炎の中の命 マスター名:追掛二兎

形態
ショート
難易度
普通
ジャンル
救出
人数
68
相談期間
3
プレイング締切
08/30 24:00
完成予定
09/19 24:00


 都内には様々な施設がひしめき合うように乱立している。
 どこへ行っても買い物に困ることはない、一つ挙げるとすれば煩雑すぎることが難点だろうか。
 人通りは多く、車の進みも滑らかとは呼び難い。
 だが生活の上で不便はないだろう。
 例えば、急病を起こしても病院の数が多いのだから対処の手段はいくらでもある。
 個人医院はもちろんのこと、所謂総合病院も数多く存在する。これは、その病院で起こった騒動の話。

 その日、奇妙なことがあった。
 病院の待合室に、一匹の犬が紛れ込んできたのだ。
 滅多なことでは野良犬など見かけない東京の街で、しかも病院にいるというのはかなり珍しいことと言えるだろう。そしてこれは、早急に対処しなくてはならない。どのような病原菌を持っているか分かったものではないからである。
 医者はそんなことに構っていられない。対処するのは事務員だ。
「ほら、しっしっ。早く出て行ってくれないかなぁ」
 気だるい雰囲気の女性事務員が、バインダーを振りながら犬を追いだそうとする。と、ここまでは特に問題ではなかった。
 だが、このたった一匹の犬が、とんでもない災厄を引き起こすことになる。


「現着しました。これより消火活動に入ります」
「点呼を取るんだ! 病室の人数くらい覚えてるだろう!」
「搬送急げ! 院内の救急車も使うんだ」
「受け入れ態勢なんて知らん。とにかく運びなさい」
「怪我をされた方はこちらに!」
 数々の叫び声が交差する。
 あの病院は、火災に見舞われていた。
 ごうごうと燃え盛る炎は、瞬く間に病院を包み込み、辺りには真っ黒な煙を撒き散らす。消防車は五台出動していた。
 出火の原因を調べるのは後だ。まずは消火し、周囲への被害を最小限に留めることが急務である。
「点呼取れました。二階の病室、全員脱出しています!」
「大変です! 302の花野さんがいません!」
 ナース達が入院患者の点呼を取り、逃げ遅れた人がいないかと確認をとってゆく。流石はプロと言うべきか、火災の中でもほぼ全ての患者を避難させることに成功していた。
 ただ一人、逃げ遅れた患者がいるようだが。
「取り残されたか! 302の花野……花野さんだって!?」
 報告を受けた医者が顔を青くする。
 弾かれるように駆け出した医者は、消防隊長に駆け寄り、次第を報告。
「妊婦が一人取り残されています。一時間後……ああいや、三十分後には分娩室に入る予定で、自力でまともに動ける状態ではありません!」
「既に救助隊が中に入っています。何階の方ですか?」
 この燃え盛る病院の中、彼女は孤独に、プロの手も借りずに産みの苦しみと戦っているのだろうか。
 それとも……。


