踏み躙られた平穏 マスター名:狭霧

形態
ショート
難易度
普通
ジャンル
救出
人数
68
相談期間
3
プレイング締切
08/30 24:00
完成予定
09/19 24:00



 突如として行われたナイトメアの大規模襲撃。
 東京都全域に同時に襲撃をかけたナイトメアは、それぞれが見境なく街に危害を加えているようだった。
 そう、これは偶然に過ぎない。運悪く奴らの目に留まってしまった、ただそれだけ。

 それだけで、平穏はいとも容易く踏み躙られる。

 東京某所のとある植物園。
 小さい植物園ながら、目玉ともいえる温室には熱帯の植物を展示しており、日本では見れない自然に触れ合える。
 そんな都会の楽園は、今日この時、この世の地獄と化していた。

 その姿は、直立した蜥蜴とでも言うべきものであった。
 陽光を反射して艶やかに光る黒い鱗皮。体躯は細身で、しかしその爪は鋭利な刃物の如き光沢を放っている。
 身長と同じほどの尻尾を引き摺って、細かい牙の並んだ口から悍ましい吐息を漏らしながら、逃げ惑う人々に飛び掛かった。

 蜥蜴人が少年に向けて爪を振るうと、易々と肉を切り裂き、赤い噴水が上がる。
 背を向けて必死に逃げ出した男性は軽々と追いつかれ、押し倒されて、彼らの腹へと収まった。
 襲われている恋人を見捨てて蜥蜴人の横を抜けることに成功した者もいたが、次の瞬間には鞭のように風を切った尾がその頭部を柘榴に変えた。

 男性を。女性を。老爺を。老婆を。少年を。少女を。
 老若男女の区別なく、逃げ惑う人々を、感情を窺い知れない無機質な瞳でねめつけ、バラバラにし、時には喰らう。
 休日で来園者が多かったのが災いしたのだろう。園内はたちまちパニックに陥った。

 被害が広がっていく中、幸運にもこの地獄に飲み込まれなかった女性がいた。
 彼女はパニックを起こした人々にこそ恐怖して、その場を動けなくなってしまったのだ。
 外から聞こえてくる悲鳴、怒号、そして……人の命が消える音。

 ガラス戸から遠目に見える異形が人々を——またひとり動かなくなった——屠っていくその様子。
 ナイトメア。
 彼女とてその脅威はテレビで知ってはいた。それでも自分は大丈夫なんて、根拠のない自信があった。
 しかし実際に奴らは目の先にいて、遠くない未来、自分も"ああ"なるのだと理解した。

「に、逃げないと……!」

 そうだ。もう頭の中がぐちゃぐちゃでどうにかなってしまいそうだが、とにかく逃げないと命はない。
 しかし今、扉を開けて外に出てしまっては、すぐにでもあの化け物に見つかってしまうだろう。
 既に女性は逃げ場のない温室内に取り残されてしまっている。
 今も断末魔の声が響く——段々と数が減っていく——方向から目を背けるように、周囲を見回す。
 嫌だ、死にたくない。その一心で、思うように動かない身体を引き摺って茂みの陰に身を隠した。

 気付かれただろうか、最初から気付かれていただろうか、外の人たちの次はここに来るのだろうか……。大丈夫。バレてない、気付かれてない、大丈夫。
 永遠と廻る思考の外では、どれほどの時間が経っただろう。
 1分か、10分か、1時間か……酷く曖昧になった時間感覚の中で長い時間そうしていると、ふと気付いてしまう。
 先ほどまでそこかしこから上がっていた悲鳴が、いつしかまったく聞こえなくなっていた。
 一度気付いてしまえばもう早い。
 服が擦れる音さえもひどく響くような気がして。
 だからこそ、扉を乱暴に——ガラスを砕いて——開け放つ音は、より一層の驚きとなって彼女の肩を揺らし、その視線を引きつけた。

