは無いようにと願いながら。


 お皿をだしてた、の言葉を頼りに。音夢は聴覚を研ぎ澄ませる。不自然な皿並びの食器棚の、探し人はそう、その奥に。

「ごきげんよう、私はともだちの為のAI人形、音夢よ。迎えに来たの」

 皿のバリケードを丁寧にどかして。隣室の激しい物音に震え息を潜めていた子供に、落ち着きを魅せる優雅なカーテシーを。

「お名前は何て言うのかな?」

 柔らかく微笑む花音に、健、と小さく応えが返る。聞いていた名前と同じ、と花音は頷き、怪我がないかを手早く確認する。音夢は手を差し伸べ少年を棚から引っ張り出すと。

「頑張ったわ頑張ったわね。物語の勇敢な子のよう!」

 安心させるように大袈裟に褒め、そのまま少年を連れ慎重に避難を開始する。廊下を立ち去る二人に危険が無いか、しばし見送っていた花音のスマホから声が響いた。

『二階から人の――』


 繰り返される突進に、理科室は最早原型をとどめてはおらず。しかし狭い範囲での直線攻撃は、動きを見極める千羽矢の格好の餌食で。

「脇が甘いよ、っと!」

 隙を見せる毛むくじゃらの脇腹に、レガースの爪が襲い掛かる。つけた傷を丁寧に抉るように、敦の魔導書が瞬き震え、矢を突き立てた。

「あと少しだな」

 油断するわけではないが、確かに熊型は後ろ足から崩れ、最早ご自慢の突進も繰り出せない程。トドメを、と間合いを計る二人のスマホが、刹那の静寂を纏う戦場へと声を落とす。

『二階から人の声が聞こえたの!』

 子供の声ではないようだが避難中で確認できない、と続く内容に一瞬だけ視線を交わすと。

「任せて!」

 脚に力を溜める千羽矢を一人残し、敦は廊下へと身を翻す。熊型がすでに瀕死というのもあるが――直感が、彼の背を急かす。

「敦さん!」
「俺が行くよ!」

 一階にはまだ未探索の怪しい場所がある。家庭科室から飛び出してきた花音にそう返して、敦は階段を駆け上がった。


 教壇の影で息を殺しながら、剛は戸惑っていた。
 上からはナイトメア襲撃の警告、下の階からはかくれんぼ続行の呼びかけと、どちらに従えばいいのかわからない。

(ないとめあ?かくれんぼの鬼さん?)

 悩む彼の耳に、第三の声が届いたのはその時だった。

「おーい、おーい」

 聞き覚えのある声に剛の顔が輝く。あれは、少し前まで学校にいた先生だ!教師に従っておけば間違いないと、少年は教室を飛び出す。

「せんせー!」

 二階に上がると同時、教室から飛び出してきた少年の姿に、敦はスマホへと発見の歓声を上げた。

「やっぱり、もう一人いるの」

 少年を避難させ安全な場所から取って返したアリスは、息を切らせて首を傾げる。先に聞こえた声は気のせいではなかった。少年が先生と呼び嬉しそうに走り寄る情報にない人物に、ふと、突入前の記憶が木霊する。

(数ヶ月前にいなくなった先生が裏門に居た……なの?)

 ナイトメアには『捕食した生命体に擬態する能力』がある。嫌な予感が、アリスの背を這った。いなくなったのは――ナイトメアに捕食されたから、だとしたら?
 咄嗟に止めようとした声が喉から出る前に。先生と呼ばれた人物の、その腕がずるりと伸びて。

「せん、せえ……?」

 捕らえられた幼き肢体。がぱりと開いたその口は、教え子の困惑に応える事無く。並ぶ鋭歯をもって柔らかな片腕を齧り取った。

「……ァアアアアアアーー!!!」



 初撃こそ容易に凌いだものの。狼型の速さに、戦場はさらに壊れ空間が広がっていく。時折スマホからの音が混じるも、常に満ちる騒音に詳細はかき消されてしまう。さっさと倒すしかない。三人の意志が視線で交わり、まずはヴァイスが跳んだ。

「くらえ!旋空連牙!」

 壁を背に立ち回るが故に致命傷は無いが、二連撃もまた深く削るには至らない。鬱陶しい動きをする相手に、狼型の憎悪は一身にヴァイスを向く。だがむしろ彼女の瞳孔は喜びに爛々と輝き、纏う冷気はいっそ熱いほどの青白さを魅せていく。鋭さを増す怒涛の舞踏は、確実に敵の思考を荒らし。魔導書を閉じたロジェもまた、援護射撃で敵の手数を減らし閉所へ追い込み、徐々に戦場を作っていく。

(あと少しで、整う……)

 後方より俯瞰した視野を持てるロジェには、しっぽが狼型の死角へと位置取り、気配を薄めて力を溜めているのが見える。――先程スマホから聞こえたのは、悲鳴ではなかったか。焦る気持ちを抑え機を窺う。そう、あと少し――今!