 人命検索に当たっていた救助隊の三名は、無線機から得た報告を基に駆け出した。
 逃げ遅れが一人だと分かっていればやりやすい。
「先輩、防火扉がひしゃげています!」
「ハンマーを装備だ。叩き壊して上がるぞ」
 炎に包まれた一階。上へあがるには防火扉を抜けて階段を使うより外にない。はしご車を使って外から進入する方法もあるのだが、炎の勢いが強すぎて近づけないのだ。
 救助隊員としては新人らしい男が、指示を受けてハンマーを取り出し、防火扉に向けて殴りつける。
 まともに開閉できないのならば、破壊するしかない。こうした事態というものは想定済みだった。
 間もなく扉のタガが外れ、道が開けようかという、その時だ。
 グルル、と低い唸り声が聞こえた。
「誰かいるのか? おい、救助に来たぞ! もう一度返事をしてくれ」
 隊長らしい男が声を張る。
 しかし、返ってくる言葉はなかった。
 人がいるのならば放っておくわけにはいかない。彼は声が聞こえた方へと近寄っていった。
 途端。
 グワ、と炎から飛び出す影があった。犬だ。見た目はドーベルマンに似ていた。こいつが、隊長へと飛びかかり、その腕に噛みつく。
「なっ、先輩!!」
 即座に気づいた新人がハンマーを手に犬へと殴りかかる。
 軽やかに飛びのいた犬は、炎をものともせずに救助隊員達を品定めするようにその周囲をゆっくりと回り始めた。
「炎を恐れない、犬……?」
「先輩、まずいですよこれ。ナイトメアかもしれません。この火災ももしかしたら……。ここは、俺が時間を稼ぎます、先輩達は早く救助を!」
 見れば、防火扉はほぼ壊れている。当身を何度か繰り返せば突破できそうだ。
 新人はハンマーを構えて犬と対峙している。もしこの犬が本当にナイトメアならば、彼に勝ち目などない。
「無茶するな、ここは逃げ??」
「何のための救助隊ですか、先輩! 行ってください。そして必ず、要救助者を!」
 そう言ったきり、彼は犬との距離を図って振り向きもしなかった。
 その意図、覚悟を汲み取った隊長と副長は、最早何も言うまいと階段へと駆けていった。
 犬はというと、逃げる者を追撃しようと飛び出す。
 だがその鼻っ柱を、横からハンマーが叩いた。
「行かせるかよ。一人の……いや、二人の命を救おうってんだ。邪魔なんてさせねぇ!」
 例の新人だ。命がけで、この場に犬を釘付けにしようというのだ。
 並の犬であれば、今の一撃で目を回し、あるいは絶命してもおかしくない。だが、この犬は全くダメージを受けた様子がなかった。
 確信した。これは、ナイトメアだ。
「俺がいる限り、ここは通さないぞ! 人の命はこの世の未来だ。燃えろ、俺のレスキュー魂!!」


 その一方で、新人隊員を後に残して三階へと駆け上がった二人。
 人命検索の本領はここからで、要救助者がどこにいるのかは足と声を使って探すしかない。
「誰かいないか! 助かるぞ!」
 声を張り、一つ一つの病室を覗いて回る。
 もちろん真っ先に302を覗いたわけだが、そこに女性の姿はなかった。
 何かの用事で病室を出た折に火事が起こって逃げ遅れてしまったのだろう。
「隊長!」
 副隊長が呼ぶ。
 女子トイレの方だ。
「いたか?」
「はい、呻くような声が……。花野さんですか!」
 中へ向けて叫ぶ。煙が酷くて中がよく見えないが、返事の代わりに悲鳴にも似た絶叫が聞こえた。
 間違いない、要救助者はこの中だ。
「助けに来た、大丈夫ですか」
 果敢に中へ飛び込んだ隊長が目にしたのは、崩れた天井に足を挟まれ、両手で必死に腹を守り続ける女性の姿。
 瓦礫をどければ救助は可能だ。しかし、この状態では自立は困難であろうし、担架を使うには道中瓦礫が多くて不安定だ。
 何より。
 女性の下腹部が濡れていた。破水だ。
 今まさに、この極限の状態で、一つの命が産まれようとしていた。
「外部と連絡。放水中止だ。救援を呼べ!」


火災現場となった病院へと急行し、救助隊員三名及び要救助者一名(二名)を救いだしてください。
また、病院の一階には犬型ナイトメアがおり、救助隊員一名がハンマーを手に戦闘中です。

●達成目標
A ナイトメアの撃破
B 要救助者全員の救出
サブ ある役職の人を現場へ連れていく

●舞台
都内の病院。三階建てです。
一階は受付と外来診察室。二階、三階は入院患者用の病室です。
要救助者の妊婦は三階のトイレにいます。

●敵 犬型ナイトメア×1匹
見た目はドーベルマンです。
力は特別強くもなく、弱いわけでもないといった具合。
素早いです。
攻撃手段は、
・噛みつき
・ひっかき
・火炎ブレス(←リプレイ中に判明)

●味方 新人救助隊員(ハンマー装備)
一般人ですので、ナイトメア相手に勝ち目はありません。
急がなければあっという間に死んでしまいます。
子供の頃に見たヒーロー番組の影響で救助隊員になった経緯があり、とても勇敢です。
なお、合流した時点で瀕死です。