 反射的にそちらに目を向けてしまったことを、彼女はすぐに後悔した。
 入ってきたのは、異形だった。
 テレビ越しや遠目から見るのとはわけが違う。直接、近くで目にしたその姿は、これ以上ないリアリティとなって彼女の精神を蝕んでいく。
 人間とは似つかぬその姿。放浪者ならば似た姿の者もいるかもしれないが、全身を濡らす赤い液体がそれを否定する。
 あれこそが悪夢であり、人類の敵であり、この場における死そのものであると本能的に理解するには十分で。

「ひっ……っ!!」
 息が引きつり、漏れそうになった悲鳴を咄嗟に抑える。
 身体の震えが止まらない。
 カチカチと歯の鳴る音が温室中に響くような気がして必死に口を押える。
 涙で視界が滲んで、しゃくりあげそうになるのを必死に耐えて。
 異形が一歩を踏み出すたびに、零れそうになる声を噛み殺す。

 ——もう、限界だった。
 何かの鳴き声にピクリと顔を向けた異形が出口から駆けて行くのが最後の記憶。
 新たに聞こえてくる叫び声に気が遠のくのを感じながら。助けて。闇に落ちる中、そう誰かに祈って、彼女の意識は暗転した。



 矢継ぎ早に齎されるナイトメアの被害情報。
 情報が錯綜し、さらに刻一刻と変化する状況にSALF本部も対応に追われていた。

 そして、ここにまた新たな一報が入る。
 すぐさま場所を特定し、付近のライセンサー——あなたたちに通信を繋げた。

「要請です。貴方たちの近くにある植物園がナイトメアの一群に占拠されています。急行して対象の撃破を。対象は蜥蜴の特徴を有した人型、危険度は推定2。複数体が確認されています。園内は死者多数、生存者は不明ですが可能ならば保護を。……よろしくお願いします」

 簡潔に最低限必要な情報を告げると、植物園までのルートと敵の情報をあなたたちの端末に送信する。

 オペレーターが送信処理を完了して一息つく間もなく別の情報が飛び込んでくる。

 ……長い一日になりそうだ。


●目標
 主:ナイトメアの殲滅
 副:生存者の保護

●現場
 東京郊外にある植物園。
 ライセンサーが到着した時点で、敷地内は死屍累々といった惨状。
 ドーム状の大温室1つと小温室1つがあり、温室内には南国の植物が生い茂っている。
 どちらも入口から【♀】のような形状で観覧道が作られ、中央の水場を囲んでいる。
 温室の外には障害物になるようなものはない。

●敵情報
・蜥蜴人型ナイトメア×4体
 大柄な男性サイズのリザードマン。危険度2。
 鋭い爪と長い尾を用いて軽快な動きで獲物を狩るグラップラー型。
 知能は高くないが、周囲の仲間と連携する程度の知恵はある。
 現在は狩り残しを探してそれぞれの温室内に別れている。

●生存者(PL情報)
 ライセンサーが現場に到着した時点では園内に1名、OPの女性のみ。
 なお、生存者の保護に失敗しても主目標が達成されれば失敗にはならない。


■目的
ナイトメア殲滅
生存者の捜索と救出

■行動
手分けして園内を捜索
敵を殲滅しながら生存者を探しますわ

園内地図を確認
スマホを通信機として使えるよう連絡先を交換し設定を調整
状況を逐一他班と共有いたします

わたくしはユウ様、翼様と共に小温室へ向かいます
周辺を警戒しつつ被害者の状態を調べ敵の攻撃方法を推測

温室内に入ったら慎重に進みます
通路や植物の乱れ・足跡に注意し視覚のほか音や匂いも意識
あらゆる異変を見逃さないよう警戒いたします

わたくしは生存者の捜索と救出に重点を置きたいので人間の痕跡にも注意を払います
必要以上に自分たちの存在を隠蔽はいたしません
敵がわたくしたちに注意を向けてくれたら好都合ですわ

敵遭遇時は前線をお2人に任せ遮蔽を取って射撃
自分の位置を知らせないように移動を挟みながら攻撃

生存者を発見したらすぐヒールを使用いたします
敵と生存者を同時に発見したらわたくしは生存者を優先し間へ割って入ります

生存者には最大限丁寧に接します
「さぞ恐ろしかったでしょう、お気の毒に…わたくしたちが来たからには、もう大丈夫ですよ」
心情
既に死者が発生してる、一刻も早く現場に向かわないと!
ライセンサーとしての初仕事だし、気合い入れていくわ!