「ヴァイスさん、避けろ!!」
「おまけだよ!」

 ロジェの合図に、深く沈みこんだ体勢から脚を跳ね上げる。噛みつこうと狙った狼型の下顎を蹴り飛ばし、ヴァイスはその勢いのままくるりと一回転で距離を取った。無防備な喉元は、ちょうどしっぽのハンマーの前に。

「子供達は絶対に護る……この正義と秩序の証にかけて!」

 名は体を表すがごとく、青き尾が闘気に騒めく。ハンマーを振りかぶるしっぽの頭上で、ヘルムの耳がピンと立った気がした。一人と一匹の振るう正義の鉄槌は、過たず狼型の喉を打ち貫き。
 崩れ落ちた巨体を向こうでは、ヴァイスの飛びつかんばかりのハイタッチに、ロジェが変わらぬ表情で押し負けていた。



 響いた悲鳴は、誰のモノだっただろう。瞬時に沸騰した感情の片隅で、敦は思う。
 脳裏にフラッシュバックするのは孤児院の幼き弟妹達の顔、そして、かつて救えなかった妹の――煮えたぎる想いの儘に叫び走りながら、だが冷静に彼我の距離を計る。フォースアロー?効くかもしれない。だが確実に子供から手を離すかはわからない。ならば。

「もう、奪わせねえよ!」
「無茶なの!?」

 もう一口、と再度開いた口内へ。アリスの静止を振り切り、魔導書が突き刺さった。


「今の悲鳴は……ッ!?」

 最後の一人発見からさほど間を置かずしてスマホを震わせた悲鳴に、職員室を飛び出した勢いで階段を駆け上った花音は、思わず言葉を飲んだ。血飛沫が、血溜まりが廊下を彩っている。

「隙を作って欲しいの!」

 いまだ流れ落ちる幼き命の雫を懸命に抑えながら、アリスは下がろうとすると伸び縋る腕を何とか躱していた。躱せていた。そう、後衛にも関わらず可能な限りの攻撃を引き受ける敦の、捨て身の動きによって。――花音は、奥歯を噛みしめる。

「誰も死なせないんだよ……!」

 頭のリボンを解きながらアリスの前へ出ると、あえて無防備な背を晒し少年の血を流す腕を付け根から縛る。途端、背を走る痛みに――だが、花音は笑みを浮かべてアリスを見る。口が、いって、と形をなぞった。

「……っ!」

 かける言葉を飲みこみ、アリスは少年を抱えて階段を駆け下りていった。花音の背後に再び迫る腕を、視界から振り切るように。――どうしようもない時もある、と首を振りながら。
 先生だったモノは、満身創痍で転がる敦を最早脅威とは見做さず。踏み越えて花音へと肉薄しようと――

「行かせ、ねえ」

 砕かれた腕を巻き付け抜け折れた歯で噛みつき。少しでも、逃げ延びる可能性を。かすむ視界に映るのは、必死に逃げる妹の姿なのだから。
 そんな想いを、人型が斟酌するはずもなく。無情にも敦の頭を刺し貫かんと狙った鋭い爪が。

「それ以上は許さないわ許さないの」

 黒く流れる濡れ羽をとどめる柊の葉に、祈りを込めて触れる。その手で開かれた魔導書から、許されざる暴挙を挫かんと音夢の怒りの矢が飛んだ。片脚を捕われた事も相まってバランスを崩す人型に、人影が風のように迫る。

「今度は、私と遊んでほしいな」

 熊型の息の根を止めた千羽矢の蹴りが、敦から遠ざけようと人型を吹き飛ばす。花音が駆け寄りありったけの癒しを重ねるも、シールドではなくその身に刻まれた傷は癒やせず唇を噛む。
 多少の知恵はあるのだろう、体勢を整えた人型が弱いところからと敦へ伸ばす左腕を、せめてこれ以上の傷は刻ませない、と花音の矢が的確に退け砕く。右腕を避けながら彼我の距離を詰めていく千羽矢。多少の痛みを堪え、レガースが人型の喉笛を刈り取るまであと少し――

「そのままで構わないわ!」

 避けてきた右腕が背後から千羽矢を狙う時。音夢の矢は、すでに照準を終えていた。爆散する衝撃波を勢いに乗せ、千羽矢はさらに跳ぶ。

「目の前の未来と笑顔くらいは、護るんだから!」

 終焉はいっそ静かに。ごとん、と人型の首が落ちた。



 念の為と全てを見回り。ライセンサー達が校舎から出ると、空が微かに泣き出し始めていた。

「あの、大丈夫ですか!?」

 敦の大怪我を見たのだろう、駆け寄ってくる教師に、しっぽは笑顔でガッツポーズを見せた。

「悪いヤツらは、ボク達が全部倒したよ!」

 安堵に崩れる教師。ちょうど皆のスマホが震え、アリスが病院に搬送されていた少年の無事を告げた。

「ありがとうございます、ありがとうございます……ッ!」

 空より激しく泣き出した彼女に、だがしかしライセンサー達は、誰ともなく鉛色の空を見上げる。


 ――もう少し、やりようがあったのかもしれない、と。

成功度
成功

MVP一覧

MVPはいませんでした。

重体者一覧


  • 茅野 敦la2650
    ナイトメアに捕らわれた子供を救うために突っ込み、大きな怪我をしたため

参加者一覧

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