「私達はSALFのライセンサーです、状況はどうなっています?」
現場へ到着次第消防隊長の元へ向かいOPの情報を確認したらメンバーを呼び、状況の共有をするわ。

妊婦さんを救助する班へ所属

産婦人科医、出来れば救助対象の担当医を筆頭に、医療資格所持者に同行を要請します(承諾してくれた人物を以下「同行者」とします)
また、確認できた状況から必要になりそうな物、最悪発見場所での取り上げも考慮し、新生児を保護しつつ運搬可能な器具や薬品などMr.イナミとMr.リンクスが持てるだけ用意して貰いましょう。

一秒でも惜しいので同行者は私が背負って移動。同行者には消防隊から防火服などを借りて出来るだけ安全を確保し、背負った上でロープなどあればしっかりと固定し、全力でしがみついて貰います。
同行者に確認し、道順をよく覚えておく事。

同行者を背負う前に水を被った時にブーツから水を抜くために蹴る様に脚を振った時にドレスの裾が気になり、内心で「中も瓦礫が多いでしょうし、引っ掛けて転ぶよりマシよね……」と考え、膝上くらいでドレスを切ります。

救助の流れとしては毎ターン全力移動を使用し妊婦さんの元へ向かい、同行者にベストだと思われる処置を行って貰います。
その後、妊婦さんの負担を考え屋上からはしご車での脱出を消防隊へ提案、無理であれば妊婦さんは消防隊に任せつつ、瓦礫を撤去しながら階段で脱出を目指します。
到着後状況掌握(内部の状況、ルート)
ライセンサーが火に耐えられるかは知っているはず。それにより耐火服等が必要か否か判断
耐えられるなら救急車から使い捨てマスクを貰い煙対策。ゴーグルがあればついでに。

可能な限り放水ホースは事前に最大延長。ノズルは無反動型。
無線が借りられればそれで放水の有無を切り替えてもらう(戦闘時行動が阻害される時など)

警戒状態でなければ移動は変わらないのでシールド、警戒状態ならビーストレガース。

ルートを指示に従いつつ進み、犬と隊員が見えればシールドを装備し、全力移動で隊員を庇いに行きつつ、犬には臭い過ぎる香水の原液を足元に投げつける。
瀕死の隊員を掌握し、出られるのであれば何処でも構わずすぐ外へと連れていき、待機しているであろう救急員に預け戦闘へと戻る。

戦闘時はシールドを一つ後衛用のバリケードとして設置。
敵と後衛の中間に位置し、シールドで庇う。
攻撃は届かないので、庇う事と逃さない事を重視。
逃げそうな時は3mのシールドと自身の体重と共に壁へと押し付ける。

敵ナイトメアを倒した後、放水の反動を物ともしない超人的パワーで、放水ホースを持って直接火にかけに行く。
・戦闘班として作戦に参加

・行動指針
ナイトメアの発見と、救急隊員や救助対象者へ向かわせないための足止め及び討伐を主目的とする

・行動
病院内に入れば、ナイトメアと交戦しているだろう
救急隊員の場所がわかっていればその方向に、
場所が不明であれば、周囲の痕跡や音などを
探索のスキルを使って探り、
可能な限り早くナイトメアを見つけるために行動する
痕跡を発見すれば仲間にも共有。
ナイトメアを発見すれば、救急隊員に当たらないようにしつつ
発砲。注意を引き付け交戦する。

戦闘開始後は、武器を生命の書に持ち替え、
命中を重視しフォースアローで攻撃、使用回数がなくなれば
A&H FD5Aに武器を持ち替え銃撃
弾が尽きれば、リロードせずに長弓「飛鳥翔」に持ち替え
射撃。その後は武器を持ち替えずに攻撃を行う。