目的
生存者がいれば保護を最優先
次いでナイトメアの殲滅

班編成
大温室
・ウズ
・ノエル
・ヴァインロート

小温室
・レヒニタ
・翼
・ユウ

管理室
・マリュース
・曦

準備
連絡を取る為事前に皆と連絡先を交換しておくわ
生存者の発見、敵襲、あとは管制室からの情報があれば即座に連絡ね!

行動
複数個所を同時に捜索する為、3班に分かれて行動

あたしはレヒニタちゃん、翼くんと組んで小温室へ向かい生存者を捜索するわ
空への発砲や声を上げて自分達の存在をアピールし、敵の注目を集めつつ前進
前衛として草むらや木陰からの奇襲を警戒しつつ、敵の攻撃があれば仲間の盾になるつもりよ
「敵襲っ!他班への連絡よろしく!」

まず【ライトバッシュ】を使用したザンクツィオンハンマーで敵の胴体に一撃を加え出鼻を挫く
「来な蜥蜴野郎!あんたの相手はあたしよ!」

その後は前衛同士翼くんとタイミングを合わせて戦うわ
敵が単独なら左右からの同時攻撃や時間差攻撃を
敵が複数ならレヒニタちゃんの援護を貰いつつ別々の敵に対応って感じ!

敵の接近前に気付けた場合は銃での遠距離攻撃ね
【ポイントショット】を使ってクーパーで一撃入れるか
ミネルヴァで弾幕を張って蜂の巣にしてやるわ!
・担当班
管理室(班)
マリュースさんと行動
幾つか特別な行動をとられるとの事なので、その際の見張り・護衛を行います
敵戦力分布の確認の際は、アサヒも確認させて頂きます
同時に安全な場所も確認し、生存者確保の際の避難場所にしようと思います

行動中は生存者の確認も合間に行い、無駄の無いように振舞います
スマホも携帯

生存者を確保した場合「人の為に遣わされた戦闘機械です。御安心を」と名乗り、混乱させないように振舞います。
生存者確保後は安全な場所の進言を皆様に

・管理室での確認後
敵戦力の分布に応じ、援護場所に移動
個人での移動に問題がない(途中経路に脅威なしと判断された場合)、マリュースさんと分かれての移動も想定
懸念が拭い切れない場合、管理室で確認が出来なかった場合は、温室組へ合流する際もマリュースさんと共に行動を

・戦闘
「闇を打ち払う光、曦。これより戦闘を開始します」
敵を確認次第、遠隔よりポイントショットによる連弩の攻撃を見舞います
連弩による牽制射撃で距離を詰めつつ、白兵戦に至る前にウィングドスピアへ換装
但し閉所の場合はバグナクに換装、戦場に応じて随時対応する

・心境
人間に危害を加えた時点で容赦する気はありません
「闇を切り裂く光、我が名は曦、悪夢の時間は終わりです。さようなら」
明日を夢見て眠っていった彼らの為に、せめて悪夢は散って諸共、消え去って下さい
◆心情
山奥で一人で生きて来た身で、こんな大きな建物は見た事がなかった
様々な植物があって綺麗だったのだろうという事は分かる
だが、今は見る影もない
無残な有様だ
人の歴史を垣間見ている様だが、今の私は当事者としてこの場に立っている
人の世に在ろうとした決意がある
倒すべき脅威が何かも分かった
だからもう人がどうといった事は関係ない、倒すべき敵を倒し、護るべきものを護る

◆所属
大温室班で行動
スマートフォンを入手し、必要な使用法を先に教わっておく
店で貰った香水を敢えて使用し、匂いで敵を誘き寄せる
敵を捜しながら、生存者も探す
鬼ながら、生きていて良かったと感じる

◆戦闘
仲間との連携
匂いで敵が気付いた場合、此方が受けとなる事を想定、接近音に注意する
群れる蜥蜴人間と聞いたから、複数での攻撃に備えておく
囮の陽動攻撃があれば横合いから別の敵から続けての攻撃があるだろう…等の考慮
初撃は受けて深追いせず、迎撃態勢を調える