ナイトメアが逃走した場合、
探索・追跡1のスキルで痕跡をとらえて追い、
可能な限り早く交戦、撃滅する。

ナイトメア撃破後は、他のナイトメアがもういないか、
痕跡などに注意しつつ、退路を確保するために
がれき撤去などを手伝う。
目的
妊婦救助班として要救助者を無事に脱出させましょう。
準備
現場に到着したら、ヘルムの無線機を起動して他の方や救助隊との通信網を構築します。可能なら内部や要救助者の状況、敵の現在位置等の情報を聞き、情報は他の方と随時共有していきましょう。
要救助者の為の医療器具や防火服、面体等を伊波さんと分担して運ぶ準備を行います。僕も可能なら防火服と面体を貸して貰い、無理なら水を被りゴーグルを着けて災に備えます。
行動
内部に突入する際は全力移動を使用し要救助者がいる地点に迅速に移動します。この時、医師を背負っているフォーネサインさんを可能な限りフォロー。
もし、ナイトメアがこちらに向かってきた場合はハンドガンで威力よりも当てることを優先して射撃。注意を引いて、救助班の他2名と医師が安全に2階へ向かえるようにしましょう。

3階女子トイレに到着後はまずスレッジハンマー等を用いて瓦礫の除去し安全を確保。持ってきた道具を医師に渡し、防火服や面体で妊婦を炎と煙から守り、出産が終わるまでは盾を使って落下物から妊婦を守ります。
無事出産が終わったら母子を抱きかかえて病院外まで脱出を行い、この時は無事に出ることを最優先としましょう。
救助班に参加。
可能であれば突入前に救助道具や出産時に使える薬品・器具が救急隊で持っているなら調達する。
無理なら自前で「救急治療セット」を持ち込む。どれだけ足しになるかは分からないけど。

全力移動で3階まで移動して、要救助者と一緒にいるであろう救助隊の隊長達に呼びかけて場所を特定。
移動中、瓦礫や火災の影響で通れない道があるなら撤去や消火で道を作る。
ナイトメアが襲ってくるならライトバッシュで迎撃。
最悪、足を止めて作業や迎撃をする必要があるなら医者を連れたフォーネサイン(la0382)さんには
先行して貰って自分は後から追いつくことも考える。

3Fトイレの救助隊と合流したら、救助道具など持ってきているならそれを渡す。
救助の手法、作戦は彼らの方が精通しているので指示に従う方が効率がいいと思う。
その場で出産の処置を取らなければならないなら周囲の安全の確保を最優先に考えて行動する。
移動の必要があるなら護衛を担当。
妊婦、生まれていれば赤ん坊に声をかけるだけの余力があれば励ます。
心情
病院を燃やすナイトメアねェ…殴ってやらァ。

行動
火災の起きた病院へ戦闘班としてナイトメアを殴りに行く。
現場に付いたら状況確認、ジュリアの話を一緒に聞いて病院へ向かう。

病院に入りテンプルムシールドで炎からのダメージを軽減しつつナイトメアを探す。
見つけたらスナイパーに任せつつ足元を狙って攻撃しながら足止めをする。
また、自身が危ういと思ったら仲間に助けを要請する。
シンが加わったら回復役に回りつつ攻撃をする。
ヒールは5回なので温存しつつ仲間が重症になる前に回復する。
ビーストレガースを使っての攻撃でナイトメアにダメージを与える。
ブレスが来た場合はテンプルムシールドで防御かチェスターの後ろに回る。

ナイトメアが弱ったら旋空連牙で気絶させチェスターがトドメを刺せるようにする。

終わったら救助班の退路確保…消火は仲間や消防隊に任せ、武器を使い瓦礫を壊しながら道を開ける。
仲間を外へと出したら、依頼は完了だ。
戦闘班として、救急隊員の救助と犬のナイトメアへの攻撃を行う
入る前に他の救急隊員から無線機を借り受けて、それを用いて救助班と連絡を密に行う
また、消防団員からホースを借り、体に巻きつけて水を放水しながら進み炎への対処を行う
1階に突入後、ナイトメアを確認したらすぐさま第一武器で発砲
射線は常に意識して、味方や隊員に当たらないように。
ポイントショットを積極的に使い、近付かれたら移動攻撃で後退しながら射撃
接近されたら、ランスに持ち替えて迎撃
また犬が逃げようとする場合も、ランスで逃げ道を塞いで留めようとする。
ライフルでの射撃を主とし、リロードタイミングにハンドガンに切り替えて、射撃。
リロードは二種を撃ち終わった後に纏めて行う。
犬の撃破後、妊婦救助班の為に退路を確保。
無線機と同じように借りた地図を参照にして、最短ルートを検出し、そこを退路とする。
消防団員に防水を申請し、放水を再開させる。
脱出のさいは無線機で連絡をとって、出やすい環境にして貰う。
建物内を進むときは盾を構えて瓦礫対策。
【目的】
自らは戦闘班として速やかに補足された犬型のナイトメアを駆逐するため、 仲間と共に病院へと突入する。
【準備】
突入前に内部の地図を入手する。
取り残された妊婦が居ると発覚した時点でチーム分けを提案し、自らはナイトメアを駆逐する戦闘班に所属する。端末での相互連絡を重視。
【行動】
敵を発見するまでは警戒をしながら早足で移動。
戦闘ではシンが合流するまでは敵の脚部などを狙い、足止めに徹する。シンが合流してからは包囲を意識しながらスキルを用いた攻撃を行い、ブレスが予見された場合には盾を構え、そのまま敵の口元を塞ぐように前進しブレスの拡散を抑えようとする。回復行動はバニーが対応できなくなった場合のみ行う。
敵がダメージを負い、トドメがさせる段階になれば大剣に持ち替え、多少無理にでも突貫し首を切り落とします。
討伐後は救助班の脱出経路を可能な限り確保し、病院内を離脱。


 現状へと駆け付けたライセンサーは、燃え盛る病院を目に愕然とした。
 通常、火災といえば、一つないし二つの部屋が燃えているものだ。しかし、病院のほぼ全体が炎に包まれているこの現実は、いかなるものか。
「チッ、ナイトメアめ……」
「状況はどうなっています?」
 白神 凪(la0559)が舌打ちしている間に、ジュリア・フォーネサイン(la0382)が現場の消防隊員に尋ねていた。
 火災は見ての通りだが、一階にナイトメアがいること、三人の救助隊員が中へ突入していること、三階に妊婦が取り残されていること、そして、その妊婦が今まさに出産しようとしていることが告げられた。
 炎の勢いは強く、おいそれとは中へ進入できない。また、崩壊の可能性もある。
 事態は急を要していた。
 しかし。あることに気づいた大上犬太(la0441)が消防隊に詰め寄る。
「おい。何故放水しない。炎が広がるだろうが」
 その通り、放水していた形跡は見て取れるものの、今現在放水は行われていない。
 犬太の目にはそれが奇妙に写っていた。
 理由はこうだ。妊婦は三階におり、足を瓦礫に挟まれている。おいそれと動かすことのできない状態で、三階トイレへ放水しては水の勢いによって溺れる可能性がある。また、それ以外のところへ放水すると火の勢いは弱まるかもしれないが、代わりに大量の煙が発生する。非常に危険だ。
 かといって、炎が広がるのをただ見ているのも良い手ではない。それは理解しつつ……。
「だったら、俺にホースを貸してくれないかね。内部で使用する分には構わないだろ? 煙が上にいかないようにするからさ」
 シン・グリフォリシア(la0754)の提案に消防隊の返事は曖昧なものだったが、結局内部からの消火ならば問題ないだろうということでホースの貸与が認められた。
「つーか、さっさと行こうぜェ? 早くしねェと、どっちにしてもやべェだろ」
 突入を急かすバニー・S=バニラ・ラビッツ(la2458)。
 だがその前に。
「あの、妊婦さんの担当医の方はいらっしゃいませんか。運び出せないのなら、その場での出産に立ち会える方がいないと……」
「私です。いや、しかし」
 呼びかけたジュリアに、担当医を名乗る医者が進み出たが、躊躇いの表情を見せる。
 この炎の渦へ飛び込むのだ。恐れるのも当然だろう。
「ちょっと失礼しますよ。レイヴさん、頼みます」
「任せてください!」
 そんな担当医の狼狽を無視するかのように、伊波 総士(la0437)が彼を抱え、ジュリアの背に乗せる。
 呼応したレイヴ リンクス(la2313)がロープで医者を固定。運搬の用意を整えた。
 ジュリアはというと、中の瓦礫に引っかかることを恐れたか、ドレスの裾を膝上でちぎっていた。
「必ず生きて届けるし、生かして帰すから安心すると良い。行くぞ」
 チェスター・ブラックバーン(la1910)の合図によって、ライセンサー達が突入してゆく。
 腹をくくった担当医の指示で総士とレイヴが必要な機材を持ち、それぞれはそれぞれの役割を反芻していた。