薙刀は縦切り、突きを主に使用(場所の広さを問わない攻撃法で戦闘)
止むを得なければ周囲の植物ごと薙ぎ払う「花は散っても、また開く」と口にして
相手が後退し距離が開いたら連弩で攻撃、間を置かずに畳み掛ける

◆感慨
結果はどうなるか分からない
だが、この戦いが人の世で生きる事への大事な一歩となればと思う
大温室側の探索 敵を優先して探索。敵発見時全力移動を使用して接敵存在感を示すため攻撃。
敵の数が2体以上の場合、仲間が来るまで回避を優先して戦う。

もし、生存者がいた場合、生存者を守るように戦う。
【心情】
ナイトメアに家族を殺され辛い過去を思い出す。
「許せない…」

【目的】
ナイトメアの殲滅、生存者の保護。

【準備】
連絡用のスマートフォン。

【行動】
「ナイトメア殲滅もですが、生存者保護が優先です」
レニヒタさん、ユウさんと一緒に小温室へ。
レヒニタさんの援護があるので、前衛で攻撃。
探索中、生存者を探します。その間、発見できたかどうか連絡取り合い。

「どなたかいますか? 僕達はライセンサーです。助けに来ました」
蜥蜴人間出現の可能性もありますが、呼びかけしか方法が思い付きません。
小温室に生存者がいた場合は即刻保護。レヒニタさんに護衛をお願い。
別の場所にいた場合は、他の方に保護と護衛をお願いします。

生存者保護、無事を確認したらナイトメア殲滅。
移動攻撃で攪乱しつつ、使用回数フル活用し容赦なく攻撃。
使い切ったらライトバッシュで。
「おまえたちは僕らが狩る」

依頼が終わり、生存者に会えたら「良く頑張りましたね」と褒めたいです。
負傷して病院に搬送される際は、黙って見送ります。
植物園の前で手を合わせ、助からなかった人達の冥福を祈ります。
■通信関連
「……すみませんが、機械の操作は苦手でしてね」
※鉤爪の3本指ゆえ

■行動
大温室に到着次第。咆哮を上げる
→目的は敵の誘引

■戦闘
引き倒して、顔面にフォースアロー(ドラゴンブレス的に魔法は口から)
余裕があれば喉笛に喰らい付き、気道を塞ぐ事で無力化出来るのか&噛み千切りが攻撃として成立するのかを確認

成立しないなら、武器を使って力任せに殴る

「我としては武器を振るうより、肉体を使う方が遥かに手慣れているのでね」
「EXIS搭載の牙や爪でもあれば噛み千切り、引き裂き、喰らう事も出来そうではあるか」

遠距離に敵がいる場合もフォースアロー
「本来の威力には遠く及ばぬが…火竜の息吹。その一端程度は見せてやろう」

■その他
戦闘終了後は倒したナイトメアを一口齧って毒が無さそうなら捕食。食べて供養。
「問題なく喰えるな。血の滴る生肉もオツなものだ」
【心情】
「今回は様子見なのかしらね。小手調べ的な動きですけど。」?

【目的】
敵の殲滅と自己の確認【準備】
現地についたら管理室に向かう。そこで植物園内の生きている監視カメラで状況を確認。敵を探し出して位置と敵の数(大温室に何体、小温室に何体)の報告を仲間に携帯で送る。
仲間達が突入する際に救助者向けに声をかけて入っていくらしいので、敵が察知して向かっていくのを確認したら戦闘に入る直前に「テス・テス・ただいまマイクのテスト中!ですわ」と音量をMAXにして温室に流し、敵の先手を封じる。

その後、敵が2:2だったら小温室の援護。3:1だったら多い方に援護に向かう。向かう際は【全力移動】を使用。

●「美しいわね。この景色。…赤い花が咲いているわ。フフフ」と画面を見ながら周囲に聞こえない程度で呟く。

【行動】
戦闘:【知覚攻撃でのパワークラッシュ】で即効勝負。ただし、仲間との位置関係を把握して巻き込まないように注意。
「…剣は美しくないですわね。」

【戦闘終了後】
生存者の確認と保護。
確認作業中、仲間達が見えない所で植物に付着した血を指で一舐めし、ミンチになった死体を見て「なるほどね。…この辺は前と変わりませんわね。どうとも思いませんわ。」とボソッと冷めた目で遺体を見て呟く。

 現場に到着した8人のライセンサーは、その光景に眉を顰める者が多かった。
 空気中に漂う鉄の匂い、赤黒いマーブル模様に塗装された石畳が彼らを迎えたからだ。
 色彩豊かな花壇は踏み躙られ、無残な姿を晒している。ところどころに散らばったヒトだったモノだけが、この植物園の嘗ての賑わいを表していた。

「まぁ、なんと痛ましい」
 ほんの数時間前まで人々の笑顔があふれていた場所に、今は死が満ちている。その惨状に、尼僧服を纏った女性、シスター・レヒニタ(la0916)はそっと十字を切る。
 嘗ての繁栄が見る影もない有様に、鬼のウズ(la2377)は人の歴史を感じずにはいられなかった。栄枯盛衰、人の世は移ろいゆく。微かな希望を見出す前の、人と距離を置いていた過去の彼女ならそれもよしと受け入れたかもしれないが、今のウズには当事者として、人の世に在ろうとした決意がある。後は、倒すべき敵を倒し、護るべきものを護るのみ。そう言葉に出さずとも、そこには確固たる意志があった。
「一刻も早く生存者を救出いたしましょう。ナイトメアには主の鉄槌を与えなければ」
 だから、レヒニタのその言葉に、力強く頷いた。

 決意を新たにする者がいる一方で、マリュース(la2526)は疑問すら感じていた。
「今回は様子見なのかしらね。小手調べ的な動きですけど?」
 この場への襲撃が本命とは思えない。施設的にもそうであるし、捕食が目的ならわざわざ大規模に行う必要もない。
 目的が何であれ、と。マリュースの呟きを拾った曦(la2385)が返す。
「人間に危害を加えた時点で容赦する気はありません」
「そうですわね。オシゴト、ですもの」
 戦闘機械と水妖――利他と利己――は根本では噛み合わない会話を続けていた。

 竜人、ヴァインロート=ヴルカーン(la2525)は、ふん、と鼻を鳴らし植物園を見渡した。
 惨劇だろう。悲劇だろう。だが弱肉強食は世の習いである。少なくともヴァインロートのいた世界ではそうだったし、己がそれを体現したこともある。それゆえに彼自身はこの状況自体には何ら思うところはなかったが。
 世界を渡り、今はこの世界に居を置く身。人間社会という群れの一員となり、人間は同族となった。では群れの一員として、人を守ることに異存はない。それもまた世の習いである。
 まずはこの施設を襲った外敵の殲滅か。弱肉強食――どちらが弱者か思い知らせてやるとしよう。
「トカゲ見つけて……倒すお仕事……簡単……簡単……」
「そうですね、しっかりと果たしましょうか」
 雨乃衣 ノエル(la0544)の無愛想な呟きに返した彼の台詞は、そんな内心と威容からは想像できないほど丁寧なものだった。

「許せない……」
 そんな個性派揃いなライセンサーの中にあって、一際純粋な怒りを抱く更級 翼(la0667)。胸をよぎるのは嘗ての記憶。ナイトメアに家族と友を殺された忘れ難い悪夢。その同族がここにいる。
 今こそ一歩を踏み出すために、長鉢巻を力強く締め直し、まだ見ぬ敵を睨み付けた。
「そんな肩肘張らないの。あまり張り詰めると咄嗟に動けなくなるわよ」
 ユウ・オルグレン(la0150)はそんな翼の肩を軽く叩く。
 元傭兵のユウは、同じ新人ライセンサーながら命のやり取り、死地の独特な空気には慣れていた。身内を殺され、憎悪で武器を取る者も見てきている。そんな者らの、ある種の危うさを感じ取ったのだった。
「……大丈夫です」
「そっか。それじゃあ、ライセンサーとしての初仕事だし、気合い入れていくわ!」
 言葉にはまだ硬さが残っていたが、わずかでも緊張が解れたと見たユウはニカッと笑い、拳を打ち鳴らした。