 病院内突入後、上階へ通じる階段の前に、彼はいた。
 満身創痍で、立っているのもやっとの新人救助隊員。
 そして、ドーベルマンそっくりのナイトメア。
 妊婦救助を担うジュリア、総士、レイヴの三名はそのまま階段を駆け上がっていった。残る五名は一階の担当。
 ナイトメアと隊員の間に割って入ったライセンサー達。煙によって間近にいる敵の姿もはっきりとは捉えられない。
 助けが来た安堵からか、隊員はその場に崩れ落ちた。
「相手はナイトメアだと分かっていたはずだ。何故挑んだ? 勝ち目などないのに。お前のようなヤツを――」
 唾でも吐き捨てたい心持で、犬太は言った。ライセンサーでもない人間がナイトメアに挑戦しても、確かに勝機はない。
 逃げ遅れたとかいう妊婦にしてもそうだ。そんなに死にたいのか?
 そう思わざるを得ない犬太だったが。
「目の前に救える命があるのに、そこに全力を、命を賭けられないで、何が救助隊だ。偶然ナイトメアがいたから、たまたま助けられませんでした。それで、誰が納得できるんだ」
 返って来た言葉は、彼の覚悟を示すものだった。
 この言葉に、犬太が何を感じたかは本人にしか分からない。納得したかもしれないし、それでもと反発心を抱いたかもしれない。
 少なくとも。
「俺達も同じだね。たまたま相手が強くて、ビビって逃げた結果、街が破壊されましたなんて報告したら、ライセンサーの意味がないね」
 シンは理解を示していた。
 いつ敵が飛び出してくるか分からない。周囲を警戒しながら、シンは救助隊員に近づいてゆく。
「今回はあんたも要救助者だ。後は任せろ。おい、救助活動、頼んだぞ」
「じゃ、任せてもらおうかね」
 SMGを構えて煙の中に目を凝らしながら、凪が合図を出す。ナイトメアの気配を、彼はよく感じていた。
 受けたシンは救助隊員を背負い、そろそろと脱出していった。
 途端。
 その背に向けて影が飛ぶ。
「必殺! ラビットキィーック!!」
 さらに影を追うようにバニーが飛んだ。
 ビーストレガースによる強烈な蹴撃。
 弾けるようにして吹き飛んだ影。その正体こそがナイトメアだった。
「ってかァ?」
「遊ぶな。ここからが本番だ。我が名はブラックバーン、狩人の名のもとに悪夢を浄化する……!」
「遊んでんのは同じ気もすっけど、ま、いっかァ。ヤろうぜェ?」
 チェスターの苦言も入り、敵が体勢を立て直すのを見、ライセンサー達は今一度武器を構え直した。


 一方で三階へと到達した三名のライセンサーは、背負った医師の指示を受け、妊婦のいるトイレへと駆けていた。
 ここだ、という言葉に一度足を止め、位置を確認する。
 非常時だ。総士とレイヴが女子トイレに入り込んでも全く問題はないだろう。
 そこに待っていたのは、熱気と産みの苦しみに耐えながら、汗だくで横たわる妊婦。それを見守ることしかできない救助隊の二人。
「救助の応援で来ました! 必要な道具があれば使ってください」
 総士は思いつく限りの救助道具を持参して隊員へ渡そうとするが、しかし、現状使えそうなものはないという。
 というのも、相手は救助のプロだ。既に出産体勢に入った妊婦を救助する機会などそうそうないだろうが、負傷者や病人を救助する場合、火災現場からの救助などは幾度となく経験しているに違いない。今、使えそうなものがあるとしたら、彼らが既に持ちこんでいるはずなのだ。
「しかし、応援ありがたい。副長、脱出経路の確認と排煙口の確保を彼らと共に」
「承知しました。どなたか、私と共に作業を」
 隊長の指示に副長が動く。
 追随したのは総士だった。ここへ到着するまでにも、何度も瓦礫に足を取られそうになった。まずは急行することに集中していたため、瓦礫撤去は後回しにしていたが、今ならばその作業が行える。それができれば、担架での移動も可能だ。
 振り向き様に、彼は一言。
「頑張れ! 生きることを……生かすこと諦めないでくれ!」
 そう残した。
「あの、はしご車は使えないのですか?」
「この火勢と煙では困難だ。内部を通って脱出する方が安全だろう。ナイトメアさえいなければ……。まずは煙を外へ逃がしたい。外壁を壊せるか?」
 要請に頷いたジュリアは小太刀を壁に幾度も突き立て、外壁を少しずつ崩してゆく。慎重にやらねばなるまい。何せ一度は天井が崩れたのだ。もしも崩し方を誤れば、さらなる崩落を招く危険もある。
 また、妊婦の担当医はこの熱気の中で顔を青くしていた。
 この場でできるメディカルチェックを行った結果が芳しくない。その表情が物語っている。
 衰弱が激しい。呼吸も浅く、このままお産に耐えられるかは正直賭けだ。
 そして問題がもう一つ。
「これは……、仮に瓦礫を撤去して、ナイトメアを討伐したとしても、動かすことができないな」
「何故です?」
 レイヴが尋ねた。
 聞けば、既に胎児の頭が出ようとしている。この状態で動かすことは母子に多大な負担がかかることとなる。状況が状況だ。死産だってあり得るだろう。
 もしも、これ以上負担がかかったら……。
「防火服を持って来ていますけれど、着せますか?」
「……着せるとまた負担がかかる。下腹部に掛けてあげてください」
 レイヴは持参した防火服を妊婦に掛け、そしてテンプルムシールドを構えた。
 また天井が崩れて、妊婦が下敷きになってしまっては元も子もない。一階とはまた違う戦いが始まった。


 一階の隊員を外へ搬送したシンは、戦線に復帰していた。
 敵はなかなかに素早く、バニーが初撃を食らわせた後、次の有効打を与えられずにいる。あまり長引かせるべきではない。
「くっ、犬は好きだが、こうなると流石に恨み事も言いたくなるな」
 瓦礫に身を隠しながら、スナイパーライフルでナイトメアの狙撃を試みていた犬太だが、敵の機敏さと視界を奪う煙から、照準が定まらない。
 ポイントショットを使用しても、見えない相手には効果を発揮しきれずにいた。
「なら、俺の出番かね」
 ジャイアントシールドを構えたシンが、ナイトメアの方へとジリジリ迫る。相手は犬だ。嗅覚が鋭いに違いないと、敵の方へ持参した香水を投げ込んで臭いを充満させ、自分へ攻撃が集中するように誘った。
 それが功を奏してか、ナイトメアがその盾へ向けて飛びかかった。
「かかったね。でもこの強靭な肉体な――」
 ニタリと笑みを浮かべたも束の間。
 ナイトメアのタックルによるダメージ自体は些細なものだった。しかし、衝撃はある。
 重い手ごたえに、シンは多少のショックを受けた。
 敵が強いのか? いや、違う。
 そのマッシブな肉体に、シンは絶対の自信があった。だが、それは誤算。
 シンに限った話ではないが、ライセンサーとは、元々の肉体の強度ではなく、経験を基にナイトメアに対抗する力を増していくのだ。
 簡単に例えれば、格闘技世界チャンピオンがそのままライセンサーになったら、ベテランライセンサーに匹敵する力を最初から発揮できるわけではない、ということだ。つまり、シンが己の信じる力を発揮できるようになるまで、まだまだ経験が必要なのだ。
 とはいえ、ダメージは微少。
 これくらいならば耐えられる。
 ……はずだった。
 熱気が増した。周囲で踊る火の手によるものばかりではない。
 その熱気は、ナイトメアから発せられるもの。
「何している、避けろ!」
 凪が叫ぶが、遅かった。
 ナイトメアの口から、炎が噴き出る。物理的な衝撃に強いジャイアントシールドが、熱気まで防げるものではない。身を焼き尽くすような炎が、盾越しにシンを襲った。
「チッ」
 犬太がライフルで威嚇するも、敵は標的を変えようとしない。よほど香水が効いたのだろうか。
 火炎ブレスを受けて意識も朦朧とするシンに、ナイトメアはダメ押しのタックル。
 シンはフラフラと炎の中へ倒れた。
「バニー、ヒールだ」
「いやァ、ちょっと無理だなァ。炎ン中にいるんじゃ、追っつかねェよ」
 チェスターの指示も空しく、バニーは回復困難と判断。
 これを聞いた凪が舌打ちと共に駆け出し、吹き飛ばされたシンが担いでいたホースを拾い上げて鎮火を開始。
 一方で、ナイトメアに隙が産まれた。
 犬太が再度ライフルで狙撃。
 これに足を撃たれた犬が悲鳴を上げる。
「うへへ、いーじゃねーの!」
 旋空連牙で犬の鼻っ柱を蹴り飛ばしたバニーが即座にサイドステップで離脱。
 眩暈を起こしたか、フラついたナイトメアにチェスターが肉迫する。
「宣言通り。悪夢を浄化してくれる!!」
 振りあげた大剣が、蠢く漆黒の炎を纏い、重く、力強く、鮮烈に――。