 正門の傍にあった園内マップを確認した彼らは手早く意見を交わした。
 あまり大きくない植物園だ。そして見渡す限りの惨状が、屋外に生存者がいる見込みはないと伝えてくる。だからこそ、僅かな可能性に賭けて班を分けることにした。
 ノエルとウズ、ヴァインロートは大温室。ユウと翼、レヒニタは小温室の捜索に、そして曦とマリュースは監視カメラがあると思しき管理事務所に情報を求めに。各々決意と思惑を胸に秘めて駆け出すのだった。



 大温室の中からは生命の気配が――人間はおろか、惨劇の主の気配すら――しなかった。よほど巧く気配を消しているのか、それとも逃げた後か。
 管理室班からの連絡はないが、ヴァインロートには連絡を待つ心算はなかった。
「GAAAAAAAAA――ッッ!!」
 大温室に着くや否や、その巨躯が咆哮する。悪夢よ聴け、我は此処に在りと大気を震わせたその雄叫びは、本人の意図した通りの効果を上げ、
『ほんの少しだけ待っていて頂けると嬉しかったですわ』
 携帯端末に届いたマリュースの声が、敵数を告げ、
『大温室の敵が3体、そちらに向かってますわ。小温室は1体だけですわね。……と、こほん』
 一拍。
『『テス・テス・ただいまマイクのテスト中! ですわ!』』
 唐突な園内放送、それも音量MAXのハウリングに、草陰から飛び出そうとした蜥蜴人の行動が一瞬詰まる。最高のタイミングで外された調子に、ノエルが切り込んでいった。

「フフ……うまくいきましたわね」
 画面の先で開かれた戦端を見て、妖艶な口元が弧を描く。
「敵戦力分布を確認。施設内に他の敵影なし、脅威なしと判断しました。アサヒは先に大温室班と合流します」
「ええ、ワタシもすぐに後を追いますわ」
 その後ろ姿を見送って小温室班に情報を伝えると、己も後を追うべく踵を返し、
「美しいわね。この景色。……赤い花が咲いているわ。フフフ」
 最後に一度、画面を見つめて零したその呟きと口元に浮かんだ笑みは、誰にも知られることなく風に溶けていった。