 外では無暗に放水することもできず、誰もが希望の帰還を祈っていた。
 一足先に救出されたあの新人隊員は、すぐさま救急車に乗せられようとしていたが、拒んでいた。
 自分は後回しで良いと。
 あちこちに爪の痕を残しながら、立っているのもやっとの状態で炎の中を見つめる。
「先輩、皆……。俺、待ってますよ。必ず――」
「崩れるぞォ!!」
 誰かが叫んだ。
 炎に包まれた病院が、少しずつその形を歪ませていく。
 悲鳴を上げる者。
 固唾を飲む者。
 絶望に崩れ落ちる者。
 様々だった。
 間もなく。大きな土煙と共に、病院の入口が瓦礫によって塞がれてしまった。
「そ、そんな。嘘だ、嘘だァッ!!」
 ひときわ大きな悲鳴を上げて泣き叫ぶ男がいた。
 愛する妻が取り残され、我が子の誕生を今日か明日かと心待ちにしていた人物。
 要救助者、花野の旦那だった。
 新人隊員は、言葉を失った。自分だけが助かってしまった絶望に打ちひしがれ、目の前が真っ暗になった。
 誰もが諦めたその時。
「おい、見ろ!」
 そんな声が響く。

 もうもうと立ち込める煙の向こうから、いくつもの影が並び、歩いてくる。
 医師を背負い、要救助者の下へと駆け抜けたジュリア・フォーネサイン。
 瓦礫の撤去等に尽力し、退路を確保した伊波 総士。
 妊婦の体を保護し、最後の瞬間まで守り抜いたレイヴ リンクス。
 ナイトメアの足を止め、反撃の機を設けた大上犬太。
 己の肉体を壁として、ナイトメアに立ちはだかったシン・グリフォリシア。
 傷つき倒れたシンを救いだし、敵の動きにいち早く反応した白神 凪。
 荒々しくも冷静に状況を分析し、ナイトメア討伐の足が狩りを作ったバニー・S=バニラ・ラビッツ。
 そして、漆黒の炎を操り、ナイトメアの首を切り落としたチェスター・ブラックバーン。
 八人の勇士と、彼らの尽力の下で懸命の救助活動にあたった救助隊員二名、出産に立ち会った医師。
 さらには。

「あ、あぁぁ……!」
 泣き崩れていた男が顔を上げる。
 担架に寝かされてはいるが、そこには間違えようのない、妻と、そして新しい命の姿。

「ありがとう、ございます」
 か細い声が聞こえた。
 もう妊婦とは呼べない。あの女性が発した言葉だった。
 そんな彼女に大事に抱えられた、小さな命。男の子だ。
 戦闘のために仮面をつけていたチェスターは、それを取り外し、二人に向けて微笑みを向ける。
 いかつい仮面からは想像もできない、愛くるしい表情の彼女は、奇跡の誕生を心から祝福した。
 消防隊、救急隊が駆け寄ってくる。
 その彼らに状況を報告せねばなるまい。普段はこのような動作はしないのだが、チェスターは、背筋を伸ばし、右手をビシリと額に添えた。
「浄化…完了!」
「せめて任務完了って言えよなァ」
 バニーの突っ込みに、一同の明るい声がこだました。

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