 ――ノエルの蹴撃が、怯んだ蜥蜴人に突き刺さる。レガースに取り付けられた爪が蜥蜴人の物理遮断障壁、リジェクション・フィールドを削り取る。
 たまらず距離を取ろうとする蜥蜴人を、横から伸びた鉤爪が引き倒した。たまらず膝をついた蜥蜴人が顔を上げると、そこには口腔からイマジナリードライブの光を漏出させたヴァインロート。
「本来の威力には遠く及ばぬが…火竜の息吹。その一端程度は見せてやろう」
 その言葉は理解できずとも、危機を感じ取った蜥蜴人が足に力を込める、まさに寸前。一条の光がその上体に突き刺さった。
 蜥蜴人が矢を受ける傍を抜け、ウズが健在の蜥蜴人に躍りかかる。IMDにより強化された薙刀が、その名の如く風を切って上段から振り下ろされた。一撃は障壁に決して浅くない傷を残したが、その陰から蜥蜴人が飛び出し爪を剥く。
 ウズとてこの展開は予想していた。敵の連携、陽動、横合いからの攻撃……ただ、敵の攻めが予想を超えただけだ。
 振り抜かれた爪は、多くの獲物をそうしたようにウズを引き裂こうとして、彼女の障壁、イマジナリーシールドに阻まれる。精神を削り取られる感覚に襲われながらも、その攻撃を凌ぎ切って――
 自身が切り伏せんとした蜥蜴人の追撃で、障壁に亀裂が入った。
「ち、ぃ……!」
 たまらず咄嗟に一歩引こうとするウズに意識が逸れた一瞬を突いて、ヴァインロートのフォースアローを受けて死に体だった蜥蜴人が、彼の腕に噛み付いた。
 その強固な障壁で威力の大半を殺しきったヴァインロートは、自身の腕に噛み付いていた蜥蜴人の首元に喰らいつく。硬い。ただただ硬い。しかしノエルが背後から蹴り付けて絶命させた瞬間、牙を通してあれほど存在を主張していた障壁は消失し、蜥蜴人本来の肉に牙が食い込んだ。
「(EXIS搭載の牙や爪でもあれば噛み千切り、引き裂き、喰らう事も出来そうではあるか)」
 蜥蜴人を打ち捨てると、背に負った大剣を引き抜いて、残る蜥蜴人に向き直り、
「我としては武器を振るうより、肉体を使う方が遥かに手慣れているのだがね」
 儘ならぬとひとりごちた。
 彼の視線の先では体勢を立て直したウズが障壁を破り、その身に刃を届かせていた。それまで縦主体だった攻撃を薙ぎに変え、さらにIMDを乗せた一閃は、周囲の植物ごと蜥蜴人の喉笛を切り裂いたのだ。
 植物を巻き込むまいと封じてきた動きとタイミングがうまくかみ合った結果であった。
「花は散っても、また開く」
 後悔を滲ませながら、それでも草花の生命力を信じて。すぐさま刃を引き戻し、残る一体の攻撃に備える。
 だが目の前に鞭の如くしなる尾が迫る方が早かった。ウズの障壁が完全に破壊され、精神に多大な衝撃が加わる。気力を振り絞り障壁を再展開しようとしたが――勢いのまま叩きつけられた尾の衝撃で、ウズの意識は闇へと落ちていった。
 意識を手放したウズのカバーに入るべく皆が前に踏み出そうとした瞬間、敵の肩に一本の矢が突き立った。
 温室の入口より声が響く。
「闇を打ち払う光、曦。これより戦闘を開始します」
 そこには連弩を構えて、闇を切り裂く戦闘機械が、
「申し訳ありません、遅くなりましたわ」
 大太刀を抜いた水妖が立っていた。

 最早、ここに趨勢は決した。
 仲間が合流したことで、回避を意識した立ち回りから一転、攻勢に転じたノエルがその障壁を確実に削り取る。ヴァインロートが星の大剣を力任せに叩きつけ、辛うじて躱した蜥蜴人にマリュースが大太刀を煌めかせる。障壁の耐久も極僅かとなったナイトメアに、武器を換装した曦が、羽根の槍を突き付けて――
「――悪夢の時間は終わりです。さようなら」



 大温室で戦闘が始まるより少し前。
 一足先に目的地へと到着していた小温室班はすぐに小温室に突入した。
「どなたかいますか? 僕達はライセンサーです。助けに来ました!」
「助けに来たわよっ! 無事な人はいる?」
 翼もユウも、敵を誘き寄せるリスクを甘受して生存者に呼びかけている。唯一慎重に進んでいるレヒニタも、自身の存在を隠蔽しようとはしていない。ひとえにまだ見ぬ生存者の生存確率を少しでも上げるためだった。
 そして、そんな目立つ集団を放置するナイトメアではない。

 真っ先に気付いたのは、木陰からの奇襲を想定していたユウだった。
「レヒニタちゃん! 敵襲っ!」
 茂みから飛び出した蜥蜴人の狙いがレヒニタであると素早く看破し、鋭く警戒を飛ばす。レヒニタも周囲を警戒していたこともあり即座に反応。修道女とは思えぬ体捌きで爪の一撃を躱し距離を放すと、サブマシンガン・ミネルヴァP8000の銃口を突き付ける。
「うふふ、あなた方の内臓は何色ですかしら?」
 口元に笑みを浮かべ、トリガーを引いた。軽快なリズムを刻みながら鉛玉がバラ撒かれる。草陰にいるかもしれない生存者に配慮した弾幕ながら、蜥蜴人も完全には躱しきれず障壁を削り取られていく。堪らず逃れる蜥蜴人にレヒニタはあらあら、と微笑んだ。
「よく動く連中ですこと。追い甲斐があるというものですわね!」
 射撃しながらも足を止めず、ユウらと位置を入れ替える。
「前衛よろしくお願いしますわね」
「オッケー、それじゃ他班への連絡は――」
 よろしくと言いかけて。小温室まで響いてきた咆哮に、あ、やっぱりいらないわと苦笑を零す。
 咆哮に一瞬逡巡した様子の蜥蜴人だったが、どうやら目の前の獲物を狩ることを優先したらしい。ジリジリとライセンサーの隙を窺っていた。
 そして。
『『テス・テス・ただいまマイクのテスト中! ですわ!』』
 番えられた矢が放たれるが如く、大音量に背を押されたように地を蹴った。

「来な蜥蜴野郎! あんたの相手はあたしよ!」
 迎え撃つは鋼の右腕に天秤の斧を構えるユウ。爪撃を障壁で受け止めるとその斧にIMDを込め、胴体めがけて振り抜いた。いかなる超反応か、蜥蜴人はそれに合わせて横に跳ねた。それだけで、蜥蜴人を両断するはずだった一撃は空を切る。さらに、移動の勢いを乗せて放たれた翼の刺突を、さらに躱す。
「おまえたちは僕らが狩る」
 直剣の切っ先を蜥蜴人に突き付け、油断なく宣言した。
 ユウも斧を構え、隙を窺い――半歩、逸らす。結果、蜥蜴人の腕は何も捉えず。翼の刺突が蜥蜴人の肩を捉え体勢を崩し、振り下ろされたユウの斧が、その息の根を止めたのだった。

「終わりましたわね」
 レヒニタが銃口を下げ、満足そうに微笑んだ。
「先程マリュース様から良い知らせを頂きましたの。なんでも――」

 小温室に生存者あり。
 マリュースから伝えられたその情報に、一息つく間もなく草木の陰を捜索する。ある程度のあたりを付けることができたため、そう時間をかけずにその女性を発見できた。倒れ伏していた為に最初は不安であったが、怪我らしい怪我がなく、脈も正常であることからそう時間をおかずに目覚めるだろう。レヒニタらから安堵の息が漏れる。
「さぞ恐ろしかったでしょう、お気の毒に……。わたくしたちが来たからには、もう大丈夫ですよ」
 主の愛に感謝いたします、と祈りを捧げる。肉体的な負傷はヒールでは癒せないため、女性に怪我がないのはこれ以上なく幸いであった。
「本当に、良く頑張りましたね」
 翼もようやく険しい表情を和らげた。ナイトメアを倒すことに意識の多くを向けていた翼だったが、殲滅を終えたことでようやく一息ついたといったところか。
 彼らから一歩離れたところでは、ユウが端末を取り出し、大温室班に生存者救助を伝えていた。



 小温室班から連絡があって暫くの後、念のために大温室内を一通り回ってみたが生存者は見つけられなかった。合流したライセンサー達は連絡した救急車を待つ間、会話少なく、思い思いの感傷に浸っていた。
 気落ちする者もいる中、ノエルはマイペースに瓶を取り出すと勢いよく中身を煽る。仕事の後の一杯は、また感じるものがあるのだろう。
 翼はそっと手を合わせていた。犠牲になった、助けられなかった人々の冥福を祈り、そしてより強くなることを誓った。
 彼らから離れた位置で黙想にふけっていたマリュースは、緑に散った赤い斑模様を指先でなぞる。
「なるほどね。……この辺は前と変わりませんわね。どうとも思いませんわ」
 乾ききっていなかったそれが形を崩すのを冷めた目で一瞥し、そう呟いたきり、視線を向けることはなかった。
 彼女は水妖――魔に属する者。世界を渡ると放浪者の根底は変わってしまうのかという疑問。危惧。この事件はその答えを得る試金石足りえたか、知るは彼女だけであった。

 やがて連絡を受けた救急車が到着する。ストレッチャーに乗せられた女性を見て、ひとりでも助けることができたという実感と共に、ライセンサー達も惨劇の舞台を後にする。
 初依頼を終えた手応えと、未来への覚悟を抱いて。

成功度
大成功

MVP一覧

重体者一覧

重体者はいませんでした。

参加者一覧

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